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1-3 お礼という名の生贄

 ③


 暗闇の中、誰かの声がする。可愛らしいソプラノ調の、少し怒ったようなそんな声。

『の・・様、のばな様、そろそろディナーの用意が出来ますので起きてくださいませ』

「ん・・ああ、なんだペン子か。もう少し寝かせて、よ。・・・すぅ」

『ペン子!?勝手に変なあだ名つけないでくださいまし!ディナーが逃げてしまいますよ?』

「ダメだ!!ディナーはすべて私のもの・・・・ん?どこ、ここ。ブラックフォールは?」

眠い目をこすり、周囲を見渡すと物凄く豪華なベッドに寝かされていた。よく見ると部屋も豪華なようだ。

お姫様が眠るような可愛らしいベッドに真っ白な机。シャンデリアの小さい版のような豪華な電気。

部屋のサイズも私の部屋の倍以上ありそうだった。

『ブラックフォール?あれは空間転移の魔法の一つですよ。あなた様が聞き分けないので無理やり連れてきてしまいました』

頭がついていけない。要するに私は行きたくなかった異国の地とやらに強制連行された。というわけだろうか。

「って最悪じゃん!私行きたくなかったのに!」

『まあまあ落ち着いて下さい。来ちゃったものはしょうがないのですから。これから我が主と会っていただきます。お召し物もそれでは微妙ですので、こちらにお着替えください』

「しょうがないって、しかもさりげなく私のルームウェアを貶したな。そして何その服。私の好みじゃないよ、却下」

『却下は認めません』

却下したものの、却下を却下されたため、しょうがなく少女趣味丸出しのワンピースを着ることにした。

ふんわりとした水色の可愛らしい膝丈ワンピースだ。毎日ジーパン派の私にはちょっと、かなりキツイ服装だ。

でも仕方ない、早めに終わらせて帰ろう。ご馳走を頂いて帰ろう。

ペン子(心の中で決めていたあだ名だ)には出てもらい素早く服を着た。カチューシャのようなものもあったが、丁重に元あった場所に戻しておいた。ワンピースを着ただけでも有難いと思おう。


 服を着替えた私は、ペン子に案内されて大きな扉の前まで来ていた。

はっきり言って豪邸とかそんな域のお宅じゃないよ。なんか城っぽい。いや、お城に入ったことはないけど。

『主、いけ・・失礼。お客人をお連れいたしました』

無言のまま扉が開かれた。

部屋の中を覗き見ると、私がいた部屋の倍以上の広さがあった。そしてその一番奥、玉座と呼ぶにふさわしいような、王様が座りそうな豪華な椅子に腰かけた美形の男性、そして後ろに控えているフードを被った長身の人。部屋の中にはその二人しかいなかった。

『ささ、のばな様参りましょう』

「う、うん」

物凄い威圧感に圧倒されつつも、どうにか足を動かし玉座の手前まで来た。

『主、こちらが草間のばな様でございます』

「・・・」

「・・・」

無言が続く。怖くて下を向いていたがちらりと男性を盗み見た。やはり美形だ。

30手前ぐらいの優しそうな面影の人だった。が、何も話さない。

ようやくしびれを切らし、先に言葉を発したのは意外にも後ろに控えていた人だった。

「はあ。陛下、ええ加減なんか話さへんか?空気重すぎてかなんわ」

意外にも関西弁だった。いや、エセのような関西弁だ。そして男の人だ、声が低い。

「あ、ああそうだね。よく来てくれた。自ら進んで生贄に志願してくれたんだって?ありがとう」

玉座に座っている人物はやはり優しげな声をしていた。が、不穏な単語が飛び出たような、気がする。

「・・・・生贄?」

『!』

「うん。人間には勇敢な子がいるんだね~。しかも女の子だし、本当にありがとうね」

彼は人の好さそうな笑みでこちらを見ていた。しかし、私は違う。

「・・・ペン子さん、ペン子さん」

『は、はい?』

私は鬼をも殺しそうな眼差しをペン子に向けた。ペン子は全身を震わせて恐怖を表し、私が捕える前に玉座の二人の元へと逃げ出した。

「まてやクサレペンギン!!生贄ってどういうことじゃワレー!!」

『「ひぃ!?」』

「ふーん」

豹変した私に、玉座の男性とペン子は怯えた声を出し震え上がった。後ろの人はフードで表情がわからないが怯えた印象はないようだ。

「誰が生贄なんて不穏な雰囲気漂うものに立候補するかーー!」

「ええ?どういうこと?」

『ひいぃぃ、のばな様どうか落ち着いて下さいまし~』

「落ち着けるかーーー!!!」

私の怒りが爆発した瞬間だった。


「で、自分落ち着いたか?」

「はい、ごめんなさい」

あれから散々暴れまわり、ペンギンの原型を留めていないほどに痛めつけた私は、フードの人に止められようやく正気を取り戻した。

「ご、ごめんね。まさかホロケリィゴデスが無理やり連れて来ていたなんて・・」

「まあ普通に考えたら生贄に自ら志願するやつなんておるわけないわな。ちゅーことは俺らのことも聞いとらんのやろ?」

「ええまったく」

すがすがしい程の笑顔で答えた。事実だから仕方がない。

立ち話もなんだからということで、白いテーブルクロスのかかった長テーブルに場所を移動した。

テーブルの端の中央、誕生日の時に主役が座りそうな位置に優しげな男性。フードの人は椅子に腰かけず男性の後ろに控えており、私とペン子は2~3席開けた場所に座った。

「じゃあまず自己紹介からしようか。僕はスィエロ。後ろに控えているのがトウドウ。そしてもう知っていると思うけど隣にいるのがホロケリィゴデス。君はのばなちゃんで合っているかな?」

「はい」

「うん。で、ここがどこかだけど、ここは魔界だよ。地上界の真下、天界と真逆の位置に存在している場所だ」

「は?」

予想とは違った答えが飛び出てきた。私的には、1.夢オチ、2.英国辺りの山奥、3.妄想のどれかだと思ったのに。もちろん希望は1番だ。

「この話の流れでわかると思うけど、僕たちは人間じゃないんだ」

一人混乱している中、無情にも話は進んだ。

「トウドウは悪魔、ホロは使い魔だよ」


「そして、この目の前におられる方は魔界全土を総べる王様。魔王っちゅーことや。俺はその補佐官」


「・・・・・・王様?」

「えへへ」

「・・・・・・・はあああああああああ!!!!??」

頭のキャパが完全に超えてしまった。熱湯を浴びせられたかのように私の脳内は沸騰寸前だ。

目の前の人が魔界の王様。人の好さそうな笑みを浮かべてはいるが、本当は怖い人なのだろうか。

生贄とか言っていたし。食べられたりとかは勘弁してほしい、せめてメミコさんが今後どうなるかだけでも知りたい。

『のばな様?え?ってひぃぃ!しっかりしてくださいまし!』

「あっはっはっは!白目向いてるやん!おまけに泡吹いて気絶するやつなんて初めて見たわ」

「えええ!?だ、大丈夫かい!?」

トウドウさんの笑い声と魔王様の心配している声を最後に、私の思考は暗闇へと落ちて行った。


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