2-2 魔界の王は意外と〇〇
②
前回の説明をしよう。
魔王さまのご先祖様が魂となって帰ってくるからその器になれ、と言われたところそれを拒否。
拒否された魔王さまは落ち込み、なんと涙を流し始めてしまった。意外にヘタレのようだった、以上。
美味しそうな朝食が冷めていく中、私の反抗は続いていた。
「知らない幽霊に体を貸すなんて嫌だよ!あなたが貸せばいいじゃない」
「うっうっ、それが無理なんだよ。魔族同士じゃ体が拒否反応を起こしちゃうんだよ。変に力を持った者同士は相容れないみたいなんだ。でも、その点人間ならなんの問題もない!お願いだよ~、ちょっと肉体を貸してくれるだけでいいから、ね?」
小首を傾げて問いかけてくる魔王さま。しかし、私の返答は冷めきっていた。
「おじさんが可愛い声をだしても可愛くないです」
「ガーン!・・おじさん・・僕おじさん?」
魔王さまは壁に向かって独り言を言い始めた。俗にいう懺悔ポーズという体制で。
「自分、学習できんの?」
「いや私だってツッコみたいわけじゃないんです。もうトウドウさんが説明してくださいよ」
「嫌や。とりあえずパーティが終わったら帰れるんやからそれまで我慢しとき」
「なんで私がわがまま言ったみたいになってるんですか。学校とか親とかどうするんですか!」
「そこは大丈夫~」
魔王さまが復活した。打たれ弱くても復活は意外に早いらしい。
そして魔王さまの説明によると、魔界と地上界では時間の流れが違うらしく、こちらで1週間過ごしてもあちらでは1時間も経っていないらしい。うん、とても便利だ。
「へー。じゃあパーティはいつ始まるの?」
「5日後や。せやから問題ないやろ?ガタガタ文句言わんと大人しくしとき、うっとおしいわ。じゃ、俺は外に出てくるわ」
トウドウさんはそう言うと魔王さまに一礼して出て行った。いきなりの態度の急変に驚き固まってしまった。
「あはは、ごめんね~。悪気はないんだけど、初対面にはどうしてもああいった態度を取るんだよ。気にしないでいいからね」
いや、気にするだろう。意外に怖いぞあの人。フレンドリーかと思えばいきなり話しかけるなオーラを出してきたよ。そして強引に話を終わらせ、去っていった。
魔王さまは本当に申し訳なさそうに謝ると、お詫びとしてケーキを差し出してきた。なぜ朝からケーキ?あ、私が言ったからだ。
断るのもアレなので有難く頂戴することにした。
「モグモグ。さっきの続きだけど、魔王さまの先祖ってことは前の魔王さまってこと?・・・ですか」
今さらだが敬語を使うのを忘れていたので使ってみる。が、私のたどたどしい敬語を少し笑い、敬語は使わなくてもいいと言ってくれた。
「そうだね。僕の代よりかなり前の王だよ。後、付け足して言うなら有力者の悪魔が後4人は魂帰りを行う予定なんだ。だから君以外にも生贄となった人間がいるはずだよ」
「え!?私みたいに拉致られたりとか、騙されて性悪な悪魔にいびられたりとかしているのかな」
「え!?僕たちはそんなことしてないよ!せいぜい騙して拉致ってるぐらいだよ、ね?」
『陛下。人間の常識で考えますと、そこが問題だと思いますよ。ゴホン、とりあえず、のばな様には魔界の常識を叩き込まなくてはなりませんね。やっかいなことをされても困りますし』
ペン子がかなり失礼なことを言っている。しかし、ツッコミにも疲れてきたので軽くシカトをしながらチョコレートケーキを頬張る。
その間にも話は進み、パーティまでの5日間魔界の常識と淑女のたしなみを教えられることになった。はっきり言うととても迷惑だ。
「いやいいよ。今の私で十分満足だからさ」
『何をおっしゃいます。どこを見たら満足できるのですか、可哀想に・・』
「お前それかなり失礼だからね?」
ペンギンの表情はわかりにくいが、かなり哀れなものを見るような目をしている。
「まあまあ、ちょっと常識を入れてもらうだけだから、ね?」
魔王さまがフォローのようなものを入れてきたが、正直、私の苛立ちを上げただけだった。
「それ私に常識がないって言ってる?ヘタレはちょっと黙ってて」
「ひ、ひどい・・」
『陛下になんて口の訊き方をしているのですか!』
天下の魔王陛下はまたしても壁に向かい懺悔ポーズをしながら泣いていた。美形が台無しだ。