最強の陰陽師2
チャコがいない。
チャコがどこにもいない。
夏休みが明けた教室は机が一つ減っていた。
そして、私の前に座っていたはずの長い黒髪の女の子はいなくなっていたのだ。
担任が夏休み明けのHRで告げたのは、チャコが家の都合で学校を辞めた、という事だった。
親のいないチャコが家の都合?
ありえない。
私はチャコを探して奔走した。
担任に詳しく話を聞こうとしたし、親しくもない友孝先輩へも直接聞きに行った。
けれど、担任は個人の事だから、と教えてくれることはなかった。そして、友孝先輩は何を言ってるかわからない、と困ったように笑うだけだった。
チャコが学校をやめてしまうなんて初めてのことで、どうしていいかわからない。
チャコの家やチャコと行ったことがある店に何度も行ったが、長い黒髪の女の子を見つけることはできなかった。
「どうしよう……チャコがいない。」
放課後、いつものオカルト研究部の部室で勇晴君とイスに座って話し合う。
今は主に、チャコの行方を追っていた。
「わりぃな、名波。俺も賀茂家を調べてはみたが……なんせ、賀茂家は守りが固いからな、よくわからない。」
「うん……そっか。」
「長い黒髪の少女……見張らせているが、今のところそれらしい姿を見た者はいない。」
チャコは忽然と姿を消してしまった。
せっかく救う方法も見つけ、力もつけたのに、これではどうしようもない。
手詰まりを感じて、はぁと重い溜息が出てしまう。
勇晴君はそんな私を見て、少し考えながら言葉を続けた。
「俺が直接、賀茂に聞いてもいいんだが……名波が聞いても答えなかったなら、俺が聞いても確実に答えないだろうな。」
「……仲悪いの? 」
「あー、仲が悪いというか、仲良くしようがないというか……。」
勇晴君が言葉を濁す。
私はそっか、と頷いた。
友孝先輩は勇晴君にコンプレックスを持ってる。
二人が仲良くしている姿はやはり想像できなかった。
「賀茂先輩が勇晴君を避けてるの? 」
「あー、いや、それはないな。普通に接してくる。……ただ、俺が賀茂を大っ嫌いだからな。」
勇晴君がその目に存分に苛立ちをこめる。
私はその言葉に目を丸くした。
友孝先輩は勇晴君と比べられていたから、勇晴君と仲良くするなんて考えはないと思うが、まさか勇晴君が友孝先輩を嫌っているとは。
「勇晴君が人を嫌うなんてびっくりした……。」
勇晴君は自分に自信を持っているし、確かな実力もある。
上に立つ者の余裕とでも言うのか、他人の事は歯牙にもかけないような言動を良くするのに……。
勇晴君の目には『賀茂は敵だ! 』とありありと浮かんでいた。
「賀茂はな……モテるんだよ。」
「え? 」
突然の言葉に目が白黒する。
勇晴君は驚く私をチラッとだけ見ると、苦虫をかみつぶしたような顔で話を続けた。
「……四歳の時な。一緒に修行をしてた、同い年のりかちゃんっていう子がいたんだ。」
「? うん。」
いきなり始まった昔話に首を傾げながらも、頷く。
勇晴君はどこか遠くを見て、何かを思い出しているようだ。
「少しドジな子でな。俺はなんでもできたから、なんだこの鈍くさいの、って思ってた。」
「……うん、ひどいね。」
「ああ。でもな、そいつがバレンタインデーにな、俺にチョコをくれたんだ。」
