第5話
俺達はアヘイズに向かう街道にいた。この街道は滅多に通る者がいないために、かなり危険になっている。
突然アークが立ち止まった。耳がピクピクと動いている。
「しっ……何かの気配がするよ。」
慎重にアークが指差す方向を見れば中級魔物、アーマータイガーが二体移動していた。どうやらまだこちらには気づいていないようだ。
タヒュが小声で言う。
「アーマータイガーは非常に硬い毛を持つ虎の魔物です。体を覆うのは単なる毛皮ですが鎧並みの防御力を誇るため、アーマーの名が付いたと言われています。ちなみに毛皮は軽戦士の鎧として使われますから、高く換金できますよ。」
金に困っているところに丁度いい獲物が現れたようだ。俺は軽く歓喜しつつ皆に声をかけた。
「行くぞ、ワテル、シュオト、コマンド、ブート!」
「ガオッ!」
俺達の存在に気づいたアーマータイガー。だがもう遅い。アーマータイガーAにウォーターショットが命中した。
そしてミリアとアークがアーマータイガーに接近。アーマータイガーも負けじと接近してくる。
「ワテル、シュオト、コマンド、ブート!」
二発目のウォーターショットがアーマータイガーAにまた命中した。そして。
「はあっ!」
ミリアの剣の一閃がアーマータイガーAを切り裂く。そしてアークがアーマータイガーAに近づいていく。
「掌破!」
「出ました!アークさんの掌破!見た目は単なる張り手ですが、アレで叩かれると体内に衝撃波が発生してズタズタにされるんです!」
「ほう……」
アーマータイガーAは死んだ。残るアーマータイガーBは仲間を殺された恨みかアークに噛みつこうとする。がひらりと躱される。
その後、残ったアーマータイガーBは苦労することなく片付けられた。
「アーマータイガーに無傷で勝てるなんて、このパーティーは優秀だね。」
「ああ。では、アーマータイガーを解体しよう。」
「討伐証明部位は右の牙ですよ。後肉はまずくて食べられたものではないので、荷物減らしも兼ねて放置しましょう。」
そして俺達がアーマータイガーを解体し終わると、ふと胸に弱い胸騒ぎがして来た。
「何か、感じないか?」
「そうね……」
「ボクも、感じますよ。」
「何だい?君たちどうかしたのかい?」
胸騒ぎは次第に収まり、俺は街道を離れて森に向かうべきだと思った。
「森に……入らないか?」
「そうね。」
「何か、不気味ですが入りましょう。」
「なんで森なんかに……まぁ、3人の意見が一致したんなら、僕は従うまでさ。」
俺達は森に入っていった。薄気味悪く暗い森の中。俺は不快になりつつ進んで行く。すると人影が目に入る。
「エイラ!」
長く伸ばしたプラチナブロンドの髪に、エルフ族の証の尖った耳。そして傍らに抱える大弓。人影の正体は、アークの元パーティーメンバーのエイラだった。
「あら、アークじゃない。そっちのは……もしかして、新しくパーティーを組んだの!?」
「君はパーティーが解散した後すぐにソロとして活動を始めたよね。言いたいこともわかるさ。僕らの居場所はあそこだけだった。」
「分かっているなら、なぜ!」
「過去は過去、今は今。僕らは今を見て生きなきゃならない。過去だけ見ていても成長は出来ないよ。それにこのパーティーを見てごらん。魔人ラミアの居場所がある。僕の居場所だってある。」
「アーク……」
「それにね。君がいなくなって一人ぼっちになって打ちひしがれていた僕を立ち直らせてくれた恩人が、このタヒュなんだ。このパーティーは未だ戦力不足だ。君なら性格的にも実力的にも、加入には申し分ないと思うよ。ザイン、どうだい?」
俺はこのエルフが何故か気に入っていた。パーティーに入れるのは吝かではない。
