お風呂のち修羅場です
新年あけましておめでとうございます。
めっちゃ遅くなりました。なお、この後も忙しいので更新は遅れるもよう。
黄野と青葉先輩に誘われてお風呂に来たわけなのだが……ちょっと広すぎない?
まだ脱衣所だよ?第一歩目だよ?すでに旅館とかそういう規模の脱衣所なんだけど……まあいい。この館はどこもかしこも大きくて豪華。そういうことなのだろう。
「銭湯かよ」
「と、と言うよりホテルの浴場みたいだね……」
黄野と青葉先輩も大体同じ意見らしい。みんな思うことは一緒ということだな。
「これで男湯女湯に分かれてたら完全に一致だったな」
そこは流石に分かれていなかった。こことは別に使用人用とかはあるらしいけど。まあこんな立地じゃ気軽に帰ることはできないから当然っちゃ当然だ。
それはともかく黄野とは寮の風呂で一緒に入ることがよくあるが青葉先輩と入るのは初めてだ。寮の風呂は学年ごとで入れる時間がずらされてるのだ。あくまで目安のようなものでしかないが。
黄野はスポーツマンらしくがっしりとした筋肉ついてるな。それでいてムキムキマッチョマンではなく『少しがっしり』レベル。
逆に青葉先輩はひょろい。びっくりするほどひょろい。大丈夫?ちゃんと食べてます?
ちなみに俺は二人の中間ぐらい。スポーツとかやってるわけじゃないけどひょろいわけでもないのだ。
しかしあれだな。ゲーム的に考えるときっとこの辺とかのがスチルとかになってるのかね?もしくはお風呂シーンとかが。
……いやまて、その思考待て。乙女ゲー、乙女ゲーだぞ?乙女ゲーで男どもの脱衣所でのワンシーンがスチルになってるとかおかしいだろう。だって基本主人公視点なんだから男どもが脱衣所で着替えてるのに出くわすなんてあり得ねえし。
せめて、せめてお風呂シーンにして!そうすりゃ大事なところはお湯で隠せるから!あ、でもそうするとお風呂覗いてることになるな。
いやでもギャルゲーじゃ主人公の覗きなんて鉄板だよな?乙女ゲーではどうなんだろう?正直そんな乙女いやだけど場合によっては使用中の札でも扉にかけとくべきかな。
「どうした黒田? とっとと風呂入ろうぜ」
「あ、ああ。 先行っててくれ」
っと、上着脱いだところで止まってたわ。余計なこと考えてないでとっとと脱ぐか。……でもやっぱ心配だ。こういうときの嫌な予感はよく当たる。心配で心がどうにかなりそうなので対策をしておくことにする。
えっと、たぶんこの辺りに……お、あった。
脱衣所の入り口近くの棚から使用中と書かれた札を見つけた。ドアにはなにかかけられるようなフックがついていたのできっとこれ用だろう。
では早速札をドアのところにかけて、と……よし。
これなら「脱衣所で鉢合わせ☆」なんてことは起こらないだろう。安心して風呂に入れると言うものだ。
そう思ってTシャツを脱ぎズボンのベルトに手をかけたとき足音がした。風呂場の方ではない。嫌な予感しかしない。
いや、なんのための札か。あれがかかっている以上使用中なのは明白。諦めるか、もしくは少なくとも誰が入ってるか確認はするだろう。そう、俺の勝利は揺るがないのだ。
「お風呂ってここだよね! いっちばんのり~」
「あっ、ちょっと待って紫苑。 扉になにか……」
突破しただと!?フラグ立てすぎたからですか!?
いきなり開けられたもんだからもちろん脱いだ上着を着る余裕なんてないわけでして。
「あ」
「え? ……ふぇっ!?」
扉が開かれるとそこには紫苑と及川の姿。フラグ回収余裕でしたね。
「あ、やべ」みたいな顔してる紫苑はともかく及川の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。ちなみに紫苑があんま動じてないのは見慣れてるからである。逆ラッキースケベ的な意味で。
今さらだけど俺が見られる側か。上だけしか脱いでないからいいけどさ。もうちょっとタイミング遅かったら危なかったな。……R-18がついてなくてよかった。本当によかった。ついていたらアウトだっかもしれん。
「あー、とりあえずドア閉めろ。 そして使用中かどうかを確認するようにしろ」
「ごめんなさーい。 あ、お風呂空いたら呼んでね」
そう言うと紫苑は固まっている及川を引っ張ってドアを閉めた。
いくら慣れてるとはいえ紫苑動揺しなさすぎじゃない?及川は顔真っ赤にしてフリーズしてたのに。てか俺は俺で気になってる人に半裸見られたのに落ち着きすぎじゃね?ああ、俺も慣れてしまった人間の一人であったか……はあ、風呂はいろ。
「遅いぞー。 なにやってたんだよ?」
「悪い。 少しアクシデントがあってな」
首をかしげられたがてきとーに誤魔化しとく。要らん騒ぎになりそうだし。
それはともかく二人は律儀に待っていてくれたらしい。気にしないで先に体洗っててもよかったのに。まあみんなで並んで洗うのも旅行の醍醐味というものだろう。
「あれ、洗い場二つしかないね」
「はあ? なんで洗い場だけちっちゃいんだよ?」
む、身体を洗う場所二つしかないのか。これでは一人余ってしまう。醍醐味なんてなかった。
しかたない。ここは遅れてきた俺が譲るべきだろう。
「黄野、青葉先輩。先にどうぞ」
とりあえずお風呂の温度確かめたりひたすらかけ湯でもして時間潰すか。お、いい湯加減っすね。
「じゃあ先洗わせてもらうな」
「い、急ぐからね」
いやごゆっくりどうぞ。
それから数分後。湯加減を確かめたり何度もかけ湯したり桶にお湯を汲んで意味もなくぱちゃぱちゃしているうちに二人とも身体を洗い終えたようだ。
二人が湯船に浸かっている間にさっさと洗ってしまおう。一人でお風呂は寂しいもんな。
「あの、青葉先輩。 ちょっと聞きたいことがあるんすけど」
「え、えっと……なに?」
えーと、石鹸石鹸……あれ?ここボディソープしかないの?
