序
受験勉強をモチーフにしたふりをしたへそフェチ用ラノベ。
「また2位だ……」
僕は肩を落とした。どうしても、あの人に勝てないんだ。
一学期始業テストの成績優秀者を貼り出した掲示板を、僕は幾ばくかの恨みを込めて見つめた。
1位 羽幡美癒 500点
2位 向井ナツヒ 463点
学内試験で常に満点で1位の女の子、羽幡さん。
彼女の名前の隣には、常に満点を示す500の数字が並んでいた。
ショートヘアがよく似合う、小柄で寡黙な女の子。
整った顔立ちは、笑顔を見せない。
笑ったらどれだけ可愛いんだろうな……考える男はきっと多いだろうけど、そんな想いも彼女には届かない。
女の子の友達もいないみたいで、誰かと会話しているところも見かけたことがない。
羽幡美癒さん。不思議な雰囲気の天才少女。
「おい、ナツヒ!学年2位のくせに何落ち込んでるんだ、嫌味か!」
「まーた『へそ女』が1位か……あいつは特別なんだからいい加減あきらめろよナツヒ」
僕に話しかけているのは、僕の友人の谷と風川。2人とも成績はあまり良くない。
でも僕は、僕には持つことができない魅力を持った2人を友人として慕っていた。
「女子がへそ出して説教されないんだから、成績上位者の力はすごいよなあ」
「あいつ、何でへそだけは自己主張するんだろうな」
「実は見せたいとか?」
「顔もわりと可愛いしなあ、仏頂面だけど」
「表情さえどうにかなれば、羽幡ももっと人気出るだろうけどなあ」
谷と風川が、女子には聞かせられないような下世話な会話をしている。
『へそ女』と呼ばれた羽幡さんのことを、僕はぼーっと思い浮かべていた。
彼女が『へそ女』と呼ばれる理由は、セーラー服の裾からいつも覗いている彼女のおへそにあった。
うちの学校でどんなに素行の悪い女子でも、制服をへそ出しで着こなしてはいない。
彼女は1年生のときから、そのきれいなおへそをいつも晒して過ごしていた。
可愛い女の子がおへそを出していて、そして僕はそんな彼女にいつも成績で勝てなくて、――。
「おいナツヒ、にやけるか落ち込むかどっちかにしろよ」
「……へっ!?」
「『へそ女』のへそに惚れてんじゃねえよ、全く……」
惚れてなんかないつもりなんだが、一しきり僕は谷と風川に笑われてしまった。
そんなことより、今日も家に帰るのが憂鬱で仕方がなかった――。