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第1話

 茶髪の15、6の少年が、同じくらいの歳格好の半人半蛇の金髪の女魔人と睨み合っている。

 なぜこうなったのだろうか……

 茶髪の少年である俺は思考する。が答えは出ない。

 目の前には強力な魔人ラミア。対する俺は、非力な元素魔法使い。


 元素魔法とは起こしたい事象をイメージし、起動語(コマンド・ワード)により発生させる魔法だ。使い手は少ないが、その分強い。


 ラミアが口を開く。


「あなた、私と勝負しなさい。負けたほうが相手の物になる。いいわね?」


 ラミアの物になるという事が意味するのは、数日間の交尾の上で血を吸われた挙句食い殺されるという事だ。それだけは避けたい。

 が、正直に言って全く勝ち目がない。こちらは丸腰で地味な普段着の人間、相手はレザーアーマーを着て、ロングソードを持った恐ろしい魔人。


 そもそも魔人とは何なのか? 元々魔人は人類だった。だが500年前世界を襲った《大災害》によって地底より噴出したマナにより動物の情報が混じり、変質してしまったのだ。魔人は基本的に残虐で、人類を甚振ることを好む。そして魔人の中でも残酷だと言われるのが男系魔人と女系魔人だ。男系魔人は攫ってきた人類の女が死ぬまで無理やり子を生ませ続け、女系魔人は人類の男と無理やり数日間交尾しその後食い殺す。そしてこれらの魔人からは同じ性別の子しか生まれない。もちろんラミアは女系魔人だ。


 元素魔法の基礎中の基礎であるファイアボールを強くイメージしながら俺は過去を振り返る。なぜこうなったのだろうか……




 始まりは、唐突だった。

 昨日、家に帰ると赤い髪に三白眼の見知らぬ男が血の付いた剣を持ち、父親の前に立っていた。両親の内、母親は既に事切れていた。


「逃げろ! ザイン! この男、ケオスは俺が倒す!」


 剣を持ち戦う父。背中からその声を受けながら、俺は応援を頼むべく叔父の家に向かった。俺は怖かった。大好きだった母が、死んだという事実が受け入れられなかった。だから誰でも良い、誰かに嘘だと言って欲しかった。

 そういった思いを巡らせながら叔父の家に着いた。良い噂のない叔父だが、かつて少しは名の知れた冒険者だったと母から聞かされている。だがその母も死んだ。せめて父には生きて欲しい。


 冒険者とは都市の周囲の魔物を狩ることや、都市同士の荷物の運搬の護衛、それと旧文明の遺産の回収を主な仕事とする武装集団だ。一般人には使いこなせない強力な魔武術や魔法を使いこなすため、恐れられる存在でもある。


「叔父さん! 父が……母が……」

「あぁ? ザインのガキか? どうした?」

「母は……殺された、父は、今家で戦っている。叔父さん……父を……どうか、助けて下さい。」

「俺に応援を頼むだぁ?いい度胸してんな、お前。まぁ行ってくるから待ってろよ。」


 そう言って叔父は俺の家に向かっていった。思えばこれが最大の間違いだったのかもしれない。いや、最大の間違いはあの男、ケオスの存在だろう。

 数十分後、叔父は戻ってきて言った。

「お前の親父さんは既に死んじまってたよ……で、冒険者に仕事を頼んだんだ。報酬は用意しているんだろうな?」

「そんな……今、家に金はないんだ、少し待ってくれないか?」

「ないなら家を売れよ。地下都市の家ならちったぁ金になるだろうさ。」


 《大災害》……かつての魔法文明や幾多の大陸を地中へと引きずり込んだあの災害以後生き残った人類は、かつての地下都市に潜伏した。滅ぶかと思われた人類だが、英雄達の活躍によって支配域を広げることに成功。地下都市の上に都市を築くことが出来た。しかしかつての魔法文明の利器が残る地下都市には今も数多くの人類が住み、地上都市の住人の憧れとなっている。


「家がなければ、どうやって生活をするんだ!?」

「冒険者にでもなるんだな。幸運なことに、お前には元素魔法の才能があるじゃあねぇか。引く手数多だせ、お前。」


 元素魔法は才能が物を言う。俺はかなりの元素魔法の才能があり、将来を有望視されていた。


「くっ……」


 結局俺は、絶望の中で血みどろの家を売り、手に入れた金を全て叔父に払い地上の街に行き、一文無しで冒険者ギルドに向かった。父も母も家も失い、俺はもう、誰も信じられなかった……


