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うちのお嬢様

俺は、クリス=ロバート。路頭に迷っていた時にリッテ公爵に拾われて今ではリッテ家で執事をしている。

リッテ公爵には感謝してもしきれないほどだ。

そんな俺にはリッテ公爵にも話していない秘密がある。

それは俺が転生者であること。そして、リッテ家の最悪の末路を知っていることだ。

俺は恩人のリッテ公爵のためにその娘ベアトリス様の執事として働いている。

全ては悪役令嬢のベアトリス様が断罪されないように。


俺は転生前、乙女ゲームをプレイすることが日課だった。

いっておくがこれは俺の趣味じゃない。バイトだ。

俺には姉がいた。その姉は乙女ゲームが大好きなのにも関わらず全くプレイをしないでシナリオだけ読む。そのために自分の代わりに弟の俺にプレイさせた。終わった後に感想を書かされるのでスキップ機能は使えなかった。まぁ、時給がものすごくよかったので俺に不満はなかった。

そんな俺は今いる世界のことも知っていた。プレイしたことのあるゲーム「幸せを勝ち取ってみせる」というゲームだったからだ。

このゲームは、攻略対象の好感度を上げるよりも悪役令嬢のいじめをかわすことが重要視される。選択肢によっては選択を間違えた時点で即BAD ENDになる。BAD ENDがあまりにも多いことから俺がプレイしたことのある乙女ゲームの中でも一番酷評の多いゲームだった。

悪役令嬢が行ういじめはそんなにひどいものではない。せいぜい、ヒロインの所持品を隠したりする程度だ。問題は、悪役令嬢の取り巻きが行ういじめのほうだ。取り巻きが行ういじめは悪役令嬢の行ういじめよりもたちが悪いばかりか隠ぺいが完璧なのだ。

それはもう乙女ゲームよりも推理ゲームにしたほうが売れるんじゃないかと思うくらいだった。



ある日お嬢様はいつも通りお嬢様は不機嫌な顔で帰宅した。

「ああ、もうイライラしますわ」

「おかえりなさいませお嬢様、また他の令嬢にお茶をかけたんですって?いい加減そんな幼稚なことやめたらどうですか?」

お嬢様は気に入らないことがあるとすぐ他のご令嬢に嫌がらせをする。

「私は悪くないわよ。あの子のドレス、私と型も色もかぶっててそれを着こなしていたんですよ。この私よりも」

お嬢様は嫌がらせをする理由は悪役令嬢そのものなのだが、悪役令嬢になり切れていない。

「それご本人に言いました?」

「ええ言ってやりましたわ。そしたら私がお茶をかけたというのにありがとうございますとよろこんで帰っていったのですよ。全く意味が分かりませんわ」

そうお嬢様は嫌がらせをするには一言余計なのだ。

嫌がらせするのに褒めてどうする。

お嬢様はこうして嫌がらせをするたびに他のご令嬢を褒めるので、今ではお茶会でベアトリスにいじめられること=ベアトリスに認めてもらったこととしてとても光栄なことであるという考えが広まっている。

そして嫌がらせをしては喜ばれて、いつのまにかベアトリス親衛隊ができていた。

俺がプレイしたときに出てきた取り巻きは3人程度だったのだが、今ではゆうに50人を上回るほどの親衛隊員がいる。



「おっほっほっー、おっほっほっー」

こんな夜中に高笑いをしている人物こそ俺の主ベアトリス様だ。

「私、ベアトリス=リッテと申しますわ。リッテ公爵家長女にして第一王子の婚約者。自分でいうのもなんですが美人で頭もよくって運動もできますのよ。」

ああ、なんかいきなり自己紹介みたいなものを始めた。

「私があなたに負けるはずありませんのよ。おっほほー」

「お嬢様、うるさいです。ところでこんな遅くに何をしているのですか?」

さすがに突っ込ませてもらった。

「クリス、今いいところでしたのに邪魔しないでいただけます?」

「いや、だからこんな遅くに何をしているのですか?」

「あなたが言ったんじゃないないの。二年次の前期初日に『ひろいん』という人が私の前に現れて私の邪魔をするって」

「確かに言いました。けどもうその心配はしなくていいとも言いましたよね?」

「いよいよ明日じゃない?だから噛まないように練習しておこうかと思って」

俺の言葉を華麗にスルーして話を続けるお嬢様。

まさかヒロインへのセリフを練習しているとは思わなかった。

というかそんなことを会ってそうそうヒロインに言うつもりなのか・・・

「そんなことよりもう遅いので寝てください。早く寝ないと明日遅刻しちゃいますよ」

「いいわね、明日ちゃんと起こしなさいよ」

「もちろんですとも」



「アイリス=ヴェルデと申します。皆さまこれからよろしくお願いしますわ」

「あなたが『ひろいん』さんですのね?」

「『ひろいん』ですか?」

「ええ、隠さなくてもよいのですよ。私、ベアトリス=リッテと申しますわ。リッテ公爵家長女にして第一王子の婚約者。自分でいうのもなんですが美人で頭もよくって運動もできますのよ。だから、どんなにそのブロンドでほわほわで守ってあげたくなるような見た目をしてて声も可愛いあなたにも負けませんのよ」

