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恋物語の片隅で  作者: 那智
合宿
59/64

時には愚痴も大事です

久しぶりに二か月かからずに更新。

このままの勢いで行きたいですね。

翌日俺たちは白波家所有のプライベートビーチに向かっていた。バスで。どういうことなの?ここ観光地とかじゃないよね?

なんでもこのバスは一族が集まることが多いこの島での移動を楽にするべく買ったものらしい。

普通の車じゃダメなのかと思ったのだが人数が多いと普通の車じゃ乗りきれなくなるし全員が乗れるだけの車となると数が多くなる。だったら全員乗れるバスを用意したほうがいろいろ手間が省けるというわけだそうだ。

そんな白波家やその一族の事情は置いとくとしてバス移動というのはなかなか快適である。なにせ全員で十二人もいるのだ。車だったら絶対狭い。


前回と違うところがあるとすればメンバーに月宮さんがいる。仲間外れはは良くないということで同行したのだ。

そんなわけもあり自然と男子グループ女子グループで分かれている。それもバスの前と後でとしっかり分かれている。

女性陣がわいわいと月宮さんを囲んでバスの奥に座って、奥に行く勇気のない男性陣が前の方に集まった結果こうなった。

まあ女性同士なら仲良くなりやすいだろうし、たまには男だけでわいわいやるのも悪くない。

でもなんで海行くってのに月宮さん着物姿なの?そんなんじゃ遊べないし脱ぐにも大変だしそもそも暑いだろうに。

まあその辺俺が気にしてもしかたがない。それよりもここぞとばかりに白波先輩とお喋りである。


「ていうかあるんですねビーチ。 海水浴やレジャーには適さない島と聞いていたのでそういうのはないと思ってたんですが」


「あくまで一般に開放できる規模の場所がないというだけなんですよ。 実際に危険な場所もありますし。 でも今から向かう場所なら少人数なら十分楽しめる広さがありますよ。 もっとも屋台や海の家はありませんが」


「さすがにそこまでは求めてませんよ。 むしろ荷物の番をしないでいいなら気が楽です」


荷物番しながらだと本に集中できなかったからな。

そんな感じで喋っていると白波先輩が僅かに声を潜めた。


「それでどうですか? 例の件は」


その言い方はヤバイ会話に聞こえますぜ。


「それなり、といったところでしょうか。 包み隠さず言えば白波先輩がはっきりすればすぐに解決する問題もありますけど」


俺の言葉に対して白波先輩は曖昧な笑みを浮かべる。ああ、なんとなく察せたけどそれじゃいけないんだよな。


「ま、とにかくあとで白波先輩にもじっくり話聞かせてもらいますから」


「ええ、覚悟しておきますよ」


いや別に尋問するわけじゃないからそんな覚悟とかはいらないですよ?