 ギルドの中は凄まじい喧騒で、今の俺の心を嘲笑っているかのようだった。

 とりあえず俺はカウンターの受付嬢に話しかける。


「冒険者になりたいのだが、何をすればいい? あいにく金は全くないが、元素魔法の心得はある。」

「一文無しで冒険者ねぇ。元素魔法が使えるのなら、パーティー募集でもしてみたら?」


 そう言われた俺は幾つかの魔法使いのいなさそうなパーティーに声を掛けた。しかし答えはNoか俺を人間ではなく元素魔法使いとして見たYesのどちらかだった。

 奴隷として使い潰されるのが嫌だった俺は、適当な依頼として薬草採集の依頼を受け比較的安全だとされる付近の森に入っていった。


 正直パーティーなど組めるわけがない。誰かを信じても裏切られるだけだ。万が一裏切られなかったとしても、相手は冒険者。もし死なれたら? 俺はまた大切な相手を失うのか? ……俺は、パーティーは組まない。一人で、ソロとして活動する。

 そう決めた矢先、目の前に何かが落ちてきた。そう、それは強力な魔人、今の俺では到底勝てない相手。半人半蛇の魔人、ラミアだった。

 そして、今に至る。




「フィレ、バルル、コマンド、ブート!」


 俺の持つ杖が、起動語(コマンド・ワード)によりマナと事象との間の触媒となり、目の前のラミアに向かって炎の玉を発射する。


「ふっ!」


 俺のファイアボールは難なく躱され、相手のロングソードが迫る。俺は紙一重でそれを躱し下級元素魔法、ウォーターショットの詠唱を行う。さっきのファイアボールはいわば囮だ。


「ワテル、シュオト、コマンド、ブート!」


 高速で発射された水の球が、ラミアのレザーアーマーに命中する。


「ぐうっ!」


 しかし迫るロングソード、普段着で、プロテクションも使っていない俺にとっては致命的な一撃だ。

 もはやこれまでか……俺は覚悟を決め、ロングソードへ目を向けた。だが。


「何の、真似だ……」


 ラミアの振るった剣は地面に突き刺さっていた。


「私には、人は、傷つけられない……」


 俺は戸惑っていた。この隙にウォーターショットを叩き込めば、ラミアは殺せないまでもダメージは与えられるはずだ。いや、逃げればいい。武器がないラミアなら、街まで逃げ切ることも不可能ではないはずだ。だが、俺は。


「魔人のくせに、変わってるな。」

「うるさいわね、殺すわよ?」

「悪かったな……で、何故人を傷つけられない癖に俺に襲いかかった?」

「里の掟で、人類の男を捕まえてこなければ追い出されるのよ。ダメね、私。追い出されてしまう。」

「そうか……それは、ご愁傷様。」


 どういう訳だ? 俺はコイツに惹かれているのか? 外見は可愛らしくとも、中身は凶暴な魔人だぞ? おかしい、普通なら逃げるはずだ。しかし現に俺は逃げずに会話している。心に何か違和感を覚えながら、俺達は会話を続けていく。


「あんた……一人でこんなところにいるってことは、その年で親のお使いかしら?悪い女に食べられちゃうわよ?」

「親は昨日死んだ。今は一文無しでソロの冒険者。薬草の採集に向かっているところだ。」

「あんた…………一文無しってことは、お腹減ってるでしょ? これでも食べる?」


 差し出された木の実を、俺が疑うことはなかった。不思議と疑えなかった。

 そして俺は木の実を食べる。何故か、とても美味しかった。


「決めた……あんた、ほっとけない。私あんたについていくよ。どうせ里にもいられないしね。」

「魔人は街に入れない。知っているだろ?」

「街の外で一緒に暮らせばいいじゃない。あんたも一人でお仕事するより私がいたほうがいいでしょう?」


 何を言っているんだこいつは? しかし、誰も信じられないはずなのに何故だか俺はこの提案を拒むことは出来なかった。拒んではならない気がしたのだ。


「それは、ラミアが味方にいれば、重宝するが。」

「決まりね。さぁ、薬草採集に行きましょう。それがお仕事、でしょう?」

「ああ……そういえば、名前を聞いていなかったな。俺の名はザイン。」

「ミリアよ。」


 奇妙な二人組は進んで行く。俺達に待ち受けるのは、一体何なのだろうか……

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