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恋物語の片隅で  作者: 那智
7月
38/64

犯人を待ち伏せしましょう

最近ほんとペース落ちてるなー。頑張らんと。

青葉先輩提案の待ち伏せ作戦を決行してから早三日。未だ成果は出ていなかった。このままでは少々まずい。具体的にはもうすぐ夏休みなのでタイムリミットが近い。

夏休み間近という時期が時期なだけに学園内はどことなく浮かれぎみなのだ。このまま夏休みになってしまえばそのまま今回の事件がうやむやになってしまう可能性がある。それは許さん。なので早く成果を出さなければいけないのだが……。


「基本待ちだからなぁ……」


「どうしたの黒田くん?」


「いえ、なんでもないです」


あまりにも暇すぎて心の声が漏れてしまった。まあ待ちぼうけ状態が長すぎるので仕方ないと思い込むか。元より翌日に来るとは思っていなかったがそれでもただ待ち続けるのは退屈だった。しかも廊下側からは見えない位置に隠れているのであんまり動くこともできない。これは赤海先輩はともかく紫苑には無理だったな。あいつ基本アクティブだから……。

そんなことを考えながら虚空に視線を漂わせていると青葉先輩に袖を引かれた。なんじゃらほい。


「く、黒田くん。 あれ……」


「お、遂に来たようですね」


教室のドアに目を向ける女子生徒二人がやたら周囲を気にしながら教室に入ってきた所だった。一人はみつあみが特徴的な気弱そうな少女、もう一人は髪をポニーテールにしていて相方とは違い気が強そうな印象を受けた。校章の飾りの色を見るに二年生なのだが……うん、見るからに怪しい。

確実に怪しいがまだ動かない。何故ならまだあの人たちが犯人だと決まった訳ではないからだ。ただ忘れ物取りに来ただけかもしれんし。まあそれなら周囲を気にする必要なんて無いんだからその可能性は低いけどね。裏付けは大事なのだ。

そんなことを考えながら様子を伺っているとあることに気づいた。んー、何て言うか動きが嫌々っていうか、躊躇ってる?


「ねぇ彩芽、こんなことやめなよ。 小鳥遊さんに謝って全部話せばいいことじゃん」


「でも……そんなことしたらあの人になにされるか……」


「じゃあずっとあいつの言いなりでいるの? それじゃあいつまでもいいように使われるだけよ?」


「それは……そうだけど……」


ふーむ、会話から察するに初期の青葉先輩みたいに気の弱そうな人が『あの人』とやらに命令されて嫌々ながら従っていて、もう一人がそれをやめさせようと説得してるというとこか。

となると指示した人をなんとかせんといけないな。そうしないといくら実行犯を捕らえたところで状況は変わらないだろう。それどころか悪化する可能性すらある。

しかし指示した人は誰なのか?……うん、考えてもわかんねえな。情報が足りない。まずは情報収集しなければ。

と、いうわけであの二人を捕まえよう。レッツキャプチャー!


「じゃあ青葉先輩、同時に飛び出しますよ。 びびらせてやるんです」


「う、うん。 僕が役に立てるかわからないけど……逃げられないかな?」


「こういうのはとりあえず人数いた方がいいんですよ。 相手が複数ならパニックになりますからね。それに赤海先輩がバックアップしてるんでどうあがいても大丈夫です」


青葉先輩に合図と共に飛び出すことを伝えると期をうかがう。ちなみに今の会話はちゃんと小声である。そして二人が小鳥遊先輩の机に近づくと動いた。


「そこの二人、話は聞かせてもらいました! 事情聴取させてもらいます!」


「 お、大人しくしてくだひゃい!」


隠れてた場所から飛び出しつつ二人に向かって宣言する。青葉先輩が肝心な所で噛んだけど勢いで乗り切ろう。


「やばっ! 逃げるよ彩芽」


「う、うん」


くくく、逃がさんぞ!というか個人名出してる時点でアウトだからな?せめてコードネームとかなら……うん、痛々しいね。


「おっと、ここは通行止めだぜ?」


逃げ出そうとした二人の進路を塞ぐように赤海先輩が現れた。伏兵ですね。これ絶対心臓に悪い。

だって『後ろめたいことしてたら見つかる』からの『悪い噂が多い先輩の待ち伏せ』のコンボとか……うわ、自分で仕組んだことながらえげつねえ。


その後、容疑者二人は特に抵抗すること無く捕まった。悪名高き赤海先輩が出てきた時点で諦めたらしい。捕らえた後は余計な横槍が入らないように周囲を見張っていた紫苑と合流して生徒会室に向かった。

