交友関係を広めました
そういえばTS物って(男→女)ってのはよく見るけど(女→男)ってあんま見ないよね。
うん、この話とはなんら関係が無いね。
紫苑が起こすはずの原作イベントを回収してしまうというミスをしてしまった日の夜。
割とへこんだが過ぎてしまったものはしょうがないと諦め黄野に誘われ共に夕飯を食べていた。
・・・のだがどうにも黄野の様子がおかしい。
「はぁ・・・」
さっきから黄野は虚空を見つめてため息ばかり吐いている。
心情的にはこっちがため息吐きたいぐらいなのになんで俺が聞き役にならなくてはならないのだろうか。
だからといってこのまま無視し続けるのも気まずい。
密かにサラダのプチトマトを黄野の皿に移住させながらしかたなく声を掛けた。
「どうしたんだ、黄野? 虚空見つめてため息とはお前らしくもない」
黄野とは友人となってまだ一週間も経っていないがその間に培った黄野のイメージと目の前で恋する乙女のようにため息を吐く姿は相反している。
つかお前のガタイでそのポーズはやめろ。似合わない。
「・・・なぁ、高倉さんと付き合うにはどうしたらいいんだろうな」
これは・・・・・・まさか『恋 愛 相 談』というものか!
まさか友人歴4日目で恋の悩みを聞かされるとは思いもしなかったぞ友よ!
人の恋路ほど愉快なものはないと言われるがそれを実証するかのように俺のテンションはうなぎ登りである。
だが相談自体は真面目に受けなければならない。俺にとっては娯楽だとしても黄野にとっては真面目な相談なのだ。
だがよくよく考えれば前世含め恋愛経験ゼロの俺がアドバイスなどできるのだろうか?無理だ。これ結論。
だからといってわからないで済ませるのも・・・。ここはかつての友人から聞いたアドバイスをそのまま伝授すべきだろう。
「俺が知る方法で一つ、成功率が高い方法がある」
「そ、それは!?」
「地道に仲良くなってから告れ」
「・・・・・・」
なんだその目は。しかたないだろう恋愛テクとか知らないんだし・・・なんだかんだでこれが一番無難で確実な方法だと思うけどな。
「わかってるとは思うが今すぐ付き合えるようになるとかそういう方法は存在しないからな」
まあ、当たり前のことである。
ここがファンタジー混じりの世界観だったなら惚れ薬とかがあったかもしれないが生憎そんなものはない。
つかあったとしても絶対使わせない。俺はあくまで純愛派なのだ。
「だよなあ・・・」
「ま、地道に頑張るんだな。 それよりも・・・」
「なんだよ?」
「早く食ったほうがいいぞ」
廻りの生徒たちはすでに殆ど食べ終わりつつある。
夕飯の時間は十分にとられてはいるが俺達は今日だいぶ遅れて食堂に来ていたので元々余裕はなかったのだ。
だというのに黄野は長時間ぼんやりしていたので料理にほとんど手をつけていない。
「なぁっ!? いつの間に!?」
「お前がぼーっとしてる間にな」
「やべっ! 早くしねーと・・・ってトマト多っ!? 皿の上プチトマトだらけじゃねーか!?」
黄野が焦るのには理由がある。
夕飯の終了時間が近づけてきているというのももちろん理由の一つであるのだが一番の理由は・・・。
「ほらそこっ! いつまでも喋ってないでさっさと食べなさい!」
「んぐっ、ごくん・・・げ!? 仙石先生!?」
来たか。
慌てて夕飯(主にプチトマト)を口に放り込んでいた黄野を注意したのは女子寮の寮監兼食堂の責任者である仙石先生だった。
仙石杏奈。
『物語』においてはサブキャラとして登場し、複数の男性に言い寄られる紫苑の恋路を応援し相談に乗ってくれる優しい先生だ。
また、スポーツ万能な上に冗談も理解してなおかつ20代半ばという比較的生徒に近い年齢のため女子学生からは良き相談相手として、男子生徒からは憧れの先生として慕われている。
などなどこれがギャルゲーだったら絶対この人ヒロインになってるであろうスペックを持っている。
でも一番凄い所はどのルートでも出番が多いことだろう。別名『もうこの人だけでいいんじゃないかな』。
話を戻すが彼女こそが黄野が焦る最大の理由である。
何せ彼女は黄野が所属したサッカー部の顧問。今のようにだらだら飯食ってたりしてると弛んでると叱られる上に練習量が倍になるらしい。なんとも恐ろしいことである。
まあ、俺には関係ないんだけどね?もう食べ終わってるし。
でもプチトマトを押し付けた手前見捨てるのはとても心苦しい。なにより下手すれば俺のプチトマトを処理する係がいなくなってしまう。
いやでも今までは紫苑に処理してもらってたんだし・・・いやいや、もしかしたらそれがきっかけで変なフラグが立つかもしれない。可能な限りそれは避けなくては。
「先生。 彼のこと見逃してくれませんか?」
駄目元で頼んでみる。
仙石先生はにっこり笑う。あ、これは駄目フラグ。
「駄目よ。 記念すべき今年度最初の犠牲者なんだから見せしめになってもらわないと。
それにたしかその子、うちの部活の子でしょ? ならなおさら・・・ね」
見せしめって怖っ!冗談だとわかってても怖っ黄野もなんかダラダラ汗かき始めたし・・・まさか冗談じゃない?
