8-2 真実とは意外にあっさりしたもの
②
「で、誰がお父さんなんですか?」
「なんで嬢ちゃんが聞いてくんねん」
「いやだって気になるじゃないですか」
恐怖もあるが好奇心の方が勝っていたのでしょうがないと思う。
死神と私が見つめる中、トウドウさんは米俵のように抱えていた私を降ろすとフードを外し始めた。
フードの下はやはり黒いサングラスに包帯の巻かれたお顔があった。いつ見ても不気味だと思う。
「なんやゆうたか?」
「いえ滅相もないっす」
トウドウさんは人の心も読めるらしい、自分の悪口限定で。
「おいあんた。もう目開けられるやろ?見せた方が早いんや。目ぇ開けろや」
「・・・・」
死神は無言のままゆっくりと瞳を開けた。黒に少し青みがかった、たれ目の綺麗な瞳だった。そしてその瞳が私を捉えた。よし、これでようやく誤解が解ける。かと思ったが、
「お前は・・・・」
「こ、こんばんは?」
へらっと笑いながら挨拶をすると、死神は一瞬戸惑ったような顔をしたものの、優しげな笑みを向けてきた。あれ?
「えーと・・・プレジルさんじゃないってわかりました、か?」
「いや姿形こそ違うが魂の色はプレジル、お前のものだ」
「・・・・誤解が解けないんですけど、トウドウさん」
「もうほたっといてええんやないか?うざいわ」
相変わらず辛辣だ。が、確かに私も同じ感想だ。
「本題はこっちやねん」
そう言うとトウドウさんはサングラスを外し、包帯を解き始めた。
「えっ!それ取ってもいいんですか!?」
「ほんまは人前で取りたないけどな。嬢ちゃんには後で罰ゲームでもしてもらうからええわ」
「いや、よくないんですけど」
トウドウさんの罰ゲームとか考えるだけで恐ろしい。恐怖の罰ゲームを頭に思い浮かべている間にも、トウドウさんは一気に包帯を取り去り、その素顔が見えてきた。
「!!」
死神が驚愕の顔つきになった。私の方からでは横顔しか見えないため仕方なく真正面から見える位置に移動した。が、トウドウさんは私が正面に行く前に体を後ろに向けてしまった。
それに少し苛立ちつつももう一度位置を変えるために動いた。が、結果は先ほどと同じでまたしても別方向に体を向けられた。
「ちょっとトウドウさん!!!見えないんですけど!!」
「なはは、嬢ちゃんが移動すんのが遅いねん」
楽しそうに高速回転するトウドウさんに私もムキになり、いつの間にか一人でかごめかごめのようにトウドウさんの周りを回っていた。
「もーいい加減にしてくださいよ!!死神さんも呆れてるじゃないですか!」
疲れて息が上がったまま死神の方を見ると、心なしか呆れているような引いたような視線が送られているのに気付いた。
「はあ、しゃーないな」
トウドウさんはわざとらしくため息をつき、死神の方に体を向けようやく高速回転を止めてくれた。
一息つくと真正面に移動し、ようやくその素顔を見ることができた。が、その顔を見た途端、私も死神と同じような顔つきで固まってしまった。なぜなら、
「!!!」
「どや男前やろ?」
「お、おお、男前とかではなくて・・・・え?え?」
混乱しすぎてついトウドウさんと死神の顔を見比べてしまった。だって、二人の顔はそっくりなんだもん。
髪の色こそトウドウさんは金色で違うけど、顔つきはそっくりだ。唯一、目が少し切れ長なだけで他のパーツはそっくりだった。前にトウドウさんの顔が不細工だったら面白いとか思ってたのにまったく違ったよ。面白くもなんともなかった、ただの美形だったよ残念。
「俺の親父が誰かわかったか?」
「いえまったく、あだっ」
即答すると頭を叩かれてしまった。
「嬢ちゃんはアホなんか?」
「いたた・・いや、だって他人の空似かもしれないじゃないですか」
「空似過ぎるわ。正真正銘アレの子や」
そう言ってトウドウさんは死神の方を指差した。指された方はというと、混乱しているのか呆然としていた。
「嘘だ・・・なら、どうして・・・・」
「あんたと喧嘩して出て行ってしもうてから気づいたんやと。それを知らせよ思うた時にはあんたはすでに封印されとったっちゅーわけや。ま、タイミングが悪かったわけやな」
他人事のように言っているが、一応関係者のはずだ。
「そん後、オフクロは他のやつと結婚して家庭持ってポックリ逝ってもうたわけや」
「えっ亡くなってたの!?」
「おう結構前にな」
きっぱりだ。やはりトウドウさんが話すと暗い話も軽く聞こえるから不思議だ。死神はというとまだ受け入れられないのか、頭を抱えたまま膝をついてうずくまってしまった。
「どっちにショック受けとるんやろな。オフクロが死んだことか?それとも俺のことか?」
「どっちもだと思うけど・・」
普通はショックだろうことでもトウドウさんには理解できないらしい。普段なら見ることができない素顔が訝しげに歪んでいるのが見えた。
そしてそのままゆっくりと死神の方に近づいて行った。
「ちょ、トウドウさん!?」
「・・・・なんだ」
死神が顔を上げずに呟いた。
「まあまあ、そないに気ぃ落とすなや。オフクロかて一応はあんたのこと気にかけとったで?何十年かに一回ぐらいはあんたの名前、耳にしたわ」
「「・・・・・」」
それは慰めているのだろうか、それとももっと下に突き落としているのだろうか。トウドウさんの冗談はとてもわかりづらい。死神も顔を上げ呆然としていたが、トウドウさんの顔を見ると一気に呆れ顔になった。
「ふっ、プレジルと似た性格をしているな。その、人を貶している所などそっくりだ」
「そっくりなんだ」
判明した。トウドウさんのドSはお母さん譲りらしい。
死神は呆れたように笑い出すと共に少し涙をこぼしていた。そしてトウドウさんが珍しく、本当に珍しく肩に手を当てて慰めている光景に胸をほっこりさせていると、不意に後ろから強い衝撃を受けた。




