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恋物語の片隅で  作者: 那智
4月
9/64

これデートですか?

非常に難産でした。そもそも恋愛経験地ほぼゼロの那智に恋愛物なんて書ける筈ないんや!

いや、だったら何故書いたし俺・・・。

紫苑にショッピングモールを案内してくれと言われたのはその翌日のことだった。


「いや俺は昨日外出したばかりなんだが」


「うろ覚えになる前に教えてもらおうかなーって」


「及川といっしょにウィンドウショッピングがてら見て回ればいいじゃないか」


「美羽は天体望遠鏡が届いたからそっちの調整するって言ってたから無理なのよ」 


「ならそろそろ天文部の活動ができるな」


「うん。 だから今のうちに案内して」


話逸らせなかった。

まさか週二日の休みを両方外出に費やすことになろうとは。休ませろ。

今日は一日中部屋に引きこもって本を読む予定だったのに。

だが俺も先輩に案内を頼んだ手前ここで紫苑の案内を断るのはなんだかずるい気もしたので結局了承した。


黄野か青葉先輩も呼ぼうと思ったが遊ぶならともかく案内程度ならわざわざ呼ぶこともないだろう。

彼らも昨日は疲れていたから休ませてあげなければ。特に黄野は普段からサッカー部の活動がある。疲労をためるのはよくない。

それにしても紫苑と二人で出掛けるのも久しぶりだな。

学園に入る前はしょっちゅう二人で遊びに行ったものだが学園に入ってからはお互いに交友関係を広げるのと黄野と青葉先輩の恋路を応援するのを優先して二人で何かするようなことはなかったな。

せっかくだし久々の友人との交流を楽しむことにしよう。





「んーっ! こうやって買い物に来るなんて久しぶりっ!」


「まあ、この一ヶ月学園に缶詰だったからな」


俺は昨日外出したばかりだが。

ちなみに紫苑はたかが案内だというのにベージュのワンピースの上にカーディガンを着たわりかし気合の入った服装である。

そういえば昔ちょっとした買い物に付き合ってもらったときに紫苑が着飾ってきたことがあったな。

あの時もたかが「買い物に行くだけで着飾る必要はないだろ」と言ったのだが「男の子と違って女の子は色々きにしないといけないのよ!」と怒られてしまった。

下手に気は抜けないらしい。女性っていろいろ大変そうだ。

前世含めて俺は男でよかったとしみじみ思う。もし女に産まれていたらやっていけなかったな。これ結論。

ちなみにそんな俺の今日の服装は真っ白なTシャツと青色のズボン、そしてTシャツの上に黒いパーカーを着ている。

ぶっちゃけ部屋着+上着である。てきとーとか言うな。無駄に色気付いてなきゃ男なんてこんなもんよ。


「じゃあ純、今日はエスコートお願いね!」


「わかったわかった」


とりあえずは女性が行きそうな場所だな。

となるとやはり服か?なんとなくだが買い物に来た女性は服を見に行くイメージがある。

なら昨日緑川先輩に連れていかれた場所でいいだろ。

頭の中で即興でプランを立てると紫苑を伴い昨日行ったブティックへの道を思い出しながら歩き出す。

場所はたしか二階。ファンシーショップほどどではなかったが割と注目を浴びた覚えがある。ちくしょう。


「ねえ、最初はどこに連れてってくれるの?」


「まずはブティックでいいだろ。 女性にとって服は重要だろ?」


「うん。 わかってるじゃない、純!」


満面の笑みを浮かべる紫苑。

なにがそんなに嬉しいのかは知らんが喜んでくれているようでなによりだ。





「だから一緒に来てってば!」


「断る。 俺は店への案内をするとは言ったが店の中に付いていくとは一言も言ってない」


「さっきは来てくれたじゃない!」


「さっきとは状況が違うんだ。 諦めてくれ」


現在俺と紫苑は言い争いの真っ最中である。

いや言い争いと言うほどでもないな。ちょっとした意見の相違だ。

だがこちらとしては譲れないことなのだ。

それが何かというと―――


「なんでよー? さっきの店と大して変わらないでしょ?」


「洋服売り場と下着売り場はだいぶ違えよこのアホ」


まあこういうことである。


―――女性用下着売り場。

それは男にとって恐ろしい場所の一つである。

女性にとって下着を異性に見られるのば非常に恥ずかしいものであることは想像に固くない。

故にそれを扱う店に入り込んだ異物へと向ける目は自然と厳しくなる。

しかも男性にとってまず用の無い場所なので同じ境遇の同志がいない場合は完全なる孤立無援になってしまう。

そんな恐ろしい場所なのだ。もういっそのこと魔境と呼んでもいいだろう。

紫苑はそんな場所に俺を引きずり込もうとしているのだ。

もうね、悪魔かと。ほんと俺の精神が持たないので勘弁してください。


結局土下座も辞さない勢いでお断りし続けた結果、今回は特に用も無いらしいので勘弁してしていただけることになった。

あれちょっと待て、今回はってなんだ?次回があるのか?

・・・よし、今度紫苑と出掛けるときは他に誰か誘おう。道連れだ。

しかし紫苑のやつ何故用もない下着売り場に入ろうとしたのか。

やはりあれか?俺を魔境に引きずり込むためだけに寄ろうとしたのか?この悪魔め!


