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恋物語の片隅で  作者: 那智
番外編
47/64

黒田君IF ギャルゲー編 HAPPYエンド

※この小説にはTS要素が含まれています。苦手な人はバックホームしてください。


書きたかった終わりを書けて満足。

「嫌だ」


シオンの答えは否だった。


「僕は純香と一緒にいる。 離れないから」


「お前な……弱味を全部見せろってのか?」


「うん」


こ、このやろう。言うじゃないか、ぶん殴るぞ。

怒りを力に。力を拳に。そんなノリで拳に力を込める。

だが殴る前に私の手はシオンに掴まれた。これじゃ殴れない。


「純香、僕は純香が好きだ」


「お前いきなり何を……」


「だから離れたくない」


手を握る力を強めシオンが私を見つめる。その目は真剣だった。


「ここで離れたらもう二度と純香に会えない。 そんな気がするんだ」


「……」


こうなったシオンは私の言うことなど聞かない。それはこれまでの経験からわかっている。

だから私がシオンに返す言葉はひとつだけだった。


「……好きにしろ」


それだけ言うと反対側を向いて横になった。なんかシオンのペースに巻き込まれてしまったようで複雑な気分なのだ。

よってふて寝する。




夜中に目が覚めた。時計を見れば針は一時を指していた。こんな微妙な時間に起きてしまったのは確実にふて寝したからだろう。

しかしいつものようにあの夢を見たのだが今日はそんなに辛くない。なんか今日変わったことあったっけか?

理由を捜し病室を見渡すと病室に備え付けられた椅子でシオンが寝息をたてていた。ちょっとびっくりした。


「ずっとここにいたのかこいつ……」


えーと、私が寝たのってたしか5時ぐらいだったよな?てことは七時間近くずっといたの?離れないってガチで?

というか病院の関係者にはなにも言われなかったのか。かじりついて動かなかったの?まさか迷惑かけてないよね?


不安を感じながら溜め息を吐き窓を見た。そこには男ではなく長い髪の少女がうつっている。これが今の私。十七年間毎日のように見てきて受け入れたはずだった。

でも受け入れてなかった。根本の部分で私は男のままだった。髪を伸ばしても、女らしい格好をしても変われなかった。


そこでひとつ思い出した。

そういえば髪を伸ばしたのだけは自己暗示のためじゃなかったんだよな。すっかり忘れてたけど。

あのころよりずいぶんと長くなった髪を弄りながら目を閉じ昔を思い出す。


――――――


『ねえ、すみちゃんはかみのばさないの?』


『なんだいきなり』


『だっておなじ組のおんなのこ、みんなかみのけながいよ。 僕のおかあさんやすみちゃんのおかあさんだってながいのにすみちゃんだけかみのけがみじかいからなんでかなって』


