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恋物語の片隅で  作者: 那智
合宿
57/64

洋館と着物美人です

なんかこれくらいのペースが当たり前になりつつある。これではいかんな。

でも書いてる途中でデータが消えるっていうのは気力を根こそぎ奪うアクシデントの一つだと思う。

しかも今まで書いたやつのバックアップも消えたし。バックアップのバックアップを取っていなければ即死だった。

なんかシチュエーション的には殺人事件でも起こりそう。


それが洋館を見て俺が最初に抱いた感想である。いやだって、見た目推理ものの漫画とかで出てくる洋館そっくりなんだもの。

ちなみに驚いたのはそんくらい。ほかに特に驚けるものはない。

やたら豪華だったり大きかったりするけど……いくら館が大きかろうが豪華だろうが白波先輩が関わっていては「白波先輩ならしょうがないな」で終わってしまう。嫌な慣れだ。

そんなわけですでに白波先輩の規格外さに慣れつつある俺たち生徒会は驚きもそこそこに洋館に足を踏み入れた。


「予想はしてたけど……これは、まあ」


なんというか想像したお金持ちのお屋敷をそのまま現実に持ってきたみたいだ。というかシャンデリアだよシャンデリア。あれどうやって掃除すんの?

ある程度は予想していたし、白波先輩ならしょうがないとも思ってはいるが内装に関してはいざ実際に目にすると圧倒される。これが金の力か。

そんな感じで俺も含めて全員で目の前の光景に圧倒されていると使用人であろう揃いのスーツを着た人たちが出てきた。


「お荷物お預かりいたします。 お部屋の方にお運びしておきますがよろしいでしょうか」


「任せます。 部屋割りは事前に連絡した通りに」


「かしこまりました」


ホテルかよ。それも結構お高い感じの。

そうツッコミを入れる暇もなく荷物を受け取った使用人は退室していった。やべえプロ過ぎる。

大きな荷物がなくなって手持ちぶさたなので白波先輩の方をみれば退室せずに残っていた使用人になにか話している。


「人を探して来ますので先に」


そう言うと白波先輩はどこかに行ってしまった。


「泰斗様がお戻りになられますまで客室の方で休まれますか?」


あ、いいっすねそれ。立ってんの疲れた。みんなもその提案に異議はないようで一度降ろしたりしていた鞄を持つ。

と、その時白波先輩が出ていった扉とは別の扉が開いた。白波先輩が巡りめぐってそこから戻ってきたのかと思ったのだがなんか知らない女の人が出てきた。

パッと見て和風という言葉が浮かんでくるような女性だ。歳は俺たちと変わんないぐらいなのに着物を見事なまでに着こなしている。ここまで着物が似合う人も珍しい。


「あら? あなたたちが泰斗くんが言っていた星原学園生徒会の方々ですか?」


だ、誰っすか?これはたぶん全員が思ったことだと思う。

使用人さんが深々と頭を下げてることから絶対白波先輩の関係者なんだろうけど。ん?もしやこの人が・・・。


「楓さん、こちらにいたんですか」


と、そこで白波先輩が戻ってきた。タイミングいいっすね。出ていったタイミングは最悪だけど。


「紹介しておきます。 彼女は白波家と親交が深い月宮家の令嬢で――」


「月宮楓と言いますわ。 よろしく頼みますわね」


婚約者さんは俺たちを見渡すと軽く笑みを浮かべて優雅に一礼をした。

おおう、なんという黒髪和服美人。でもここ洋館なのに着物装備はどうなんだろね?似合ってるからか違和感少ないけどさ。

みんな白波先輩のことについては耐性できてたけど婚約者さんの服装には面食らってるっぽい。浴衣ならこの前着たけど着物なんて見ることすら少ないからなぁ。



しかし……うーん、なんか違和感がある。いや服装のことじゃなくてね。

自分で言うのもなんだが俺は他人のことについてはよく気がつく人間だ。それは今までも存分に発揮してきたのだからまあ間違いないだろう。

それは前世の経験を活用しつつ厄介事に巻き込まれないように大人たちやクラスメートたちの様子を観察してきた経験からなるものだがそれはここで思わぬ働きをしたようだ。その俺のセンサーが違和感をびんびん感じ取っているのだ。


「泰斗、わりぃが早目に部屋に案内してくれねえか?」


おや、赤海先輩がそんなこと言うなんて珍しい。海で遊んで疲れたのかな?

