爆弾投下しました
今回も女の子が出ないよ!どういうことなの?
「げほっげほっ」
「ごほっ・・・い、いきなり何を・・・」
「・・・顔射とか誰得?」
何だか阿鼻叫喚なことになってしまった。
とりあえず何事かと駆け寄ってきた店員さんにタオルを要求しながら何が悪かったのかを考える。
やはり少し質問がストレート過ぎたのか?
だがまさか噴き出すとは思わなかった。思わず地が出かけたわ。
このような本が薄くなりそうなことは控えていただきたいものだ。
店員さんが持ってきてくれたタオルで水を拭きながら話を続ける。
「青葉先輩って紫苑の前だとあからさまに顔赤くするじゃないですか」
「ええっ!? そ、そうなの!?」
無自覚だったのか。
でも紫苑に会うたび同じ反応してるから意識してるのは確実か。
「そんな反応してるからもしかして、と思ったんですが」
「た、たしかに高倉さんは・・・そ、その・・・可愛いとは思うけど・・・」
「確かに高倉さん可愛いよな。 あれなら誰だって恋人にしたがるだろーな。 まったく幼なじみのお前が羨ましいよ」
「そ、そういえばそういう黒田くんはどうなの? 高倉さんのことを・・・えと、どう思ってるのさ」
話を逸らされたか。
しかし紫苑をどう思っているかねえ・・・。俺と紫苑は友人である。これは俺の中での不変の事実だ。
だが二人はその答えでは納得しないだろう。恋バナとは得てしてそういうものである。
そうだな・・・しいて言うのなら―――
「―――妹だな」
「妹?」
そう、妹だ。それが一番しっくりくる。
見た目も性格も前世でいた妹とは似ても似つかないが俺と彼女との関係はそう表すのが一番適している気がした。
黄野と青葉先輩は信じられないものを見る目で俺を見ていたが注文した料理が届くとちらちらこちらに視線を送りながらもそちらに取りかかり始めた。
俺も料理を食べ始めながら思考に埋没することにした。
会話に関しては問題ない。俺は食事中は喋らないタイプの人間なのだ。
さて、俺が何故こんな爆弾を投下したかだがちゃんと理由はある。
ぶっちゃけると二人に紫苑への想いを自覚させるためだ。
『物語』の時期を踏まえて考えると二人はまだ紫苑が気になり始めたってところだろう。5月になってからは本格的に『物語』が始まる。だが攻略対象共が紫苑への想いを明確に自覚するのは6月になってからだ。
例外として黄野は自分が紫苑に惹かれているのを自覚しているがそれだって俺がちょっかいを出したからなのだ。『物語』では一切気付いていなかったりする。
では本来5月ではどんなイベントが起こるのか?
簡単に言うと『なんだかあいつのことが気になる・・・なんなんだこの気持ちは・・・』って感じのイベントが5月の間延々と続く。
俺的にこれは大変よろしくない。
プレイヤーとして見るなら少しずつ攻略対象共が主人公に惹かれていく描写を楽しめるのだろうがこちらとらその場に居合わせる当事者である。
しかもある程度は『物語』の知識で何考えているかはわかっているのだ。
焦れったいことこの上ない。乙女かお前ら。
それをやって違和感がないのは百歩譲って青葉先輩だけだろう。
というかやっていいのは女性か青葉先輩のような性格の人間だけだ。
ただでさえ想いを自覚してからもよくわからん葛藤があったりするのにこの時期からそんなギスギスした雰囲気になれば俺の胃がもたない。
誰かが紫苑と恋仲になるのが先か、俺の胃に穴が開くのが先か。そんなチキンレースをする気は毛頭無いのだ。
なので早々に想いを自覚させ『イベント』を早める。
そうすれば二人のアプローチも早まり同時に紫苑の目が俺に向くことも避けられるだろう。
もしこの場に妹が――いや『物語』を知る人がいれば「こんなことをして『物語』が破綻しないのか」と聞かれることだろう。
