すべてを手に入れる7
友孝先輩と生徒会室で少し話してから、もう一度友幸さんの家へと戻った。
インターフォンを押すと、友幸さんが出迎えてくれて、玄関先で少し話す。
「何度もすみません。」
「構わないよ。……友孝はどうだった?」
「まだわかりません……でも、大丈夫だと思います。」
うん。多分大丈夫。
私はそう信じたい。
私がゆっくり頷くと、友幸さんは優しく笑って、そっと私の頭を撫でてくれた。
「ありがとう。……君にばかり任せるような事になってしまい、すまない。」
「……私が、自分で選んだ事ですから。」
そう言うと、友幸さんはそうか、と呟いて優しく笑う。
頭を撫でてくれる手が心地よくて、少しだけそれを堪能した後、グィッと顔を上げた。
「まだまだ、がんばります。」
「……君はがんばっているよ。」
優しく労ってくれる、その声音。
いつだって友幸さんは優しくて、ずっと甘えていたくなる。
でも、私にはまだやる事があるから。
頭を撫でる手を振り切るように玄関で靴を脱ぐ。
「私は仕事があるから、書斎にいるよ。」
「あ、そうなんですね。うるさくしてしまってすみません。」
「構わないよ。……家に誰かの声があるっていうのはいいものだから。」
「じゃあ、遠慮なくお邪魔しちゃいますね。」
「ああ。」
私がふふっと笑うと、友幸さんも笑顔で答えてくれた。
友幸さんが書斎へと入り、私はリビングへと向かう。
リビングではチャコと鋼介君と勇晴君が相変わらずソファに座りゲームをしていた。
私が戻って来たのを見て、それをポーズにし、チャコが待ってたよー、と声をかけてくる。
「ねね、唯ちゃん、生徒会長ってなんで来たの?」
チャコが深いブルーの目を丸くして私を見た。
生徒会長とは友孝先輩の事だ。
存在を忘れたかのようにゲームをしていたから、全然気にしていないのかと思ったけど、そうでもなかったらしい。
私もソファへと座りながら、ふふっと笑ってチャコの疑問に答える。
「妖が好きだからだよ。」
……まあ、私が引っ張って連れて来てしまったんだけどね。
しっかりとチャコの目を見て、真剣に言ったのに、私の言葉はまったく信用が無かったようだ。
私の言葉にチャコははて、と首を傾げ、鋼介君と勇晴君は呆れたような顔で私を見た。
「いや、賀茂先輩は陰陽師だろ。妖好きってなんだよ。」
「陰陽師が妖好きでも変じゃないよ。だって、勇晴君だって妖が好きでしょ?」
「いや、俺は興味があるだけだからな。」
「はいはい、わかったわかった。」
『興味がある』と『好き』なのとほとんど変わらないと思う。
勇晴君の言葉に適当に相槌を打つと、勇晴君は少し微妙な顔をした後、はぁと息を吐いた。
そんな勇晴君を見て、鋼介君はそれもそうか、と頷いた。
「まあ、そうだな、陰陽師だから妖が嫌いって言うのは先入観か。」
「そうそう。友孝先輩は色々と大変だから、表には出さないと思うけどね。」
「なるほど……。俺はてっきり牽制に来たのかと思ったんだが……。」
「違うよ。私が無理やり引っ張ってきただけだから。」
鋼介君が眉間に皺を寄せながら話すのを聞いて、それとなく友孝先輩をフォローする。
前、二度目の時もプールが終わってから、友孝先輩はチャコと鋼介君に会いに来ていた。
鋼介君はその時も牽制だって言っていたけど、私はそれだけではなかったんだと思う。
友孝先輩はチャコを見たかったんだと思うんだ。
いつも遠くからしか見れないチャコがどんな生活を送ってるか知りたかったんだと思う。
「そっかー、唯ちゃんが生徒会長を引っ張って来たのかー。」
「うん。ごめんね。いつも強引で。」
「まあーねー。」
チャコが困ったように笑った。
それはそうだ。やっぱり友孝先輩とは学校で積極的に関わりたくはないのだろう。
チャコは式神である事を隠したいんだろうから。
私はチャコのその顔に何も言えず、ギュッと唇を一度噛む。
すると、何かを考えるようにしていた鋼介君が、じっと私を見た。
