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恋物語の片隅で  作者: 那智
7月
35/64

七夕です

レポートやらテスト勉強やらで遅くなりました。

まだテスト終わってないけどな!

「え? 紫苑来ないのか?」


いつものように天体望遠鏡を運ぶために集合時間よりも早く女子寮前に行くと及川が一人で待っていた。


「うん。 紫苑ったら「燃え尽きた……」って言ってベッドに倒れたと思ったら動かなくなっちゃって」


甘味ブーストの無理が祟ったか。あれどういう原理なんだろ?


「まいったな。 こっちも黄野を呼びに行ったらもう寝てたんだ」


俺が行った時にはぐっすりすやすや夢の中。多分こっちも燃え尽きたんだろう。お疲れ様。

更に言えば青葉先輩も来られない。体調が悪そうなのには気づいていたがまさかテスト終わった後保健室送りにされるほどだとは思わなかった。

後でお見舞いに行くべきだろうか?記憶にあるかぎりお見舞いイベントなんてなかったから恋愛フラグを奪うこともないだろうし。

というか異性が寮に入るの禁止されてるから起こりようが無いんですけどね。

というか同じような学園物で攻略対象に看病されるイベントあるのってどうやってんだろね?寮の立ち入り許可するとも思えないし……不法侵入?

その場合窓から入ってきたりするんだろうか?というか外から誰の部屋かわかるの?主人公の部屋の位置を外から完璧に把握できているとかなにそれこわい。

それはともかくだ。


「行くだけ行くか。 天体望遠鏡は置いてくけど」


「そうね」



それからおよそ十分後、俺と及川は屋上の扉の前にいた。

晴れてますように、と願いを込めて屋上の扉を開けた。扉を開けた俺の目の前に広がった光景を一言で表すとこうなる。


―――わぁ、なんて空ひとつない雲!


うん、普通に曇ってた。まあ都合よく晴れるとかいうご都合主義なんてありませんよね。せっかくてるてる坊主作ったのに、ティッシュで。

なんで七夕って曇りや雨が多いんだろうか?

せっかく彦星と織姫が一年に一度会える日っていう伝説までついて持て囃されているのにもったいない。

久しぶりに恋人と会う彦星と織姫になにか見られて不都合なことでも……あっ。

……そ、そうだよね。久しぶりに会うんだものね。色々溜まっているよね。そんなシーン子供たちに見せるわけには行かないよね。下手したらトラウマになるものね。

俺もまだ高校一年生なのでアウトだ。実際には現在の年齢+αだが経験があった訳でもないのでたいした意味をなさないのだ。

色々混乱したが『七夕に曇りや雨が多いのは18禁シーンが繰り広げられられてる天の川を子供たちに見せないため』という結論に落ち着いた。晴れるのは健全なデートをしてるときだけなんですねわかります。

まあそんなフィルタリングサービスのことは置いといてこれからどうするかが問題である。


「うーん、どうしよう? 」


「とりあえず時間いっぱいまで待ってみるか? 運が良ければ雲の切れ目から見えるかもしれんし」


二人並んで座って空を見上げる。並んでるといっても間隔は人一人分ぐらいは空いているので勘違いしないように。


「そういえば小鳥遊先輩と緑川先輩の仲って進展したのかな?」


む、やはり女の子、そういうのは気になるか。テスト勉強の時にやきもきしたからなおさら。

でもまあ話しかけられるようになった程度だろうけど。基本ヘタレな小鳥遊先輩なとってはすごい進展だけどな。

信じられるか?あの人最初あった時はストーカー紛いのことしてたんだぜ?


「進展はしてるだろうがまだ時間かかると思うぞ? なにせ俺が背中押さなきゃ知り合うことすらできなかったかもしれないんだからな」


そういう意味では俺大活躍だな。このままくっついてくれると嬉しいんだが。

そういやファンクラブ対策どうしよう。いるのは確実っぽいけどいじめなんてしたこともされたことないから対策が立てられん。

妹の話では『物語』でも嫌がらせを受けるシーンがあったらしいがどんなものだったかは聞いてない。

まあ語られても困るけど。いじめのシーンを嬉々として語る妹なんて嫌だ。


「どうしたの? ぼーっとして」


「あ、いやなんでもない。 ちょっと考え事をしてただけだ」


「なに? 悩み事?」


「そういう訳じゃないけど……」


「もしかして小鳥遊先輩のことでなにか問題でもあるの?」


まあ口ごもればバレますよね。


「もう、前に手伝うって言ったじゃない。 ちょっとぐらい頼ってよ」


手伝ってもらえるのはありがたいんだけど流石に確証もないうちから行動するのはちょっと……下手に目を付けられれば動きづらくなるし。もうちょっと遠回しなことならいいんだが……たとえばなにか調べてもらうとか。

ん?待てよ。たしか及川って恋愛小説とか結構読んでるはずだよな。そういう本の展開でいじめやらなんやらってあるはず。そういうのを参考に出来ないかな?フィクションのいじめってやたら陰湿だし。

