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恋物語の片隅で  作者: 那智
4月
7/64

男同士の友情を深めます

今回は女の子出てきません。恋愛小説なのにね!

前にも言ったとおりこの学園は全寮制である。それ故必然的に生徒達の生活の場は学園内に限られる。中にはその環境に不満を持つ生徒も多い。

そのため学園内には量がある上にうまいと評判な飯が食える食堂や学校で必要なものはなんでも揃う購買が完備されている。

さらに広い学園の敷地の中には憩いの広場(大きめの公園ぐらいの大きさがあって芝生が敷いてある)があるので閉鎖感に悩まされることもない。

だが、それでもいつも学園の中にだけにいては気が滅入ってしまう人もいるのだ。

星原学園ではそういう生徒たちのために休日は自由に外出することが許可されている。

門限は厳しいが品行方正な進学校を目指す学園としては外出を制限せず生徒の自由にさせると言うのは珍しい気がする。

現に世の中には生徒の外出を一切許可していないところもあるらしい。

まあそんな純粋培養で社会に出てからやっていけるのかどうか疑問なのだが。


それはともかく何故急にこんな話をしたかと言うと今度外出をすることになったからにほかならない。

なぜそうなったかといえば発端は黄野の一言だった。


「なあ黒田ぁ・・・」


「なんだ?」


「俺・・・ゲーセンに行きたいんだ・・・」


「勝手に行ってこい」


つか何故それを俺に言う。


「冷たくないか!? 俺達友達だろ!?」


「いや俺にどうしろと」


「だからよ今度の休み、一緒に外出しないか?」


外出か。たしかに入学してから今まで学園に慣れることを優先してたから学外のことは今まで気にする余裕もなかった。

そろそろ学園での生活にも慣れてきたしこの辺の店とかも知っておきたい。


「わかった。行くか」


「そうこなくっちゃな!」


喜ぶ黄野を見ているとふとある疑問が浮かんだ。


「そういえばお前、ゲーセンの場所知ってるのか?」


「あ・・・知らねえ。 黒田は?」


「知ってるわけがないだろう」


「だよなぁ・・・一から探してたら時間掛かるよなぁ」


俺は街を見て回れればいいけど黄野は久しぶりのゲーセンを存分に楽しみたいのだろう。

つまりところ早くゲーセンを見つけられればいいのだが見つけられる保証もない。

ならどうするか・・・。


「そうだ。 青葉先輩に案内を頼めばいいんじゃないか?」


「そうか! 先輩二年だもんな! でも先輩って外出とかすんのかな?」


「するだろさすがに・・・」


嫌なことを言うなこいつ。でも青葉先輩のキャラ的に否定しきれないところがつらい。

まぁ大丈夫だろうけど・・・。あれ?でも『物語』では青葉先輩だけ外出イベントがなかったような・・・。

いや!本人に聞かないで決め付けるのはイクナイ!インドア派でも外出ぐらいするはずさ!