生徒会室には白波先輩と何があったのかは知らないけど勉強会以降白波先輩に色々教えてもらうようになった黄野がいた。まだ正式に生徒会に話を持ち込む訳にはいかないのである程度ぼかして事情を話すと白波先輩はなんか色々察してくれたらしく黄野を連れて見張りをしてくれることとなった。穴だらけの説明で察して見張りまでしてくれるなんてほんと凄いお人だわぁ。

さて、そういうわけでこれから質問のお時間なのだが……。


「余計なことを言わずに俺様の質問に答えるんだ。 いいか、嘘つくんじゃねえぞ」


「は、はい……」


なんか赤海先輩が率先して質問とかしてるから俺のやることがない。更に言うなら紫苑と青葉先輩のやることもない。出来ることといえば精々周りにいることで相手にプレッシャーを与えることぐらい。それも元不良モドキの赤海先輩の威圧に比べれば些細なものだ。

いやまあ適材適所ってやつなんだろうけどね。この二人は二年生だから俺と紫苑にとっては先輩だし、青葉先輩が二人に対して強気で質問するところなんて想像できない。その点赤海先輩は最上級生だし脅しまがいの事だって言えるキャラだ。チンピラっぽいとか思っちゃいけない。

とにかく俺はこの場においてはただ突っ立っていることしかできない。つまり要らない子。ニート。やべえ泣きたい。

耐えがたい事実に涙を堪えていると紫苑が話しかけてきた。ちなみに青葉先輩は赤海先輩がお話ししているのを見て怯えている。頑張れ青葉先輩。そのびびり様じゃトラウマか何かがあるのを疑うレベルですよ?


「ねぇ純、赤海先輩やり過ぎたりしないかな?」


紫苑の赤海先輩に対する信頼がほとんど無くて涙が出そう。もしかして印象とか俺が殴られたあたりから大して変わってないんじゃ……。


「話聞くだけだから暴力沙汰にはならんだろ。 それにこういうのは少しぐらい威圧感があった方がいい」


「少しじゃない気がするんだけど?」


「言うな」


これ以上赤海先輩の黒歴史について言及するのはやめましょう。利用した俺が言うのもなんだがいい加減そっとしておかないと元不良キャラからの脱却が出来なくなってしまう。


「おいテメェら何勝手な話してんだよ」


「あ、ごめんなさーい」


一通りの質問を終えたらしい赤海先輩がこちらに歩いてきた。お疲れ様です。


紫苑と青葉先輩に二人を見張ってもらい赤海先輩の話を聞くことにした。赤海先輩が聞き出した内容を纏めるとこういうことになる。


二人の名前は桜田彩芽と田辺雪乃。二人とも二年生で同じクラスの親友同士らしい。ファンクラブに入っていたのは桜田先輩だけ。最初はファンクラブといっても特に何をするわけでもなく言うなれば抜け駆け禁止の協定結んでるだけだったけどある日、突然指示に従うように言われた。田辺先輩はそんな桜田先輩を心配して……というわけらしい。


ちなみに黒幕の人がどうやってファンクラブの人間を動かしていたかというと緑川先輩の持っていたハンカチとかそういうグッズを餌にしていたようだ。というかそんなん出回ってるの?怖い!今度から緑川先輩に持ち物には気を付けるように言っておこう。念入りに。

うーむ、しかしぼろぼろ話してくれたな。赤海先輩効果すごいね!


