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4-3後 夜の執務室

 今、僕は蝋燭のみで照らされている執務室にいた。

外はいつも通り、夜の暗がりを月明かりだけが照らしている状態だ。

部屋の中はというと、仕事を溜め込んでいたツケが回ってきたのか、机の上や床、ソファにまで書類の束が山ほど積まれていた。

そしてそんな山に囲まれている僕の後ろには、いつも被っているフードを脱いだ状態のトウドウが静かに控えていた。

「陛下」

「ん~、なんだい?」

珍しくトウドウが話しかけてきた。執務中は絶対に口を開くことはないため珍しい。

話しかけてきたトウドウはいつもの通り、僕の方を見ることなく口を開いた。

「今日、嬢ちゃんに話したやろ」

「ん~なにを?」

「とぼけんなや。儀式の話してもうたんやろ」

内心ドキリとする。どうしてこうも鋭いのか。補佐官として優秀なのは有難いが、鋭すぎるのも考え物だ。

「ははっトウドウは鋭いねえ」

「はー・・・言うてもうたらあの嬢ちゃん、帰りたいて叫びだすに決まっとるやろ」

「あー、あははは」

確かに目に浮かぶ。というか実際その通りだった。

人間界から来たあの少女は、可愛らしい容姿とは真逆の性格をしていた。嫌なことは嫌と言うし、物怖じもしていないようだった。確かにトウドウを怖がっている様子もあるが、奥底から怖がっているのであれば、ああいった態度はとらないだろうと思う。

「まーた俺が話に行かなあかんくなるやないか」

「そんなに嫌じゃないくせに・・・」

「なんか言うたか?」

「ん~なんでも~?」

心底めんどくさそうに言うトウドウだが、彼が彼女を気に入っているのは一目瞭然だ。

僕、魔王の補佐官であるトウドウは、とてもめんどくさい男だ。

初めて会う者には絶対に懐かない、自分から話しかけるのも最低限。だが、気に入った相手にはとことん構う。その構い方も相手が嫌がるような構い方をするという大きな子どものような性格をしていた。

そんなとてもめんどくさい彼が、珍しく初対面の者に自分から話しかけていた。しかも相手は人間の少女だ。

彼女は迷惑そうだが、小さい頃から彼を見ている者からすると嬉しいことなので、申し訳ないがそのままにしておくことにしている。


 そしてお説教もそこそこに、話題は次のパーティへと切り替わった。

「明後日にはパーティかあ。・・またあの人に会わないといけないと思うと緊張するなあ」

「ええやん、陛下は気に入られとるんやから。俺は気に入られたないけど」

「ううう」

他人事だとトウドウはかなり冷たい。

「それより別の緊張しとった方がええと思うで、俺は。確実に怒りだすで、あの人」

「え、なんで?」

「陛下も知っとるやろ。あの人が好きなんわ綺麗なもんや。かなり目ぇ凝らしたかてあの嬢ちゃんは綺麗には見えん。間違いなくキレだすな」

「そうかな~?のばなちゃんは可愛いと思うよ?」

そう言うとトウドウはわざとらしくため息をついた。

確かに僕の先代の先代の先代の魔王、魂帰りをしてくるあの方は、かなりクセのある性格をしている。好きと嫌いが激しいのだ。お世辞など生まれてこの方一回も使ったことはないだろう。

「せやから綺麗なやつ連れてこい言うたのに、ホロのやつ」

「まあまあ、僕はむしろのばなちゃんでよかったと思っているよ。いい子だし、僕らのことをあまり怖がっていないみたいだし」

「いや怖がっとるやろ。恐怖してないんわ陛下とホロにだけや」

「トウドウもあまり怖がられていないと思うよ?」

笑顔で伝えるとトウドウはきょとんとしていた。顔は見えないけど雰囲気的にね。

魔界人に怖がられていない等と言うと普通は怒り出すものだが、あいにく僕もトウドウもそこら辺の誇りなどは持ち合わせていなかった。

「はっそんなわけないやろ。陛下は知らんかもしれんけどな、俺は一回あの嬢ちゃんを」

「脅したんだろう?」

「・・・・」

「ふふ、ホロから聞いたんだ。君がのばなちゃんを脅したって。どう脅したのかも知っている。けど、多分そんなに怖がっていないと思うよ」

彼女と話した回数は数えるぐらいだが、これは確信を持って言えることだと思う。直感だけど。

「ふん、怖がれてもかまへんし。それに陛下の多分は絶対当たらへんから本気にせんわ」

「ううっひどい・・」

いつものごとく僕の補佐官殿は辛辣だ。

「でも、気に入らないからといってもう変更は利かないからね。あの方には彼女に入ってもらうしかないよ」

「せやな」

魂帰りの儀式はとても複雑だ。一定期間の間に魔界へと最初に連れてきた者しか生贄になれないのだ。

諸々の事情はあるが、一番の理由は魔界の地を人間に歩かせたくないという者達が多いからだ。魔界人は変にプライドが大き過ぎて困る。


「・・・下、陛下!」

「な!び、びっくりした~どうしたの?」

「どうしたはこっちのセリフや。手は止まっとるままやし、話は中断しとるし、疲れたんやったら1分だけ休憩してもええで?」

「1分は短くない!?」

いつの間にかぼうっとしていたようだ。いけない、まだ書類が片付いていないし、パーティの準備だってある。やることは盛りだくさんだ。

しかし、今は貴重な休憩時間の短さについて講義しようと思う。だが、僕の補佐官はすでに時間を計り始めていた。早すぎるよ・・。




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