序2-2
申し訳程度のおへそ分
「お疲れ様。またひどく怒られたね」
たかな姉ちゃんが慰めてくれる。
「私たちも通ってきた道だけど、ナツヒの場合はその『羽幡さん』って子がいるもんね……」
かずみお姉ちゃんも続けて慰めてくれる。
うちは4人家族だ。父と姉2人。母は他界していていない。
父はあのように、子供の尊厳を挫くようなお説教をするからあまり好きではない。
でも、だからと言ってぐれるわけにはいかない。
『ぐれる資格はない』と父に言われたからだ。被扶養家族が扶養主に楯突いてはいけないと思う。
長女はかずみ姉ちゃん。23歳の社会人2年目。
乾いたばかりの長い髪が艶々している。
会社員生活はつらいみたいで、姉弟3人で集まって話するときはいつも溜息ついてる。
次女はたかな姉ちゃん。20歳で大学3年生。
まだあんまり暑くないはずなのに、半袖のTシャツの裾をおへそを見せながらパタパタしている。
「……」
たかな姉ちゃんのおへそのせいで、うちの学年の『へそ女』こと羽幡さんのおへそを思い出してしまって面白くない。
もちろん、たかな姉ちゃんもこんな仕草をお父さんの前ではしないはずだ。厳しいお父さんだから。
大学生なのに黒い髪。お父さんがはっきりと禁じたわけでもないのに、きれいな黒い髪。
身長はかずみ姉ちゃんよりも、僕よりも高い。僕は学年の男子の中でもかなり身長が低い方だから仕方がない。因みにかずみ姉ちゃんは成人しているとは思えないくらい背が低い。
2人とも、地元にして日本最難関の国立大学に在学または卒業している。
そりゃそうだよね。2人ともうちの高校でずっと1位だったんだから。
僕たち向井姉弟は、うちの高校の晩年1位の秀才のはずだったんだ。それが、万年満点の天才少女・羽幡さんのせいで崩れてしまった……
僕の部屋のドアが開いた。
「ナツヒ……何をしている……」
「え、えーっと……」
「かずみ、たかな、ちょっと来なさい」
お父さんに呼ばれた姉ちゃんは、2人ともお父さんにお説教されに行ってしまった。
お説教の理由はもちろん、弟の勉強を邪魔していたということだ。
そしてその後、僕はその日2度目のお説教を受けた。