「ええっ!? そうなんですか!?」


おい紫苑喋るのはいいけどもう少しボリューム落としなさい。つかいつの間にお喋りするぐらいに仲良くなってんの?ほんと愛され系主人公は手が早いな!


「会ったことがないって、それじゃあ連絡とかどうしてたんですか?」


「えと、連絡はその人の取り巻き……かな?そういう人達から手紙や口頭で伝えられたの」


「わー、取り巻きがいる人ってほんとにいるんだぁ……」


うん、それは俺も思ってた。ファンクラブも大概だけど取り巻きも何処のフィクションの話だよって話だからな。ところで取り巻きがいる人ってどことなく小物っぽい気がするんだがそれは俺の勝手なイメージだろうか?


それはともかくイメージとしてはテンプレートな悪役のお嬢様って感じかね?なんか親に力があってそれを笠にきて好き勝手みたいな?小鳥遊先輩がなり損ねたキャラだね。

この学園ではそういうの大して意味を持たないけどそれでも媚を売る人は居るだろう。そんでもってそういう人間は自分の思い通りにならないのを嫌うくせに自分の手は汚したがらないからな。

うーむ、どおりで『物語』でもなかなか名前が出なかった訳だ。安全地帯から高みの見物ってか?イラつくな。


引き続き紫苑と青葉先輩に見張ってもらってその間に赤海先輩と話し合う。ま、見張りなくてももう逃げないだろうけどね。


「それでどうすんだ? このままあいつらをおとがめなしで解放するわけにはいかねえんだろ?」


「そうですね……せっかくですしあの二人にも協力してもらいましょうか」


「なにさせる気だ?」


その言葉に対して笑みを浮かべると自分でも思った以上に意地の悪い笑みになったのがわかった。どうやら自分は自分で思っていた以上に性格が悪いらしい。いや今更だろうけど。


「ちょっとスパイ的なことを、ね」


「スパイ? どういうことだ?」


「あの二人に指示した人が誰か探らせるんですよ。 小鳥遊先輩にも言えることですけどファンクラブに入ってる人って基本緑川先輩にしか興味がないんですよね。 」


「まあそうだろうよ。 だからどうしたってんだ?」


「そういう人たちって結構盲目気味というか緑川先輩を理由にすれば何の疑いもなく言われたことにしたがちゃうんですよね」


恋は盲目というかなんというか。小鳥遊先輩だって最初はなんの権利もない人間に『緑川先輩と勝手に仲良くなってはいけない』って言われてそれに従ってたし。もっと理性的になろうぜ乙女たち。


「なのでこっちも同じことします」


「おい」


笑顔で赤海先輩につっこみを入れられた。そこまでご不満か?


「いやこの際何も言わねえよ。 だが大丈夫なのかよ? 」


「問題ありません。 先方と違ってちゃんと報酬は用意しますので」


せっかく緑川先輩仲良いんだから有効活用しなければ。一応今回の件は緑川先輩がまいた種だから文句は言わせない。まあその種に水と肥料あげたの俺だけど。


「……てめえも大概腹黒いよな」


「今のご時世多少腹黒くなきゃ生きていけませんよ?」


これは断じて開き直りではない。決して。


「それにどうせ今回の件は生徒会に話さないといけないんですし、それだったら協力者として紹介した方がいいじゃないですか。 その既成事実作りの為でもあるんですよ?」


田辺先輩はともかく桜田先輩はファンクラブ入ってたんだし緑川先輩に軽蔑とかされたら耐えられんだろう。気弱っぽいし。

そう話したら赤海先輩に思いっきり溜め息吐かれた。なんですかその反応。失礼な。

とはいえいきなり協力してくださいでは無理だ。ここは先程述べたように相手にも利益が出る形に持っていく。先に似たようなことしているから警戒されるかもだけどね。少なくとも何の見返りもなく協力しろというよりはましな筈だ。

さ、というわけで説得タイムと参りましょうか。


次の話はなるべく早く書き上げたいけどファンタジー書きたい症候群に罹ってしまったので難しいかもしれません。

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