「いやそんなびびんないでくださいよ。 つか知り合ってからもうけっこー経つのに未だにそれとかちょっと傷つくんすけど」
「ご、ごめん」
うわ。しかもこれめっちゃお高いやつじゃん。気が引けるな、やっぱ節約すべきかね。そーっと、そーっと……。
「まーいいっすけど。 じゃあ話戻すっすよ」
あああああ!?思ったより出た!思ったより出た!なにこれ浪費仕様なの!?金持ちに更に金を使わせる仕様なの!?ち、違う…わざとじゃない、わざとじゃないんだ!
「青葉先輩って……高倉のことどう思ってるんすか?」
「ええっ!?」
と、とにかく無駄にするのだけは避けねば!タオルで泡立てるのだ!ただ一心不乱に!機械のようにひたすらに!
「俺は……かなり気になってるっす。 はっきり言えば恋人になりたいって思ってるっす。 でもだからってとかは嫌っす。モヤモヤすんのは嫌なんでフェアにいきたいんすよ。
答えるのは強要するのは悪いって思うっすけど……青葉先輩はどうなんすか?」
「えっと、僕は……僕は……」
わああああ!?めっちゃ泡立った!ふわっふわだよ!?ふわっふわのあわっあわ!ふわあわ!
「た、たぶん好きなんだと思う。 こんなこと……思ったの初めてだからよくわかんないけど……高倉さんは他の人とは違うって思った。 だから……もう少し近くにいたい」
す、すっごい泡だぁ……こんな泡まみれになりながら体洗うのって初めて。ああ、なんだかとってもブルジョワ気分。
「ようやくはっきり本音言ってくれたっすね」
「うう、恥ずかしいよ……」
「ははは、すんません。 でもこれで俺と先輩はライバルっすからね」
最後に大量の泡をシャワーでザーっと!わぁい、きもちいい!でも泡がもったいないと思ってしまう俺はきっと貧乏性。
「負ける気はないっすよ」
「う、うん。 僕も負けないから!」
あれ、お二人さんなんか仲良くなってない?なんかあったの?
そんなこんなで夜も更けて就寝時間、なのだがちょっとした問題が発生していた。
「ふむ、どうするかな」
寝る前にちょっとお水でも貰おうとして部屋から出たら迷った。なんだよここダンジョンかよ。モンスターとか出ないよね?もしくはマジで殺人事件が起こるタイプのやたら複雑な造りの洋館だったり?謎ギミックとかないよね?
やめてよね、どっちに転んでも絶望しかないじゃないか。なんてこったい。
「――――。―――――」
む?人の声か?ちょうどいい。どうすれば戻れるか聞いてみよう。
「いつも貴方はそうなのですね。 そうやっていつも全部わかったような態度で」
「……何が言いたいのですか?」
え、えええええ!?なにこれ修羅場!?空気ピリピリしておりますし!?
ひぎぁあああ、なんで俺ってばこういうのに遭遇すんの!?
咄嗟に隠れちゃったけどどうするべき?道がわからん!退路がわからん!撤退不可!撤退不可ーっ!
いやいやいや、パニクるのは良くない。ここは……よし、とにかくこの場を離れるんだ。帰り道もお水もそのあと考えればいい。よーし、そうと決まればこんな修羅場近くにいられるか!俺は自分の部屋に戻るぞ!
そう判断して即座にここから撤退すべく静かに一歩踏み出し――その途端に床板がぎしりと音をたてた。
ちくしょう床このやろう。
「っ、誰ですか?」
ひゃあ、案の定バレた!くっ、隠れてもしかたないので二人の前に出ることにする。
「す、すいません。 水貰いに行こうとしたら迷ってしまって」
ひぃ、二人とも目がなんか怖い!謝りますから!謝りますから!どうかご容赦を!