事の真偽を確かめるために(ついでに案内を頼むために)黄野を連れて2年の教室に向かった。





「青葉先輩、俺達今度の休みに外出しようと思っているんですがこの辺を案内してくれませんか?」


「うん・・・僕でいいなら案内するよ」


よかった。最悪の展開は避けられた。

もしこれで外出したことないとかいったら涙を禁じえなかった。


「ありがとうございます」


「やりぃ! なあ先輩、この辺にゲーセンとかないっすかね?」


「えっと・・・一応あるよ・・・僕は行ったことないけど」


「なら一緒に行きましょうよ! 俺がいろいろ教えますんで!」


「あ・・・うん」


うれしそうに青葉先輩に話しかける黄野とそれにどもりながら返事をしている青葉先輩を見ながら思う。

よくよく考えたらこれはいい機会ではなかろうか。

『物語』では当然のことだが紫苑との関係ばかりが描写されて攻略対象同士で遊んだりなんていうイベントはなかった。

だから紫苑がいないときに彼らがどんな風に過ごしているかには多少興味があった。

いわゆる『物語』の裏側というやつだ。

それに男同士の絆を深めるいい機会でもある。

天文部のほうは何でも宅配ミスで天体望遠鏡が届くのが遅れているらしいので未だに活動していない。

ならその前に男同士で遊んで遠慮とかそういうのを取り払っておくべきだろう。

特に青葉先輩は俺たちと違い唯一の二年生。いろいろ気まずかったりするのだろう。

それを払拭するいい機会だ。存分に楽しませてもらおう。





――――そして休日。

俺たちは青葉先輩の案内でショッピングモールに来ていた。

ショッピングモールとは様々な小売店舗が入居している商業施設のことだ。

小売店舗のほかにもファーストフード店やファミレス、さらには美容院まであったりするまさしく『もうお前だけでいいだろ』的な施設。

また、海外のゾンビ映画でよく登場し生存者達が立てこもる場所としても有名だ。

さて、そんなショッピングモールであるが幸いにも黄野が求めるゲームセンターも備わっていた。

そのせいで来て早々ゲームセンターを発見するとただ川が流れるがごとし勢いで突入した黄野を追いかけるハメになったのだが。


「黄野待てよ! 青葉先輩がまずいことになってる!」


「は、走ら・・・なくても・・・」


こっちにはインドア派もいるんですよ!?少しは自重してください!

と、いう心の中での叫びは黄野にとってどこ吹く風である。まあ所詮心の中での叫びだからね。聞こえないんじゃしょうがないね。


「おーい、これやろうぜ!」


黄野の目の前にあるのはゲーセンにおける定番、ガンシューティングの機体だ。

たしかあのゲームは次々と出てくるゾンビを片っ端から売っていくゲームだったはず。

初心者には難しい銃の切り替えの無く、弾切れになっても引き金を引くだけでリロードされる親切仕様。

しかも敵に囲まれたときなどの緊急回避用の手榴弾まであるというまさに初心者向けの仕様である。

黄野はすでにゲーム機体に繋がれている銃を持ち、台に100円玉を並べている。

まさに臨戦態勢。というかガチでやる気満々じゃないか。

『物語』では描写されなかった友人の趣味に感心しているとその友人はもう一丁の銃を青葉先輩に渡していた。


「いきなりか?」


「ああ、俺説明下手だしいろいろ説明するよりやってもらいながら教えたほうがやりやすいからな」


「え、えと・・・これをどうすれば・・・」


「あー、とりあえずゲームが始まったらそれを画面に向けて引き金を引けばいいんすよ。 ま、実際やってみたほうが早いっすよ」


そう言うと黄野は早速コインを二枚、機体に投入した。

その途端、画面に『GAME START』の文字が現れ、数秒のデモのあと画面に敵であるゾンビが現れ始めた。


「わわわわっ! で、出た!?」


「青葉先輩、慌てすぎですよ。 とりあえず画面に銃向けて引き金引きましょう」


「こ、こう?」


正気に戻った青葉先輩は画面の中のゾンビを撃ち始めた。

狙いもまともについてなかったがプレイヤーに近づいてきて当たる範囲が広くなっていたゾンビに数発当たった。そのゾンビはうめき声を上げ倒れた。


「や、やった!」


「先輩まだ一匹倒しただけっすよ!すぐ次が来ます!」


「それよりリロードしてください。 弾倉が空です」


「わ、わかった・・・って、うわっ!」


会話に気をとられていた隙にゾンビの攻撃を受けた青葉先輩のキャラのライフが減ってしまった。

慌てて青葉先輩は引き金を引いたが俺が言ったとおり弾倉は空。

ゾンビはリロード中にもバシバシと殴ってくるのでみるみるうちにライフが減っていく。

黄野のフォローも間に合わずにあえなくゲームオーバーになってしまった。

まあ初心者にありがちなミスである。


「あ・・・やられちゃった・・・」


この世の終わりみたいな声を出す青葉先輩。ちょっと大げさじゃね?