いい子だ。
きっと今の私のように勇晴君にビシバシしごかれ、しかも鈍くさいのって思われてるのに、わざわざチョコをあげるなんて。
「母さん以外からもらうのは初めてで、ドキドキした。コイツ、鈍くさいのに俺の事好きなんだなって思うと、なんかかわいく思えてきてな。」
「……小さい頃から上から目線なんだね。」
勇晴君の上に立つ者の余裕は四歳にはもうあったらしい。
りかちゃんは同い年のはずなのに、発言が偉そうだ。
私がじとりと睨むと、勇晴君ははぁと小さく溜息をついた。
「俺はりかちゃんを大事にしようって決めて、りかちゃんを探したんだ。思いに応えようって。……その時は陰陽師の会合かなんかで、たくさんの人が集まってたんだ。人ごみの中、ようやく、見つけたりかちゃんは賀茂にチョコを渡してた。――小包みサイズのヤツをな。」
その時の事を思い出したのか、ギュッと眉を顰める。
なんとなく先がわかってしまって、私も一緒に眉を顰めた。
憐れな、小さな勇晴君がそこにいるようだ。
「俺は掌サイズ。賀茂は小包みサイズ。――これが義理と本命の差。」
単純な、初恋と呼べるかもわからないようなドキドキだったとは思うが、舞い上がっていた小さな勇晴君にはそれは酷な光景だっただろう。
勇晴君は口の端を上げ、自嘲する。
「りかちゃんは見たことないほど顔を赤くして、賀茂と必死に話してた。俺といる時はそんな事はなかったからな、すぐにわかったよ。賀茂の事が好きなんだなって。……俺の初恋は自覚したその次の瞬間に散った。――賀茂のせいでな。」
「……それは、逆恨み……。」
ギッと瞳に苛立ちを宿した勇晴君にそっと呟いた。
しかし勇晴君は私の言葉など聞こえない、というように先を続ける。
「そこからは毎年毎年それの繰り返しだ。ゆうこちゃん、れいちゃん、ゆきちゃん、エリーゼ。賀茂が本命。俺が義理だ。」
「……毎年? 」
「ああ。他にもいっぱいいるな。しかも賀茂の奴、中学に上がったら付き合い始めたからな。とっかえひっかえ。あー、いらつく。」
「え? 賀茂先輩ってそんなだったの? 」
勇晴君の言葉は意外な物でびっくりする。
今の友孝先輩には女の影はない。
それは何度繰り返してもそうだから、男性に言うのはあれだけど、身持ちの堅い人なのかと思っていた。
「ああ。高校に上がってからはそうでもないみたいだけどな。いらつくだろう? 女遊びは中学で終わりとか、どんだけモテてんだよ。ふざけんな。」
勇晴君の目がどんどん鋭くなってくる。
「一個上で先輩補正もかかってるしな。俺がアイツより年上だったら良かったのに。りかちゃんもゆうこちゃんも、『友君に比べて勇君は子供っぽいよね。』だと? あー、くそ! 」
勇晴君はその時の事を思い出したのか、頭をグシャグシャとかき回した。
「俺のそばで片っ端から人気をかっさらいやがって――イケメン消えろ。リア充爆発しろ。」
けっと吐き捨てるように不思議な単語を話す。
私はその単語がわからなくて、きょとんと首を傾げた。
「りあじゅう? 」
「ああ。生徒会長やって、式神にかわいい女の子つけて、後輩にキャーキャー言われて……。充実してるだろ? そういうヤツは爆発しちまえって意味だ。」
「……賀茂先輩に言ってるの? 」
まさか、本人に言ってるのだろうか?
