序2-1
おへそ分はありません
「お父さん、始業テストなんだけど……」
「ふむ」
「2位でした。羽幡さんがまた満点で1位でした」
「ふむ。……それで?」
「もちろん春休みはしっかり、1日平均10時間は勉強していました。でも羽幡さんに負けました。次は頑張ります」
「……それから?」
「……以上です」
気の重い報告を一通り終えて、父の前から立ち去ろうとした。
「待て」
父の声はそんなに低くない。それなのに、深く重く僕の胸に沈み込む。
「お前はまだ、父さんの言ってることがわかってないようだな」
「え、えーっと、……」
「お前はちゃんと勉強したと言ったのに試験で負けたんだぞ。負けたということは、親の顔に泥を塗ったということだろう?」
「……はい」
「だったらまず、ごめんなさいだろうが」
「……はい。ごめんなさい」
「親の顔に泥を塗って、親を裏切って、それなのにごめんなさいの一言も言えない」
「……」
「父さん、そんなに難しいことは言ってないと思うがな」
「……え?」
「まだわからんか。だからお前は馬鹿者だといつも言っているんだ」
「……はい」
「馬鹿者は自分が馬鹿者だと認めろ。親が説教してくれているなら、どうしたら自分が馬鹿者じゃなくなるのか教えてもらうこと。こうやって人間は成長していくんじゃないのか?」
「……はい。親不孝で、馬鹿者の僕が、どうしたら成長できるのか教えてください」
「簡単なことよ。父さんはいい子になれなんて一言も言ってないんだからな」
「はい」
「親を裏切るような悪い子になるな。親との約束は守れ。万一そんなことをしてしまったら親に謝れ。たったこれだけのことだぞ」
「はい。……僕は今回のテストでも、羽幡さんに負けて、お父さんとの約束を破ってしまいました。ごめんなさい」
「それで?次はどうするんだ?」
「羽幡さんに負けません。満点を目指して勉強します」
「信用できると思うか?」
「え、えーっと……」
「これで何回目だ?何回、『羽幡さんに負けません』と言った?」
「……」
これが、今日家に帰りたくなかった理由だ。
お父さんのお説教は、今日もまだまだ終わりそうにない。