「お前がいいんなら、パーティーに入れてやらんこともないぞ。」
「何よその態度! まぁ……入ってあげても、いいんだけどね。ただ私の本当の居場所はあのパーティーだけよ。」
「決まりだな。俺はザイン。」
「ミリアよ。」
「先程も紹介に預かりましたが、タヒュです。よろしくお願いします、エイラさん。」
「ええ、よろしく。と……仲良く談笑している場合じゃないようね。」
「ああ、気づくのが遅れたな。」
「エイラさん、アークさん、どうしたんです?」
「メタルジャイアントゴリラが来るわ。総員、戦闘準備して!」
「メタルジャイアントゴリラ! 確か魔物図鑑によれば、体躯2m50cmを超える巨大なゴリラで、金属で出来た鱗状の皮膚を持つ、上級魔物に近い中級魔物、ですよね?」
「それで合ってるわ。」
「厄介だな……とりあえず、遠距離から攻めるぞ。エイラ、手伝え。」
「了解。」
「ザインさん! あいつの弱点は、炎です!」
「わかった、フィレ、バルル、コマンド、ブート!」
俺の放ったファイアボールはメタルジャイアントゴリラに躱される。見た目の割に動きは機敏なようだ。ここでエイラの弓矢がメタルジャイアントゴリラに飛んでいく。ファイアボールを避けることに気を取られていたメタルジャイアントゴリラの体に矢が突き刺さる。
ミリアとアークがメタルジャイアントゴリラに接近していく。するとメタルジャイアントゴリラはミリアを与し易いと見たのかミリアに接近、腕を振るう。ミリアは回避に失敗し、吹き飛ばされる。地面を数回バウンドし、岩が体に突き刺さった。
「きゃあぁっ!」
「ミリア!」
気がついたら俺は叫んでいた。
「くそっ!フィレ、バルル、コマンド、ブート!」
「ウホッ!!!」
今度こそ俺のファイアボールはメタルジャイアントゴリラに命中した。悶え苦しむメタルジャイアントゴリラ。更に追撃の弓矢が突き刺さる。そこに体勢を整えたミリアの剣閃が向かうが、相手も意地なのかギリギリで躱す。だがそこで体勢を崩し、崩した体勢にアークの掌破が命中。体内を破壊され苦しむメタルジャイアントゴリラ。その状況で繰り出したパンチはミリアにやすやすと躱される。
「フィレ、バルル、コマンド、ブート!」
ファイアボールが命中し息も絶え絶えになったメタルジャイアントゴリラに弓矢の一撃が命中。そしてミリアの一閃が走る。血が迸り、皮膚に大きな亀裂が入る。その傷口にアークの掌破。メタルジャイアントゴリラは内蔵を破壊され、息絶えた。
「激戦だったな。」
「そうだね、かなり危ない相手だった。」
「ミリアちゃん、その傷見せてみなさい。」
「いいけど……?」
「癒やしの神アイフィスよ、リトルヒール!」
ミリアの体にあった痛々しい傷や、禿げた鱗がみるみるうちに治っていく。
「神聖魔法使い……か。」
神聖魔法とは、信仰する神にマナを捧げることにより力を借りて発動する魔法のことだ。強力なことが多いが一部の神は供物などを要求することもある。
癒やしの神アイフィスは供物を要求せず、信者は他者を癒やすことを求められている。
「ありがとう、エイラ。」
「何、気にすることないわよ。」
「予想外の自体に手間取った。アヘイズに行くぞ。」
「はい、ザインさん。あ、メタルジャイアントゴリラの死体はどうします?」
「討伐証明部位だけ取って放置しよう。コイツの装甲は売れそうだが、この重さだ。荷物持ちのお前が運んで行くのは無理だろう?」
「そうですね、放置しましょう。」
新たな仲間を加え俺達は進んでいく。アヘイズには何が待っているのだろうか。不安と期待を胸に、俺達は進んでいく。