「はぁ。なんというか、ありがとうございます」

「なぜあなたにお礼なんかいわれなきゃいけませんの」

「すみません?」

「もういいですわ。私がいいたいのは、あなたがどんなに可愛くても負けないということだけですので」

「はぁ」



「聞きなさい、クリス」

「かえって来て早々なんですか?」

「『ひろいん』が、アイリスさんが・・・」

ああ、ヒロインはアイリスって名前なのか。

というかなんでこんなにお嬢様は落ち込んでいるのだろう。せっかくの縦まきロールに威厳がない。

「アイリスさんが転校初日に人気者になりましたわ」

「・・・」

まぁ、ヒロインなんてそんなものだろう。とは落ち込んでいるお嬢様には言えない。

「机の周り囲まれてて・・・」

「ああ、泣かないでください。それはいつのことですか?」

「私がアイリスさんに宣戦布告した後ですわ」

お嬢様のことだから多分ヒロインのことを褒めたんだろうな。きっと机を囲んでいたのは親衛隊の人たちだろう。勧誘でもしてたんだろうな・・・



「なぁ、聞いてくれよ。クリス」

「なんですか、カッセル王子」

「ベアトリスが可愛すぎる」

「はいはい」

「いや、今日のベアトリスは一段と可愛かったんだって」

「そういうことは本人に言ってあげてください。喜びますよ」

「そんなの恥ずかしいじゃないか」

「俺にのろけるほうが恥ずかしいでしょう」

いきなりのろけをかましてきた男はカッセル=バナード。うちのお嬢様の婚約者にしてこの国の第一王子。

数年前までこんなにお嬢様にべたぼれではなかったのだが、今やヒロインどころか他の女のことも目に入らないのではないかというほどにお嬢様を溺愛している。

そんな彼ののろけを俺ははいはい、と俺は聞き流す。

「まさか転校生に向かっていきなり宣戦布告?するんだもんな。あれはマジで驚いたわ」

「王子がマジとか使わないでください。というか帰ってください」

「そんなこというなよ。でさー、もう可愛くて仕方がない。この気持ちを誰かと分かち合いたいと思って転校生に話しかけてみた」

「は?」

「話が分かるいい子だったよ。友達になれそうな子だった。今頃親衛隊の子たちと二次会してるんじゃないかな」

まさか王子が自分から声をかけるなんて思ってもいなかった。



「クリス、私決めましたわ」

すっかり目を腫らしたお嬢様は朝食の準備をしている俺に話しかけてきた。

「おはようございます、お嬢様。で、決めたって何をですか?」

「そんなの決まっているじゃない。戦う覚悟よ!」

「はい?」

何を言っているんだ、うちのお嬢様は・・・

「私は宣戦布告をすることでアイリスさんにカッセル王子のことを諦めてもらおうと思いました。でも、その結果何故かアイリスさんは人気者になってしまいましたわ。だから、私は正面から戦うことにしたのです。カッセル王子との仲を邪魔されないように」

「いやだからそんな心配、もうしなくていいんです。カッセル王子はどうせお嬢様のことしか見えてませんから」

「いいのよ、クリス。そんな気を使わなくても」

気なんて使っていない。俺は真実を言っているだけだ。

そして何度言っても聞いてくれないお嬢様。



「今日は学校をお休みになってはいかがですか?」

「今日休んだら私がアイリスさんに負けたみたいじゃない。それじゃあ行ってきます」

目を腫らしたお嬢様を心配して使用人が何度も止めたがお嬢様は学校に行ってしまった。




「ク、クリス」

ぐす、ぐすっと今にも涙がこぼれそうだ。

「お嬢様、どうなさったんですか?」

「お友達のルーンさんもイリスさんも、カッセル様もずーっとアイリスさんにかまってばかりで・・・。 私と話しているときよりもみんな楽しそうで・・・」

ルーン様もイリス様もお嬢様のお友達兼親衛隊だ。

親衛隊のメンバーが増えて嬉しいのだろう。


そんなことが1週間続いた。

「負けを認めますわ」

「は?」

「私は負けを認めてカッセル様から身を引きます。私がいるのではアイリスさんとカッセル王子の邪魔になってしまいますから引きこもりますわ」

何をどうしたらその結論に至るのだろう。

「引きこもるなんてそんなこと・・・」

「もう、ルーンさんもイリスさんもカッセル様もアイリスさんとずっと一緒にいればいいんですわ」

そういって、お嬢様は自分の部屋に引きこもってしまった。



「お嬢様、出てきてくださいよ」

「ふん」

「機嫌直してくださいよ」

「嫌よ」

もう引きこもってから2週間がたった。

お嬢様の部屋は生活に必要なものが全てそろっているため生命を維持できるかの心配はしていない。

が、そろそろお嬢様には出てきていただかないと困るのだ。



「まだベアトリスは出てこないのか」

「はい」

「お前がちゃんとフォローしないから悪いんだ」

「あなたがお嬢様をないがしろにしたのが悪いんでしょう!」

俺の前には、カッセル王子、ルーン様、イリス様、そしてヒロインのアイリス様がいる。


「私がつい、ベアトリス様のトークで盛り上がってしまったばかりに・・・」

「そんなこと言ったら私だって・・・」

「いえ、すべてはわたくしの責任ですわ。私がベアトリス様から話しかけていただいたときにベアトリス様の魅力に気付いていなかったから・・・」


お嬢様が引きこもってからというもの、この3人は毎日リッテ家に来てはお嬢様が引きこもってしまった原因は自分にあると泣き始めるのだ。


カッセル王子に至っては、帰ってくれない。

数日前から王様のほうから苦情が来てしまった。

そろそろ城のほうに帰っていただきたいが

「ベアトリスの顔を見るまで俺は帰らないぞ!!」

といって帰ってはくれない。



悪役令嬢ではなく引きこもり令嬢になってしまったお嬢様。

彼女を部屋から出すべく、俺は今日もお嬢様の部屋の前に行って叫ぶ。


「お嬢様、お願いですから出てきてください!」


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