というか赤海先輩よりも黄野とか青葉先輩のほうが顔色悪っ。まあはしゃいでたもんね。疲労するよねそりゃ。


「あら、お疲れのようですね。 泰斗さん、私のことはいいのでお客様を優先してあげてくれませんか?」


「すいません楓さん」


どうでもいいですけど他人行儀ですねあんたら。仮にも婚約者なんだからもうちっとこうさあ……幼い頃からの婚約者同士(お互い望んでいないバージョン)だとこんなもんなのかね?


そんなわけで一度部屋に通されたのだが腹を空かせた男衆に配慮したのかすぐに夕飯になった。

これぞ食堂って感じの場所で月宮さんも交えてみんなで同じテーブルにつく。てかテーブルでけえな。

そしてテーブルに並ぶは熱せられた鉄板の上でじゅうじゅうと音をたてるステーキ。付け合わせには甘く煮られたニンジンとフライドポテト。

そのすぐ横の皿にはほかほかと湯気をたてるライスとみずみずしい野菜が盛られたサラダが添えられていた。


「す、すげーなおい」


「うん……まさか予想を上回ってくるなんて」


「えっと、よだれ拭こ? 二人とも」


漫画みたいによだれを垂らす紫苑と黄野。おい、片方女子力仕事しなさい。もう片方も普通にみっともない。拭け!

二人に及川がティッシュを渡すのを横目に捉えつつテーブルを見渡せば手の前の料理に

その中で白波先輩と月宮さんの位置は……うわ、めっちゃ離れてる。具体的に言うとテーブルの端と端。エントランス以降二人が話してるのを見てすらいない。これって、なあ……。

なんだか嫌な予感をひしひし感じる俺を余所にテーブルに料理が揃うとすぐに食事は始まった。


「わぁー美味しい、さすがお金持ち! ね、青葉先輩!」


「う、うん。 ……すっごくおいしい。 こんなの食べたの初めてかも……」


「たしかに。 これだけでもここに来てよかったと思えます。 あと紫苑、口元にソースついてる」


「え、ちょっ、そういうのは早く言ってよ!」


「すまんな。 あと黄野、俺の皿を凝視するんじゃない。 足りないなら分けてやるから」


「お、マジで? いいのか?」


「そんなに見られてたら食いづらいからな」


「黒田さん黄野さん、そんなことしなくてもおかわりはありますよ? 今持ってこさせます」


「つーかてめーら飯ぐらい大人しく食えねえのか」


「ふふ、良いではないですか。 ご飯は楽しく食べませんと」


なんとも騒がしい夕食である。だがこれこそ集団で食べるご飯の醍醐味というやつだろう。

でもまあみんながわいわいお喋りしながら食事しているも黙々食事する派が突出してしまうわけで。

どういうことかっていうと俺だけごちそうさましてるってことだよ。同じく黙々食べるタイプの黄野はおかわりしてまだ食ってるしあんま喋んない青葉先輩はそもそも食べるのが遅いし。

みんなが食ってる中、一人だけ食べ終わるのって何気に苦痛なんだよな。水飲むぐらいしかやることがない。このままではお腹がたぷんたぷんになってしまう。


「どうした黒田、もう食わないのか?」


うるせえもうお腹いっぱいなんだよ。つかお前は食い過ぎだ。それ三枚目だろ。どこに入ってるの?俺とお前体積同じぐらいだよね?