「名波は妖派と陰陽師派がある事は知ってるのか?」
「……うん。知ってる。」
「そうか……。」
「あと、安倍陣営と賀茂陣営があるのも知ってるよ。」
「……そうか。」
自分が不吉な前兆である妖雲の巫女で。
それを取り合う妖派と陰陽師派があって。
さらに穏健派の安倍陣営と強硬派の賀茂陣営がある。
私は私の周りにあるそういうのを知っている。
知っているけど……それでも。
「色々あるんだと思う。鋼介君にも先生にも。友孝先輩にも勇晴君にも。もちろん、友幸さんもね。」
――そして、チャコにも。
「でも、私、そういうのはそういうので置いとく事にしたんだ。だって、私、みんなと仲良くしたい。楽しい事いっぱいしたいんだ。」
みんなで一緒に仲良くなる、とか。
全員ともだち、なんて夢物語でみんなにとっては迷惑なだけかもしれない。
でも、私はがんばりたい。
やれることを全部やりたいんだ。
「心の葛藤とか表向きの立場とか、責任とか。そういうのはみんながそれぞれ考えてくれたらいいかなって。みんな強いし、力があると思う。だからちょっとぐらい混乱したってきっとなんとかしてくれるって思ってるよ。」
色々あると思うけど、みんななら大丈夫。
なんの根拠もない無責任な信用だけど、私はふふっと笑った。
そんな私の顔を見て、チャコは眩しそうに私を見て、鋼介君は眉を顰めながら笑ってくれる。
そして、勇晴君はフッと笑って、私を見た。
「まあな。俺は強いからな。」
うん。知ってる。
「だから、友孝先輩も時々連れてくるね。爆発しろとか言っちゃダメだよ。」
「……あー。」
言質を取ったとふふっと微笑むと、勇晴君はサッと目を逸らした。
そんな私と勇晴君を見ていた鋼介君が少し笑いながら、ゆっくりと言葉を告げる。
「俺達をここに連れて来たのは名波だから。誰を連れて来ようが名波の自由だと思う。」
琥珀色の目が優しく細まった。
「名波が動いたから、俺たちはここにいる。……だから、名波は動きたいように動けばいいんだ。」
「……うん。ありがとう。」
……こういう時、鋼介君にはかなわないなって思う。
そっと、さりげなくだけど、私の重荷を下ろすような言葉をかけてくれる。
私が眉を顰めながら笑うと、チャコがあー、ずるい! と声を上げた。
「鋼ちゃんはね、そうやっていっつもいいとこどりだよねー。」
「そうだよな。先に名波に賛同したのは俺なのに、気づけば鋼介が持ってってる。」
「これはね、詐欺に近いと私は思う。」
「そうだな、詐欺だな。」
「うん。鋼ちゃんは詐欺師だ。」
「詐欺師だな。」
「……ちょっと二人とも黙れ。」
やいやいと盛り上がるチャコと勇晴君に鋼介君が深い溜息を吐く。
そんな三人が面白くて、私はあははと笑ってしまった。
「それに、俺は賀茂先輩がここに来るの、結構嬉しいからな。」
「えー、なんでー。」
賀茂の陰陽師だよ? 怖くない? とチャコが嫌そうな顔で鋼介君を見た。
鋼介君はそれに、小さく首を振って答える。
「俺は賀茂先輩を尊敬してるんだ。」
「えー……。」
「すごいと思わないか? この学校で一年の秋から生徒会長をしていて、次も引き続き生徒会長だ。賀茂としての立場があるだろうに、生徒会長としてどちらかを贔屓しているとかもないだろ?」
「おー。」
「……賀茂先輩が努力してるのが俺にはわかる。」
「まー。」
鋼介君が友孝先輩の事を熱っぽく語った。
なんだか少し驚いてしまって、私は目を大きくしながら、鋼介君を見てしまう。
鋼介君は友孝先輩の事を尊敬してるんだ。
なんだか意外で……でも、確かに二人はどこか似ているとも思っていたから、不思議とその言葉はしっくりと来て……。
なんだかよくわからないけれど、胸がいっぱいになる。
私がちょっと感動してじーんとしているのに、チャコの目は既に鋼介君を見ていない。
鋼介君の言葉に適当にしか返さず、既にゲームを始めようとしているのだ。
鋼介君もそんなチャコに気づいたのだろう。
