5-2 ドキドキ、大人の男性
②
そんなこんなでゴタゴタしていると、あっという間に夕方になりパーティが始まった。
パーティ会場となるホールは物凄く広々としていた。さすがお城。
いつもの蝋燭だけで灯したような薄暗さではなく、煌びやかな装飾やシャンデリアが会場を照らしていた。丸いテーブルの上には豪華な料理、そして上の階には玉座が置かれていた。
始まりの挨拶は魔王さまが務め、それが終わった今は各々好きに動いている。
私はというと、料理に走って行かないようにとペン子にドレスの裾を掴まれていた。やはり私は豪華ディナーは食べられないらしい。
「あーあ、美味しそうだなーあのローストビーフもどき。あ、あっちには大きなプリンまである、いいなあ。お腹空いたなー、少しぐらい食べさせてくれたっていいのになあ。お腹が空き過ぎて幽霊さんが動けなくなるよりいいと思うんだけどなー」
『お腹が空いてつらいのはわかりましたから、少し静かにしてくださいまし』
しゃがみ込んでブツブツ文句を言ってみても、ペン子は裾を放そうとはしなかった。
「や、のばなちゃん。楽しんで・・・・・・ないみたいだね」
お腹を押さえて絶望していると、先ほどまで悪魔に囲まれて動けなくなっていた魔王さまがやってきた。
すると魔王さまは私の様子に苦笑し、手に持っていたお皿を差し出してきた。皿を覗き見るとなんとそこには、さっき見つけたプリンが乗っていた。
「実はお腹が空いているんじゃないかと思って持ってきたんだ。食べる?」
「食べる!!」
間髪入れずに答え、すぐさま皿を奪ってプリンを搔き込んだ。ペン子が行儀うんぬんと隣で文句を言っているがこの際気にしない。
「かなり空いていたみたいだね~」
「ふぅ~。そりゃ朝食しか食べてないからね!お腹だって空くよ」
結構なボリュームだったが、食べ終わるのに1分もかからなかった。
「そういえば、魔王さまは悪魔たちとの挨拶は終わったの?」
「・・・・・えへ」
「ボイコットしてきてるよこの人」
『陛下!』
魔王さまは可愛く笑ってごまかしていたが、ペン子は騙されなかった。深いため息をつくと嫌々言う魔王さまを引きずり玉座に戻しに行った。
ようやく監視の目がなくなり、人もどきの悪魔たちに見られないように豪華ディナーの並ぶテーブルに向かった。
「むふふ~ようやく食べられる!いっただっきまーす」
目をつけていた数枚のローストビーフもどきを一口で食べきった。幸せだ。
「はあぁ、幸せ~。この肉汁、たれも・・・・うん、たれも美味しい。このなんの味って言ったらいいかまったくわかんない味だけど、とりあえず肉汁とたれが絡んでて美味しい、肉汁が」
うんわかった、私には料理の感想を求めない方がいい。まったくリポートができてない。今ので伝わるのは肉汁だけだろう。
自分の表現力の低さにへこみつつも、ローストビーフもどきがあるテーブルの上の料理を着々と制覇していた。だって、手が止まらないんだもん。コルなんとかが締め付けてきているけど、気にしなければいける。
「はぁーーようやく抜け出せたよ~」
「ふぁ、ふぉふぁへり」
口いっぱいに詰め込んでいると、くたくたの様子の魔王さまがやってきた。心なしかやつれている気がする。
「ゴクン。ふぃ~、どうしたの魔王さま。また抜け出してきたの?ペン子に怒られるよ?」
「うううだって~皆、後から後から挨拶に来るんだよ?ようやく少なくなってきたから、僕もパーティを楽しもうと思ったのに全然離してくれないんだよ、ペン子が」
「ああペン子がね」
怒りながら魔王さまの足に張り付いているペンギンが容易に想像できた。そして今頃は怒りで顔を赤くしながら魔王さまを探し回っているだろう。
当の本人はというと、苦労人の使い魔のことなど考えてもいないようだった。
「さ、今のうちに楽しもうかな!儀式を行うのはパーティの最後だし、のばなちゃんはこれからどうするの?」
「私は次はデザートを制覇しに行きます!食べ放題なんだから食べておかないと」
「すごい食欲だね~。でも少し運動した方がデザートももっと美味しく食べられるんじゃないかな?」
「運動?」
私とは無縁の言葉だ。言わなくてもわかると思うが、私は帰宅部だ。運動部になんか入ったことはないし、自慢ではないが、体育の成績も3以上を取ったことはない。
「いや、いいよ。運動って苦手だし、嫌いだし、私は家でダラダラしていたいタイプの人間なんだよ」
「・・・・かなりの引きこもりだね。でも大丈夫!運動といってもダンスだからさ。この間しっかり練習していたようだし」
「よかったら僕と踊ろう?」
生まれて初めてダンスに誘われてしまった。