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作者: 鮎沢琴美

真夜中、やけに騒がしいのだ。

悠斗はうっすら目を開けた。

びっくりして目を見開く。

ベッドの周りが工事現場のようになっていた。

重機の騒音、赤い警告灯、ヘルメットを被った作業員が所狭しといる。

遠近感がおかしい。

映像のように投影されているように見える、でも違う。


不思議な夢だ。悠斗は早めに気づいた、前にもあった。

どこか非現実的でこちらが冷静な場合、嗚呼夢なんだなと感づくことがある。そのときはわざと覚めないようにしている。なんとなくそこの空気に「ノる」から今回もそうする。


「大規模な工事ですね」

 そうやって話しかける。あたかも通りすがりのような感じでナチュラルに一人の作業員に近づく。

「何を他人面でおっしゃっているんですか」

 作業員はこちらが冗談を言っているような口調だ。

「悠斗様のご依頼でしょう。心配なさらないで、きっと立派に仕上げますから」

 悠斗は意味がわからなかったが、またその空気に溶けこんだ。

「ああ、そうだったね、よろしく頼むよ」

「はい、今まで頑張ってきたのですから」


 どうせ夢なのだからもう少し不思議な世界を楽しんでいこう、そう悠斗は思った。

 何か積み上げている。 

積み上げて壁のようなものを作ろうとしている。感覚的に自分の周りが塞がれているような気持ちに悠斗はなった。しかしそれは窮屈とかではなく心地よい気分であった。

一体何ができるのだろうか、それを聞き出したかった。


「ご苦労様」

 また別の作業員に声をかける。周りの作業員より威厳がある。現場監督といったところだろうか。

「ああ、悠斗様。作業は順調に進んでおります」

 厳しい表情から柔和な表情に変わった。悠斗はその作業員が手に持つ紙に興味を示した。

「それ、ちょっと見せてもらって良いかな」

「ええ、構いませんが」

 その紙は設計図のようだった。建築の知識が無い悠斗はそれを見てもよくわからなかったのだが、書いてある言葉は読めた。


『悠斗城建設案』


 城を建てているんだ、ようやく何を造っているかがわかった。なぜ城なんだろう、時代錯誤も甚だしい夢だ。しかしまあ、夢らしいといえばそうだ。


「これさえできればもう安心ですよ、外から敵は入れません。悠斗様はこれまで苦労されてきた、やっと安らぎのときを得るんです」

「安らぎのとき、か」

「そうですよ、もう外からの刺激に傷つくこともなく、振り回されることもない、素晴らしい世界が始まるのです」


 その間にも壁は高くなっていく。

足が疲れて座るとそこはベッドだった。

周りを虚構に囲まれて唯一の現実がこのベッドだった。

でも夢ならばこのベッドも現実ではない。

頭がおかしくなりそうなのだか、何か今まで味わったことのない安心感が体中を包んでいた。

この不可思議な状況下にて何故にこれほど心地よいのだろうか。



目が覚めた、まさしく夢から醒めた感覚だ。

いつもの起床時刻よりかいくらか早い。

カーテンを開けると五月蠅いくらいに爽やかに陽が射しこんでくる。

「ひとりで大丈夫だ」

悠斗はそう確信した。 


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