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恋物語の片隅で  作者: 那智
夏休み
51/64

男三人で過ごしましょう

どうもお久しぶりです。復活しました。

卒研と艦これがひとまず終わったので更新します。

スマートフォンを買いに行った日の翌日の話である。

約束通り黄野と青葉先輩と遊びに来ていた俺はざわざわと騒がしいゲームセンターのベンチに座りながら口一杯に頬張った駄菓子を噛んだ。口の中に甘味が広がる。あみゃい。

ここはゲームセンター内部なわけだがこそこそ食べているわけではない。むしろ堂々としているのに店員もなにも言ってこない。というか店内にお菓子の自販機すらある。公認か。

よくよく見れば自分以外にもお菓子を食べたり飲み物を飲んだり、すごいのでは弁当を食べている人もいる。それを見ても店員は何も言わないあたり本当に自由なんだなとしみじみ思った。

もう食事コーナーとか作ればいいんじゃないかな?というか店内にお菓子の自販機とか置いてある時点でいろいろあれだが。

ちなみにここは今日は夏休み前に何度か行った学校近くのショッピングモールのゲームセンターではなく三人の家からちょうどいい位置にあったゲームセンターだ。学校近くのは地味に遠いのだ。

ショッピングモールにあったゲームセンターは小綺麗だったがここはお世辞にも綺麗とは言えない場所だ。黙認とはいえ飲食可能だしその辺が関係しているのだろうか。

だがその分ここには夏休みだということもあってたくさんの学生たちがいる。

ある人は気の合う仲間たちと、ある人は恋人と、ある人は一人で。いずれも共通しているのは皆思い思いに楽しんでいることだ。

そんな空気の中、俺はどうも楽しみ切れていなかった。


その原因は言わずもがな、及川のことである。ここ最近同じことで悩んでいる。

なんというかここ数ヶ月色々考えながら行動していたせいで考え癖が出来てしまった。そのせいでつい先のことを考えてしまう。

ふとしたことで考え始めてしまうので最近は積んだ本を崩すこともままならない状況だ。いつかあの本の山が崩れる日が来るのだろうか?ちなみに読んでないが買ってはいるので日々山は高くなる一方だ。よくある話である。

それをおいとくとしても悩んでいるのは自分のことだけじゃない。白波先輩のこともだ。最悪なりふり構わず告白すれば一応解決するであろう自分の悩みよりもこっちのほうがぶっちゃけめんどくさい。

今更だがなんで自分の恋と他人の恋を両立せにゃならんのだちくしょう。俺が何をした。……はい、自業自得ですね。断れないのが悪いんや。

……あれ?というか恋心を自覚してから及川とまともに話していない。これはゆゆしき事態ではないだろうか。


「黒田くん……えと…どうしたの?」


脳内であわあわしていると青葉先輩の声が聞こえた。思考の海から帰還すると目の前で青葉先輩が首を傾げてこちらを見ていた。どうやらさっきから呼んでいたらしい。


「すいません、ちょっと考え事をしてて」


「なにか……悩みごと?」


「悩みというかなんというか……まあ自分で解決するものなんでお気になさらず。 それより青葉先輩はどうしたんですか?」


どうせ途中で思考放棄するのだ。なお、現実逃避とも言い換えられる。


「ちょっと疲れちゃって……気分転換でもしたいなって思ったんだ」


「あー」


たしかにずっとここにいるのは疲れる。ゲーム機の音でガンガンうるさいし、人も多くてごちゃごちゃしてるし、一旦外出たほうがいいよね。新鮮な空気プリーズ。

ちなみにさっきから黄野はガンシューティングで無双している。というかあれたぶん最終ステージだよね?このゲーム初見って言ってたよね?

なのになんで未だにノーダメージなの?ステージが進むと難易度を不自然に高くして金を浪費させようとするゲーセンの陰謀はどこにいったの?あそこまで完璧なプレイを見せられるともはや魅せプレイとかじゃなくて恐怖すら感じてくるのだから不思議なものだ。

そんな黄野は邪魔しちゃ悪いので一時放置。まずは青葉先輩に提案しとこう。


「なら少しばかり外出ますか。 外の空気吸えばすっきりすると思いますし」


「そうだね……そうしようかな」


そうと決まれば黄野にも話を……って、うわぁ。なんでこいつ銃二つ持ってるの?2コインプレイなの?やりづらくないの?疑問しか湧かない。

正直テンション上げまくりの黄野に話しかけたくないが放置してどっか行くわけにもいかない。しぶしぶ話しかける。


「黄野、ちょっと青葉先輩と外歩いてくるけどお前どうする?」


「んー? いや今いいとこ」


駄目だ。返答が完全にお母さんにご飯だと呼ばれてもなかなかゲームを止めない子供そのものだ。

それ以上に黄野ってば二丁拳銃のカッコよさに気づいたばかりの厨二病みたいな目をしていやがる。あれは止めない方がいいな。


「じゃあ行ってくる」


「おう、わかった」


「えと、なるべくはやく戻ってくるね」


そういうわけで黄野を一人ゲーセンに置いて青葉先輩と外に出た。




外は相変わらず暑かったが騒がしくゴチャゴチャしている店内よりはマシに思えた。新鮮な空気おいしい!

