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恋物語の片隅で  作者: 那智
合宿
61/64

気分転換といきましょう

何年ぶりかな?だいたい一年と八ヶ月ぶりだな。

合宿も折り返し地点となった明くる日、洋風の造りの部屋に朝日が差し込む中パラパラと本を捲る音だけが静かに聞こえる。


まあ捲ってるの俺だけども。

え?バカンスに来といてなんで部屋で本を読んでるんだって?

いやいや落ち着け。そもそも本なら海でも読める。俺はただ心を慰めているだけなのである。

うん、実は小鳥遊先輩に背中を押されたこともあり及川を天体観測に誘ってみたのだが断られてしまったのだ。わりとショックである。

そんなわけでしょんぼりしてるのである。そして現実逃避を兼ねて本を読むことにしたのだ。

ちなみに読んでいる本のタイトルは『三人のオセロ』。

密室に閉じ込められてしまった三人が唯一暇潰しができるオセロの使用権を巡って心理戦を繰り広げるサスペンスである。交代でやれよ。

中盤で残念ながら中弛みしがちでバックギャモンが出てきた時はどうなるかと思ったが結局それも二人プレイ用だから何の意味もなかったし文字数稼ぎかな?と思わせるものも多かった。

しかしまさか終盤で人狼をやろうと提案した芹澤がまさか・・・む?ノックだ。誰だ俺の現実逃避式脳内レビューを邪魔するのは。紫苑か?いやあいつはノックとかしねえな。ノーノックで入ってくる。風呂の時のように。


「中にいるから入ってどうぞ」

「お、おじゃまするね・・・」


おや、まさかの青葉先輩。なんで後輩の部屋訪ねるのにおどおどしてるの?


「青葉先輩でしたか。 どうしました?」


ひとまず読んでいた本を脇に置いて青葉先輩をもてなすか。


「え、えと、実はね、黒田くんにお願いがあるんだけど・・・」

「お願い、ですか? 青葉先輩の頼みだったら引き受けますけど。 お世話になってますし」


そうでなくともコミュ症の青葉先輩が珍しくお願いに来てるのだ。そのお願いを断らないわけがない。


「あ、ありがとう・・・それでね、こ、これなんだけど・・・」


そう言って青葉先輩が取り出したのは一冊の小冊子であった。

なにこれ?島のガイドブック?いやこの島私有地でしょ?なんでこんなもん・・・え?これ白波先輩ん家の人が作ったんですか?何故に作ったし。誰か趣味人がいるのかな?

