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恋物語の片隅で  作者: 那智
夏休み
53/64

意図せぬお祭りデートです

前回「絵見たいですか」とか言ったのにアップの方法がわからない那智です。

すいませんほんとに。あと忙しくて感想返せてません。少なくとも前回分は明日返したいですね。

ど、どうするどうするどうするどうするどうするどうする!?

アホな話だが完全に予想外!黄野と紫苑を二人にすれば俺と及川が残ることなんて意識の外にあった!

及川を前にして必要以上に緊張しないようにあえて考えないようにしていたがまさかこんなことになるとは!アホか!アホでした!

追い詰められた今はこの場に青葉先輩がいないことすら恨めしく思えてくる。せめて二人きりじゃなければどうにか取り繕うこともできるのに!

ええい、とにかく落ち着け。落ち着かなくては。取り乱すなんてすごくかっこわるい。そんな姿は見せたくない。キャラ的にもNGだ!


「黒田君?」


ひゃい!

…………声には出てないよな?


「ここで立ち止まっててもしょうがないし少し歩かない? もうちょっとお店みたいわ」


「あ、ああ。 そうだな」


ふ、不覚をとった……。だけど取り繕えたから……取り繕えた?取り繕えたよね?やばい、もはや不安しか覚えない。

心に嫌な意味でのドキドキを抱えながら屋台を覗きつつあてもなく歩く。うう、及川のことを見るに見れない。ええい、とにかくこの間に心を落ち着かせなければ。深呼吸深呼吸……。


ようやく落ち着いてきた頃、不意に及川が立ち止まった。何事だろうか。少し戻って及川が見ている屋台を覗いてみる。

ふむ、射的か。これまたお祭りって感じの店だな。そして及川が見ているのは射的の景品のぬいぐるみ。

それはおそらくだがこの射的の目玉商品のひとつなのだろう。首には『ハッピーくまちゃん』と書かれた名札が掛かっている。そんな名前の割にこの熊笑顔だったりするわけでもなく真顔である。何がハッピーなのだろうか。


「欲しいのか?」


「え? あ、うん。 実はああいうの好きで……」


「そうか、じゃあやるか。 おっちゃん二人分頼む」


屋台のおっちゃんに声をかけて二人分のお金を置く。

ちなみにお値段は一回二百円。お財布に優しい値段設定。すばらしい。


「あいよ。 ほら」


おっちゃんが二人分の銃と弾を俺たちの前に置いた。

ここで取ってやるとか言えればいいんだろうけど射的をやったことすらないこの身では大言壮語にしかならない。というかちゃんと当てられるのかも不安だ。


「ありがとう。 私射的やるの初めてだわ」


「俺もだ」


二人して不安しかねえ。果たしてぬいぐるみは取れるのだろうか?



そういうわけで及川と二人並んで目的の熊のぬいぐるみ、くまちゃんに狙いをつける。

ここのルールでは賞品は倒せば貰えるらしい。まあスタンダードなルールである。

その賞品が乗っている台は三種類あって駄菓子類が置いてある一番近い台。きっと小さいお子様向けだろう。

次に近いのが主に小物が置いてある台。小物以外にもパーティ用のでかいお菓子なんかもある。

そして一番遠くにあるちょっと大きめのぬいぐるみやらなんやらが置いてある台。目標のくまちゃんはこの台に鎮座している。

……遠いな。当てられるだろうか?

とにかくまずは試し撃ちだ。えーと、これぐらいかな?


