黒田君幼少期
ちょっと更新の頻度が下がりがちなのでお詫びをかねて番外編を投稿します。
七月の続きは・・・割り込み投稿とかできたよね?たしか。
ピピピピ、という目覚ましの音が鳴り響き俺は目を覚ました。寝ぼけ眼でカーテンを開ければ部屋に太陽の光が降り注ぐ。その光の奔流の直撃を受け意識が完全に覚醒した。
うむ、今日も快晴。実にいい天気だ。だが最近晴れ続きなのでそろそろ農家のために雨が降ってほしいものだ。
そんな子供らしからぬ考えを巡らせる俺の名前は黒田純。現在小学三年生のどこにでもいる少年を装う転生者である。
眠気のせいか半開きで固定された目を擦りつつ布団から出るとまず眠気覚ましに顔を洗い、それから歯を磨いたら朝食を食べる。ご飯と味噌汁の組み合わせは鉄板だ。これぞ日本の朝食である。毎朝作ってくれる母には頭が下がる思いです。
でもいつかは朝食にコーヒーをブラックでいただくダンディな男になりたい。だが道のりは遠い。だってこの体になってから苦いのが駄目になったし。何度でも言うけど神様なんて嫌いだ。
というかよく考えたらそれを踏まえなくてもご飯にコーヒーは合わない気がする。少なくとも俺は合わないと思う。パンになら合うと確信できるのに。
ええい、『朝食はご飯派』はダンディ気取ることも許されんというのか。
さて、その辺のことは置いといてパジャマから洋服に着替える。それから今日の授業で使う教科書をランドセルに入れ、これで朝の準備は万端。忘れ物無しである。
それでは日課をこなしに行くとしますか。
学校に行くにはまだ早い時間。その時間に俺は家を出た。
学校に行くわけではない。その証拠にランドセルも手提げ鞄も持っていない。今の俺は限りなく軽量化されているのだ。
だからというわけではないが軽い足取りで隣の家に入る。ここは勝手知ったる他人の家なのだ。
ほぼ毎日通っているので紫苑のお母さんもそろそろ俺が来る頃だと思っていたのか玄関で待機していた。
「あらー、いつも悪いわねー」
「もはや日課なので問題ないです」
「うふふ、すっかりまかせっきりになっちゃったわね。 あ、そうそう。 これ今週の絆創膏ね」
「どうも。 先週は使い切るどころか追加で三枚も使いましたから大変でした」
「あら、数増やしたほうがいいかしら?」
「とりあえず様子見で」
このやりとりにもすっかり慣れたものだ。というか紫苑のどじっ子度が高くて困る。目を離すと転んでるとか子供であることを踏まえてもひどい。その辺成長すれば変わるのだろうか?
余談であるが俺は基本大人には敬語を使う。まだ礼儀だの年功序列だのを重視していない子供社会では珍しい部類に入る。その為近隣の住民からは礼儀正しい良い子で通っているのだ。ちょろい。
紫苑のお母さんとの会話を終えると二階へと上がる。そして『しおん』というネームプレートが掛けられた部屋のドアを開け、ベッドで寝息を立てる部屋の主のすぐそばまで行った。そして息を吸い込むと決して大きな声ではないがよく通る声で言った。
「紫苑、おきろー」
「・・・・・・」
無反応。だがこれくらいはいつものこと。このくらいでへこたれていては一生かかってもこいつを起こすことなどできない。
とりあえずちまちま起こすのもめんどくさいので早速最終手段を使うことにする。
最終手段―――それは布団の中で丸くなっている紫苑から布団を引き剥がすことだ。
くくく、手っ取り早く起こすにはこれが一番。布団に魔力があるのならそれを起こす対象から引き剥がしてしまえばいいのだ。ふはは、紫苑敗れたり!
そんな謎テンション(表面上はいつもと変わらない)で心の中で悪役笑いをしていると紫苑がもぞりと起き上がった。
「起きたか、紫苑」
「んー、あと五分……」
目ボケ眼でそんなことをほざいてくる。許さぬ、許さぬぞー。
「ダメ。 お前この前五分後に「あと十分」とか言ったじゃん。 延長すんなし」
「……じゃあ三十分」
「遅刻するわ」
なんとか紫苑を起こした後は紫苑の母にバトンタッチ。流石に着替えやらを手伝うわけにはいかんからな。
もし手伝ったりしたら将来的に紫苑の黒歴史になることは確定だ。同級生に着替え手伝ってもらうとか恥ずかしいからな。絶対中学生ぐらいで悶える羽目になる。
それに『物語』にも影響があるかもしれないし。そこんとこ気をつけないと物語が始まる前に終わってたとかそういうことになりそうだ。
いやまあそれも別に嫌では無いんだがいまいち決心が……。
少々話がズレたがこんな風にお隣さんである高倉家に突撃し紫苑を起こすのが俺の毎日の日課である。
もともとは平日に朝が弱い紫苑が寝坊するのを防止するために始めたのだが月日が経つごとに何故か悪化し、今では休みの日もこれやんないと紫苑はいつまでも起きようとしないから困る。
うん、これ立場逆じゃね?いや小学生だからそういう問題じゃないか?
