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6-3 前王は美形がお好き

 ③


 強い光が辺りを埋め尽くしている間も、前王さまは目を閉じることなく呪文を唱え続けた。

すると、私の足元に青い魔法陣のような物体が浮かんできた。

その瞬間、体中にしびれるような痛みを感じた。

(痛いっ何これ!?)

『封印の代償ってやつよ。強い力を封印しているんだから、そのくらいの代償が合っても不思議じゃないわ。まあ痛みはすべて貴女に行くようにしているから、あたしは痛くもなんともないんだけど』

(最低だよ前王さま!!・・いてっ)

電気を体中に流されている感覚だ。かなり痛い。

しかし痛みを感じていない前王さまは素知らぬ顔で呪文を唱え続けている。そして足元に浮かんでいた魔法陣が薄れだすと、ようやく唱え終わったらしく一呼吸置いて指を鳴らした。

すると辺りが静まり返り何もない空間から鎖で雁字搦めにされた人物が出てきた。一応体の痛みも消えたようだ。

骸骨の仮面をつけたその人は、何も発することなく空中に浮かび上がり体から黒いモヤのようなものを出している。


禍々しい空気に誰も動こうとはしなかった。が、前王さまだけは気にすることもなく嬉々としてその人物に近づいて行った。必然的に私も近寄ることになるので止めてもらいたい。

心の中で悲鳴を上げるも、完全無視で私の体は死神に近づいていった。

死神らしき人物の目の前に行くと、前王さまは躊躇することなく飛び出している鎖を掴み、浮かんでいる体を下へと引っ張った。

『呼び出し終了ね!さっ封印する前にその邪魔な仮面を取りましょうね~』

「楽しそうだね、ファーレ様・・」

「相当に美形なんやろな」

後ろから魔王さまとトウドウさんの呟きが聞こえた。

その呟きも無視して前王さまは仮面に手を掛けゆっくりと剥がしていった。

そこから現れた人物は顔のかなり整った男の人だった。瞳は閉じられたままだが、長いまつげに薄い唇。灰色の綺麗な髪。女の人のようにも見えるが一応男性のようだ。

『きゃあっやっぱり良い男!!顔はいいのよねぇ、性格はあたしの好みじゃなかったけれど』


前王さまが呟いた―――――その瞬間、何故か男性を縛っていた鎖が一斉に溶け始めた。


驚きで急いで掴んでいた鎖を離した。そして前王さまはその場を離れ、先ほどの位置に戻ると男性に向かって手をかざした。

(ひぃぃ!鎖が溶けてるっ)

『うるさいわね、わかっているわよ!スィエロ、部下たちの方の魔法陣はどうなっているの!?』

魔王さまは目を瞑り額に手を当てた。

「・・・・・・あちらの魔法陣が消されかけているようです。多分その死神の力でしょう」

(えええっ封印されてるんじゃなかったの!?)

『封印が解けそうだからあたしが来てるんじゃないのよ!集中が途切れるから黙っててちょうだい!』

よほど余裕がないのか大声で怒鳴りながら死神の男性を見据えていた。手を前にかざし、呪文を唱え鎖を再び出して男性を拘束するものの、またしても鎖は溶けだしてしまった。

そしてすべての鎖が溶けた瞬間、体から出ていた黒いモヤが私に向かって一斉に襲いかかってきた。


しかし寸でで魔王さまが目の前に現れ、手をかざしてモヤを吹き飛ばしてくれた。が、吹き飛ばしてもまた新しいモヤが襲いかかってきて、結局魔王さま共々モヤの中に入ってしまった。

「陛下~無事かぁ~?」

トウドウさんの呑気な声が聞こえる。

「い、一応・・・ね。ただのモヤだったみたいだけど、大丈夫?のばなちゃん」

魔王さまの問いかけに大丈夫と返したが、声が出たのは私ではなく、

『のばなって誰よスィエロ!あたしはファーレよっ』

前王さまだった。

「し、失礼しましたファーレ様。・・・コホンそれよりもトウドウ、封印はどうなったの?」

「ああ、なんや知らんけど完璧に解けてしもうとるみたいやな」

『もー!!面倒臭いったらないわ!慰めなさいスィエロ!!』

「ええ!?」

またしても魔王さまに抱き着いた前王さま。一応私の体なので少しは自重してもらいたい、本当に。

そして、またしても黒いモヤが襲いかかってきた。今度は魔王さまが払いつつ後ろに退避できた。が、ここで私の運動神経の無さが出てしまった。

後ろに跳んだ瞬間、着地するはずの足が面白いぐらいに滑り頭からこけてしまった。こけた前王さまも唖然だ。

『のばな様!!』

ペン子が駆け寄ってきてくれるのがわかる。しかし、それよりも早く私の視界はモヤに覆われてしまった。


息苦しいモヤの中、私は何かを切り離される感覚を感じた。




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