それからみんなでわいわいしながら三十分ほどバスに揺られて海岸に到着した、のだが……思っていたよりも広い。

たしかに一般向け開放はできるほどの広さはないけど脱衣所あるしシャワーあるしでこれがプライベートビーチの本気かと戦慄が走る。

さて、そんなわけでこれだけの広さがあれば海で泳ぐもよし砂浜で遊ぶもよしビーチバレーにビーチフラッグだってできる。てか海辺でできる遊びはだいたいできるだろう。

え?じゃあその手の本はなんだって?うん、まあ過ごし方は人それぞれだし……。

しかし俺は読書タイムに入ることはできなかった。

なぜなら黄野やら紫苑やらからせっかくの海なのだから読書よりも遊べとお達しが来たからである。もっともである。

じゃあ何をするかね。


「黒田! むこうの島まで一泳ぎしないか!」


そんな体力ねえよ。つか海では泳がないって言っただろう。この海嫌いTシャツが目に入らんか。


「それよりも純! 今度こそビーチバレーやろ!」


それは俺が魔球しか打てないと知っての発言だよな?ゲームにならないからな?敗北確定というかなんですが。

そんでもってなんで「どっちにするの?」的な雰囲気になってるの?選択肢を増やしてお願い。

他の人に助けを求めて視線を向けたが露骨に視線を逸らされるか苦笑を返される。救いがないだと。


「では私と釣りでもいたしませんか?」


ひょっこりと会話に加わってきた月宮さんが救いをもたらしてきた。

しかも釣りというのはいいかもしれない。釣り糸垂らしてのんびり……あらやだ素敵やん。はいそこ本読んでんのとあんま変わんないとか言わない。


「釣りですか。 そういえばやったことないです」


「ふふ、ではこの機会にぜひ」


というわけで釣りをすることにした。

二人の案は今回は見送られましたので次の機会にお越しください。


「まあ、本ばっか読んでるよりかはいいか。 じゃあたくさん釣ってこいよ!」


初心者には厳しい気がする。ビギナーズラックに期待か。


「もう! 最近純付き合い悪い! 今度は私と遊んでよね」


だったら球技やめろや。それ以外だったら付き合うから。

と、そこでなにか言いたげな及川が視界に入った。


「及川もやるか?」


「え……」


「歓迎しますわよ。 釣竿はまだありますしどうでしょう」


「えっと、私は……いい、です」


あら断られた。しかしまあやらないってなら無理に勧めることもないよな。

そんなわけで釣竿持って魚を入れる用のバケツも持った。いざ出発である。


「…………」


なんか視線感じるんだけどなんぞや。




歩いて五分ぐらいだろうか。月宮さんの案内で釣り場に到着した。

釣り場といっても特になにかがあるわけではない。なんでも月宮さんのおすすめスポットらしい。


「大丈夫? ちゃんと虫つけれる?」


「いえ、大丈夫ですから……」


キモいけどまあこの程度なら。魚釣りは初めてだけど幼少時に虫取りなんかはやってるのだ。


釣糸を垂らしながらだらだらとお喋りタイム。たまに魚が釣れる以外はのんびりした時間が流れる。あ、大丈夫です。自分で針外せますんで。

まあそんなわけで雑談ついでに月宮さん家の事情やら愚痴やらをいろいろ聞いたんだがこの人の家も白波先輩とは違ったベクトルで別世界である。

実家が武家ってマジ?未だにあるんだねそういう家。あれかな?日本刀とか飾ってたりするのかな?



あるそうです日本刀。ついでに槍や薙刀なんかも。武家屋敷怖い。

それはともかくこうして月宮さんと話しているうちになんとなくわかったことがある。

例えば素の性格はかなり明るいってこと、それからけっこう強気なところもあるってこと。

なにより月宮さんは構いたがり―――というかお姉さん気質である。さっきからやたら手伝いたがることからもそれは明らかだ。


そのことから考えると『物語』において白波先輩が紫苑を選んだ理由もわかる。


なんというか相性が悪いのだ。

月宮さんは世話好きで何かをやってあげたい、手伝ってあげたいという願望が強い。

だけど白波先輩は完璧超人。基本的になんでもできる、所謂一人で生きていける人である。

しかし好きなことがやれないというのは地味にストレスになるのだ。それが将来隣に立つかも知れない人に対してであるならなおさら。

現に月宮さんは白波先輩が自分に頼ったり話をしてくれないことに不満を抱いているし、白波先輩はなんでもできるが故に月宮さんの不満を察しているがどうすればいいのかがわかっていない。それで気まずくなって会話が減り更に関係悪化。なんというか絵に描いたかのような悪循環だ。

もし最初から二人の間に恋愛感情があるならば問題はなかった。相性が悪いといってもその程度の問題など恋心の前では障害にすらならない。むしろいちゃつくための口実になるだろう。

しかし現実は二人の間には家族的な親愛はあっても恋愛感情はほとんどない。親が決めた婚約者という言葉通り二人の関係は義務的なものに近くなってしまっている。

その状態で相性が悪いというのは致命的にまずい。なにせ好きになる切欠が無いも同然なのだ。これでは二人の関係は良くても兄と妹、もしくはその逆止まりだろう。


とりあえず総評しよう。


―――めんどくせえなこいつら。


だったら行動しろよ婚約解消しろよって感じなんだがなぜか二人ともそういう発想に至らないらしい。

まあ未だに許嫁だとか婚約を親が決めるだとかやってる家の出身なのだからそういうのに従うべきって感じの教育でも受けてんのかね?