『私が髪伸ばしたって似合わんよ。 女らしくもないしな 』


『そんなことないよ! 僕、かみのばしたすみちゃん見てみたい!』


『そうは言ってもな……』


『ねーおねがい』


『……はぁ、しかたないな。 わかったわかった。 そこまで言うなら伸ばしてみるさ』


『ほんと!?』


『ああ、本当だ。 だけど似合わないからって笑うなよ?』


――――――


本当に懐かしい。

まだ女であることを意識せずともいられた時期のことだったか。もっともあれをきっかけにして女らしくあるべきだろうかと意識し始めたのだが。

ま、結局私は女にはなれなかったがな。


にしても……。

ちら、と眠るシオンを見る。なんとも幸せそうな顔で寝ていやがる。その顔にチョップをくれてやろうか。

それはともかくだ。

シオンにはすべてを話そうと思う。本当なら自分の心のなかに仕舞い込み、誰にも教えず墓まで持っていくつもりだったすべてを。

しかしこいつは胸のうちを語ってくれた。目をそらす私に真っ正面からぶつかってきた。

ここまでされてなにもしないのでは女としての私も、男としての私も廃る。


「……私もちゃんとケジメはつけないとな 」


この時私はシオンと本当の意味で向き合う覚悟を決めたのだった。




珍しく雲ひとつない快晴の日、私はシオンが押す車椅子に乗って病院の屋上に来ていた。

吹き抜ける風は穏やかで絶好の洗濯日和といえるだろう。だというのに屋上に人の姿はない。ここにいるのは私達だけだった。


「それでなに? 話って」


「シオン、お前私に対して疑問を感じたことはないか?」


「え?」


「口調のことだったり、このすかした性格のことだったり、今私を襲っているこの症状だったり」


「それは……」


その反応、あると見た。

まあ普通あるよな。明らかにおかしいし。これで無いとか言ったらもっと物事に疑問を持てと説教していたところだ。


「その理由を話そうと思う。 まだ父や母にも話していないことだ。 一言一句聞き逃すなよ?」


「……わかった」


そして私はシオンにすべてを話した。私に好意を向けてくれているシオンに対してのケジメ。

私の前世のこと。今の私も男の意識が強いということ。そして、私が女としてシオンを愛することはないだろうということ。他にも様々。

私が今までの人生でずっと一人で抱えていた秘密をすべて話した。


「というわけだ。 これから先も私がお前を恋愛感情を向けることはないだろう。 早いとこ他の女に乗り換えた方がいいぞ?」


拒絶ともとれる言葉。いや事実拒絶だろう。私はシオンの好意を受けとることができない。そうはっきり口にしたのだ。

だからシオンの次の言葉は私にとって予想外のものだった。


「純香は女の子でしょ?」


「ん? ああ、身体はな。 中身は男だ」


「でも僕が見てきたのは女の子の純香なんだから好きになっても問題はないよね?」


問題はない……か?まあ端から見れば一途に一人の女を想い続ける男とそれを袖にし続ける女だからな。……なんかそれって私が悪女みたいだ。

いやいやいや、それでもおかしいだろう。私メンタル男だって言ってんだろ。確かに生物学上は女だけどもせめて困惑ぐらいしろよ。どんだけハートがタフなんだ。


「メンタル面で見ればホモだぞ?」


「うん」


「エロイこととか無理だぞ? キスもだ」


「うん」


「突然レズに走るかもしれないぞ?」


「それはダメ」


ダメか。小雛どんまい。

しかしここまで否定的な要素並べても揺らがないとか意思強固過ぎるだろ。


「とにかく私はお前に何も与えることができない。 無理なんだ」


これはシオンに道を踏み外させないための最後の説得。私といても得るものなど何もないぞという警告。

出来れば聞き分けてほしいと願う。だがこの時私は失念していた。これだけで説得できるならそれ以前の段階で説得できているはずであることを。


「でも、そうしたら純香はひとりぼっちでこの先生きていくことになるよ」


「それは……しかたないだろう。 結婚する気はないしな」


「そうは言うけどさ」


そっと肩に手をそえられた。


「こうやって一緒に過ごすのが嫌なわけじゃないよね?」


……どうやらこの男、諦めるつもりはないらしい。まったく、厄介な男に惚れられたものだ。


「はぁ……勝手にしろ」


ニコニコと笑うシオンに対して私が言えたのはそれだけだった。

というかそのニコニコ顔ちょっとむかつく。お昼に出されるトマトでもぶつけてやろうかな?





その後の話になるが私とシオンの関係は変わることはなかった。

私が車椅子生活に突入し、シオンがその世話役になった程度の違いはあったがその後の高校生活でも、高校を卒業して大学に行っても、大学を卒業して社会に出ても私達はずっと親友であり続けた。私の隣にはいつもシオンがいた。


高校を卒業した時に思い切って両親に私の前世の記憶のことを話した。

驚かれたりはしたがそれだけだった。二人ともあっさり私の前世を受け入れてくれた。

むしろ納得された。「どうりで男らしいと思った」だと。これには私の方がビックリだ。

その両親の提案で大学を卒業した後にシオンと籍を入れた。意識が変わったわけじゃない。周りを誤魔化すためだった。

結婚式はしないで回りに知らせるだけの簡素なもので、誓いのキスなんかもない。ぶっちゃけ夫婦という設定でルームシェアをしていると言ったほうが正しい。

こういうの仮面夫婦っていうんだろうか?ちょっと違う?かなり?


でもそんな感じで結婚しても、結局生涯において私とシオンが男女の仲になることはなかった。


それでもいろいろあって養子を迎え入れたので端から見れば普通の親子には見えていたのではないかと思う。

幸い母の手助けもあって私は『母』となることはできた。歪な家庭だができるだけ不自由はさせなかったつもりだ。

……私達の養子となったあの子にはすべてを話さなかった。

養子であることなどは早いうちに話していたのでいつか大きくなったら引き取った理由とかその辺聞かれるかな?と思っていたのだがあの子は私が不妊なのだと思ったらしく特に触れてくることはなかった。

とても良い子だ。でもまさか母が生涯処女だったとは夢にも思うまい。


シオン?シオンは……童貞なんだろうか?事情が事情だし別に嫉妬する理由もないしでその辺は好きにすればいいと言っておいたのだが結局あいつがそういうお店に行った様子はなかった。

もしかして私は気にしてないがシオンは気にしたりしたのだろうか?よくよく考えればシオンから見れば私は女な訳で、その理論でいくとシオンは惚れている女から「お前とエロイことしないから。 我慢できないならお店に行くか愛人作れよ?」と言われたようなもの。

私悪女じゃねえか。それも相当たち悪いタイプの。

ま、まあこの辺のシモ事情はいいだろう。


心残りがあるとすればふたつ。ひとつは碌な親孝行ができなかったことだ。

母と父には孫の顔を見せられなくて申し訳なく思っている。でも男とそういう関係になるのを想像するだけで鳥肌が立ったので勘弁してもらいたい。

そしてもうひとつ、シオンのことだ。

私に関わらなければシオンは普通の恋愛をして、普通の結婚をして、普通の父親になれていただろう。

そう考えると私は、あまりにも多くのものをシオンから奪ってしまったことになる。

このことは私のことを苦しませ続けた。あの日、無理矢理にでも居なくなればよかったのではないかと思う日もある。


だけど……それでも言わせてもらおう。

大切な親友と共に過ごす日々はなかなかに楽しかった。

我ながら歪で他人に誇り語れるような人生ではなかったと思うがそれでも――――



私は幸せだった。



ED1『永遠の親友』


恋愛物だからって誰かと結ばれるかと思った?友情エンドでした。

でもまあ恋愛物でこの終わり方は許されざるかもしれない。


このエンドは俺が見てきたTS物の着地点のほとんどが『なんやかんやで女であることを受け入れ男と結ばれる』ものばかりだったからこういうのはどうだろうと思って書いた。

こんな終わりもたまにはいいんじゃないかと。


ちなみに前に黒田さんの場合はバッドエンドが基本と言ったのは黒田さんが女であることを受け入れられないのが前提だったからです。

黒田さんは女の真似は出来ても女になることはできなかったのです。その辺は口調や行動に現れています。

その他いろいろ裏設定は考えてますけどまあ番外編だし語らなくていいよね。


それと最後に、この話にタイトルをつけるとしたら・・・そうだな。

『TS少女は恋をしない』

こんなんでどうでしょ?

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