目測で適当に狙いをつけて引き金を引く。

ポン、と軽い音を出して発射された弾は手前二つの台を飛び越え―――くまちゃんの隣の空間を通りすぎていった。

流石に適当だと外れるな。今度はもうちょいしっかり狙って……。

再びポン、という音を立てて弾が飛び、今度はくまちゃんにかすった。くまちゃんがかすかに揺れる。

おお、的が大きいおかげか一応当たった。狙いはまだ甘かったみたいだが思っていたよりは狙い通りに弾が飛んだみたいだ。この分なら難なくゲットできるかもしれない。

そう思って更に何発か撃ってみたのだが……まあ、そんなに甘い話ではなかった。


う、動かねえ!くまちゃん動かねえ!どうなってるのあれ!何発当てても落ちそうにないんだけど!ぐらつきはするのだがいかんせん大きいせいかすぐ収まってしまう。

隣で及川もくまちゃんに弾を撃っているのだがそれも効果が薄い。

漫画とかで銃が効かない敵に遭遇した人はきっとこんな気持ちなのだろう。少々危機感が足りないが。


「おっちゃんあれ本当に倒れるのか?」


「もちろんだとも。 質の悪い的屋にゃ商品に絶対倒れねえ仕掛けをするところもあるがうちは真っ当勝負さ。 ま、早々倒れない絶妙なバランスにはしているがね」


むう、当然といえば当然か。目玉商品をそう簡単に持っていかれては商売なりたたないだろうしな。


「そうか……疑って悪かったなおっちゃん」


「良いってことよ」


気を取り直して考えてみよう。

残弾は四発。十発貰ったから六発撃ったことになる。内一発は外したから目標に当たったのは四発。その四発で目標と与えた影響はほとんどない。多少ぐらついた程度だ。

となると同じように撃ったとて無駄撃ちに終わるだろう。別の方法を考えなければならない。

隣を見れば弾を撃ち尽くしたらしい及川が銃を抱えたまま期待するような目で俺を見ている。……その気はないんだろうけどプレッシャーがやばい。


猛烈に胃薬が欲しくなりつつも思考を巡らす。

どこを撃てばいいのか。バランスはどうなっているのか。

いや待てよ。考えすぎるのはいつものことだがだからといって難しく考える必要はない。

いくら絶妙なバランスで置いてあるとはいえ所詮屋台の射的。子供がメインターゲットである以上難易度は難しくとも鬼畜なほどではないはず。

気づけば及川以外の他の客もこの勝負の行方を固唾を呑んで見守っていた。何故だし。普通に恥ずかしいのでやめていただきたい。

というか見守っている人の何人かは銃持ってる。弾はないみたいだが。

なるほど。きっと彼らもくまちゃんに挑み敗れていった者たちなのだろう。つまり今の俺は彼らの無念も背負っていると言える。

おおう、そう考えたら余計にプレッシャーが。いらんこと考えなきゃよかった。


…………あ、いいこと思い付いた。



大体五分後、準備は整った。


「もう準備はいいのかい」


「はい。 お待たせしたようで」


俺の手元には四丁の銃。そのひとつひとつに弾が込められていて何時でも撃てるようになっている。

まあ早い話見学者たちに借りたのだ。流石にグレー的な行為かと思ったが面白いことにおっちゃんはそういうのも全面的にオッケーらしい。なんでも客がいろいろ工夫するのを見るのが面白いんだそうな。

さて、お許しは得ていることだし遠慮なくやらせてもらおう。


まずひとつ目の銃を手に取る。三回ほど息を大きく吸ってから慎重に狙いをつけ一発目を発射した。放たれた弾はくまちゃんの頭部に命中しその体を大きく揺らす。

だが俺はそれを見届ける前に持っていた銃を手放し次の銃を手に取っていた。そのまま二発目も撃つ。

やはりわざわざ一発撃つ度にリロードするより弾を込めた銃をあらかじめ用意して持ち替えたはほうが早い。あとはしっかり確実に目標に弾を当てていくだけだ。まさかこんなところで黄野や青葉先輩と散々シューティングゲームをやった経験が活きるとは思わなかった。

かなり無理矢理だが現状何発も撃って倒すしか思い付かなかった。射的とかやったことないから細かいコツとかわからんし。

なお戦争映画のようなことをしているがあくまでこれはお祭りの射的である。そこんとこ忘れないように。


「おお! うまい具合に当ててるぞ」


「だけどいくら撃ってもぬいぐるみを揺らすだけじゃ……」


「いや待て、違うぞ! あれは連続で当てることによって揺れを大きくしているんだ!」


なんか技とか展開を解説する高性能モブっぽい人がいるんだけど。

凄まじく外野が気になるがあえて無視してそのまま三発目、四発目も標的にぶち当てる。

さしものくまちゃんも連続して弾を当てられて不動の構えを崩した。これまで以上に大きく揺れる。

あと一押し。あと一押しで倒れる。だが―――


「っ、……弾切れ」


俺が持っていた弾はすべて撃ち尽くした。四丁の銃にもはや弾は残っていない。

―――ここまでか。


「黒田君これ!」


その声と共に目の前に銃が現れた。及川持っていた銃だ。弾は入っている。撃ち尽くしたと思っていたが一発残っていたのか。

それ以上考えるよりも先に差し出された銃を手に取った。そして今まで以上に素早い動作で構える。

狙いは揺れるくまちゃん。狙うのに時間はかけていられない。かければ揺れが収まってしまう。


―――ええい、儘よ!

いちかばちか、俺は引き金を引いた。






「まったく、ごり押されるとはよ」


「あー、今度は正攻法を探すんで勘弁してください」


「文句言う気はねえ。 ごり押しも立派な方法の一つだからな。 ほれ持ってけ」


おっちゃんからぬいぐるみが渡された。とてももふもふしてる。手触りは良いな。

というか名札に隠れて見えなかったけど胸に三日月模様がある。この熊ツキノワグマなのか。可愛い顔して恐ろしい奴だ。ますます何がハッピーなのかわからなくなる。

……余計なこと考える前に及川に渡してしまおう。そうすればこいつともお別れだ。


「ほら」


「ありがとう。 ふふ」


ぬいぐるみを渡すと及川は嬉しそうに笑ってくれた。その笑みにほっこりしていると廻りの人達が拍手を始め俺たちは拍手に包まれた。そういえばめっちゃ見られてたな俺たち。これには二人して顔真っ赤である。

え、いや、やめて。恥ずかしい。いやマジで。ホントに。ほんとやめて。……だから止めろ!


