2-1 魔界の王は意外と〇〇
①
「で?彼女どないするんです?」
「うーん、できれば生贄にはなりたい人にやってもらいたかったんだけどなあ。もう変更できないし、どうしようか?」
「いや、俺が訪ねとるんですけど?」
『お二人とも。漫才の途中申し訳ありませんが、のばな様が起きられましたよ』
「というか寝ている人の隣で話すのやめて。普通そんな大事な話だったら余所でするじゃん。なんで隣?しかも隠す気ゼロだし。どさくさに紛れて変更できないとか聞こえてきたし」
「起き抜けにようそないに話せるな自分。そんだけ話せるんやったら問題ないやろ」
起きて早々につっこませないでほしい。気絶とか可愛いことをした後なのに、騒音で目が覚めて息継ぎ無しのツッコミとかウザさ爆発ではないか。
トウドウさんは普通にしているけど、魔王さまはかなり驚いている。え?聞かれてた?みたいな顔はやめてほしい。
ツッコんで少し落ち着いたので、改めて辺りを見渡してみた。
気絶した私は最初に寝かされていた部屋へと運ばれたようだ。お姫様ベッドに寝かされている。
「や、やあおはよう。とりあえず元気そうだったら朝食でも取りながら話そうか」
「朝食?え、今何時ぐらいなんですか?」
『今は地上界でいうところの8時辺りです。のばな様が気絶されてから半日以上経っています』
「ぐっすりじゃん!やば、私学校に行かなきゃ。帰り道教えて!」
「自分さっきの話聞いとったんやないんか?変更できんゆーことは帰れへんってことや」
焦る私にトウドウさんが爆弾を投下した。
「は、え?なに?え・・」
ちょっとかなり混乱してきた。だって、学校はどうするんだ。無遅刻無欠席という私の輝かしい功績はどうなる。というか、今日の調理実習は本格ケーキを作るハズじゃなかったか?
「まあまあ落ち着いてよのばなちゃん。ゆっくり話すからとりあえず場所を移動しよう?」
「いや、私のケーキはどうなるの?」
「え?ケーキ?うーん・・朝からケーキかあ、チャレンジャーだねえのばなちゃんは」
「ツッコミがボケんなや」
トウドウさんの鋭いツッコミが入った。
「いえ私は真面目ですけど?まあ仕方ないから行きます。ほら、皆さん行きますよ」
「なんや態度デカなってへんか?自分」
一応ボケることで落ち着いてみた。
そして昨日の長テーブルのある部屋に連れてこられた。テーブルには洋風の朝食が豪華に並んでいた。すごい、私の家では朝は必ずご飯とみそ汁なので、少し感動した。
感動ついでに座った瞬間に出されていたジュースを一気飲みしておいた。いきなりの一気飲みに隣に座っていたペン子は唖然だ。
「ぶはっ!じゃ、説明よろしく」
「あ・・ああうん。じゃあ始めるね」
「切り替え早いな」
私の切り替えの早さに驚きつつも、魔王さまは昨日の続きを話し始めた。
「じゃあ始めるね。僕が魔王だってことは話したと思うけど、今度魔界を挙げての大掛かりなパーティがあるんだ。そこで用意しなければならないモノが2つあるんだ。僕、魔王の髪の毛と人間の生贄、つまり君のことだ」
「はい、ストップー!」
静かに聞いていようと思っていたが、早々に止めてしまった。
「え?どうしたの・・?」
「いやいや、普通に話してるけど意味わかんないから!パーティに髪の毛も生贄も必要ないでしょ。百歩譲っても髪の毛はいらないよ!もう少しわかりやすくはなモガッ」
私が話している最中にいきなりペン子が口をふさいできた。かなり焦りながら。
『話は最後まで聞きなさいっ。陛下はちょっとかなり打たれ弱いのですから、オブラートに包んだ物言いでお願いします!』
そう言われて魔王さまを見ると、なんと目に涙をためていた。え?
「え?魔王さま・・え?泣いて・・る?」
「なっ泣いてないよ!」
「あーあ、陛下ヘタレなんやからもうちょい言葉考えな。これで2日も塞ぎ込まれたら、こっちがたまらんのやけど」
一応魔王さまの部下であろうトウドウさんだけど、言動はかなりキツイ。表情は見えないけどかなり冷めているのが雰囲気でわかる。
「てか、ヘタレ!!魔界の王様がヘタレって・・・・・プッ」
「ガーン・・・・うえええぇぇん。ヘタレじゃないよーー」
「大の大人が泣いたーー!」
恥も何もないのか、男泣きというより女の子のようにしゃがみこんで顔を覆って泣いている。ちょっとドン引きだ。
『だから言ったではないですか!陛下大丈夫ですよ。陛下はやればできる子です。ヘタレなんかではありませんよっ』
魔王さまの味方はペン子だけなのか、ペンギンに慰められる魔界の王様。シュールだ。
「わかったら黙って聞いとき。余計なちょっかいかけると却ってめんどうや」
「トウドウさんってさりげなく酷いですよね」
魔王さまが泣いているのは見えているだろうに、更に追い打ちをかける。しかも泣いているのに必死な魔王さまは気づいてないけど、トウドウさんから早くしろオーラがかなり出ている。ような気がする。
「ふう。じゃあ再開しようか~。そのパーティなんだけど、実は僕の先祖が魂帰りをするパーティなんだ。魂帰りっていうのは死んだけど現世の様子を見に行こうかっていう期間のことでね。数百年に一度だけ行われる行事みたいなものなんだ」
「いきなり真面目な話しだしたんですけど」
「黙って聞いとき」
先ほどまでの涙はどこへ行ったのか、すがすがしい程の笑顔で説明を始めた魔王さま。それにツッコミたい衝動をトウドウさんに抑えられ、もやもやしつつも真面目に話を聞いた。
「で、その時に使うのが魂帰りをする者の血族の髪と降臨するための器なんだ。ようするに帰ってきても肉体のない先祖のために、のばなちゃんの体を貸してもらおうということなんだ」
「却下」
「ガーン」
『だから、それやめてください!陛下がまた落ち込んでしまいます!』
私だって真面目に聞こうとした。が、無理だった。そもそも体貸して?とか言われておいそれと貸すようなやつは、この世にはいない。
泣いてしまった魔王さまには申し訳ないが、ここは心を鬼にして対処しよう。