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3-1 補佐官の素顔

 ①


 ペン子との勉強を嫌がり、逃亡を図ったのばなだが、その前に二つに光る巨大な化け物が姿を現した。


「にゃああああ、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい、トイレ行くとか嘘ついてすいません。ただ勉強が嫌だっただけなんですっ。ちょっとボイコットしてみたかっただけなんや~」

「なんで最後だけ訛っとんねん」

「は・・・え、トードーしゃん?」

なんと暗がりの化け物はトウドウさんだと判明した。身長が無駄に大きくて、その上ローブにマントを羽織っているから余計に暗闇と同化したのだろう。光っていたのは予想だが、多分トウドウさんの目だ。

「自分、こんなとこで何しとるんや?」

「え・・?ちょっと探検しようかなーと。あ、いや本当はトイレを探してたんです!」

「ふーん」

マントで顔が見えなくてもよくわかる。トウドウさんは今、物凄く怒っている。その証拠にローブの隙間から見える手をバキバキと鳴らしていたのが見えた。

私は恐怖にかられ、必死に弁解しようと身振り手振りで説明をしたが、まったく効果はなかった。

「はー。お嬢ちゃんな立場わかっとんのか?客人やないんやで?生贄や生贄。体貸してもらうだけなんやから、嬢ちゃんが死んでも代えはいくらでもおんねん。せやから死にたなかったら下手に動くなや。ええな?次に妙なマネしよったら・・」

今度は見えるように私の前に手を出してバキバキと指を鳴らした。

目は見えないが、マジの目をしているであろう眼光はじっと私を見下ろしており、かなりの圧力を感じた。

するとトウドウさんは急に手を引っ込めて、ついて来いというように背を向けて歩き出した。

足はかなり震えていたが、それを必死に抑え込み静かに後ろを着いていった。

無言だ。私だって空気くらいは読む。だが、それは先ほどのトウドウさんが怖すぎて話掛けることができないだけだ。せめて顔が見えたら表情で心情を読み取ることができるのに、フードですっぽりと覆われているためそれも叶わない。


歩き出してからようやく元の部屋に戻ってこられた。だいたい5分くらいで着いたのだが、私の中では軽く1時間は歩いたような気がした。それぐらい重かった、空気が。

扉を開けると案の定ご立腹のペン子がおり、シュールだがペンギンに正座をさせられ説教を受けた。

説教の途中で姿を消したトウドウさんを見て、ようやく私の心は軽くなった。

「はあぁぁぁ」

『そんなに難しかったですか?一応魔界の子供向けの勉強なのですが』

「ちがうし。てか子ども用かよ。じゃなくてトウドウさんだよ」

ペン子は不思議そうに首、はないけどとりあえず首もどきを傾げた。今は嫌々机に向かって勉強をしていたのだが、早々に投げ出して先ほどあったことを話した。もちろん愚痴も込みで。

『なるほど、しかし怒られるようなことをしたのはあなたですよ。むしろ見つけて下さったトウドウ様に感謝しなくてはなりません』

「うー、わかってるけど。なんか、怖かったし・・下手したら殺されそうだったし」

『それはありえませんよ』

ペン子は迷わず断言した。

「どうして?本当に殺すみたいなこと言ってたし、雰囲気も怖かったよ?」

『魔王陛下の命令なしでのばな様を殺すことはありません。わたくしもそうですが、トウドウ様は陛下の最も忠実な部下なのです。その陛下の命もなく生贄であるあなたに危害を加えることは絶対にあり得ませんのでご安心下さい。後、雰囲気が怖いのはいつものことですのでお気になさらず』

そう言われてほんの少しだけ安心した。しかし、あの恐怖を味わった後に素直に了解と言えるほどに私の度胸は据わってない。とりあえずペン子には曖昧に返事をしてやり過ごした。


 ペン子との勉強を終えたところで時間を聞くと、あっという間に夕方になっていたらしい。外は相変わらず暗いので時間なんてわかったものじゃない。あ、昼食食べ忘れた。

ペン子はというと、魔王さまに呼ばれたとかで出て行ってしまった。私は何をしているのかというと、出て行く直前に部屋から出ないよう釘をさされてしまったため、ベッドに寝転がりぼんやりと天井を眺めていた。感傷に浸っているとかホームシックとかではなく、

「はー物凄く暇。出たいけど、さっきみたいなのがまたあったら怖いしな・・」

そう、怖くて動けないだけだった。私の中で№3に入るほどに恐怖だったらしい。ちなみに、№1の恐怖は母が鬼へと変貌する瞬間である。

「ヤンキーに絡まれるのとはわけが違ったな~。例えるならヤ〇ザに絡まれているみたいな怖さ?いや、絡まれたことないからわかんないけど・・。あーあ、あれで顔が可愛かったりしたら面白いのに、どんな顔してるんだろ。やっぱり美形?それとも不細工過ぎるから隠してるとか?」

色々な顔のトウドウさんを想像してみたものの、どれもしっくりこない。やはり実物を見せてもらった方が早い。しかし、「見せて」なんて口が裂けても言えない。今では軽口を叩けていたあの頃が懐かしい。ついさっきだけど。

うじうじ悩んでいても仕方ないので、とりあえずトイレに行くことにした。場所はペン子に教えてもらっているし、トイレぐらいなら出ても大丈夫だろう。むしろ、もらす方が人としてヤバいし。

ペン子に聞いた道を辿りながら窓の外の月を眺めた。暗がりで星も出ていない夜空の中、月だけがその存在を主張していた。

「魔界にも月はあるんだ」

ぼんやり眺めていると、窓の外にローブを着た長身の人影が見えた。あのローブは間違いなく、トウドウさんだ。

トウドウさんは若い女性と月を見上げていた。女性の方はトウドウさんにしな垂れかかっていたが、一方トウドウさんの方は女性の腰に手を回すでも、抱きしめるでもなくただ直立で佇んでいるだけだった。

「逢瀬・・?」

私の中の探究心がくすぐられ、先ほどの恐怖体験をすっかり忘れて窓の外を盗み見た。ふむふむ多分トウドウさんで合っている、はず。とはいえ、違っていたとしても問題はないし、むしろ違う方がいいような気がする。が、今のところはトウドウさん(仮)にしておこう。

でもあのトウドウさんに恋人がいたなんて。それか愛人とか?ドラマのような展開ににやける顔を引き締めた。

一度深呼吸をして、好奇心の赴くままに窓の外を見た私は、絶句してしまった。


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