というか小学三年生にもなって未だに寝坊したりぽあぽあしたところがあるのはなぜだろう。『物語』ではそれなりのしっかり者って聞いてたんだけどなぁ。
しかも身長もあまり伸びずちみっこいままだ。女子って成長早いんじゃなかったっけ?あれ?もうちょい後からだっけ?まあ誤差の範囲だろうが。
ちなみにちみっこいのとぽあぽあした性格のせいでこいつは三年生になった今でも一年生に間違われることがある。早よ成長しろよ。じゃないと将来合法ロリになってしまうぞ。『物語』的に考えてそれはないだろうけど。
「ほら早く行くぞ」
「んー、やっぱり学校行くの早いよー。 ほんとーならもうちょっと寝れるのにー」
「そう言って遅刻しかけた奴が何を言うか。 ゆっくりしたいなら学校ですればいいだろう。 少なくとも時間がなくなって慌てるよりはよっぽどマシだ」
紫苑を起こした後はランドセルを背負い消化試合をする時みたいな気分で紫苑と学校に登校し学業をこなす。
最初は精神年齢とか話題の相違とかでいろいろ不安だったが特に問題なかった。というか童心に返って遊ぶの楽しい。やっぱこの時期が最高だよな。テストや受験で頭を悩ませることもないし喧嘩しても次の日ごめんなさいすればもう仲直りだ。シンプルで良い。むしろ歳を取ると何故あんないろいろめんどくさくなるのだろうか?
やはり人間正直に生きるのが一番である。楽しければ大声で笑い、悪いことをしたら謝る。何故か歳を取るとできなくなることなので今の気持ちを忘れないようにしたいと思う。
そしてなんやかんやで放課後、いつものように紫苑の家で寛いでいると紫苑がてこてこと近づいてきた。なお、いつものことと言っても日によって俺の家か紫苑の家かは変わるので誤解しないように。
寛いでいると雑誌を持った紫苑がてこてことこちらに近づいてきた。
「ねー、これつくってー」
そう言って紫苑はおそらく作って欲しいものが載っているのであろう雑誌のページを俺に見せてきた。
何故俺がそんなこと紫苑に言われているのかというと少し前に戯れで母にお菓子作りを教えてもらってからこのように紫苑がおねだりしてくるようになったのだ。
しかしお前同級生にタカるとか……えーとなになになに?こだわり卵のプリン?ハードル高いなおい。
「プリンならコンビニでぷっちんするやつでも買えばいいじゃないか」
「ダメっ! こだわり卵の!」
「あくまでこだわるのか? うーん……さすがにそんなこだわりの品は作れないんだけど」
買うにしても高いんだよねあれ。実にぷっちんの1.5倍のお値段。小学生の財力では手痛い出費となる。まったくお高くとまってくれるぜ!
「えー」
えー、じゃねえよこの幼女。そもそもこだわり卵って何をどうこだわれってんだ。
あれですか?「この卵は俺がひよこから育て上げたにわとりのバハムートちゃんが産んだこだわり卵だ!」とかそういうレベルを求めてるんですか?
こだわるにも限度がある。てか時間が掛かるわ。やり方も知らんし無理。
まだ凝ったお菓子は一人では作れないのだ。母に火を使うの禁止されているしな。その辺は小学生故しかたない。
「せめて母が帰ってくるまで待て。 俺一人じゃ作れないから」
「むー」
むくれても無理なもんは無理です。紫苑の頭を撫でて宥めつつ溜め息。
まったくなんでこんなわがままなのやら。この歳ならしかたないのか?自分がこのぐらいのときどんなだったか覚えてないからなー。
しかしこのままお菓子のおねだりが続くなら負担がでかくなるな。後で紫苑にもお菓子作り教えてみるか?
そんなことを考えながら母の帰りを待つのだった。
その後帰ってきた母に頼んで紫苑といっしょにお菓子作り教えて貰うようになった。しかし紫苑によるお菓子のおねだりは高校生になっても続くのだがそれは別の話。
幼少記はまた書こうかな?次は学校の話とかで。
ほかに読んでみたい話があれば言ってください。書けるのは書きますんで。