おそるおそる勇晴君を見ると、勇晴君はフッと鼻で笑う。
「言ってる。会う度にな。」
「……勇晴君。」
「だから、俺が聞いても答えないと思う。……わりぃ。」
私がじとりと勇晴君を見ると、スッと目線を外した。
私はそれを見て、小さくはぁと溜息をついた。
「うん、わかった。ありがとう。」
勇晴君と友孝先輩の間にも色々とあるのだ。
そもそも私がチャコを探して欲しいと勇晴君に頼んでいるだけなのだから、勇晴君が友孝先輩と仲が悪い事は仕方がない事だ。
「とにかく。友永は見つからないけど、きっと何か方法があるはずだ。諦めずに考えるぞ。」
「うん。」
勇晴君は諦めない。
そうだ。私だって諦めない。
「ねえ、勇晴君だってイケメンだよね? 」
ふと、思っていることを零す。
勇晴君は切れ長の瞳がかっこいいし、すっと通った鼻もにやりと笑う口もかっこいい。
眼鏡のせいか、その表情のせいか、少し冷たいような印象を受けるが、イケメンに入ると思うのだけど……。
すると勇晴君はそんな私の疑問に、わかってる、と頷いた。
「ああ……そうだな。顔の作りは悪くないな。でも、人に好かれる性格をしていない。女は顔も良くて、優しくて、王子様みたいなヤツが好きだからな。」
友孝先輩を思い出したのかチッと舌打ちをする。
「賀茂は生徒会長。皆に好かれているだろう? アイツは人の心を掴むのがうまい。俺とは違う。」
そして、まっすぐと前を向いた。
「俺は強いからな。妖は俺と目を合わせないし、陰陽師もどこか別の存在として扱ってる。まあ、強いからな。仕方ない。」
そうか。
勇晴君は何も女の子にモテるモテないの話をしてるだけじゃないんだ。
他人からあなたは天才で私とは違うと線を引かれる。
それを受け入れながらも、少し寂しさを感じているのかもしれない。
「私は勇晴君と一緒だよ。」
「……ああ。」
「チートなんでしょ? 」
「ああ、そうだな。」
ふふっと笑うと勇晴君もははっと笑った。
「後ね、チャコはね、コミュニケーション能力が高いからね、きっと勇晴君と仲良くなれると思うよ。」
「あー、どうかな。」
「鋼介君も妖だけど陰陽師とかそういうの気にせず友達になってくれるよ。」
「あー。」
勇晴君は難しそうに顔を顰める。
そんな顔しなくてもいいのに。
きっと友達になれるよ。
「チャコを助けたらさ、みんなでいっぱい楽しい事をしようね。」
「……そうだな。」
勇晴君は私の言葉に少しだけ笑う。
小さな笑みだったけど、それは最強の陰陽師とは違う、優しい笑みだった。
「よし、友永を探しながら、新しい体についても考える。いいな? 」
「うん! 」
窓の外は陽が落ち、空が紫に染まる。
私と勇晴君は 放課後の部室で新たな可能性を探して、話し続けた。
そうしてあっという間に時は過ぎた。
結局、チャコを見つける事はできず、新しい体も未だに作れていない。
けれど、もう時間は残っていなかった。
今日はバレンタインデー。
そう。この日なら。
チャコに会えるかもしれない。
「名波、これが家宝の水晶だ。」
勇晴君はそう言って、制服のポケットから握り拳大の透明な石を取り出す。
「新しい体は間に合わなかったが、意思をこれに入れる事ができるはずだ。」
「うん。」
「友永の体を消して、意思だけをこの石に取り出す。体は後日、低級の妖で賄えばなんとかなるはずだ。」
「……うん。」
窓の外を見れば銀色の満月が輝いている。
オカルト研究部の部室で、私はゆっくりと頷いた。
これが勇晴君と私で探した答え。
完璧ではないけれど、チャコを救うことができるはず。
「勇晴君。私が勇晴君といるのを嫌って、九尾先生が出てくることはないのかな? 」
「ああ、それは大丈夫だ。俺達は妖といい関係を築けてるからな。九尾兄にも話は通してある。」
「そっか……。」
「俺が名波といるのを嫌がるのは……賀茂だろうな。」
「うん。」
陰陽師派の中でも安倍陣営と賀茂陣営があるらしい。
安倍陣営は穏健派。賀茂陣営は強硬派なのだ。
同じ陰陽師でも目指している物が違うため、安倍君と対立するのなら友孝先輩になるのだろう。
「もし友永が現れなかったら、もう一度戻ればいい。」
「……。」
