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恋物語の片隅で  作者: 那智
夏休み
52/64

夏祭りを巡りましょう

しばらく書かないと全然書けませんね。まだ調子が戻ってない気がする……。

パソコンも買い換えてないしまだちょっとスムーズな更新はできそうにないです。

どうにかこうにか時間を潰し、時刻は夕方。

俺と黄野は紫苑たちとの待ち合わせ場所に来ていた。

ここから少し行ったところの神社でお祭りは行われている。今の時間はまだ人はそこまで多くないから余裕を持って廻れるはずだ。


「……ま、まだか?」


「まだ待ち合わせの時間にすらなってないぞ」


待ち合わせの時間まであと十数分ほどある。

というか黄野そわそわしすぎぃ!もうその問いは三回目だよ。正直鬱陶しい。

いや、でもそもそもの原因、意識させたのは俺だからな。寛大な態度で見守るのが筋というものだろう。

そんなわけでそわそわする黄野のことを生暖かい目で見守ることにしたのだった。


黄野を見守ること十数分。

その間黄野はその辺をうろうろしたり、やたら時計を確認したり、何度も周りを見渡したりしていたので見ていて飽きなかった。

でもどんなものにもいつかは飽きが来るもの。そろそろ飽きてきた頃、カランコロンという下駄の音と共に俺達を呼ぶ声が聞こえた。

ようやく来たようだ。時間を見れば待ち合わせ時刻の五分前。ナイスな時間である。

時間にルーズなほうである紫苑がよく時間前にこれたと―――息を呑んだ。


二人は祭りにはぴったりの可愛らしい浴衣を着ていた。

紫苑は淡いピンク色で花柄の浴衣、及川は薄い水色のシンプルな浴衣だ。

加えて紫苑はおしゃれなことに可愛らしい装飾を帯につけているし、いつもはほとんどいじらず肩に掛かっている髪も結い上げられいつもの紫苑とは全然違って見える。いつもとは全く違った装いながらよく似合っていると断言できるのは素の可愛さ故か。

及川のほうは紫苑と違って髪型も普段と変わりないが浴衣姿というだけでいつもとは違う雰囲気を纏っているように見える。


「おっまたせー! 純、黄野くん待ったー?」


「いやそうでもないぞ」


「そ、それより似合ってるぜその格好」


「ふふーん、でしょ? お昼に美羽と選んだんだー♪」


「えっと…黒田君、どうかな?似合ってる……かな?」


いくら格好が違っていても紫苑は紫苑だった。おしとやかに見えそうな服を着ていたとしても体の中に永久機関でもあるのではないかという元気さは変わりない。それが紫苑らしさなのだ。

及川は少し恥ずかしいのか頬に赤みが差しているがそれでも若干見せびらかすように浴衣姿を見せてくるあたり浴衣を気に入っているみたいだ。というか非常に眼福である。


「ああ、似合ってるぞ及川。紫苑も。 な、黄野」


「あ、ああ。 似合ってるぜ……すごく、ほんとに……」


黄野顔赤っ!気持ちはわからんでもないがガン見はやめておけ流石に。適度に目を逸らしなさい。

でも俺も黄野のことを馬鹿にできる状況でもない。俺だって及川を前にして似たようなものなのだ。

心臓は普段より早く脈を打ちはっきりと緊張しているのがわかる。思考が落ち着いているのが奇跡と言えよう。本番に強くて助かった。あと黄野を見てたら若干落ち着いたというのもある。

