2-3 魔界の王は意外と〇〇
③
さて、ものすごく今更だが、魔王さまのルックスを説明しよう。
え?なんでかって?それは、私のおじさん発言が原因で、無精ひげが生えたヘタレのおじさんだと思われたら可哀想だと思ったからです。
とりあえず言っておきます。ひげは生えておりません。全国のひげ大好きお嬢さんは残念。でも大丈夫、顔は整っていて美形の部類に入ると思われる。髪の色は薄い栗色寄りの金髪(魔王といえば黒だと思ったけど)を後ろでゆるく束ねている。瞳は赤、目はたれてて優しげな印象。そして、身長は170cmは超えていると思う。これは余談だけど、トウドウさんは魔王さまよりも遙かに高い身長をしていた。
そんな美形さんはただいま恥ずかしいことに、ペンギンになぐさめられてようやく涙が止まったようだ。
「ま、とりあえず幽霊を降臨させるかは置いておいて」
「え、それ置いておくの?」
魔王さまの驚きに頷いて答えた。だって嫌がっても結局家には帰してくれないわけだし、それならばトウドウさんの言うとおり面倒なので問題を先送りにしておくことにした。
それよりも今、私が気になっていることは他にあった。
「ここ魔界なんだよね。魔界って怖いイメージがあるんだけど、私死んじゃったりしないよね?」
そう、そこが問題だ。ここは魔界。魔界ということは魔物とか悪魔とかよくわからない生き物がうようよしているに違いない。
そんな不安を抱える私に、魔王さまはニコリと笑いかけた。
「ああ、そこかあ。大丈夫だよ~この城から出ない限りは。城から出た場合は命の保証はできないけどね」
人の好さそうな笑顔でとんでもないことを言ってきた。
「は!?あ、やっぱりここお城なんだ・・・ってそうじゃなくて。保障できないってどういうこと?やっぱり血を吸われたり八つ裂きにされたりしちゃうの?」
私の返答に吹き出した魔王さまは、指の先から小さな光を出すと、それを勢いよく壁に投げつけた。すると、その壁から鏡のような物体が出現し、映像が映し出された。
「実際に見せた方が早いよね~。今映し出している彼らが魔界の住人だよ」
「おーすごい・・。へー、えーー」
魔法のようなものはすごいと思う。しかし、少し拍子抜けだ。
「えーと私たちとあんまり変わらないね」
そう、映像に映った彼らの姿は人間と大差なかった。違う部分といえば羽が生えていたり、耳が尖がっていたり、肌の色がカラフルだったりするところだけだった。
私の想像ではグロテスクなモンスターが大量にいるのだと思っていたので、かなり拍子抜けだ。
「ははっそうだよね~。僕もそう思うけど、それを魔界の民に言うのはやめた方がいいよ。怒り狂うからね」
「なんで?」
魔王さま曰く、彼らは魔界人であることに誇りを持っているので、人間という下等生物と同じに扱われるのをすごく嫌がるらしい。後、あの姿は生活上便利なためとっている形態であって、本来の姿ではないものが大半らしい。
「ふーん、なんか失礼だなあ。でも他人事みたいに話すけど、魔王さまは誇りとかはもってないの?ヘタレだから?」
「ヘタレじゃないよ!僕にも一応誇りぐらいはあるよ。けど姿形が人間と似ていようと関係ないからね。僕は僕、君は君だよ。評価すべきは中身なのだから外見を気にしてもしょうがないしね」
そういって笑う魔王さまは、ものすごく癪だが少しだけかっこいいような気がした。あ、コーヒーこぼした。前言撤回だ。
『さ、陛下はあれでいて多忙な方ですので、勉強でしたらわたくしが見て差し上げます』
「あれでいてって褒め言葉じゃないからね」
ところ変わって、今は私が最初に目を覚ました部屋にいる。ここは滞在中自由に使っていいらしい。
そして魔王さまはというと、お客様が来たらしく申し訳なさそうに笑いながらクッキーを差し出して去って行った。もしかして私、餌付けされてる?
「ねーペン子、魔界っていつも暗いんだね。時間間隔なくならない?」
朝目を覚ました時には気づかなかったが、窓の外を見てみると朝にも関わらず真っ暗だった。聞いたところによると、あれから2時間は経っていたらしい。
『その呼び名は定着したのですか・・。そうですか?ずっとここに住んでいれば暗さの違いぐらいわかりますよ。夜中は人間界の夜とは比べものにならないくらいに暗いですし』
ペン子は答えながらもちゃっかり教科書のような本を出してきた。やべー真面目に勉強させる気だよ、このピンクペンギン。そんな今後役に立つかどうかもわからないような魔界の知識はいらないから。
「あっあー私トイレに行きたくなっちゃったー。やばいなー、もう限界地まできてるよコレ。あはは~じゃ、ちょっと行ってくるねー!」
『え?ちょっとのばな様?トイレそっちじゃありませんけどー!?』
早口でまくし立て、逃亡に成功した。後ろから何か言われた気がするが無視をしておこう。
しかし、焦っていたとはいえさぼりの定番文句”トイレ行ってくる”を使ってしまった。女子としてはかなりの痛手だが、ペンギンしかいなかったので良しとしよう。
「学校以外での勉強なんてごめんだよ。さ、城の中でも探検しようかな~」
怒られたときはその時はその時ということで。
まずは、頭の中に城の地図を入れることにしよう。てことで先ほど朝食をとった場所に向かうことにした。
城の中といわれるまでは気にしていなかったが、よくよく見てみると煌びやかな装飾が至るところに施されていた。下は真っ赤な絨毯が敷いてあり、壁には弱弱しい光を放つランプがつけられ、行く先を照らしていた。
周りを見渡しながら歩くこと約5分。方向音痴ではないので迷うことなく朝食の部屋にたどりつけた。
「次は嘘でもトイレを探そうかな。何か言われたときに困るし」
私が来た方向にはトイレらしきものは見当たらなかった。ということは逆方向にあると確信する。が、来た道を戻ると必然的にペン子の待つ部屋の前を通らなければならない。
まだ見つかりたくないので仕方なく部屋の一つ手前で曲がることにした。
しかし、曲がった道に問題があった。こちらの道は先ほどよりもランプの灯りが消えかかり寸前のような光しか放っておらず、さすがの私でもほんの少しだけ恐怖心がでてきた。
「わー暗いなあ。私実は暗いのって苦手なんだよね・・。いや、本当に少しだけでお化け屋敷とかも入れるし、悲鳴もめったに上げないし。この暗闇だって少ししたら目が慣れてくるだろうし、大丈夫、大丈夫」
我ながらかなり独り言が多い気がする。一人のときはこんなに饒舌じゃないはずなのに、今は口からするすると言葉がでてくる。
「さートイレはどこだろ。ははっ曲がってきたから、また曲がらないといけないよね~。でもまっすぐしかないなあ、もう少ししたら出てくるか・・っわひょあ!!」
若干速足で歩いていた私の手を背後から誰かが掴んできた。心臓が物凄い速さで動いているのを感じる。恐怖で目から水が出てきたが、勇気を振り絞り後ろを振り返った。
すると、そこにいたのは暗闇に二つの光を浮かび上がらせた、図体のデカい化け物だった。
「にゃあああああっ」