心の中で涙目になっているとどちらかがふぅ、と息を吐き出した。それと同時にピリピリした空気が緩む。
「お話はここまでですわね」
「そうしましょう。 黒田、キッチンには私が……」
言いかけた白波先輩だが言いきる前に月宮さんが口を挟んだ。
「いいえ、私が案内しますわ」
「しかし……」
「今日はお疲れでしょう? お任せくださいね。 ええと、黒田くんでよろしかったでしようか?」
「え、ええ。 黒田純です」
「では改めまして私も、月宮楓と申しますわ。 どうぞよろしくお願いいたしますね。 さ、行きましょう」
え?あ、はい。
くっ、流されるままに付いていってしまった。な、なぜに俺は月宮さんに案内されているんだ。普通に考えればなんか話があるんだろうけど……もしかしてお仕置き部屋とかに連れていかれるとかじゃないよね?やめてーせめてお水を飲ませてー。
アホなこと考えていたら突然月宮さんがくるりと振り返り俺に頭を下げた。
「突然て申し訳ありませんでした。 申し訳ないのですが少しばかし相談事がありまして無理を言わせてもらいましたわ」
「はあ、俺でよければ話聞きますけど」
よかった。お仕置き部屋とかは無いんですね。
「しかしなんで俺に?」
「見たところ泰斗さんと一番仲が良さそうなのが貴方でしたので」
ああ、どおりで。
「あの、その前になんですけど」
「はあ、なんでしょう?」
「その口調じゃ話しづらくありませんか? よければ崩してもらっても構いませんよ」
堅苦しい口調で相談とか重圧で胃が潰れるじゃないですか。
月宮さんは大きく目を見開いた。ぱちくりぱちくりと目を瞬かせるとぽつりと呟いた。
「キミ、人のことよーく見とるんやなあ。 それにえらいズバズバ言うの」
あれ、口調変えてるのは予想通りだったけど変わり方が予想外。どこの方言?
「うち四国の方の生まれじゃけん。 ずっとこの口調やったんけど二年ぐらい前にな、お父ちゃんに方言直さないかんって言われてな」
「急ですね」
「そうやろ! 喋り方なんて急に直せるものじゃないし、じゃけん敬語で誤魔化しよったんけどね」
そのあとしばらく父親に対して愚痴が続いた。よほど不満が溜まっていたのだろうか。さっきまでの一歩引いた感じの態度はどこにいったし。ある意味打ち解けたってことでいいのかな?
「わ、ごめんなあ。 普通の口調で誰かと喋んの久しぶりでつい夢中になっちゃったわ」
楽しそうでなにより。でも三十分ぐらい話続けるのはどうかと思ふ。聞いてた俺も俺だけど。
「でもどしてうちの口調のこと気づいたのん?」
いや俺たちに対して敬語なのはわかるとしても仮にも婚約者の白波先輩相手にもかなり堅い喋り方だったりとか違和感ありありですよ。
あとは俺自身が体に染み付くレベルで口調変えてるからなんとなくわかるとかそういうふわふわした理由だったりするんだけど。
「まあ、これでもちょっとした違和感にも気づく方なんで」
まあ間違っちゃいない。つまるところ俺の観察眼をなめるなよって話だし。
「へぇー、すっごいなあ」
すごいかな? ところでそろそろ本題に入りません?たしか相談がどうとか言ってたけども。
「そやの。 ほんでな、相談ってゆうのは泰斗さんのことやきん……って、ああっ!? もうこんな時間? ごめんなあ、こんな時間まで付き合わせて」
ほんとだ。もう次の日になってる。てか結局水飲んでねえ。
「お水欲しいんやったね。 今キッチン連れてくけん」
ようやく水にありつけるんですねやったー!
そういうわけでようやくキッチンに連れてきてもらったのだ。ここまで長かった。
「ほんとごめんなあ。 その、明日も話聞いてくれへんかな?」
「ええ、構いませんよ」
白波先輩の相談の件もあるからもっと月宮さんと話したほうがいいだろう。二人の話を聞いていけば何か見えてくるかもしれない。
「ありがと。 ほんだら明日も早いけん。 黒田くんも水飲んだらはよう寝てしまい」
「そうします。 月宮さんもおやすみなさい」
「おやすみー」
そう言って手を振る月宮さんはどこかスッキリしたような笑顔だった。
しかしなあ、月宮さんも相談してくるとは。白波先輩のこともあるし……二人の相談両方とも何とかしないと解決しないやつだよねこれ。
はぁ、気苦労だけが増えていく。ま、今日はいいや。お水貰ったら寝ますかね。
しかし俺は大事なことを忘れていた。それに気づいたのは部屋に戻ろうとした時のこと。
「へ、部屋へはどうやって戻れば……!」
なお20分ぐらいかけて部屋には戻れた。
方言については友人でしゃべる人がいたのでそちらを参考にしてます。
故にいろいろ混ざってますがお気になさらないでください。ぶっちゃけ直せません。
新しいことに挑戦しようと思って方言キャラ書いたけどくっそ大変ですね。でも面白かったので良しとします。でもこの人割と出番多いんだよな・・・先行き不安です。