少し眉間に皺を寄せてチャコを見た。
「チャコ、聞いてるか?」
「ん。聞いてない。」
チャコが悪びれもせずイヒヒと笑って鋼介君を見る。
鋼介君はそんなチャコの顔を見て、はぁと小さく溜息を吐いた。
「……まあ、俺の思いなんてどうでもいいよな。」
「さあさあ、鋼ちゃん。そんな話は置いといて、ゲームの続きをしましょーよ。」
「……そうだな。」
鋼介君がやれやれと肩を竦めてゲームのコントローラーを持つ。
すると、チャコの隣から勇晴君が鋼介君を覗いた。
「なあ鋼介、尊敬するなら俺を尊敬しろ。」
「……勇晴も尊敬してるよ。」
「そうか。俺は強いからな。」
「……ああ。」
「じゃあ、強い勇ちゃんが続きやってー。」
チャコが鋼介君からコントローラーを取り、はい、と勇晴君に渡す。
そして、今までポーズしていたゾンビゲームを再開した。
友孝先輩がいる時にしていたパーティゲームは終わり、二人でプレイするゲームに変えていたようだ。
「ねえ、妖と陰陽師でゾンビゲームして楽しい?」
「えー、楽しいよー。」
「実際にゾンビが出たら、チャコなら銃より素手の方が強いと思うんだけど……。」
「うん。まーね。」
「勇晴君なんて、施設を丸ごと浄化しちゃえば終了だよね?」
「あー、そうだな。」
「なんで銃なんかでチマチマやってるんだってイライラしない?」
「……唯ちゃん。ゲームをリアルに考えたらダメなんだよ。」
「もし、リアルで考えたら、名波がゾンビに襲われまくるんだろうな。」
「そしたら、自分に結界を張って、大量に引きつけてから一網打尽にする。」
「やだ、唯ちゃん、かっこいいー。」
チャコも勇晴君も画面から目を離さず、出てくるゾンビを銃で倒しながら、先へ進んでいく。
少し進むと、何やら効果音と音響が鳴り、ムービーが流れ出した。
「あ、ボス?」
「いや、中ボスだな。」
「わー、これ苦手なヤツだー。鋼ちゃんやってー。」
チャコが持っていたコントローラーをはい、と鋼介君に渡す。
そして、二人の間に座っていた場所から抜け出し、私の隣へと腰かけた。
画面では鋼介君が大き目の銃に持ち替え、勇晴君が中ボスに火炎瓶を投げつけている。
チャコはそれを見ながら、いけーとかやれーとか適当に声援を送っていた。
楽しそうに笑うチャコの横顔をチラリと見て、チャコにだけ聞こえるぐらいの声でそっと話しかける。
「チャコは友孝先輩を呼ぶの、いやだった?」
「んー。別にー。」
チャコが少しだけ首をかしげながら、私を見た。
「私は唯ちゃんが楽しいんだったらそれでいいよ。」
そして、えへへって笑う。
その笑顔に心の中でありがとうって呟いて、小さく頷いた。
きっと、本当は色々とあると思うんだ。
みんなの事を引っ掻き回してるって自覚はある。
それでも、これが……未来へつながっていると信じて。
夏休みもあと少し。変わらず生徒会に行く事を続けている。
友孝先輩とその後、気まずくなったり、敵対したりすることもなく、今まで通りの関係だ。
むしろ、チャコの事を率直に話せるようになった分、距離は縮まったかもしれない。
二度目の生徒会をがんばった夏休みのように、朝起きて、少し早めに学校へ行く。
チャコが迎えに来てくれて、学校に入った所で別れる。
私が生徒会で仕事をしている間、チャコは友幸さんの家で勉強をしたり、ゲームをしながら待ってくれているらしい。
エアコン涼しい、テレビ大きい、ごはんおいしい、とチャコはにこにこと笑っていた。
時折、鋼介君や勇晴君も遊びに来ているらしく、毎日がすごく楽しそうだ。
友幸さんもそうやって毎日やってくるチャコを面倒に思う事もなく、適度に用事をこなしながらも、相手をしてくれているみたいだ。
友孝先輩と朝に少し話してから、生徒会の仕事をする。
生徒会の仕事が終わると、友幸さんの家へ行って、時間があればみんなと遊ぶ。
時々、友孝先輩を無理やり連れて行ったりもして……。
そして、チャコと一緒に歩いて家へ帰る。