ええい、余計に友を死地に送り込むわけにはいかなくなった!なんとか黄野を救わなければ・・・たとえ何を犠牲にしようとも!
「先生、彼は青春ならではの悩みを抱えて苦しんでいるんです。 許してやってください」
「あら! 素敵ね!」
「黒田!? 勝手に人の悩みを暴露するなよ!?」
黙ってなさい黄野!俺の予想が正しければ・・・。
「そうゆうことなら仕方ないわね~。 見逃してあげる。
そ・の・か・わ・り―――詳細教えてね?」
「むしろ相談に乗ってやってください。 俺には荷が重いんで」
仙石先生はにっこり笑って了承してくれた。よし、交渉成功!
「おいぃ!? 俺の意思は!?」
含まれておりません。
「そういうなよ。 俺より先生に相談するほうが得るものは大きいだろう?」
「そうだけどよぉ・・・」
実際、俺がへたなアドバイスするよりはずっといいだろう。
黄野は良い相談相手ができて、先生は趣味の恋愛相談ができる。そして俺は特に何もしなくていい。みんなWIN-WINじゃないか。
「ほらほら! お喋りはそこまで! もう少し待ってあげるからさっさと食べちゃいなさい」
「・・・ういーす」
なんだかんだで黄野への罰も消えたしこれで一件落着だな。
「あ、純! それに黄野君も!」
食堂から出ると友達らしき人と話していた紫苑が駆け寄ってきた。
「た、高倉さん!」
黄野はさっきの話のせいかやや過剰反応気味だ。
てか紫苑の姿を見た途端ガチガチになったな。紫苑に気があるのまるわかりじゃんか。
これで恋愛できるんですかあなた?
「ちょうどよかった。 ちょっとお願いがあるんだけど・・・」
「なんだ?」
「二人ってさもう部活どこ入るか決めた?」
「お、俺は決めたぜ! サッカー部にしたんだ!」
あ、後輩キャラじゃなくなってる。まだガチガチだけどマシになったほうか。
「俺はまだ決めてないな。 今のところ入りたい部活もないしな。 ・・・何でこんなこと聞くんだ?」
「実は私のルームメイトが新しく部活を作りたいらしいんだけど人数がなかなか揃わないのよ。 だから二人に入ってもらえないかなーって」
あー、部活か。たしか『物語』では生徒会に入らなかった場合に活動の中心になるんだよな。相変わらず『黒田純』は関わんないけど。
黒田純のルートに行くには部活への誘いもすべてスルーしないといけないんだよな。
こう考えると『黒田純』って青葉先輩を凌駕するボッチじゃね?
