家に帰りました
久しぶりの更新です。
就活してて遅れました。
学校から駅まで歩いて二十分。
下り方面に向かって電車で三十分、終点で乗り換える。
それからまた二十分ほど電車に揺られてたら最寄り駅に着く。
そんでもって駅から南の方に十五分ほど歩いたら到着だ。
どこにかって?懐かしの我が家にだ。
懐かしのといってもここに来るまでの所要時間は一時間半程度なので一般的な寮生に比べれば割と近かったりする。
なお、前に言ったと思うが紫苑の家は俺の家の隣であるので一緒に帰ってくるのはデフォルト仕様である。
「家に帰るのひっさしぶりだねー」
「まだ三ヶ月と半分しか経ってないのにな」
体感としてはもう半年以上家に帰っていない気がしていた。それだけ学園での日々が濃かったということなのだろうが。
確かに学園での生活は……うん、濃い。今年いろんなこと起こりすぎだろう。毎年このペースだったら心労で死んでたな。少なくとも寿命が縮んでいたのは間違いない。
「どしたの? なんか目が遠く見ちゃってるけど」
「いや、この三ヶ月ちょっとの間にいろいろあったなと思ってな……」
四月はまあ普通だとして五月以降がな……赤海先輩の件とか小鳥遊先輩の件とか大変だった。
「あはは、たしかにねー。 今までの人生じゃありえないくらいいろんなことあったかも!」
うんうんと頷いているが赤海先輩の件の元凶はこやつである。そういや俺赤海先輩に思いっきり殴られたんだよな。あの時は痛かった。
しかし主人公であるこいつより俺の方が苦労している気がするのはどういうことだろうか?いや自業自得の面もあると思うけどね?自分の心の平穏のために首突っ込んだりしたし。
そのせいで余計な面倒事を引き寄せるとは思いもしませんでしたがね……あーほんと白波先輩の件どうしよ。
それはともかくいつまでも家の前で喋ってるのもあれなので一旦会話を止め各々の家に帰ることにした。
「ただいま」
「ただいまー」
久しぶりに自宅の玄関を見て帰ってきたんだなぁ、という感傷のようなものに包まれる。どうやら僅かながらホームシックにかかっていたらしい。
ところで紫苑何でお前当然のごとく俺の後に続いて俺の家に入ってきてるんだ?「帰ってきたなぁ……」って気持ちが吹っ飛んだんだがどうしてくれる。
「お前こっちじゃないだろ。 自分の家に帰れ」
「う、うっかりしてた……」
うっかりで俺の家で「ただいま」なんて言うんじゃない。今その辺デリケートだから止めていただきたい。
自分の家に入っていく紫苑を見届けたちょうどその時、家の奥からパタパタと足音が聞こえてきた。母さんだ。
「おかえりなさーい。 あら? 紫苑ちゃんは? 声がしたと思ったんだけど……」
「自分の家に帰らせた」
自分の息子よりお隣の娘を気にするとはどういうことなのか。まあいつものことだけど。
「あら、久しぶりに会いたかったのに」
「どうせこのあとなんやかんや理由つけて会うんだからいいじゃないか」
紫苑の家族と俺の家族がなんやかんや理由をつけて一緒にご飯食べたりするのは俺達が学園に入学するまで日常茶飯事だった。いや俺が知らんだけで今も普通に一緒に飯食ったりしてるのかもしれないけど。
……将来は俺一人暮らししなくちゃな。こんな状況じゃ彼女できてもいちゃつけない。
「それもそうね。 じゃ、いつまでも玄関にいないで上がりなさい。 お昼は? 食べた?」
「食べた」
素っ気ないやりとり。だけどそのやりとりは俺にとって当たり前だったことで改めて帰ってきたんだと実感した。
それから昼間はそれぞれの家族と過ごしたが、夕飯は予想どおり紫苑の家族と一緒に食べることになった。
俺の家族に加え紫苑とその家族と食べる夕食はとても賑やかなものとなった。友人たちと食べるときとは違った賑やかさだ。
俺と紫苑はそこで学園であった事をたくさん話した。
新しくできた友達のこと。
生徒会に入ったこと。
そしてその中で起こった事件のこと。
話す話題には事欠かなかった。
「家を離れての寮生活でどうなることかと思ってたが、なんだ概ね今までと変わりないじゃないか」
「そうね、心配して損しちゃった」
「ははは、私としては紫苑の廻りに男が増えたのが気になりますけどね。 ハハハハハ」
散々問題に巻き込まれたと言ったのに割と薄情なことを言う両親だ。一応心配はしてくれてたみたいだけど府に落ちん。
そして紫苑のお父さんがこわい。目に光が灯ってないんだけど大丈夫なのアレ?
