8-3 真実とは意外にあっさりしたもの
③
「うぐぅ!?」
『ちょっとおおおお、何よあのイケメンは!!!?』
「だ、大丈夫?のばなちゃん」
後ろからの衝撃はピンクペンギンのペン子改め、前王ファーレ様がタックルをかましてきたことによるものだった。ぴくぴくと痛みに震えていると、魔王さまが近寄ってきて心配そうに助け起こしてくれた。やはりこの魔界では魔王さまが一番優しい。優しさに飢えているからだろうか、小さな優しさが身に染みる。
『で?で?で?あれは誰なのよぉ!なーんかどこかで会ったことがあるような気配だけど』
「ああ、珍しいね。包帯取っちゃったんだね」
「あ、魔王さまはわかるんだ」
「うん、見たことはあったんだ。それに一応事情も知っていたからね~」
緩く話す魔王さまとは違い、前王さまは待てないらしく興奮しながらトウドウさんの元に走って行ってしまった。あ、蹴られた。
「前王さまはトウドウさんだってわからないの?」
「いや~一応気配でわかると思うんだけど・・・ファーレ様の場合って顔が基準だから。普段顔の見えないトウドウはあまり覚えられていないというか、興味がないというか、第一興奮しすぎて判別できていないんだろうねぇ」
「ああ、なるほど」
さすがイケメン大好きな前王さま。今はトウドウさんに蹴られて怒っているようだ。それを見下ろしているトウドウさんはゲラゲラ笑っていた。ドSは前王さまにも容赦がないらしい、というかその体はペン子のモノだからあまり雑に扱わないであげてほしい。
「うわあトウドウってば・・・ちょっと止めに行こうか」
「え。私も行くの?」
私の言葉を無視して、魔王さまは私の手を引いて二人と一匹の元に向かった。
「ほらほらトウドウ、一応偉い方だから蹴るのはやめてあげて」
「おう陛下。なんやこのちっこいのが飛びついてきてついな?」
「つい、で前王さま蹴り上げないでしょ普通・・」
悪びれた様子のないトウドウさんに魔王さまは苦笑していた。そして蹴りを入れられた前王さまはというと、怒りを収めて死神に近づいていた。
「・・・・魔王か」
『ふふんそうよ。やっぱり顔はいいのよねぇ、好みよ』
「そうか」
死神は興味無さそうに短く返すと立ち上がり、再び私の目の前にやってきた。
「な、なんですか?」
トウドウさんのお父さんと聞かされてもやはり少し警戒してしまう。仕方ないよね。
「お前の名はなんという?」
「え」
その問いかけにびっくり。まだプレジルさんと勘違いをされていると思っていたので驚きだ。おどおどしつつ名前を言うと死神はまたも優しげに笑いかけた。何故だろう、他の人には無表情に近いのに。
『ちょっと!あたしよりもそんな小娘の相手をするわけ!?』
「小娘ではないプレジルだ」
「あれー?」
聞かれたから答えたのにまだ私の名前はプレジルだった。なんでだ。
「いやいや私は草間のばなだってば!さっき聞いたばっかりなのにもう忘れたの!?」
「そらもう年やからな。耳も腐ってもうたんやろ」
「いや耳は正常だ。お前の名も理解している。しかしお前はプレジルでもあるのだ」
「また意味不明なことを言い出したよ」
もう訳が分からないため魔王さまにバトンタッチした。急にバトンを渡された魔王さまはおろおろとした表情だったが、一つ咳払いをして顔を引き締めた。
「えーとはじめまして。今代の魔王スィエロと申します」
「ああ、ご丁寧にどうも」
「なんでいきなり挨拶しとんねん、アホか」
いきなり頭を下げて挨拶をしだした魔王さまに対し、死神も頭を下げた。それを見ていた私とその他は全員揃って顔を引きつらせて脱力してしまった。
「ええっだって一応顔を合わせて話すのは初めてだからさ。挨拶ぐらいはと思って」
「そんなん後でええわ。それよりさっきの話や。なんで嬢ちゃんをまだプレジルて言うとんねん。顔はもう見えとるんやろ?」
「ああ、はっきり見えている。まったくプレジルとは似ていない」
「せやろ?」
皆してこちらを見ているため少し気恥ずかしい。しかし断言しているにも関わらずのプレジル発言はいったいどういうことなのだろう。
「だが、魂の色はプレジルそのものだ」
「?魂の色って・・。それさっきも言ってましたよね?」
またしても出てきた言葉に首を傾げる。
「ああ。死神のみが見ることのできる人の魂にはそれぞれ色がついているのだ。人によってその色は全て異なり、似た色を持つ者もいるが同じ色の魂の持ち主は存在しない」
「が、お前の魂の色はプレジルのものとまったく同じだ」
「・・・・・え?え?どういうこと?」
「ということはつまりのばなちゃんは・・・」
「はーなるほどな」
納得といった感じに頷いている魔王さまとトウドウさん。しかし私の頭ではまったく理解が追い付いていなかった。説明が難しすぎて意味がわからない。一人混乱していると、前王さまが面倒くさそうに話だした。
『ふん、つまりアンタはあの女の生まれ変わりってことよ』
「・・・・・・はい?」
面倒くさそうに吐き捨てられた言葉が脳裏を駆け抜けた。が、やはり意味がわからなかった。