心の中で幼なじみを異端審問にかけるべきかどうか迷いながらファンシーショップやら女性向けの店を見て回る。

行く店行く店で注目されたりして非常に居辛かった。そういえば紫苑も結構目立つタイプなんだよな。

ううむ、紫苑だから気にならなかったがどうも俺は目立つタイプの人間が少し苦手かもしれない。もともと『黒田純』はそこまで注目されるタイプでもなかったしな。

割と精神をすり減らしていると紫苑からそろそろ休憩しないかという提案があった。

その意見を採用し一階にあるベンチで休むことにする。異端審問は後回しだ。

一階、ショッピングモールの中心には噴水がありその周りでは親子連れやカップルが思い思いに過ごしている。

チッ、リア充共め、と心の中で悪態を吐きながらも空いているベンチを探す。


「あ、見て! クレープ売ってるよ!」


さすが甘党、めざとい。


「ねえ純!」


「わかってる。 買うんだろ?」


「もちろん!」


ダッシュで駆け寄りそうな紫苑を押さえながらクレープの屋台の前に行く。

クレープを買うのは久しぶりだったがそのメニューの多さには少し驚いた。

バナナやチョコレート、イチゴといった王道のメニューはもちろんブルーベリーやキウイもうまそうだ。

だがびわってなんだ。パインとチョコアーモンドの間にナチュラルに書かれてて危うく噴きかけた。

あとサラダっていうのにも驚いた。クレープ=デザートという俺の固定概念が破壊される。


「なんにしよっかなー? やっぱりチョコは外せないよね!」


「すみませんイチゴクレープください」


「あっ、ちょっと待ってよ! えーと、じゃあ私はチョコバナナ!」


「はーい、まいどありー」


注文を受けてから作り始めるのはお決まりらしくクレープ屋のおばちゃんは手馴れた様子でクレープを焼き始めた。

注文を受けてから作るといってもクレープなのですぐに焼きあがる。なのでその様子を観察でもしていようかと思ったら紫苑に袖を引かれた。


「どうした紫苑」


「ねえ、あれ」


紫苑が指差した先にはジュースの屋台が。どうでもいいけどこのショッピングモール屋台が豊富だな。


「買いに行ってくるね!」


お前はクレープ焼けるまでの時間すら待てんのか。

相変わらずの行動力というか落ち着きのなさにため息を吐いているとおばちゃんが笑いながらクレープを差し出してきた。


「あっはっは! 苦労してるみたいだねえ」


「いえ慣れてますから」


「たくましいねえ。 ほら、ちょっとおまけしといたから持ってって彼女さん喜ばしてやんな」


「どうも」


クレープを受け取って紫苑のほうに歩き出し―――ふと、気づいた。


「・・・・・・ちょっと待て・・・彼女?」


とんでもない勘違いをされていた。

いやよく考えたら若い男女が二人きりで出かけるとかこれってもしかしなくてもデートじゃね?

え?なに俺攻略されてるの?もしかしなくても。

いやいやいやいや。そういうんじゃありませんから。俺と紫苑はあくまで友達。フレンド。

そういうイチャコラは黄野や青葉先輩に任せます。

つか誰に言い訳してんだか・・・。とりあえずとっととクレープ持ってってやろう。


「ほら、買ってきたぞ」


「ありがと」


紫苑はすでに飲み物買ってベンチで待機していた。その手にはジュースが二つ握られている。


「たしかりんごジュースでよかったよね」


「ああ。 っと、ほらクレープだ。 受け取れ」


「わっ、なんかクリームが溢れんばかり!」


「おばちゃんがサービスしてくれたんだ」


なぜサービスされたのかは黙っておこう。下手に意識させることもあるまい。

早速食べ始めた紫苑の横に座り俺もクレープを食べ始める。

イチゴの甘酸っぱさとクリームの甘さがちょうど良くマッチしてかなりうまい。

値段も安かったし、うん、なかなかいい店を見つけられたようだ。


「おいしーい! 今度美羽も連れてこよっと」


よく見たら紫苑のクレープ、クリームだけじゃなくてチョコソースも大量にかかっている。

もうこれデザートじゃなくて女性の敵じゃないか。カロリー的な意味で。

まあもっとすごいのはそれを躊躇いなく食べてる紫苑なわけなんだけどね。

つか見てたらなんか胸焼けしそう。でも満面の笑みでクレープを食べる紫苑はなんだかとても可愛く・・・ってなに考えてんだ俺。

とりあえず目を逸らしておこう。二つの意味で危ない。


「ねえこの後はどこ行く?」


「おい、一応案内って話だろうが。 この後は一通りぐるっと見て回って気になる店があったら入ればいい」


「それもそっか」


クレープの残りを一気に口に放り込む。それをりんごジュースで流し込むとベンチから立ち上がった。


「紫苑、食い終わったか? 食い終わったなら・・・って、うわぁ」


再び紫苑のほうをみるとなんかすごいことになっていた。

急いだからだろうか口の周りがクリームとチョコソースでべたべたになっている。女の子は~とか言ってたくせにこういうところで女子力低いから困る。


「お前口の周りクリームとチョコでべったべたになってるぞ」


「うえっ!? ゆ、油断した!」


「ほらティッシュ」


「うう・・・ありがと」


渡したティッシュで口を拭く紫苑を見ているとなんていうかさっきおばちゃんに言われたことを気にしていた自分がバカみたいに思えてきた。

百年の恋も冷める勢いである。うん、やっぱこいつはどっちかっていうと妹だな。


「口の周り拭き終わったんなら行くぞ」


「そ、その前にさっきの記憶消去して! お願いだから!」


「人の記憶っていうのはそう簡単に消したりできないんだ」


「うう・・・なんで油断しちゃったかなぁ、私のバカ!」


「ほら行くぞ」


紫苑がなにかぶつぶつ言っているのをスルーしつつショッピングモールの案内を続けることにしたのだった。

その後は特に変わったこともなくショッピングモールを見て回ってから学園に帰った。

次で4月はラストかな?

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