それとルームメイトの『及川美羽』のこともあったな。
『物語』では紫苑のルームメイトにして親友。いわばサブキャラ筆頭って感じだったはず。部活も彼女が最初に始めようとしたんだよな。
生徒会ルートに行くと登場シーンが少なくなってたまに名前が出る程度だから不遇であるという声も大きかったらしい。
「黒田、たしか部活の最低部員数は4人だったよな?」
「ああ。 一応紫苑と紫苑のルームメイト、あとは俺と・・・黄野、お前はどうするんだ?」
「うーん・・・できれば高倉さんのお願いだし頷きたいんだけどなあ・・・」
「掛け持ちとかはできないの?」
「たたたたぶん仙石先生ならサッカー部に影響が無い範囲なら許してくると思うぜ」
「・・・いざとなれば黄野の恋路の為とでも言えば大丈夫だろ」
「ぐ・・・。 と、とりあえず掛け持ち可ならな!」
それを聞くと紫苑の表情がぱあっ、と明るくなった。
「ありがとう二人とも!」
「ど、どういたしまして」
黄野の顔色がやばいことになっている。つまるところ顔真っ赤だ。
「どうしたの? 顔赤いよ?」
「い、いやこれは・・・」
「こいつさっきトマトたくさん食べたからな。 そのせいだろ」
「え? そうなの!?」
いや信じるなよ。
とにかく人数は揃ったのでそのルームメイトのところに向かうことになった。
そういえば同じクラスのはずなのに初顔合わせである。
「美羽! 部員になってくれる人連れてきたよ」
「紫苑、ありがとう」
紫苑に柔らかい笑みを浮かべながら礼を言っているのが『及川美羽』か。
ウェーブのかかった長い髪を首の後ろで束ねているおとなしめな印象がある少女だ。
「初めまして、黒田純だ」
「俺は黄野大介! よろしくな!」
「私は及川美羽。 よろしくね黒田君、黄野君」
紫苑と違い穏やかな性格みたいだ。
「ところで及川、新しく部活を始めるらしいがどんな部活なんだ?」
「あれ? 紫苑から聞いてないの?」
「これっぽっちも」
視線が紫苑に集まる。おい目を逸らすな。
「ごめん、部員確保優先して忘れてた・・・」
またうっかりか。
「もう、紫苑ったら・・・」
くすくすと笑って許す及川。
この数日で及川も紫苑のうっかりの被害にあったのだろう。やばい、かなり親近感が湧いてきた。
「私、天文部を作ろうと思ってるの」
「天文部か・・・なら活動は夜が中心か」
「なら黄野君も掛け持ちできるんじゃないかな?」
「そ、そうだな! 大会前だったり練習が長びかない限りは参加できると思うぜ」
これで一応最低人数の4人は揃った訳か。
「ねえ純、他に入ってくれそうな人の心当たりない?」
「人数はこれで足りてるわよ?」
「保険よ美羽。 黄野君が掛け持ちだから人数外になるかもしれないでしょ」
「あ、そっか」
「で、どうなの純?」
とりあえずお前黄野にも聞いてやれよ。地味にへこんでるじゃないか。
しかし心当たりか・・・。あ、一人いたな。
「一応当てはある。 明日にでも聞いてこよう」
「じゃ、よろしくね!」
今日のところはこれで解散になった。
翌日。
俺は二年の教室に来ていた。無遠慮な視線に晒されてすげえ居心地が悪いが我慢。
「というわけで青葉先輩、コミュ症治すためにも天文部に入りませんか?」
「い、いきなり・・・なに?」
俺の心当たりとは青葉先輩のことであった。
「新しく部活を作ろうと思ってるんですが人数が心もとないんです。 後輩を助けるためだと思ってお願いします」
そう言って頭を下げた。青葉先輩は少し俯いた後―――
「うん・・・僕でいいなら」
了承してくれた。よし!紫苑とのイベント潰しちゃったんだし代わりに面識も作れて一石二鳥というやつだ。
それに黄野と青葉先輩の二人がいれば万が一紫苑が生徒会に入らなくても何とかなるかもしれないしな!
「あ・・・そ、それと」
「なんですか?」
「昨日は・・・失礼なことをした・・・ごめんなさい。 それと・・・ありがとう」
「・・・どういたしまして」
ようやく原作主人公以外の女性を出せた。
簡易キャラ紹介
■及川美羽 おいかわ みう
とある乙女ゲームのサブキャラの一人
『物語』で紫苑が入る天文部の創立者。部活ルートでは出番が多い。
髪型は長い黒髪ウェーブヘアで首の後ろで軽く束ねている。
■仙石杏奈 せんごく あんな
とある乙女ゲームのサブキャラの一人。
生徒の恋愛相談を聞くのが趣味。まじめにアドバイスもする。
髪型は藍色のショートヘア。
■黒田純 くろだ じゅん
トマトが憎い。
■高倉紫苑 たかくら しおん
割と純を優先する。
■黄野大介 きの だいすけ
紫苑と多少普通に話せるようになった。
■青葉奏 あおば かなで
謝ることができ、お礼も言えた。