心の中でほっとしていると俺達の格好をじっと見つめていた紫苑が口を開いた。

何故だろう、嫌な予感がする。


「ね、二人も浴衣着ない?」


なんでだ。思わず眉をひそめた。

黄野は知らないけど俺は今までお祭りは私服参加である。その事を紫苑は知っているはずなのだが。


「だってせっかくのお祭りなんだし目一杯楽しみたいじゃん。 こーゆーのはまずは格好からだよ?」


「とは言ってもな、浴衣なんてどこに――「浴衣のレンタルいかがですかー?」おおう……」


ご都合主義かよちくしょう。そうでなくてもタイミング良すぎだろくそが。

思わず口が悪くなるがこれは仕方ないことだろう。こんな狙っていたとしか思えないタイミングで客引きされたら口も悪くなるわ。


「ふふん、あるみたいだねー」


いたずらっぽく笑う紫苑が小憎らしい。及川も控えめに笑いつつ紫苑を止めないあたり同意見なのだろう。

しかたない。昼間遊んだばかりの財布には少々痛い出費だが必要経費と割り切るか。

……見たところ黄野は乗り気だしここで拒否したら一人だけ私服で浮くしな。それはちょっと嫌だ。



そんなわけで俺と黄野は浴衣をレンタルすることになったのである。

レンタル屋は神社の敷地内にある集会所を借りてやっているようだった。中には様々な色の浴衣たちがところ狭しと並んでいる。

浴衣は単色のシンプルなデザインのものごほとんどだが中には派手な柄のものもあってなかなかに面白い。

熟考の結果、俺はシンプルな黒一色の浴衣で黄野は黄色っぽい色のチェックの浴衣を借りることにした。

やはりというかなんというか転生してから黒がやたらしっくりくる。いわゆるパーソナルカラーというやつだろう。乙女ゲーム的な意味で。

黄野が着ている浴衣もまるで最初から黄野が着るために用意されたかのようなマッチ感がある。非常にナイスだ。

しかし……レンタル料がそこまで高くなかったのが救いだ。高ければ祭りを楽しむだけのお金は残らなかったに違いない。


着替えた俺達の姿に紫苑が満足そうに頷いていて、及川も男の浴衣姿は珍しいからか興味津々といった様子で俺達の姿をまじまじと見つめている。……ちょっと恥ずかしい。

というか二人以外にも結構な数の視線を感じる。少し首を動かせばさっと目を逸らす通行人――ほとんどが女性だ――の姿が見えた。

まあこの歳で浴衣着て祭りに来る男は少数派。だから多少見られるのはしかたないことだろう。

なんにせよこんなにも人に見られるのは久しぶりだ。学校じゃ俺より目立つ人なんてたくさんいたからなぁ……。思わず遠い目。


「じゃあ行こっ。 お祭りが私をまっているぅー!」


「おいこら走るな。 転ぶぞ」


「ちょっともう! いつの話してるの!」


「去年だろ」


忘れたとは言わさんぞ。

思ったより血が出たせいでパニックになって泣きついてきたことは忘れたくても忘れられない思い出である。



他愛のないことは喋りながら少し歩くとほどなく神社に着いた。まだ少し早い時間なのだがすでに境内は人が集まり賑わいはじめている。


「とても賑やか……お祭りに来るのは久しぶりだからなんだかもう楽しくなってくるわ」


「そーなの?」


「うん。 うちの近くではお祭りとかやってなかったから。 小さい頃にお父さんとお母さんに連れてってもらったぐらいかしら?」


「俺や紫苑なんかはここのじゃないけど家の近くの祭りに毎年行ってるな。 黄野は?」


「毎年は行ってないけど気が向いた時には行ってたぞ」


なるほど。それぞれのお祭り事情もちがうんだな。

そういえば白波先輩とかってお祭り行ったことあるんだろうか?今度聞いてみようかね。



屋台をまわる前にひとまず腹ごしらえだ。

そういうわけですぐ近くにあった焼きそばの屋台で食事をすることにした。

値段は三百円。……まあお祭り価格としてはこんなもんか。


「んん~! お祭りの屋台で買った食べ物ってなんでこんなにおいしいんだろー?」


「不思議よね。 いわゆるお祭り効果ってやつかしら」


確かに普段より美味く感じる。この焼きそばは正直言って絶品とは言えずむしろ少々味が濃すぎるがこの雰囲気のおかげで気にならない。

お祭りには買ったものが普段食べるより二、三割増しで美味しく感じる効果があるに違いない。たぶん海の家なんかでも同様の効果が発揮されてる。

その効果のおかげか否か、全員がぺろりと焼きそばを完食してしまった。


「それじゃ、腹も膨れたしいくか」


さあ、思う存分楽しもうか。


焼きそばから始まって、たこ焼き、じゃがバター、牛串、わたあめ、チョコバナナにベビーカステラ、リンゴ飴。

流石お祭りというべきか。食べ物の屋台だけでも驚くほどの数がある。

甘いものを売っている屋台に必ずといっていいほど紫苑が立ち寄っているのは見なかったことにしたい。

食べ物以外では射的、金魚すくい、お面屋、輪投げ、ヨーヨー釣りなんかがあるみたいだ。久しぶりに射的がやりたい気分なのであとで黄野あたりを誘おうと思う。


というか紫苑は食ってばかりじゃないか。それでいいのか女の子。女子力が息していない。

まあ黄野も一緒に食べているからまだマシなのか?

