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鬼哭賛歌

作者: 浅倉 悠樹

 黄昏が辺りを覆いつくす頃、何者かがカツカツと下駄を打ち鳴らした。

 煙管を咥え夕陽を背負うその様は、まるで底知れぬ不安を形にした影。

 立ち昇る紫煙は禍々しさを増し、見るものすべてに畏怖を齎す。

 ふと聞こえた小気味好い音は下駄に非ず、腰に携えた一振りの刀からであった。3尺にもなろう長さの刀の鍔から響き渡る甲高い金属音。

 聴く者によればそれは風鈴の揺らめき、聴く者によれば百鬼夜行の音頭であろう。 

 着ている袴の裾を遊ばせながら、男は待っている。

 己に匹敵する強者を。敗北を与える絶対者を。

 今か今かと、待ち侘びている。

 黄昏が闇夜に落ちる頃、待ち人来たり。

 男にはわかるのだ。夜の闇など意味を介さず、一心不乱に影を見つめる。見えずとも聞こえずとも、感じる。そう、感じている。

 はるか彼方より闇を引き連れた武士もののふを。

 男は口角を上げる。それは歓喜の産声。体が熱を持ち、血が湧き、肉が踊る。

 待ちきれぬと言わんばかりに男は駆けた。矢の如く、一直線に。ただひたすら。

 すべては、待ち人つわもののために。

 ほどなく男はゆるりと足を遅らせた。疲れを覚えたわけでもなく、足に限界を迎えたわけでもない。

 必要がなくなったのだ。男同様、待ち人も駆けていたからだ。

 月灯りが彼らを照らす。両者肩で息をし、互いに笑みをこぼした。相対した瞬間に理解したのだ。男と待ち人は同じなのだと。

 戦の中でしか、生きられないのだと。

 だから男は詠うのだ。この出会いに感謝と、相手に対しての敬意と、この生き方しかしらない我ら自身を嘆くために。



相見え

羅刹誘う

修羅の道

故に譲れぬ

意気なればこそ



 そこで男は柄に手を伸ばす。待ち人も同様に構え、ゆっくりと男を見据えた。

 なればこそ。その言葉の答えはこれから語られるのだ。言葉を交えず、刃に込めて。

 静まりかえった京の國。響き渡るは人か獣か鬼の咎か。




「いざ、まかり通る!」




 ──今宵、彼は修羅となる。


初のイベント参加作品となります。


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