4-1
「空中戦においては、興奮は禁忌である。
僚機が分解しようが、地上が地獄であろうが、何が起きても常にクールたれ」
――マンフレート・フォン・リヒトホーフェン
(ドイツ / エースパイロット 第一次世界大戦時 80機撃墜)
≫7月20日 AM10:31(米国東部夏時間)
アメリカ合衆国 ワシントンD.C. ホワイトハウス≪
――夏の日本とアメリカ東部の時差は13時間もある。日本では、一日が終わり、新しい一日が始まる近い午前0時半であるが、ここ、アメリカ合衆国東部は、もう昼前の10時半である。
そんなアメリカ東部は、朝からメディアが賑わい、国民らの関心を一手に引き受けていた。朝、目が覚めて起きてみれば、地球の反対側では、『極東革命軍』を名乗る武装組織が、近隣諸国を攻撃しているではないか。既に日本の戦闘機が落とされ、さらに、島の一つ占領されていると。しかも、台湾北部でも艦艇や航空機の被害が発生し、韓国に至っては、一部では日本と同様にリアルタイムで戦闘状態になっているとも。
特に、日本が防衛出動なるものを発令し、事実上の戦争状態に入ったことに関しては、同じ同盟国としても注目度は大きかった。日本が本気になった。そこまで大事なのか。そういえば、日本の株価も今朝から大暴落しているし、ドルの対円相場もなぜかドル高が進んでいるではないか。朝っぱらから溜まっているはずの仕事をほっぽりだし、皆、テレビやネットにくぎ付けとなっていた。昼になってもそれは変わらず、昼食を片手にしながら、目線だけはテレビやパソコンのモニターに一直線に向いている。
……そして、誰もが思う。
「――これ、俺たちの国は、どう出るんだ?」
――その、アメリカの政府としての対応を取り仕切る、ホワイトハウス。
首都ワシントンD.C.中心地、ペンシルベニア通り1600番地にある広い敷地にたたずむ白い建造物。ここには、大統領が執務を行う上での全ての機能が備わり、国家安全保障能力の全てがここに集約される。セキュリティも地球一、その集約能力もほぼ間違いなく地球一、政府の最高指導機関として持つ指揮統制能力も地球一。世界随一の覇権国アメリカを象徴する、クリームホワイト色の要塞である。
その一室――ウェストウイング(西棟)の地下にある危機管理室の大会議室には、大統領を始め、アメリカの国家安全保障会議を構成するスタッフたちが集っていた。横長のテーブルを囲い、半分ほどの閣僚は、自身のノートパソコンを目の前に置いて会議に参加している。今、室内の大型モニターの隣にいるのは、『レムリー』統合参謀本部議長だった。先ほどまで、極東革命軍の動向についてのブリーフィングを行っていたのだ。
「――以上が、在日米軍からの最新の情報の概要です。詳しくはお手元の資料をご参照頂ければと思いますが、ハッキリ言って、これはこけおどしでも何でもなく、本格的な“一軍事組織による侵略攻撃”であると、考えるべきと思います」
レーザーポインターを仕舞いながら、彼は一直線に、部屋のほぼ奥の方にいる人物を見て言った。テーブルの反対側。大きめのタブレットを見ながら、「はぁ……」と、こめかみを抑えて不機嫌そうにため息をつく金髪の男性が一人。
現アメリカ合衆国大統領、『ヴァレッド』である。
「……では、近隣諸国も大なり小なり被害を受けて、日本に至っては既に一つの島が占領され、穏便には終わらせられないと?」
「はい、残念ながら」
「カデナから飛び立った偵察部隊からの情報は?」
「国防総省の推測通り、件の部隊は北朝鮮領内から飛び立ったとされています。他の関連部隊も、コード『P-CM』との繋がりを示す確実なCOMINT(通信情報)を掴みました」
「だとすれば、奴らの拠点はそこだな。軍はどうする気だ?」
「既に、インド太平洋軍を中心に出撃態勢を整えております。第7艦隊の『ジェラルド・R・フォード』が既にヨコスカから出港し、他の部隊と合流するべく、太平洋上にて命令を待っております。また、オーストラリア海軍との演習予定だった『カール・ヴィンソン』と随行部隊を呼び戻し、フォード艦隊と合流させます。早ければ、現地時間の明日の深夜にでも合流できるかと」
