4-3 ダンスのお相手は誰だ
③
怖くなって瞑った目を恐る恐る開いてみると、いつの間にか知らない部屋の中にいた。
呆然としていたが、まだ手首を掴まれているままだと思い出し、無理やり振りほどいて後ろを振り返った。が、誘拐犯(?)の顔を見た途端に脱力してしまった。なぜなら、
「え?魔王さま・・・?」
そう私を誘拐したのは穏やかに微笑みかけている魔王さまだった。
先ほどの涙はどこへ行ったのか、とても晴れやかな笑顔で私の頭を撫でていた
「あの、どうしたの?魔王さま」
「えへへのばなちゃんが歩いてくるのが見えてね。もしかしたら僕を追ってきてくれたのかな~と思って」
「ええ!?」
「あれ?違ったかな。僕の勘違いだった?」
魔王さまの顔が一瞬にして暗く沈んだため、急いで訂正をした。
「い、いや違わないけど」
「そっか!来てくれてありがとうのばなちゃん」
暗い表情から一変して輝かしい笑顔に戻った。その後、恥ずかしいやら何やらで訳も分からないまま高そうなソファに座らされていた。いつの間にか紅茶の準備までできていたし。
「と、ところでここはどこなの?」
「ここかい?ここは僕の執務室だよ。さっきのホールからはかなり離れた場所にあるんだ」
「へぇ・・」
執務室と聞いてもの珍しさから辺りを見渡してみた。確かにあちこちに書類らしきものが散らばっている。よくよく見てみると机の上は見事に片付いているものの、その周りは足の踏み場もないほどに書類が放置されていた。
「魔王さま・・・掃除した方がいいよ、超汚い」
「え~そうかい?僕にしては結構片付いている方なんだけどなあ。いつもはソファ辺りまで散らばってて、足の踏み場がない!ってトウドウに怒られているし」
照れながら言う魔王さまだが、なぜ照れているのかがわからない。
「ソファまでってどんだけ散らかしてるの。今度から不潔さまって呼ぶよ」
「そっそれはヤダ!」
呆れた目で見ながら言えば、泣きそうになりながら床に散乱している書類を片づけていた。
「うっうっ。のばなちゃんって偶に毒吐くよね」
「偶に?自分で言うのもなんだけど、言ってないときは心の中で毒づいてるから大丈夫だよ」
「全然大丈夫じゃないよ!?」
ボケつつツッコミつつで会話をしていたが、私と魔王さまに共通の話題なんてものはなく、すぐに会話が途切れてしまった。空気が重い。
「「・・・・・」」
魔王さまは散乱している書類を一心に片づけているし、私はというと気まずくて飲み過ぎなぐらいに紅茶をガバガバ飲んでいた。後で絶対トイレに行きたくなるなコレ。
この重苦しい空気に耐えかねて意を決して話しかけた。が、
「「あの」」
はい、ハモリました~。気まずさのパラメータが上がりました~。
「あああ、の、のばなちゃんからどうぞ?」
「いえいえ魔王さまからどうぞ」
それから「いえいえ」「どうぞどうぞ」を何十回も繰り返してしまった。ヤバい、私ツッコミなのに全然ツッコめてないよ、「いつまでやってんだよ!」が出てこないよ。
「仕方ないから魔王さまから話そう。はい決定!どうぞ」
「ええ!?」
もう、うざったくなったので強引に決めた。うん、これが私だよね。
私が強引に決めてしまったため、魔王さまは恥ずかしそうにしながらもコホンと一つ咳払いをして話始めた。
「あのね、魂帰りの儀式のことなんだけど。詳しく説明していなかったなあと思って、良い機会だし今から説明をしてもいいかな?」
「う、うん」
あれ、魔王さまの中でそれはもうやるの決定なのかな。一応私としては保留でお願いしたはずなんだけど。まあ、聞くだけ聞いてみようかな、聞くだけ。
「ありがとう。あの時は省略して話していたんだけど、実は魂帰りの目的は先祖が現世の様子を見に来るのと同時に封印の儀式を行うために集まるんだ。・・・本当はこれを話すのはトウドウに止められていたんだけど、当事者はのばなちゃんだし知っておいた方がいいと思ってね」
「うん。止められてたとかはとりあえず置いといて、なに?封印?」
トウドウさんには後で詰め寄るとして、今は封印とかいう儀式の意味が知りたい。
魔王さまの説明によると、大昔に悪さをした死神を封印しているらしい。・・・死神?
「その死神は何をして封印されたの?」
「うん。元々、死神という存在は魔界の管理下ではなくて、冥界の管理下なんだよね。普通は魔界で封印するなんてことは絶対にない存在なんだけど」
冥界というのは死を司る場所らしい。その冥界の使者がなぜ封印されたのかというと、なんと、魔王さまのご先祖である前魔王様の魂を狩ってしまったらしい。
「ちょっと待ってよ、それって何か悪いの?ここ、魔界だよね?弱肉強食だよね?」
「あはは、そうだね。普通はそうなんだけど・・・・実は魂を狩られる寸前に、そこにいた4人の従者たちと逆上した前魔王が誤って封印しちゃったらしいんだよね~」
まいったね~とか笑顔で話しているが、内容はまったく笑えない。
「それ、冥界の人とかに怒られるんじゃないの?」
「それがまったく。あっちはあっちで魔王を狩ったという事実を消したかっただろうし、僕らは僕らでこれで冥界にコネができたんだし、今ではすっかり仲良しだよ」
それでいいのかと思う。封印された死神もとんだとばっちりを受けたものだ。まあ、魔王を殺したことは事実だし、同情はできないが。
後、なぜ封印なのかというと、死神は死そのものだから殺すことはできなかったんだって。
「ということで、二つの界の平穏のためにも、前魔王と従者たちの魂を降臨させて弱まっている封印を強化してもらおうというのが本当の理由なんだ~いや~言えた言えた」
「言えたじゃないよ。何、そんな嫌な計画に巻き込んでるの?そんなの聞いたら帰るに決まってるじゃん。死神なんて怖いし、てか地上の様子を見にって最初に言ってたよね?まったく違うじゃん!様子を見に来るどころかお仕事しに来てるじゃん!!プライベートじゃないじゃん!」
「・・・・・えーとちょっと落ち着いて?のばなちゃん」
ストレス(ツッコミ不足)の溜まりすぎで、ついノンストップで話してしまった。魔王さま軽く引いちゃってるし、笑い方が引きつっているが、かっこいいのでよしとしよう。
「ふー、ちょっとだけすっきりした。で、私帰っていいの?」
「ええ?そんなこと一言も言ってないよ!?」
「えーケチだなあヘタレのくせに」
「ガーン」
ああ、本音が出てしまった。さっきまでは魔王さまのお顔があまりにも眩しすぎて毒舌も5割引きだったのに、元に戻ってしまった。しかし、なんというか・・・・・この人をいじるのって楽しい。(アレ?)
それから小一時間程魔王さまをからかうのが楽しすぎて、帰る帰らないの話をすっかり忘れてしまった私であった。