ちょうど目についた本屋に突貫していると青葉先輩が疲れたような息を吐いた。


「ふぅ……」


「お疲れみたいですね。 なにか甘いものでも食べましょうか?」


ゲームセンターに来る前に買った駄菓子は全部食べてしまった。また買いに行くのもいいがそれより近くの喫茶店に行くのもいいかもしれない。無駄におしゃれな店でも二人なら入りやすいし。

え?甘いのなら店内にお菓子の自販機あるだろって?いや……違う、あれはなんか違うのだ。



街をうろつくこと十数分。

見つけたのはなんかこう雑誌とかに載っていそうなお洒落な店だった。店内はシックで落ち着ける感じの内装で纏められていて上品。さらに生意気なことにテラス席まで完備している小癪な店だ。誉め言葉である。

客層はやはりというか女の人が多い。だが落ち着いた雰囲気の店だからか騒がしさはなく、かといって静かすぎることもなく所々から程々のお喋りが聞こえる穏やかな賑やかさがある。これならゆったりとした時間を楽しめそうだ。


まだお昼には早い時間のおかげか待つこと無くテーブルに案内された。無駄に間違った方向に気取った店であるような口に出すのも恥ずかしい名前のメニューなんてものも無く平穏無事に注文もできた。

注文したのは俺がなにかのアイスとクリームが添えられているバームクーヘン。青葉先輩が鬼のようにトッピングが盛られたチョコレートパフェだ。

こういう店で甘味を食すのは久方ぶりなのでテンションが上がる。可能ならば味を盗みたいものだ。



お洒落な店内が女性たちのお喋りで賑わう中、男二人スイーツをつつく。

スイーツが美味しいのであまり意識していなかったがそこはかとなくカオスだ。イケメンでなければただでは済まなかった。

周りからも明らかにこちらを気にした感じのヒソヒソ声がいくらか聞こえる。別に男お断りなわけではあるまいに。会話の内容は流石に聞こえないが気が散るのでやめていただきたい。

青葉先輩も周りが気になるらしくどこか食事に集中できてない。というか気にしすぎて口元がチョコで汚れている。どうでもいいけどこれ絶対にイベントスチルだろ。なんで俺が回収してんだ。

それはともかく口元にチョコがついたままだといろいろあれなので指摘した。


「口元にチョコが付いてますよ」


「え、ほんと?」


―――違う、そこじゃない。

青葉先輩は何故か絶妙に違う場所を拭いてなかなか拭き取れない。というかすでに固まりつつあるらしく普通に拭いたたけでは取れそうにない。

そこでコップの水に一瞬紙ナプキンを浸すと少し濡れたそれで青葉先輩の口元をさっと拭いた。


「これでよし。 取れましたよ」


「あ、ありがとう…」


その途端、ヒソヒソが加速した。同時にやらかしたことを悟る。どうやらお腐りになられている淑女が若干名いるようだ。

意図せずして彼女たちに燃料を投下してしまったらしい。悲しきは紫苑相手にやり続けて身体に染み付いたこの行動よ。

これは事故だ。淑女たちが生産するのも本といえば本だが流石に読みたいとは思わない。こちらでは受け付けておりませぬ。

だがそんなことを心の中で叫んでも何が変わる訳でもなし。こ、これ以上こんなところに居られるか!俺はおあいそをするぞ!