「ごめんねー、うちの紫苑ったら相変わらず迷惑かけてるみたいで」
「いえ慣れてますから」
「うう、自覚あるだけに反論できない……」
夕食後、久しぶりに戻った自分の部屋の床に寝転がった。なぜ床かというと冷たくて気持ちいいからだ。今夏だし。
食べてすぐ寝ると牛になるというがそんなことはどうでもいい。というか若いからなんとかなる。
しかしなぁ・・・。俺の心は前にこうしていたときとは違って悩みであふれていた。地味に心が休まらない。
目下の問題は白波先輩の件である。
というかお相手がどんな人か知らないのが問題だよな。学園の人じゃないらしいから確かめようがないし。
やっぱり事前にいろいろ考えておくより実際ちょくちょく相談にのるしかないか。
本音を言えばそれより自分の問題を解決したいのだが……。
「止めだ止め。 今考えてもどうしようもない」
強引に思考を打ち切り目を閉じる。
―――コンコン
その時、ノックの音が聞こえた。ドアからではない。ベッドの側の窓からだ。
そこの窓の下には足場になるようなものはないが別に怪奇現象というわけではない。
カーテンを開ければ向かいの部屋から手を振る紫苑の姿があった。その手には先端に布をつけた棒。あれで窓をノックしたのだ。
中学卒業までいつか紫苑が加減を間違えて窓をぶち破りやしないか不安でいっぱいだったのは完全な余談だ。
「なんの用だ?」
「今日は久しぶりなことを網羅しようと思って! だから存分に話そ!」
そういやこうやって夜中に話すのも前はよくあったことだ。寮では男子、女子で別れてるから不可能だったし。
しかし久しぶりを今日一日で網羅するのは無理じゃないか?基準がわからんからなんとも言えないが。
ちなみにギャルゲーとかでは窓から浸入とかよくあるみたいだが俺たちはそんなことはしない。
正確に言うなら子供の頃紫苑がやろうとしたのを見て俺が危ないだろと怒ってからやらなくなった。
妹がこの所業を知れば「ロマンスになんてことを!」とか「青春要素が!もったいない!」と言われるかもしれないが二階からだって落ちたら危ないのだ。
というか窓から行き来するメリットが見当たらない。普通に歩いて相手の部屋に向かうのと足場が不安定な窓を渡る労力を比べても結果的にそんなに変わらないと思う。
ギャルゲーの主人公とヒロインはなぜそんな危ないことをしているのか一度問い詰めてみたいものだ。
そんなことを頭の片隅で考えながらぐたぐだと中身のない雑談を続けていると紫苑がそういえば、と前置きをして切り出した。
「そーいえば純ってケータイまだ持ってなかったよね?」
中学時代はケータイまだいらない派に属していたし、高校に上がる際も寮生活ならいらんだろうと考えていたので持っていない。
「なら明日買いに行かない? 私も買い替えたいし案内するよ?」
確かにそろそろケータイを持つ時期なのかもしれない。当初の予定に反して高校に入ってからは紫苑を通じて生徒会云々の用事で連絡を受けることは多かったしケータイがあれば便利だろう。
予算もあるし買うにはちょうどいい時期なのかもしれない。
「そうだな……じゃ頼む」
「まっかせて!」
明日の予定を確定させつつそのままついつい話し込んでしまう。
懐かしさのせいか雰囲気に呑まれたのか会話は続きその日寝たのは夜中の2時近くだった。
今回は繋ぎの回なので短めです。
そしてヒロインが及川さんに決まった途端に紫苑さんと絡ませる鬼畜展開。