気が乗らないなら結婚なんぞすべきではない。俺はそう思う。

そんな気持ちで結婚しても長くは続かない。普通に愛し合って結婚したはずの夫婦だって気持ちが冷めてしまうことはあるのだ。そんな義務でしたような結婚なら尚更だ。

いや、義務だからこそ冷めきった関係でも夫婦を続けるだろう。それが一番ダメなパターンだ。

家の都合、親の都合。理由はあるだろうがそれで迷惑するのは子供だ。

どんな理由があろうと。

どんな事情があろうと。

どんな都合があろうと。

子供がそんな目に逢うことは許されないのだ。


そんなことを考えているうちに自分の中に黒いものが溜まっていくような感じがした。

いけないいけない。気持ちを切り替えなければ。心に光を!


「黒田さん? 話聞いてばっかりで疲れたのん?」


「あ、すいません。 色々俺の知らない世界なもので」


心配そうに顔を覗きこんできた月宮さんに大丈夫と返しつつ心の中でこっそりとため息を吐いた。


ふぅ、うっかり闇堕ちするところだった。

まったくダークサイドに堕ちて許されるのはファンタジーな世界だけだというのに俺は何をやっているのか。

というかこんな乙女ゲーム世界で闇堕ちしてもぶっちゃけあんま意味ない。精々ヤンデレになったりするぐらいだろう。あれ?それはそれで需要あるんじゃね?


それはともかく。

月宮さんや白波先輩を取り巻く環境は大体わかった。だけど問題はどこまで踏み込むかである。

いくら白波先輩から相談を受けている身とはいえ踏み込みすぎてもいけない。侵してはいけないラインというものは存在するのだ。


とか思ってたら月宮さんの方からいろいろ話始めた。俺の葛藤とかその辺全部無駄になったんですがそれは。

最初は昨日も聞いた軽い愚痴から始まり白波先輩がはっきりしないことに対する怒りやら親に対する不満やらにエスカレート。

こうなっては今俺がなにか言っても意味ないだろう。なので話を聞きつつ時折相槌を打つだけの機械と化すしかない。

それからしばらく月宮さんは愚痴り続け数年間溜め込み続けてきたであろう想いを洗いざらいぶちまけてスッキリしたみたいだった。めっちゃいい顔してる。


「あー、すっきりした。 やっぱね、人間たまには不満吐き出さないといかんよね」


お役に立てたようでなによりである。悪口はいけないと言うけれど溜め込みすぎるのはもっと駄目なのだ。


「……それでどうしたらええと思う?」


月宮さんが急に真剣な顔になってそんなことを言った。突然すぎてちょっとびっくりした。

でもたぶん月宮さんの中で答えは出ている。あと彼女に必要なのは誰かの後押しなのだ。

だから俺は月宮さんが望んでいる答えを口にした。


「それは俺が言ったらダメな答えでしょう」


彼女を取り巻く環境や現状にはいろいろ言いたいこともある。だけどもそれは俺の意見なのだ。月宮さんのものではない。

今彼女の前にあるのは月宮さん自身の問題。それに対して他の人間が口を出すことがあっても答えを出し選ぶのは彼女でなくてはならないのだ。


「そうやよね、こればっかりはうちが決めへんと」


月宮さんも言ってみただけで答えは期待していなかったらしい。でもどこかふっ切れたようにくすりと笑ってまた一匹魚を釣り上げた。

……そういえばさっきから全然俺釣ってないなぁ。なんかコツでもあるのかね?


「でも一つだけ、まあ完全に私的な意見ですが言わせてもらうなら」


竿の先から目を離して月宮さんを見た。


「愛し続けられる自信があるかどうか、それを考えてみるのが一番かと」


ただそれだけ。

それが俺の言いたいことのすべてだった。

あ、糸引いてる。




そのあと釣った数匹の魚と共にみんなの元へと戻る。

その際黄野と緑川先輩に二匹しか釣れなかったことをからかわれたので魚を二人の顔面に叩きつけたのはご愛嬌である。


そして日が暮れる頃、海でたっぷり遊んだ俺たちはへとへとな状態で別荘へと帰った。

その間月宮さんはなにかを考えているようだったけどきっともう心配はない。

必ず自分で答えを出せるだろう。


さて、そしたらもう片方もなんとかしないと。

まあこっちに関しては心強い味方がいるし問題ないだろう。


合宿編はあと二、三話で終わるかと。

まあノリで描写増えたりするんで確定ではないですけど。

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