半ば逃げるように喫茶店をあとにする頃にはゲームセンターを出て二時間ほど経っていた。

流石に黄野を放置し過ぎた感がある。早く戻って謝るのが吉か。ただし未だにゲームに熱中してたらスルーの方向で。


「じゃあそろそろ戻って……先輩?」


青葉先輩に話しかけたが反応がない。

無視だろうか。いやいやまさか青葉先輩に限ってそんな……。

めったにない事態に何事かと振り替えると青葉先輩は目を大きく見開いてどこか一点を凝視していた。その顔色は今まで見たことがないほど悪い。


「ちょっと青葉先輩 、顔色がヤバイですよ!? 大丈夫です?」


「大丈夫…………大丈夫だから……」


大丈夫な訳がない。今にも死にそうな顔をしているくせに何を言っているのか。具体的に言うと食べたばかりのパフェをリバースしそうな顔だ。

青葉先輩の顔はその名前のとおり真っ青で今にも倒れそうだ。いや正確にいえばその表現は正しくない。何故なら一般的に葉に青々という言葉をあくまで葉っぱの色は緑なのだ。なので名前のとおりと言うと青葉先輩の顔色は緑色になっていることに……って、そういう話をしているんじゃない。

頭を振って冷静さを取り戻すとひとまず青葉先輩に肩を貸し、休めそうな場所に向かうのだった。


公園のベンチに青葉先輩を寝かした。もちろん木陰のところにあるベンチだ。

原因がわからんので処置のしようがないが熱中症だったら不味いので濡らしたタオルを額に乗せ買ってきたスポーツドリンクを飲ませる。

ついでに黄野にはメールを送りすぐ来るように伝えておいた。余程夢中になっていない限り気づくだろう。


しかしどうしたというのだろうか。あの時のことを思い返すと青葉先輩はなにかを見て驚いていたように見えたのだが。

青葉先輩は何を見た?周りにいたのは俺たちと同じ夏休みを謳歌する学生と小さい子を連れた家族、それとリア充のカップルぐらいだ。

その中に青葉先輩がこんな風になってしまう原因があったというのだろうか?まさかリア充ということはあるまい。

こんなとき役に立ちそうな『物語』の知識が薄れてしまっているのが悔やまれる。もしかしたら青葉先輩のイベントの予兆かもしれないのだ。これはもう恋だとか愛だとか胸のトキメキだとかいってる場合じゃない。

青葉先輩はなにも言わず黙り込んでいる。俺はただそんな青葉先輩の看病をしながら黄野の到着を待つのだった。



結局青葉先輩はなにも話してくれなかった。

黄野と合流したあと、青葉先輩は体調不良を理由に帰ってしまっていた。黄野も明らかにおかしかった青葉先輩の様子を訝しみながらも何も言うことができずに見送ることしかできないでいた。


「なあこれからどうするよ? まだ昼だぜ?」


「確かに。 青葉先輩は……まあ、今のところは大丈夫だろうし気にし続けていてもしかたないか。それにこのまま帰るというのもな……」


今の気分を明確に表現すると『このまま帰るのはなんだかもったいない。だがこのまま二人で遊び続けるのもなんだか……』と、いう気分である。薄情というなかれ。学生なんてこんなもんである。

どうするべきか。そう頭を悩ませた時、俺のスマホがこの状況を見越したかのようなタイミングで鳴った。紫苑だ。


「もしもし。 どうした?」


『あ、純? あのねあのね! 今日の夕方から近くでお祭りやるんだって! 美羽と一緒に行くんだけど純も来ない?』


「祭りか、ちょっと待ってろ」


スマホから耳を離し黄野に確認を取る。


「紫苑から祭りに行かないかって誘われたんだがお前も来るだろ?」


「もちろんだ!」


即答である。

それに頷きを返すと紫苑に了承することを伝え電話を切った。そこでいいことを思いついた。

これを機に黄野と紫苑の仲を進展させてみてはどうだろうか。入学してから今まで二人の仲は全然進展していないのだ。それどころか入口にすら立っていない。

このままではいけない。断じていけないのだ。そういうわけで黄野を煽る。


「なあ黄野。 これを気に紫苑に接近してみたらどうだ?」


「はあ!? お、お前いきなり何言って!」


「だってさ、お前紫苑のことが気になるとか言いながら全然進展してないじゃないか。 だけど今は夏だぞ。 そういうのにはぴったりな季節だ」


「そうなのか……」


いやほんとは知らんけど。


「そ、そうだな……ようし、やってやる!」


何はともあれようやく一歩前進しそうである。まあこいつ間が悪いから不発に終わる可能性も無きにしも非ずなのだが。

さて、黄野を煽ってやる気を出させたはいいが今は昼。祭りは夕方からである。

どちらにしろ今暇なのは変わらない。約束の時間まであと四時間近くあるのだ。

結局今から何するかという問題は何一つ解決せず黄野と二人で時間つぶしの方法を考えることになるのだった。

おかしい。最初の予定では俺は及川さんとのデートイベントのための下地を作るつもりだった。

だというのになぜ黒田君は青葉先輩とデート(仮)をしているのだ?

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