レムリーは手元の資料を見ながら淡々と説明した。
『ジェラルド・R・フォード』は、アメリカが就役させた最新鋭の空母の1隻である。最新技術を惜しみなく投入し、エレクトロニクスや省力化にも成功したもので、数年前から第7艦隊に配備された。本来は別の艦隊に入れる予定だったのだが、件の北朝鮮情勢の悪化から、ヴァレッドの判断として最新鋭の空母を横須賀に浮かべておくことにした。『カール・ヴィンソン』も、本来は第3艦隊所属だが、第7艦隊に“出向”する形でオーストラリア沿岸に演習のために展開しようとしていたところだった。
一先ず、レムリーとしてはこの空母2隻を中核とした2個空母打撃群を派遣することで対応しようとしていた。しかし、ヴァレッドは納得できなかったらしい。首を少し捻りながら、レムリーを指さしつつ言った。
「2個艦隊だけか? 第3艦隊にもっとあったはずだろう」
「『ジョージ・ワシントン』のことであるならば、今は定期整備明けの訓練中で、直ちに訓練を切り上げて諸々の準備をさせたとしても、最低1週間近くはかかります。特に、任務に必要な戦闘資格の再習得には時間がかかるので」
「じゃあ中東の第5艦隊からは? 今出してるだろ」
「検討はしましたが、現在向こうにいる空母は『ジョン・C・ステニス』のみで、中東情勢の緊迫度を鑑みると、ここからはがすのは得策ではないかと……」
「待て、では2個艦隊だけでアイツらをやれっていうのかね? 戦力に余裕がないではないか」
「その通りです。ですが、それ以外の空母を頼るとなると、相当な日数を消費して他の艦隊との合流を待たねばなりません。状況は切迫しておりますので、これ以上は……」
「じゃあ早くても、『ジョージ・ワシントン』が合流する1週間前後は……」
「厳しい状況を、覚悟せねばなりません」
険しい表情でレムリーが言うと、再びヴァレッドは大きくため息をついて右手で頭を支えた。
――たったの2個空母打撃群か。余りに少なすぎる。最低3個、できれば4個ほしい。
現実問題として、1隻や2隻の空母で戦争などはあり得ない。例えば、1969年のニクソン政権時代、北朝鮮への懲罰攻撃が検討された際も、空母は4隻投入する事が予定されていたし、アフガン攻撃の際も4隻、湾岸戦争やイラク戦争の時に至っては、実に6隻もの空母が参加した。1隻や2隻の空母で何かしらの攻撃を行った事例などほとんどなく、あっても、本当に小規模な攻撃に関わったぐらいである。
相手は中国から抜けた戦力である。量的な差は圧倒的であるとはいえ、やはり空母打撃群は最低でも3個から4個は必要だ。でなければ安心できない。
同じような見解を、『ウェイラー』国防長官が示した。
「戦力としては圧倒的な差がありますが、やはり2隻という状況は厳しいものがあります。とはいえ、これ以上はがんばっても3隻です。どうしようもありません」
「しかも、その3隻目は整備抜けで遅れる、か……。他に誰か頼れんのか?」
「ちょうどいま、南シナ海に英国の空母クイーン・エリザベスが展開しています。航行の自由作戦のついでで来ていますが、大使を通じて、イギリスに要請してみましょうか?」
ウェイラーが言ったのは、イギリスの最新鋭空母『クイーン・エリザベス』である。数年前に就役したばかりのSTOVL空母であり、米海兵隊のF-35B部隊を搭載しながら、アメリカが行っている航行の自由作戦に参加するべく、今は南シナ海に展開している。本当は自分たちのF-35Bを載せたかったのだが、配備が間に合わなかったのだ。
とはいえ、仮にも大型空母である。流石にニミッツ級やフォード級には劣るとはいえ、アメリカや同盟国の海軍の護衛の協力を得れば、十分戦力となるであろう。これで3隻。必要最低限は揃う。
だが、ヴァレッドは「いや、ダメだ」と切った。
「イギリスはアジアでの作戦ノウハウがほとんどない。戦力下においてもはっきり言って役立たずだ、南シナ海に置いておけ」