その後は着替えて、勇晴君と修行。
体力的には結構くたくただけど、毎日が本当に楽しくて充実している。
これまではみんながそれぞれと関係を持つ事はなかったけど、今では私を抜きにしても色々な関係を築いているので、見ていてちょっと面白い。
「俺、賀茂先輩を尊敬してます。」
生徒会が終わり、友幸さんの家でみんなでくつろいでいると、突然、鋼介君が友孝先輩に声をかける。
ついに鋼介君は募る思いを本人に伝える事にしたらしい。
ダイニングテーブルで私の向かいに座っていた友孝先輩がフッと笑って、私の隣に座っている鋼介君を見た。
「おだててもなにも出てこないよ?」
「いや、そういうんじゃないんですけど……。」
自分でも突然だったと思っているのだろう。
鋼介君が少し目を泳がせて……それでもしっかりと友孝先輩を見つめる。
「俺が勝手に共感を覚えてるんです。勝手に思ってるだけなんですけど、俺の悩みと似てるんじゃないかなって。」
「……ああ。」
鋼介君のまっすぐな言葉に、友孝先輩は困ったように少しだけ笑った。
鋼介君と友孝先輩の悩み。
それは近くにすごい人がいるために、自分を卑下してしまう。その事だろう。
「俺に兄貴がいて、知ってると思うんですけど、『出来損ないの狐』ってずっと言われてたんです。自分でもそうなんだろうなって思ってました。」
鋼介君が淡々と言葉を続けていく。
友孝先輩はそれを止めるわけでもなく、ただじっと鋼介君を見ていた。
向こうのリビングではチャコと勇晴君が楽しそうに笑っているのが見える。
「俺、自分が嫌で、兄貴がいるって事も嫌で……ずっと腐ってるだけでした。強くなりたいって思ってもその方法もわからなくて。……ただ否定するしかなくて。」
鋼介君が苦しそうに眉を顰めた。
「俺は弱くない、俺は弱くないって言い聞かせても、心にある飢餓感は薄れなくて。」
琥珀色の目がゆらゆら揺れる。
「でも、賀茂先輩はこの学校で生徒会長までやってて、まっすぐに立ってる姿が……俺、すごいなって思ってます。」
「……まっすぐでもないさ。」
鋼介君の言葉に友孝先輩が自嘲気味に笑った。
けれど、鋼介君は友孝先輩の言葉に小さく首を振って、じっと友孝先輩を見る。
「賀茂先輩はずっと努力してるんだなって。」
「努力……か。それをしなければいけないっていう時点で情けないと思うけどね。」
「……そんなことないです。俺はそれさえもしてなかったから。」
鋼介君が小さく息を吐き、唇をギュッと噛んだ。
友孝先輩はそんな鋼介君を見て、少し考えるように言葉を止める。
そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「……妖は努力で力が強くなったりしないだろう?」
「でも、俺にもやれる事があったはずなのに……。」
「やってきてるさ、君は。」
苦しそうに目を伏せる鋼介君に、友孝先輩が紺色の目を優しく細める。
「やれることをやって、そうやってきちんと言葉にできる君はすごいと私は思うよ。」
友孝先輩のその言葉は慰めなんかじゃなく、本当に心から発した言葉なのだと感じられた。
鋼介君はその言葉に一度目を瞠ると、困ったように笑いながら友孝先輩を見る。
友孝先輩はそんな鋼介君を見返すと、チラリとリビングの方を見た。
そこにはゲームをしながら笑っているチャコの後ろ姿がある。
「それに……友永さんだって君といると楽しそうじゃないか。」
その言葉に鋼介君が今までで一番驚いたような顔をして、友孝先輩を見た。
そして、チラリとチャコの後ろ姿を見ると、眉を顰めて言葉を告げる。
「……チャコは賀茂先輩といる時だけ、きれいな笑顔で笑ってますよ。」
その言葉に友孝先輩は苦い顔で返した。
そして、二人でお互い目を見合わせて、どちらからともなく目を離す。
なんとなくいたたまれない空気になって、私はプッと噴き出してしまった。
「なんで二人で、どうぞどうぞってチャコを譲り合ってるんですか。」