「ああ、もう十分だ」


「俺も腹いっぱいだ。 黒田と先戻ってるぜ」


俺の言葉に便乗するように赤海先輩が席を立つ。いや俺戻るなんて一言も言ってないんですけど。

でも立ち上がった時に赤海先輩が意味ありげにこっちを見たので素直に従う。ところでこれはアイコンタクトかなにかだろうか、意味はわからん。でも意味もなくわざとらしい視線とか向けないだろうからきっと話があるとかそんなんだろう。

そういうわけで赤海先輩と一緒に一足先に食堂から出た。そして少し離れたところで赤海先輩が口を開いた。


「黒田気づいたか?」


説明どころか主語すらない短い言葉。だけど言わんとすることはなんとなくわかった。


「まあ。 あれだけあからさまですとね」


あのお二人の態度があからさま過ぎるから赤海先輩も気づいたらしい。


「泰斗のやつ、あの婚約者と仲わりいのか? いや、それにしちゃあ……」


「仲が悪いって感じではない、ですね。 お互いに会話を避けてる感じはしますけど」


なんというめんどくさい状況なのだろう。なんであれ中途半端が一番めんどいのだ。

はてどうするかと頭を悩ませかけたその時、突然赤海先輩が俺を引き寄せ肩を組んできた。めっちゃびっくりした。


「ま、なんかあったら声かけろよ。 どうもてめえはいろいろ背負い込むみたいだからな」


そう言うと赤海先輩は肩を離してさっさと自分の部屋に行ってしまった。……去り際の赤海先輩の耳真っ赤だったんだけど。なにあれツンデレ?俺にツンデレしてどうするの?俺にツンデレしたってフラグは立たんよ?需要もごく一部にしかないよ?

でもまあ、なんかすごい頼もしく思えたなあ。さすが覚醒済みと言うべきか。でもフラグは立たんぞ、これそういうゲームじゃねえから。



赤海先輩と別れたあと、俺は部屋で一人考え事をしていた。

考えるべきことは白波先輩の関連のこと。これは白波先輩直々に助けてほしいと頼まれたのだからしっかり考えをまとめておかなければならない。

とりあえず話を整理するに白波先輩は月宮さんと幼い頃から婚約者、少なくとも将来そういう関係になってもおかしくない関係にあった。

だけど当の白波先輩は婚約者だのどうこういったことには否定的。それが以前からなのか紫苑に出会ってからなのかは知らんが今のままじゃ受け入れる気はなさそうだ。

月宮さんのほうはよくわからない。婚約者ということを受け入れているのかそうでないのか。でも白波先輩との関係がギクシャクしてるのは確かみたいだ。

その結果現在二人の仲は険悪ではなくお互いに嫌いあっているわけでもないが必要最低限の会話しかしない関係に落ち着いてしまっていると予想できる。

んー、正直これって外部がどうこうできんのかね?もろ本人の問題やないか。


ん?あれ……それって今更じゃね?今までも散々………………よし!では次に違和感について考えてみよう。

んー、とりあえずはっきりした違和感を言うと若干喋り方が固いんだよな。なんか無理に口調変えてる感じで。白波先輩は癖って言ってたけど癖にしてはちょっと変だ。

なんというか……わざとらしい?よくゲームキャラにある語尾とか言葉の訛りとかそんなんじゃなくて普段の口調そのものが。

もしかして月宮さんって……うん、そっちの可能性踏まえてあとでもうちょっと話してみようかな。そうすれば確信を得られるかもしれん。


しかし話変わるけどちょっとこの部屋豪華過ぎやしませんかね?広さがうちのリビング並なんですが。

ベッドなんて下手なホテルのよりでかいんだけど。なにこれダブル?それともキングサイズ?こんなでかいの一人じゃ余るに決まってんだろ。というかこの部屋のほぼすべてが一人じゃ余るわ。思わず寂しさを感じてしまうだろうが。

というかなんで紫苑たちは三人部屋なのに俺だけ一人部屋なんだよ。いいじゃないか男衆も三人部屋にしても。黄野と青葉先輩のとこがよかった。

もしかしたら俺は一人部屋の神かなんかに愛されているのではなかろうか。そんな神様いらない。


「おーい、黒田ー。 風呂行こーぜ」


何度目かもわからぬ神への呪いを発信していると部屋のドアがノックされた。外からは黄野の声。風呂の誘いか、ちょうどいい。


「ああ。 ちょっと待っててくれ」


まあこんなことぐだぐだ考えててもしかたないよな。こんなこと考えてばっかじゃせっかくの合宿も楽しめないし。よーし、風呂に入ってさっぱりするか。

人、それを現実逃避と呼ぶ。


そういえば読み直してて思ったんですけど黒田君ってアイコンタクトまともに成功させたことありませんね。

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