だが先ほど言ったようにここはあくまで『物語』ではなく現実である。少なくとも俺やこの世界の住人たちにとってはだが。
だが同時に現実であるが『物語』でもあるのだ。
実を言うと俺は何度か『物語』から逃げ出そうとしたことがある。
高校の願書を星原学園以外に送ったのもその一環である。
だが結果は知ってのとおり失敗している。
それ以前にも何度か試していたがそのいずれも失敗だった。
だが成功したものもある。
―――それは俺が紫苑の友人になれたことだ。
『物語』では黒田純は紫苑と距離を置いた。
だが俺は紫苑と距離を置かず友人というポジションを得た。
ここが『物語』そのものであったならば許されることではなかっただろう。
もし許されなかったならば学園に入る前に俺と紫苑の仲は破綻していたはずなのだ。
これらのことからこの世界の一種の法則に気付くことができた。
どうやら例の見えざる手(ある種の物語の修正力だと俺は思っている)は『物語』の大筋さえ変わらないならある程度の変化は見逃してくれるらしい。
そのことを考えると今まではほとんど『物語』通りに進んでいるがこれからもそうとは限らない。
なので俺はわざわざ青葉先輩が天文部に入るようにしたのだ。
そうすることによって万が一紫苑が生徒会に入らなかったとしても俺のルートに入ることだけは避けられるかもしれない。
俺自身にはここがどのような世界なのか知る方法がない以上対策は万全にしておく必要がある。
いや実を言うと黄野と青葉先輩が天文部に入ったのはどっちも偶然に近いんだけどね。
黄野に関しては紫苑があのタイミングで話しかけてこなければ無理だったかもしれない。
俺は黄野はサッカー部であることを知っていたため兼部という発想すらなかっただろう。
青葉先輩にしてもそうだろう。
偶然青葉先輩のイベントに俺が遭遇しなければこうして青葉先輩と仲良くなることもなかった。
こうして考えるとすでに『物語』との相違点が多いな。というか俺行き当たりばったり過ぎだろ。
こんなんでこれから先大丈夫だろうか。
それはそうと俺が黄野と青葉先輩に紫苑への想いを自覚させようとした理由だが他にもある。
ぶっちゃけ紫苑の恋人になるのはこの二人のどちらかがいいなー、という俺の個人的な願望である。
もちろん誰を選ぶかを決めるのは紫苑だが俺も人の子。友人の恋路を応援したいのだ。
というか例の生徒会長以外だったら誰でもいいのだが。
正直あの人は苦手だ。
たとえ更生したとしてもどうにもかつてのイメージが付きまとって上手くやっていけないのではという不安もある。
え?なら関わらなければいいだろうって?
いや俺の家と紫苑の家は隣同士だぞ?もし生徒会長が紫苑とくっついたら嫌でも関わることになるわ。
そういえば俺まだ攻略対象全員と会ってないんだよな。
見たことはあるのが二人。見たこともないのが一人だ。
まあ接点がないので当然といえば当然であるのだが紫苑がちゃんと『イベント』をこなしているか心配なのだ。いやまあ大丈夫だとは思うけどね。
もともと年がら年中いっしょにいるわけじゃないし、いちいち気にしていても仕方がないしな。
そんなことを考えているうちにドリアを食べ終わってしまった。
黄野と青葉先輩はまた食べ終わっていないがあと少しといったところだ。
その時である。
「あれ? 青葉じゃん」
「あ・・・緑川くん・・・」
前にチラッとだけ見たことがある『緑川優』が青葉先輩に声をかけてきた。
生徒会の繋がりだろうか。とりあえずボッチじゃなかったんですね青葉先輩。
「へぇ、珍しく仕事を早く終わらせてると思ったら外出するためだったんだ。 こいつらは?」
「えと・・・と、友達の黒田くんと黄野くん・・・」
先輩自信持ってください!俺達友達ですから!