ちなみに去年までは俺の役目だった。今年は楽で良いな。黄野にとっては役得だろうし。食べ過ぎでちょっと苦しそうだけど。



一方俺と及川はたまに紫苑と黄野の食べ歩きに付き合いつつヨーヨー釣ったりくじ引いたりと食べ物以外の屋台を楽しんでいる。

いやはや童心に帰るのもいいもんだ。心が洗われるよ。


「あれ、ヨーヨー持ってる! どこにあったの?」


「もうとっくに通りすぎちゃったわよ? 紫苑ったら食べるのに夢中になりすぎなのよ」


「えー」


えー、じゃない。及川が言っていることは事実だろうが。


「まあ楽しんでるならいいじゃないか。 おっ、あっちに金魚すくいがあるぜ」


「いいねー。 ね、みんなでやろうよ」


「いやあれ捕った金魚は持ち帰りだろ? 夏休みの間はともかく寮住まいで世話なんてできないだろ」


もちろん学校の寮はペット禁止である。魚や昆虫なんかも許されていない。共同生活を送っているのだからしかたない。


「そっか。 残念だけど世話できないんじゃね」


素直に諦めたのは良い事だけどお前の場合はやるやらない以前にその両手に持った食い物なんとかしなさい。


「あー高橋、それなんだがよ。 俺んちは水槽で魚飼ってるしなんだったら引き取るぜ」


「ほんと!? それなら金魚掬えるじゃん!」


まあそういうことならいいだろう。こちらをうかがう紫苑に頷く。

嬉しそうな紫苑を見て黄野がガッツポーズするのが見えた。微笑ましい。


「それじゃあ早速――きゃっ!?」


「おっ、と! わりぃ」


なんか急に人が増えたな。このあとなんかやるんだろうか?ビンゴとか。

とにかく金魚掬うにせよなんにせよ一旦人混みから出なくては。こんな人混みの中にいたら圧死してしまう。


「及川こっちに!」


とりあえず人の流れに流されそうになっていた及川を確保し自分の側に引き寄せた。


「あ、ありがと」


「ああ」


及川の手を握って人の合間を縫うように進む。ちくしょう、譲り合いの心はここに存在しないのか!

もみくちゃにされながら数人かき分けるとようやく人混みを抜けれた。隣では及川が人混みを抜けるときに乱れてしまった髪を整えている。

人混みから抜け出せたは良いもののこの位置では何かの拍子に呑まれてしまうかもしれない。そうなる前に階段に避難しておく。

流石に階段付近には人はいなかった。この先には屋台がないので行こうと思う人も少ないのだろう。

階段に腰掛け一息ついていると及川に袖を引かれた。


「ねえ、紫苑と黄野君は?」


そういえば確かに黄野と紫苑がいない。いつの間にはぐれたのだろうか。

階段を登ってぐるりと辺りを見回すが二人の姿はない。人混みに揉まれているうちに思ったよりも遠くに流されてしまったらしい。


「まいったな。 はぐれたか」


探すにしてもこの人混みでは合流は難しいだろう。人が多すぎて見つけられる気がしない。

なら電話……と言いたいところだがこの賑やかさだ。電話に気づくとも限らないし、そもそも電話に出れる状況かどうか。

とりあえずメールでも送っとくか。

えーと、『こっちは及川といる。 人が多いから無理に合流しようとしないでそっちはそっちで回ってくれ』っと、これでいいかな。

ふふふ、俺ってば文明の利器を使いこなせてる。


「連絡とれた?」


「メールは送っといた。 合流は大変そうだから無理せずお互い見つけたら合流するって感じで」


「ええ。 それがいいわね」


まあこの場合手間が省けたと言うべきか。もともとこの後どうにかして黄野には紫苑と二人で行動させるつもりだったし。

不安なことといえば黄野と紫苑はちゃんと二人一緒にいるか少し心配なことぐらいだがそれ以外なにも問題は……あれ、待てよ……?

そこで俺は重大なことに気づいた。気づいてしまった。むしろなぜ今の今まで気づかなかったし。

俺と紫苑、及川と黄野がいてそこから黄野と紫苑がいなくなった。つまり四引く二は二。それすなわち……。


き、黄野の応援のことしか考えてなくて忘れてたけど……黄野と紫苑がいなくなったら及川と二人きりじゃないか!

あわ、あわわわわわわわわ!ど、どうしよう……今更パニックってきた!

黒田君ピンチです。彼はこの危機をどう切り抜けるのか!

後編に続く!


ところで書けない時の気分転換に紫苑さんのつもりで描いた絵があるんですが見たい人っていますか?

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