「そして、俺の所に来い。お前が話してくれれば、俺は必ず信じる。」
「……うん。」
「修業は初めからになっちまうけどな。まあ、仕方ない。」
「うん。」
「何度でも。できるまでやればいいんだ。」
「うん。」
勇晴君が自信満々にこちらを見る。
強い。
本当に強い。
「……じゃあ、本当にいいんだね。 」
「いいか、名波。こういうのは役得って言うんだよ。」
勇晴君が眼鏡の奥の瞳をキラッと輝かせる。
私はその表情と言葉がおかしくてふふっと笑った。
「ありがと……。」
「……気にすんな。」
勇晴君の顔にそっと近づく。
そして触れるだけのキスをした。
その途端――窓の外に膨大な妖気が出現する。
「……っ、これは? 」
「やべーな……とにかく、外へ出るぞ。」
チャコの妖気はこんなにも強かっただろうか。
これまで自分の力をうまく使えていなかったため、チャコがどれぐらいの妖気を持っていたかはわからない。
だけど、これは異様だ。
騒ぐ胸を抑え、私と勇晴君は四階の窓からグラウンドへと飛び降りた。
「チャコッ。」
術を唱え、衝撃もなく着地する。
グラウンドの端には茶色の大きな狼が見えた。
「名波っ……あれは……。」
「うん、チャコだよ。」
「でも、アイツ、九尾兄ぐらい妖気があるぞ。」
「……うん。」
茶色の狼は金色の目を見開く、口からは涎をだらだらと垂らしている。
首には黒い鎖がグッと締まり、苦しそうにヴーヴーと声を出していた。
「おい、賀茂! お前やりすぎだろ! 」
「ちょっとね。まあ、君に勝つためには仕方ない。」
「っ、バカが。」
勇晴君が茶色の狼の隣に立つ人物に声をかける。
その人物は、茶色の狼の鎖を操っているようで、手は印を結んだままだ。
「勇晴君っ、チャコは……。」
「ああ、多分、極限まで妖を食わせたられたんだろうな。妖気は増えてるが……自我が無い。」
「そんな……。」
唇をかみしめて、茶色の狼を見た。
その金色の目に光はない。
「黒い鎖が見えるか? あれは式神を使役する術だ。自我はないが式神だから暴走せず、あの鎖で縛りつけられているような状態だ。」
「苦しいの? 」
「ああ、あれは苦しいはずだ……。どうする? 体を消しても、意思が残っているかどうか……。」
勇晴君が忌々し気に友孝先輩を見る。
今、あの茶色の狼にはチャコの意思はないのだろう。
大丈夫。
こんな姿を見たのは初めてじゃない。
「一度目の時も暴走してた。でも、最後にチャコの意思だけ残すことができた。」
「そうか……じゃあ、やってみるか。」
「うん。」
できる。
私たちならできる。
勇晴君が茶色の狼を捕らえる呪を唱えながら、走る。
私もその隣で茶色の狼に向かって走った。
戦いは苛烈だった。
勇晴君は茶色の狼の力を削ぎながら、体を拘束するように動いた。
私は少しずつ、チャコの意思を探しながら、体の瘴気を分解する。
友孝先輩は茶色の狼に命令しながら、暴走しないように操っていたようだった。
しかし、それも終わりがくる。
茶色の狼の力は膨大だったが、最後は勇晴君に捕らえられ、私の力で体の瘴気を散らした。
茶色の狼の体は溶け、小さな狼の体だけが残る。
友孝先輩は力を使いきったらしく、崩れるようにグラウンドへ座り込んでいた。
私は小さな狼の体にかけよると、そっとその身を抱き起こす。
「チャコッ、チャコッ。」
必死に声をかけると金色の目がこちらを見た。
その目は少し驚いたように丸くなっている。
「唯ちゃん……? 」
「うん、そうだよ。ごめんね。つらかったよね。」
友孝先輩が何より嫌だったのは、最強の陰陽師の勇晴君が力を手に入れる事だった。
そんな事わかってたはずなのに、チャコを放って、自分が強くなることだけを求めてしまった。
自我がなくなるほど妖を食って、ずっと鎖で縛られていたチャコはどれほど苦しかっただろうか。
苦しめてごめんね、チャコ。
でも、チャコを救う方法も見つけたんだよ。
後ろに立っている勇晴君を見る。
勇晴君は、うんと頷き、水晶を出した。
「チャコ、あのね、今ならチャコの意思だけをこの水晶に移すことができるんだ。」
小さな狼の金色の目が揺れる。
「そうしたら、チャコを新しい体にできる。式神の契約は終わるんだよ。ずっと一緒に生きていこう。」