「青葉って俺以外に友達いたんだ。 いっつも一人だから心配してたんだけど要らぬお世話だったかな? そんで、えーっと、君達一年?」
「はい。 黒田純です」
「黄野大介っす」
「そっか。 俺は緑川優。 俺が言えた義理じゃないけど青葉と仲良くしてやってくれよ」
「もちろんですけど・・・緑川先輩は青葉先輩とは?」
「うーん、青葉といるのも別に嫌ってわけじゃないんたけど・・・」
「緑川くん、ナンパが趣味だから・・・」
ああ、青葉先輩恥ずかしくていっしょにいられないんですね。
まあ、女の子といっしょに~なんてできる性格じゃないですしね。
「それはともかく青葉たちはこれからどうするんだ?」
「えっと・・・この後はここを一通り見て回ってみようかと思ってるよ」
ほんとは最初に見て回るつもりだったんだけどね。
黄野が暴走したから・・・。
「なら俺も一緒に行ってもいい? ちょっと買いたいものあるんだよ」
「ぼ、僕はいいけど・・・黒田くん達は・・・いいかな?」
「いいですよ。 大勢のほうが楽しそうですし」
「俺もいいっすよ」
こうして緑川先輩を新たに加えた俺達はショッピングモール探索にむかうのだった。
あ、お会計はちゃんと済ませたよ?
「つ、疲れたね・・・」
「主に精神的にですけど」
ショッピングモールを一通り見て回った俺達は疲れきっていた。(緑川先輩除く)
何故なら緑川先輩ってば「女の子へのプレゼントを買いたいんだ」とか言ってファンシーショップに迷いなく入っていったからだ。
それだけならまだしも何故か俺達も店内に入ることになって・・・ああ、視線が痛かった・・・。
そりゃそうだよね。こちらとら全員乙女ゲームの攻略対象だ。
俺と黄野、青葉先輩は目立つタイプじゃないから気にならなかったけど緑川先輩は目立つタイプ。自然と注目を浴びてしまうのだ。
そんなイケメン共が複数ファンシーショップに入ってきたらそら目立つわな。
青葉先輩なんて注目されたせいで顔がゆでダコみたいに真っ赤になってたし。
久々に自分が一応イケメンだってこと自覚した。まあ、モテはしないんですけどね。
もしモテるためには緑川先輩みたいなことしなければならないのなら俺はもうモテなくていい。
そう考えてしまうほどに好奇の視線を浴びるのは辛かった。
俺もう街中で芸能人見つけてもスルーする。絶対騒いだりしない。
彼らはさっきの俺達以上の視線を浴びてるのだ。俺だったら耐えられない。
だからそっとしておいてあげるんだ。
「悪かったな、付き合わせて」
「いえ・・・」
精神的な疲労が大きい以外は問題なかったですから。
「いやー疲れたなあ。 あんなにじろじろ見られんのは試合中だってないぜ」
「ま、俺は自然に女の子の視線を集めちまうからな。 それにお前らも俺には及ばないけどカッコイイし。
黒田、黄野。 今度一緒にナンパでもしないか? お前らとならより上手くいきそうだ」
「いえナンパはちょっと・・・」
「俺もそういうのは勘弁してほしいっすよ・・・」
「なんだもったいない・・・」
もったいないってなんだよ・・・。
そもそも知らない女性に声かけられるほどコミュ力高くないし。
「じゃ俺はこの辺でそろそろ・・・」
「あれ? 緑川くん・・・どこかいくの?」
「ああ、もう一勝負してくるよ」
ナンパか。
頑張るなぁ・・・趣味っていうのは伊達じゃないんですね。
「俺達は帰るか」
「そうすっか」
「・・・そうだね。 僕疲れちゃった・・・」
初めての外出は少々予定外なことも多かったが楽しかったと言えた。
また行きたいなとは思うけど・・・やはり注目されるのは好きではないな。
つ、次は女の子出すよ!これジャンル一応恋愛だからね!