「は、はぁ……そうですか……」
ウェイラーは少し戸惑い気味に返した。確かに、イギリスにはアジア方面での作戦展開ノウハウは余りないとはいえ、こうも思いっきりぶった切るように言ってしまうとは。イギリスの首脳や軍人たちが聞いたらさぞキレるだろう。
とりあえず、戦力はもうどうしようもないからできる限り急いでかき集めるとして、問題は“攻撃の根拠”である。
「日本は既に、国連安保理の緊急会合の開催を要請しています。先ほど、韓国とフィリピンからも、同様の要請が入りました」
目の前のタブレットを操作しながら、『ダンバード』国務長官が伝えた。タブレットには、先ほどから危機管理室内に設けられた監視フロアの国務省担当官から、海外の動きに関する情報が逐一アップロードされていた。日韓比が続けざまに国連安保理緊急会合を要請した情報も、つい先ほど入ってきたものだった。
補足するように、『オルフィード』国家安全保障担当補佐官が言った。
「極東革命軍への攻撃に出るにも、国際社会の正式な認可が必要です。各国は既に極東革命軍打倒に動いており、十分コンセンサスは得られるでしょう。ロシアとの交渉も鋭意継続中です」
「よし、ダンバード。国連大使に伝えろ。議長国に安保理緊急会合開催を要請。出来る限りすぐにと」
「わかりました」
ダンバードはすぐにタブレットにヴァレッドの指示内容を入力。監視フロアにいる担当官を通じて国務省に伝達した。
だが、障害がないわけではない。『ウェブスター』首席補佐官が隣から言った。
「とはいえ、まだ我が国内ではこの件は報道されたばかりです。現場ほど危機感がないため、やはり積極的な派兵に消極的な世論もあります」
「本格的な戦争を恐れてか?」
「はい。幾ら極東革命軍が比較的小規模な勢力であるとはいえ、完全なる撲滅を行うならば、拠点への攻撃が必要になりますが、それは相当大きな作戦となるでしょう。過度な人的被害を忌避する世論層は、まだ根強くあります」
「厄介だな」
ヴァレッドは頭をかいた。アメリカ国内の世論も決して一枚岩ではない。元々、ヴァレッドが去年の選挙で“再選”したのも、彼自身が掲げていた『アメリカ優勢主義政策』が、国内でそこそこウケたからだった。その中には、内向的な派兵政策も多分に含まれており、積極的な遠隔地への戦力派兵には慎重になっていた。
ヴァレッドは、良くも悪くも世論に従順だった。自身の支持者が求めていないことは中々やろうとしないし、逆に求めているモノなら、どれほどの障害があろうとも“表向きだけでも”やろうとする。今回のもそれであった。彼を支持する者たちは、基本的に海外派遣に消極的だ。例え極東の同盟国が攻撃されていようとも、「もう少し様子を見てから」という声が上がることは容易に想像がついた。元々は自分の支持者層の声なのだが、今回はそれが裏目に出たといえる。
また、それだけではない。政府内でも色々な動きがある。オルフィードは再びタブレットを操作しながら言った。
「与野党問わず、今回の件について慎重な対応を求める声は既に上がっています。この極東革命軍なる組織が、大本が中国軍であったとなれば、自分達の立場も危うくなるでしょうし、それを危惧してのものでしょう」
「親中派の連中か」
「はい。彼らとしては、中国自身が内々のうちに解決してくれるなら、あれはちょっとした反乱沙汰であったということで強引に治めることができます。ですが、大々的に我が軍をはじめとする各国軍が出向くとなると、中国に対する見方も悪くなり、自分たちの立場が危うくなるかと」
アメリカ政府内にも、中国に対する見方は数多だ。そういったパンダハガーもいれば、逆に嫌中派もいる。後者はもちろん、直ちにこれを中国の失態として、同盟国への救援ついでに叩くべきと主張しているが、前者にとってはこれは幾つかの意味で一大事だ。