チャコ。
私の手を取って。
私と一緒に生きて。
「もう……いいよ、唯ちゃん。」
私は必死に金色の目を見たけど――その目はゆっくりと閉じた。
「もう、疲れた。」
いやだ。
いやだよ、チャコ。
消えないで。
諦めないで。
「チャコッ、あのね、ちょっとだけだから、すこし水晶に入って……そしたら、自由になって……それで……っ。」
必死に言葉を続けるんだけど、小さな狼はゆっくりと首を振る。
「唯ちゃん……楽しそうだった……私は何もできなかったけど、勇晴君と一緒で……。」
「チャコ、ちょっとなの。ねぇ、私を見てっ。」
「ずっと、奪って……奪って……奪って。最後には自我もなくなって……。」
いやだ。
チャコ、目を開けて。
こっちを見て。
「……疲れたんだ、唯ちゃん。」
小さな狼の体が溶けていく。
空気に溶けてなくなっていく。
「チャコっ……。」
「もう、いいから……安倍くん、を選んだなら、それでいいから……。」
――消えたいんだ。
チャコの最後の声は音になっていなかった。
それでも、私にはチャコが何を言いたいかわかってしまった。
そう。本当はずっとわかってた。
チャコはこれでいいんだ。
私の腕にチャコの体はない。
行き場をなくした腕はへたりと力なく垂れた。
「勇晴君……チャコが消えるのは運命かもしれないって言ったよね。」
掠れた声が空気に溶ける。
「私はそんなの嫌だった。チャコが消える運命なんて納得できない。――でも、チャコはそれを受け入れてるんだ。」
最後はいつでも満足そうに笑ったチャコ。
もういいって私と勇晴君の手を振り払ったチャコ。
チャコは消える事がわかってて、それでもいいって思ってる。
何度繰り返しても。
何度やり直しても。
チャコはこの世界に残ろうと思ってない。
ああ。
私が何度やり直したって無駄だったんだ。
本人が受け入れている運命を。
どうやって私が変える事ができるだろう。
何がチャコを救う、だ。
何がチャコを解放したい、だ。
チャコと友孝先輩の関係がわかれば何か変わるかと思った。
この世で一番強い妖なら助けてくれると思った。
私自身が強くなれば、きっとすべてがうまくいくと思った。
その結果はこれ。
チャコに今までで一番の苦しみ与え、消えたいって言わせてしまった。
「私には何もできない……。」
低くかすれた声がずしりと私の心にのしかかる。
そうだよね。
本当は最初からわかってたよ。
できるんだって言い聞かせて、都合の悪い事は見ないフリをしていただけ。
チャコに式神の事を言って、悲しい顔をして欲しくない。
消える運命かもしれないって言って、混乱させたくない。
何度も時を遡ってる事を言って、重荷を負わせたくない。
そう自分に言い聞かせて、理由をつけて、チャコと向き合うことはしなかった。
だって、向き合えばわかってしまう。
この世界に残ろうとしていない事を。
チャコに知られず、救う方法を見つけたかった。
救う方法さえわかれば、それを掴んでくれるんじゃないか、と期待していたんだ。
でも、チャコはそれを掴まなかった。
私の手を取ってくれなかった。
それなら、もう私ができることなんてない。
どこも動かしたくなくて、ただぼんやりと座り込んだ。
「できる。信じろ。お前はできる。」
勇晴君が眼鏡の向こうの強い瞳を私に向けた。
「いいか、俺が手伝ってやる。戻れ。またやり直せ。」
最強の陰陽師がこちらをじっと見る。
逃げる事をしない強い目が。
「でも、……戻って何をするの? なにもしたくないよ。」
もういやだ。
チャコが消えるのを見たくない。
「……がんばりたくない。」
私、勇晴君とは全然違ってた。
チートなんかじゃない。
そんなにずっとがんばれない。
がんばれないよ。
「それでもいい。」
私の前に跪き、私の両手をグッと握る。
「ここでは終われないだろう? 行って来い。」
体に勇晴君の温かい力が入ったのが分かった。
それが私の力を引き出していく。
私はギュッと唇を噛んだ。
力が私を連れていく。
あの朝へ。
戻りたくはないのに。
『最強の陰陽師』安倍勇晴 トゥルーエンド達成
『共に生きる幸せ』 ルート開放します
 