「どんまいっす先輩。 最初はこんなもんですって」


「そ、そうなの・・・?」


「そうっすよ。 それにこういうゲームはその場でコンティニューできるんすよ」


まさに地獄の沙汰も金次第。

つまり金さえあれば誰でもクリアできると言うわけだ。

初心者には優しいがお財布にはやさしくない。それがゲーセンである。(偏見)


「あ、そうだ。 次黒田入れよ。 ミスするたび交代にするから」


「わかった」


次は青葉先輩に代わり俺が銃をとる。

すでにお金は黄野がいれてたのですぐ画面を撃ちゲームに復帰すると、画面のゾンビに向けて引き金を引いた。

それからは三人でにぎやかにガンシューティングを楽しむ。


「黄野うまいな」


「中学ん時は友達とやりまくってたんだぞ。 これぐらい当然さ」


「すごいね・・・」


経験者かつ熟練者である黄野を中心にして俺と青葉先輩が入れ換わりながらプレイすることにより順調にステージを進めていく。


「ちょ、ちょっと・・・一つ目の巨人がでてきたよ!?」


「サイクロプスか? もしかしてボスなんじゃないかこれ?」


「このステージのボスっすよ、先輩! そいつは下顎が弱点っすからそこ狙ってください」


「え? あ、うん!」


「サイクロプスなのに目が弱点じゃないのか」


なお、ほとんど敵を倒したのは黄野だったりする。

これだけ上手いのに『物語』に描写されていなかったのは女性がゲーセンに行くことが少ないからか?


「またやられたか。 じゃあ次、青葉先輩どうぞ」


「あ、ありがと。 ところでさ・・・黄野くん今まで一度もミスしてないんだけど・・・」


「ここまで上手いとは思いませんでしたね」


「へへっ、すげーだろ!」


やはり女性にとっては男とデートするならゲームセンター行くより服を買いに行ったりするほうがいいのだろう。

黄野のようにゲーセン好きだったとしても『物語』ではその辺が考慮され描写されなかったのかもしれない。

乙女ゲームは女性が楽しむためのゲームである。

だから『物語』では女性にとって反響が薄そうな男性の趣味はとことん省いていたのではないだろうか。

こうして彼らの『物語』では見ることのなかった一面を見るとやはりここは『物語』ではなく現実なんだなと改めて思った。


紫苑に関してもそうだ。

『物語』の主人公である紫苑の性格はプレイヤーが選ぶ選択肢によってによってある程度変化する。

妹曰く原作ゲームの魅力のひとつとして多彩な選択肢とそれによって変化する主人公の性格であるという。

なんでも『物語』に関わる選択肢以外にも選択肢はたくさんあり、例えば攻略対象に声をかけるシーンで『どのように声をかけるか』という選択肢が出たりする。

その選択肢でプレイヤー自身がするであろうセリフを選べば主人公はその通りのセリフを言い、それによって性格が若干変化するのだ。

人懐っこそうなセリフを選び続ければば人懐っこい性格に、そっけないセリフを選び続ければそっけない性格に、と言う感じにだ。

より主人公に感情移入させるための手段なのだろう。また、そういうのがめんどくさい人のために性格変化の選択肢はon/off可能である。

至れり尽くせりとはこのことか。スタッフがんばりすぎだろ。

ちなみに現在の紫苑の性格は『物語』のデフォルトの性格+αだ。





たっぷりとゲーセンで遊んだ後はショッピングモール内のファミレスで昼食を取ることになった。

ボックス席に案内され黄野はカレー、青葉先輩はハンバーグランチ、俺はドリアを注文した。何故ドリアかって?安かったからだよ。

とりあえず俺の目論見どおり青葉先輩はだいぶ俺たちに対する遠慮が消えた。

これはいいことだ。なにより必要以上にどもることも無くなったので会話が円滑になった。


「あ、そういえば―――」


そんなことを考えているときだった。

みんなでお冷を飲みながら料理を待っていると、ふと確認しておくべきことを思い出したのだ。


「どうしたの? 黒田君」


青葉先輩が水を飲みながら俺の呟きに反応する。

ちょうどいい機会だ。聞いてしまおう。


「あの、青葉先輩って紫苑のこと好きなんですか?」


その結果、青葉先輩、ついでに黄野の噴出した水が俺に着弾することとなった。


黒田君、爆弾投下。



今回の登場人物


■黒田純 くろだ じゅん

質問がやたらストレート。


■黄野大介 きの だいすけ

『物語』では描写されていなかったがガンシューティングが得意。


■青葉奏 あおば かなで

実は生徒会の仕事があったが学園生活で初めて遊びに誘われたので気合で終わらせた。

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