自分たちが胡麻を摺っていた国の首都が攻撃されてとんでもない被害になったうえ、そのせいで同盟国すら被害を被ってしまい、今まで中国の味方だった自分達に対する見方は間違いなく悪くなる。次の選挙にも影響するし、国内の中国に対するイメージが悪くなりかねない。せめて、もう少し穏便に解決できないかと探っている最中だった。既に政府内で工作が始まっており、事前に懐柔していた様々なメディアを通じて、世論に影響力を与えていた。まだ状況がはっきりしていないこともあり、世論も積極的な派兵には向いていない。
……となれば、良くも悪くも世論を気にするヴァレッドにとっては厄介だった。幾ら自分に味方する支持者が多いとはいえ、そうでない方を反故にすれば、後々に響く。
「国民が一気に沸き立つようなきっかけがあればいいんだがな。事態の深刻さが伝わり切ってないとなると、世論を動かしにくいか」
「ええ。一応、午前中にメディアへの記者会見が予定されています。そこで、事態の緊迫性を訴えるべきかと」
「わかった。原稿は頼んだぞ」
「はい、お任せを」
そうウェブスターに指示すると、また何度目かの深いため息をついた。そして、今度は愚痴るように、暗く、しかし威圧感のある声で言った。
「全く……ただの懲罰のつもりが、一体なぜこうなったのだ。ん?」
そう言って、横目に睨み付ける先にいたのは、『ミルワード』国家情報長官だった。若干黒色の肌に相当な量の汗を浮かべながら、震えるような眼でヴァレッドを見ていた。相当委縮している様子であったが、ヴァレッドは気にも留めない。
「北朝鮮のこれ以上の暴走を止めるべく立てたはずの作戦が成功したのはいいものの、なぜその結果がこのザマなのだ? 一体どう説明する気だ、愚の骨頂としか言いようがないこの大失態を?」
「愚の骨頂とは手厳しいですな」
隣から苦笑気味にウェブスターが小声で独り言のように口を挟むが、それを無視したヴァレッドは止まらずさらに続けた。
「あの“肥満野郎”を指導部から叩き落せば、あとはこっちが懐柔できるように動かすはずではなかったのか?」
「で、ですから、事前に説明した通り、懐柔するにも軍部のほうは流石に手が行き届きにくいと――」
「CIAができると言ったからやったのではないか! 今更何を言い訳するつもりだ!」
彼の腹の虫は治まらなかった。まくしたてるようにミルワードを責め込むや、彼も完全に勢いで負けて、何とも言い返すことが出来なくなった。一通り“口撃”し終わると、「今後の対応策を練るように」と指示を出し、一先ずNSCは一時解散となったが……。
「……」
そんな彼を、横目で不満げに睨む人間が一人――。
「――何が愚の骨頂だ、自分がやれっつったんだろうがッ!」
国務長官のダンバードである。自らの執務室がある国務省へと一時的に戻る道中、隣を一緒に歩いていたオルフィードに対し、自らの不満をぶちまけていた。勿論、ヴァレッド本人がいないことは確認済みである。
「だから俺は反対したんだ。幾らレッド・ラインを超えたからって、その懲罰がこれじゃ後々面倒ごとになるってな」
「幾ら本国領土の近くにICBM撃ち込まれたからって、それに対するお返しにしては行き過ぎだろうな。指導者の周りは代々彼に仕えてきた人間ばかり。そいつ等が何もしないとも限らない」
オルフィードが半ばあきれ顔で言った。二人は元々同じ国務省勤務の同僚で、気心の知れた仲だった。同じNSCメンバーとして在籍できたのはただの偶然だったが、それをいいことに、二人はよく彼の大統領たるヴァレッドに対する不満をぶちまけ合っていたのだ。
「あの『弾丸頭』め、本当に頭の中の海馬が消えてんじゃねえか?」
「……それ、他の人がいる前では言うなよ?」
「誰が言うかよ、“大統領閣下”のことだ。即行で首切るぜ」
厭味ったらしく皮肉るようにダンバードは言った。
『弾丸頭』とは、アメリカ国内の一部で流行っているヴァレッドに対する蔑称である。彼は金髪であるが、それが弾丸の弾頭部の金属を連想することと、弾丸と『ヴァレッド』の発音がよく似ていることから、「頭に弾丸でも詰まってるんじゃないかってぐらいのアホ大統領」という意味で、密かに『弾丸頭』と呼ばれている。