結局拍手はなかなか鳴りやまずその場をダッシュで逃げるはめになった。………………冷静に考えるとなんやねんこの展開。意味わからん。



その後は射的のお礼だと及川がリンゴ飴奢ってくれたり、ボール当てゲームで(ある意味)魔球を放ってしまったり、どこからともなく輪投げの輪が飛来してきたりしたがなんとか切り抜けた。少なくとも自覚している範囲では変なことはしなかったと思う。

それとなにも考えず歩き回ったわけだが結局時間ギリギリまで黄野と紫苑には合流できなかった。だけどこのまま流れ解散というのはスッキリしないしそもそも俺と紫苑は帰り道が同じ、ついでにお祭りの最後に些細だが花火を上げるとの話を聞いたので合流してみんなで見ることにした。

射的のおっちゃんが教えてくれた花火がよく見える場所とやらに四人並んで夜空を見上げる。

花火を見ながら黄野に話を聞くとそれなりにうまくやれたらしい。ようやく進展だろうか?

当の紫苑は及川のとなりで元気に「たーまやーっ!」と叫んでいる。ほんと元気だな。

そういやこの掛け声の意味はなんだろうか?……まあどうでもいいか。調べる気も起きないし。



花火が終わり二人と別れたあと、最寄り駅の改札から出て見上げた空には満天の星が煌めいていた。なんだか今日はやたら疲れた気がする。

しっかしなぁ……、これからどうするかな本気で。

確かに今俺は恋をしている。だけど白波先輩の相談のこともあるし、青葉先輩のことも気になる。

正直周りでいろいろあって自分の恋にうつつを抜かしている場合じゃない。できればもっと落ち着ける状況でしたい。というかギャルゲーやらなんやらの主人公どもはよくこんな状況で恋なんてする余裕あるな。ああ、でも……。

紫苑に聞こえないようにすごく小さな声で呟く。


「まいったな……」


―――ほんと駄目だ。これが恋をするということなのか。

ただ話しているだけでも心が浮わつく。

少し触れただけなのにどうしようもなく幸福で脳が麻痺してしまいそうになる。

この時ほど感情が顔に出ないことをありがたく思うことはないだろう。


「ほんと……らしくない」


その呟きは誰の耳にも届くことなく夜の暗がりに消えていった。



紫苑と並んで夜道を歩く。お互い疲れているからか会話はない。でもその程度で気まずさを感じるほど浅い付き合いではないのでなにも問題ない。

あー、にしても今日はやたら密度が濃かった。昼は男三人で遊んで、そのあと青葉先輩が倒れて……そのあと紫苑たちとお祭りに行って……ほんと密度濃いなおい。

とりあえず青葉先輩にはあとでメールでもしておこう。大丈夫か気になるし。


「そういえばさー、純は私たちとはぐれてる時ずっと美羽と一緒だったんだよね?」


なんだ突然?だけどまあ事実なので頷く。


「ああ、そうだけど」


「ふーん……」


なんだその目は。しかたないだろう。黄野に気を使ったことを除いても人が多すぎてまともに探せなかったんだから。


「お前だって黄野と回ってきたんだろうに。 なにか不満か?」


散々黄野を付き合わせて楽しんでいたらしいから不満を抱く要素はないはずだが。不満とか言ったら黄野が不憫すぎる。言い分によってはチョップも辞さない。


「そういうわけじゃないけど」


「じゃあどういうわけだ?」


「んーとね、ただいつもは一緒だったから違和感? うん、そんな感じ」


違和感ねえ……。確かにそれはあったかもしれない。紫苑はなんだかんだ騒がしいので物静かな及川とは纏う空気がだいぶ違う。正直言えば俺もその空気の違いに違和感を感じていた。でもそれは―――


「別に嫌なものでもなかったんだろ? その違和感」


「ん、まあ」


「ならいいじゃないか。 こんな日があっても。もしかしたら来年はもっと大勢で来るかもしれないぞ」


「……あはっ、そーだね!」


ふう、なんか変な空気になりそうだったが紫苑の調子は戻ったみたいだ。よかったよかった。


「よーし純! ここから家までかけっこしよ!」


え、いや俺疲れてんだけど。お前もたくさん遊んだんだし今日はのんびり……。


「よーい、ドン!」


え、ちょま、待てぇぇぇぇ紫苑!疲れてるって言ってるだろこら!


そろそろ白波先輩のイベント書こうかな。つーわけで次から合宿編です。ちょっと時間飛びます。

最近更新が月一ですからもうちょい早くしたいです。

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