4-2 ダンスのお相手は誰だ
②
「しつこいんですけどこの人ーー!!ダンス!私、ダンスを習ってたはずですよっ」
「そうやな。なら自分が止まったらええんちゃうか?」
「無理ーーーー」
全力で逃げ回り体力の限界が近づいてきた私とは違い、トウドウさんはかなり余裕らしく息もまったく乱していなかった。
しかしまったく距離が縮まらないところを見るに間違いなくこの人は楽しんでいる。
『お二人とも、部屋の中で走り回るなんてはしたないですよ!』
ホールの端の方では怒りを表しているのか、全身を赤くしてペン子が叫んでいる。が、はっきり言ってそれどころではない。怖すぎて。
「そう思うならトウドウさんを止めてよ!あっちが止まったら私だって止まるよ!」
「俺は嬢ちゃんが止まるんやったら止まるで?」
無限ループだ。いい加減体力が限界だ。だいたいペン子との幼児ダンスをした後に猛ダッシュなんてキツすぎる。
「もう無理、かくなる上は・・逃亡だ!!」
「あ、嬢ちゃ」
「へぶっ」
逃亡を図った私が扉を開けようとした瞬間、目の前の扉が勝手に開き衝突してしまった。
「入るよ~ってのばなちゃん!大丈夫!?」
「あーあ」
激痛で前が見えないが、こののっぺりとした声はまさしく魔王さまだ。
「うぅいーたーいー」
「うわわ、ごめんね。大丈夫?おでこ赤くなってるよ・・・あれ?全体が赤くなった?」
「!」
痛さが少しだけ、ほんの少しだけ和らいできたため顔を上げてみると至近距離に魔王さまの顔があった。やばい、顔から火が噴き出そう。
「どうしたの?本当に大丈夫?」
「あ、あああ、うん。大丈夫、大丈夫。全然平気っだ、だから顔が近い!!」
「うぶ」
心配しているのか、ますます近づいてきた端正なお顔を恥ずかしさのあまり両手で押し返した。やはり私はこの顔に弱いらしい。しょうがいよ、イケメンの耐性なんてついてないんだから。
最初に会ったときは、平気だった気がするんだけど、どうしたんだろうか。
「で、あんたは仕事ほったらかして何しにきとんねん」
私のおでこの手当を済ませ一息ついたところでトウドウさんが口を開いた。
「ええ!?ちゃ、ちゃんと終わらせてきたよ。のばなちゃんがダンスの練習をしているって聞いたから、何か手伝えることはないかなと思って」
「あんたが手伝うと余計に手間かかるわ。大人しく座っとき」
「ちょっとトウドウさん!?」
私のお助けマンになんということを。ここは助け舟をと思いかばうものの、トウドウさんはそれを鼻で笑って流した。
「嬢ちゃん、ええか?陛下のダンスの腕前知っとるんか?」
「確か・・・・・・・ペン子よりも実力が低いと」
「なんやわかっとるやないか!」
「がーん」
「あ、ご、ごめん魔王さま」
がははと笑うトウドウさんに対し、魔王さまは床に膝をついて泣き崩れていた。哀れ過ぎる。
「ちょっと、トウドウさんのせいで魔王さまが泣いちゃったじゃないですか!」
「いや俺だけのせいでもないやろ。トドメさしたんは嬢ちゃんやで?」
「うっ、わ、私はペン子から聞いてただけで・・事実とは知らなかったんです!!」
図星をさされ少し狼狽えてしまった。が、本当だとは思わなかったため仕方がないと思う。
「うーーっ」
しかし当の魔王さまは余計に泣き出してしまった。すると先ほどまで黙っていたペン子が前に出てきた。
そして魔王さまの背中をさすりながら話出した。
『陛下。魔界の王ともあろうお方が小娘に少し言われたぐらいで膝をつかないでくださいまし!大丈夫です。陛下は少し運動が苦手なだけで頭はいいですから!その鈍足のような足でも勉学とは一切関係ないことですから、お気になさらないでください!!』
「あ、トドメさした」
『え?』
膝をついている魔王さまの全身がプルプルと震えだした。
「うっうっ、どうせ・・どうせ僕は役立たずだよーーーーー!!!」
うわーんと盛大に泣きながら出て行ってしまった。それを見ていたトウドウさんは大爆笑し、ペン子は訳が分からないといった表情で立ち尽くしていた。
そして私はというと、その隙に別の扉からこっそりとホールを抜け出していた。
トウドウさんのお怒りは怖いが、今は出て行った魔王さまを探すことにしよう。せっかく手伝いに来てくれたのに追い返す形になってしまったし。
とりあえず魔王さまが走って行ったであろう方向に向かって歩き出した。すると、出て早々に手首に違和感を感じた。おそるおそる見てみると何もない空間から手が出てきており、その手が私の手首を掴んでいた。
「ひぃ!?」
悲鳴をあげようとしたが、一瞬にして目がくらみ空間が歪んだのがわかった。