元々はネット上で、反ヴァレッドの住民たちが言い始めた言葉であったが、その存在を知ったダンバードも面白がって密かに使っていた。オルフィードは、立場が立場なため流石に言わないが、友人がすぐ隣で言ってるのを見ても何も言わないあたり、普通に許容している。どれだけ嫌われてるんだ彼は。なお、本人は対抗して、『黄金の頭脳を持つ頭』なる自惚れが過ぎるようなあだ名を普及させようとしたが、今のところうまくいっていない。そりゃそうだ。
「ミルも大変だな。本当は自分だって反対したかったのに、完全に押し通されたしな」
オルフィードが同情するように言った。ミルとは、国家情報長官のミルワードのことであるが、彼も元々はこの“策”には反対だった。どうやってもうまくいかないと。CIAにも一応相談したが、途中まではうまくいくが、最後の最後まで完璧に通せるかは保証できないと言われた。ヴァレッドにも進言したが、聞き入れてもらえなかった。
ミルワードもそれ以上は言えなかった。何か言ったらすぐに切り捨てられる。前々からヴァレッドはそうしてきたが、そのため、彼の周りのほとんどは“イエスマン”で固まった。ミルワードには生活が懸かっており、家族を養うためにも、この職を捨てるわけにはいかなかった。
事情を知っていたダンバードも、彼に同情していた。
「ミルは厄介なタイミングで情報長官にされちまったさ。あのバレッドヘッド、自分の策を通すために、あのタイミングで自分のやり方に反対“できない”アイツを選んだんだ。わざわざ前の奴を切ってまでだ」
「前の人はどっちかというと現実主義的だったからな。時々大統領の反発も買ってたからそう長くないとは思っていたが、例の作戦の命令直前だったのは流石に予想外だった」
「絶対狙ってたぞ、アイツ。ミルの家庭事情は既に知ってたはずだ。ミルの家族と会ったことがあるからな。イエスマンになるしかないアイツを情報長官に立てて、自分の作戦を無理やり実行させたんだ」
「立場上大きく言えないけど、随分とゲスいやり方だよな」
「全くだ、反吐がでるぜ」
ダンバードは吐き捨てるようにそう言った。ミルワードの家庭事情を逆に利用し、強引に自らの傀儡に仕立てようとしたそのやり方に、ダンバードは強い反発感を抱いていた。自分自身、ヴァレッドのやり方には時折反対するものの、逆鱗には触れないよう丁寧に言葉や態度を選んでいたが、ミルワードはそこまで器用ではなかった。元々、押しが強い人間ではない。だからこそ、半ば強引にでもイエスマンにし立てるのは難しい事ではなかった。
そのやり方自体に、ダンバードは不満だった。事実上、ミルワードの家族を“人質”にして、自分の命令を押し通したようなものだった。これでは、嘗てのヒトラーと同じレベルじゃないか。アメリカ合衆国は自由主義を標榜する民主主義国家だったはずじゃなかったのか。ダンバードの表情が徐々に曇り始める。
「これが世界にまたがる覇権国のリーダーとは、同盟国にどう顔向けすりゃいいんだよ」
「ほんとな。おまけに、大統領が無理な策を推し進めたせいで、その同盟国が被害を受けたしな。特に日本はそうだ」
「日本は最重要な同盟国だって自分で言ってたじゃねえか。その結果がこのザマだ。日本には後で“ドゲザ”でもしとけばいいのか?」
「床に額をつける奴が一番深い謝罪らしいよ」
「非公式会談の時にでも本当にやってくるかな、俺」
そう言って軽く笑みを向け合った。だが、内心本当にそうしたほうがいいじゃないかとすら思っていた。それほど、今回自分たちの国がしでかした責任と罪は重いのだ。当然、これは日本をはじめとする同盟国はもちろん、世界の全ての国々は知らない。というより、このアメリカの国民すら知らない。
そして、エレベーターの前に立つと、ちょうどよく扉が開いた。二人は中に乗り込み、
「とにかく、今は情報を大量に持ってこないとな。こりゃあ暫くは寝れそうにないぞ」
「寝不足になりそうだな」
「これが終わったら大量に休日分捕ってやる。そして豪快に寝てやるんだ」
「あの金髪の分からか?」
「金髪の分からだ」
そうした二人の豪快な笑い声が響き渡り、エレベーターのドアは閉まった……