「……名波。」
「別に譲り合ってはいないだろう?」
呆れた顔で私を見てくる二人が面白くて、余計にあははっと笑ってしまう。
「残念ですけど、チャコは私といる時が一番楽しそうに笑ってますよ。」
「……まあ、確かに。」
「そうだね。」
「ちなみに今は私達三人の誰でもなくて、勇晴君と笑ってますけどね。」
「……そうだな。」
「……ああ。」
三人揃って、勇晴君と楽しくじゃれているチャコの背中を恨めし気に見る。
チャコは何かを感じたらしく、こっちを振り返り、なに? どしたの? と深いブルーの目を大きくして私達を見た。
そんなチャコをじとりとした目で見ていると、チャコが何か思いついたらしく、隣の勇晴君にこしょこしょと何やら耳打ちしている。
すると、勇晴君も何かを呟き、こちらを見てニヤニヤと笑った。
チャコもニヤニヤしている。
……きっとまた二人でよからぬ事を話しているのだろう。
私がギュッと眉を顰めると、友孝先輩がサッと席を立った。
「私はそろそろ行くよ。」
「はい。私はこのままチャコと帰りますね。」
「ああ、お疲れ様。」
「はい、お疲れ様です。」
私と友孝先輩が言葉を交わすのを鋼介君がじっと見ている。
友孝先輩はそんな鋼介君に優しく笑いかけた。
「……ありがとう。嬉しかったよ。」
「いえ、俺も賀茂先輩と話せてよかったです。」
友孝先輩が去り際に鋼介君の肩にポンと手を置く。
鋼介君はそれに小さく笑って返すと、友孝先輩の後ろ姿を見送った。
そして、友孝先輩の姿が消えた後、手を置かれた肩に自分の左手を乗せる。
「今……なんか……。」
「ん? どうしたの、鋼介君?」
「あ、いや……。なんでもない。」
しばらく鋼介君は不思議そうな顔をしていたが、気のせいか、と首を振った。
私はそんな鋼介君に笑顔を向けて、イスから立つ。
「みんなでゲームしよう。」
「ああ、そうだな。」
私の言葉に鋼介君もイスから立つと、チャコと勇晴君がいるソファへと向かった。
四人揃ってソファに座ると、いつものパーティゲームを始める。
チャコはみんなを追い詰めるのがやりたい、と大きいゲームパッドの方を選んだ。
悪役をやるらしい。
「うははー、逃げ惑えー。」
「チャコ待って! 私の方には……っ」
「わかった唯ちゃんは見逃そう。」
「よし、名波にくっつけば見逃してもらえるんだな。」
「やめて! 勇晴君来ないで!」
「ええい、面倒だー。やっぱり唯ちゃんもろとも消してくれる。」
「チャコ、バカー!」
隅の方に避難していた私のキャラクターに勇晴君のキャラクターが近づいた。
それを機に今まで私の方には攻撃しないようにしていたチャコが私と勇晴君に向かって攻撃を始める。
私が操っていたキノコのキャラクターは炎に焼かれてあっという間にハートが無くなった。
ちなみに勇晴君は器用にジャンプしてチャコの攻撃を避けきっていた。ひどい。
「勇晴君のせいでリタイアになった……。」
「仕方ない。名波はせっせと456サイコロを俺達に送れ。」
じとりと勇晴君を睨むと、勇晴君はフッと鼻で笑って、上から目線で命令してくる。
私はそれにギュッと眉を顰めると、チャコが私を見て、任せろ、と頷いた。
「待ってて唯ちゃん。鋼ちゃんと勇ちゃんも同じ目に合わすからね。」
「……うん。二人を仕留めて、チャコ。」
「……名波。お前はこっちのチームだろ。」
恨みの籠った視線を鋼介君と勇晴君に向けると、鋼介君が呆れたようにこちらを見た。
それに小さく首を振る。
きっと私のハートが回復することはない。
ならば早くこのゲームを終わらせて、次のゲームを始める方が私のためである。
「次は私が悪役やる。それで勇晴君を倒す。」
「いや、名波へたくそだからな。多分誰もリタイアせずに終わるだけだぞ。」
「できる。がんばる。」
私が拳を固めて、決意を語るとチャコがかっこいいよ! とはやし立てる。
みんなでやいやい言いながら過ごす夏休みはとても楽しかった。