そんな疑問を飲み込んで青葉先輩が開いたページを覗きこんだ。




そんなわけで俺と青葉先輩は島の奥の方にある原生林に来たのである。この島だいたいなんでもあるな。海だけでなく地上の大自然も完備かよ。


「それでここを行った先に例の大樹があるんですね」

「・・・う、うん」


さて、どういう経緯かというとあの時青葉先輩が見せてきた小冊子に載っていたこの島にあるという大樹を見に行こうという話になったのである。

きっとどこぞの自然遺産と同じノリなんだろう。まあ知名度はともかく小冊子な書かれていたような見事な大木なら見る価値はあるんではないか。

それに今まで海ばっかだったから山というのも悪くない。山ってか森だけど。


「しかし俺と青葉先輩以外来れないとは・・・」

「え、えと・・・ざ、残念だったね・・・」

「まあみんな完全に海モードですからね。 山に行けるような服持ってる奴もいなかったですし」


黄野やら紫苑たちは今日も今日とて海に行ってるだろう。泳ぐだけなのによく飽きないな。

そもそも俺たちが着てるのだって借り物である。だって夏なのに長袖長ズボンとか持ってくるわけないし。

というか本当になんでもあるなこの家。やはり金持ちは違うな。普通にレジャー施設でやっていけるでしょ。


「そ、それじゃ行こっか・・・」

「そうですね。 なんやかんや一時間ちょいかかるみたいですから気を付けていきましょうか」


そんな感じで始まった原生林ハイキングであるがこれがなかなか楽しい。

不安だった大樹までの道のりはある程度の整備がされているので迷いようがないので安心だ。

道中では博物館とかでしか見ることがないような植物や虫、小動物なんかがいて飽きないで楽しめている。ちょっとした探検隊気分だ。

青葉先輩も早くも汗を流してるけど楽しんでるみたいだ。虫が出てくるたびに小さく悲鳴あげてるけど。


「足元気を付けてくださいね。 この辺少しばかし荒れているので」

「う、うん」


さすがに道が完璧に整備されてるわけではなかったので楽な道ではなかったけれども特に問題もなく、時には青葉先輩に手を貸しながら進んでいった。




大体一時間半くらいだろうか。それくらいしてようやく目的の大樹に着いた。道中俺が2回、青葉先輩が7回転んだりもしたけれど損害は軽微である。

しかしなかなか険しい道のりだった。青葉先輩は滝のように汗を流してて俺もそれなりに汗をかいていた。


「ふー、大丈夫ですか青葉先輩。 水飲みます?」

「・・・う、うん。あ、 あり・・・がと・・・」


息も絶え絶えで青葉先輩に水筒を渡して俺は周りの景色を眺めることにする。木ばっかりだ。

あ、俺が青葉先輩の分の水を持っていたのは別に青葉先輩の水分摂取量を制限するためではない。青葉先輩が水筒の重さに耐えきれずリタイアしそうだったので代わりに持ってあげたのだ。

ぐびぐびと水を飲む青葉先輩に感謝の言葉を告げた。


「ありがとうございます青葉先輩」

「・・・え」

「俺が落ち込んでたから気分転換に連れ出してくれたんでしょう? わざわざみんなと別行動するようにしてまで」

「・・・う、うん。 ばれちゃってた・・・?」

「完全インドア派の青葉先輩が一人で誘って来た時点でなんとなくは」


引きこもり予備軍の青葉先輩がハイキングに誘ってくる時点であれ?と思ったのだ。証拠として現時点で青葉先輩の体力は尽きてしまってるからね!帰りどうするの?

それに今までの付き合いで一切そういう趣味がある様子もなかったからなんかあるのかなと思ったのだ。


「く、黒田くん昨日のご飯の時に元気なかったから・・・なにかできないかなって思って・・・あ、あはは、結局僕自身が迷惑かけちゃったからあんまり気は晴れなかったかもしれないけど・・・」

「いいえ青葉先輩、その気持ちが一番うれしいんです。 俺、ここに来て良かったです」


今の俺は胸を張って言える。

良い先輩に恵まれた、と。


しかし引込み思案の青葉先輩にここまで気を使わせてしまうとはちょっと落ち込みすぎてたかもしれない。

せっかく青葉先輩が元気付けてくれたんだしへこたれずに頑張ってみるかね。

しかし・・・青葉先輩まだ肩で息してるけど帰りの体力あるんだろうか。ないだろうな。最悪背負うことにしよう。




結局途中からおんぶして帰った。

いやー、ハイキングのおかげでいい感じに疲労したからお風呂がとても気持ち良かった。

ルンルン気分で部屋に戻ってきたわけだがどうやら風呂に行く前とあとで部屋の様子が変わっているようだ。ミステリの予感!

まあ目の前のテーブルの上に見慣れぬ手紙が置いてあるので十中八九それだろうけど。ミステリ終わり。

えーと、おや月宮さんからだ。なになに?『今夜11時にこちらの部屋でお待ちしております』か。うわ、この館の地図が同封されてる。

洋館のマップとかゲーム以外で初めて見た。こうしてみると広いなおい。白波先輩マジお金持ち。


にしても何用だろうか。なにか相談でもあるのかね?

なんにせよ、今日はまだ休めそうにないな。つら。


本当は正月特別編として昔読みたいって言われた覚えがある修羅場ルート書こうと思ったけど時系列が合宿後なのでやめて本編書きました。

修羅場ルートは合宿終わったら書きます。

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