たかがフィクション、されどフィクション。小説いじめや嫌がらせだって結局は人間が考えたことだ。この世界が『物語』基準であることを考えれば過信はできないが参考にはなるだろう。

まあやらないよりマシ程度だろうが。


「たった今頼みたいことができた。 頼めるか?」


「いいけど……なに?」


及川に前に話したことに加え緑川先輩のファンクラブのことについても話した。そしてその人たちが小鳥遊先輩に危害を加えるかもしれないということも。

話を聞き終わると及川は納得したように頷いた。


「緑川先輩のファンクラブの噂は私も聞いたことあるわ。 嫌がらせとかされた子とかもいるって聞いたけど……」


「なら小鳥遊先輩のことでそいつらが動くのはほぼ確実か」


「あと友達に聞けばファンクラブに入ってる人とか全員は無理だと思うけど何人かはわかるかも」


女子の情報網こわい。重要な情報がポロポロ出てくる。この分なら仙石先生辺りも把握してそう。あの人生徒たちと仲いいし。


「それで注意するのはいいんだが俺はそういう嫌がらせがどんなものかは知らない。 及川は?」


「私も知らないけど……」


ならばこの方法しかあるまい。情報の有る無しじゃ有る方がいいからな。嫌がらせを受けてた人に話を聞くという方法もあるがそんなトラウマ抉る真似はしたくないし。


「このまま小鳥遊先輩と緑川先輩の仲が進展すればファンクラブの連中は黙ってないだろ? だが俺達は詳しくない。そこで小説を参考にしようと思ってな。 及川はそういうシーンが有る小説、もしくはいじめについて書かれた本を探して欲しいんだ」


「でもそれで大丈夫なの? 現実は小説より奇なりっていうじゃない」


「流石に過信はできないさ。 でも派手なことをしようとすれば先生にばれるのは確実。 下手に停学にでもなって緑川先輩との距離が離れるのはファンクラブの人達も避けたいだろうからそれほど派手なことはできないはずだ」


「うーん、つまりファンクラブの人達が嫌がらせをする場合地道に細々とやるしかないってこと?」


「そう、だから事前に小鳥遊先輩に注意を促しておけば後手に回っても取り返しはつく。 知識さえあれば対策だってできるはずだ」


なお、この学園の厳しさは赤海先輩の時に実証済みだ。実際に教師に捕まった人がいるとわかっているのに大々的に問題行動を起こすバカなんてそうそういない。

いくら集団心理で暴走しても停学、下手すれば退学になるようなことをできるはずもない。そんなことになれば愛しの緑川先輩に会えなくなるからな。

というか結果的にとはいえ赤海先輩のイベントがいい方向に作用したな。今度それとなくお礼でもしよう。

しかし嫌がらせに必死になるぐらいなら距離を縮める努力しろよ、というのは禁句なのだろうか?


「それでなんで本を参考にしようって話に戻るがいじめや嫌がらせの発想だけなら小説だって負けてないだろ?」


違いはその発想を実行に移すか移さないかの違いぐらい。というかたまにどっからそんな発想がってレベルのものあるよね。マジ怖い。


「そういうことなら……でも頼りすぎちゃ駄目だからね」


「だから過信はしないって」


及川にお願いした後もしばらくファンクラブ対策で話し合っているとあっという間に時間が過ぎていってしまってそろそろ部屋に戻らないとまずい時間になってしまった。


「はぁ……結局晴れなかったわね」


残念そうに曇り空を見上げる及川だが晴れなかったものはしょうがない。運がなかったと諦めるしかない。


「天気ばっかりは仕方ないからな。来年に期待しよう」


「そうね。 来年は晴れるといいわね」


来年見に来るときは紫苑やほかのメンバーも連れてこよう。絶対に。

紫苑いれば晴れるかもしれないし。ほら、主人公補正とかで。



「来年……か」


及川と別れ、部屋に戻るとベットに腰掛け天井を見つめた。

あまりにも不自然な独り言だがこの部屋にルームメイトはいないので誰かに聞かれることもない。一人部屋だと知ったときは嘆いたものだが考え事をしている時、たまに口に出してしまう俺としてはちょうどよかったのかもしれない。ちょっと寂しいけど。

それはともかく何気なく言った来年、という言葉だったがよくよく考えてみれば俺にとっては非常に意味のあるものであった。


来年。つまり俺達が二年生になっている頃だがその頃には『物語』は終わっているはずなのだ。元々『物語』は高倉紫苑の一年間を描いたゲームなのだからたとえアフターストーリーとかあってもそれ以降はあまり関係ないはずだ。

ではその時俺は何をしているだろうか?今と変わらない日常を送っているだろうか?それとも何かが変わった日々を送っているのだろうか?

いや変わらないというのはあり得ないか。紫苑には彼氏が出来てそっち優先するはずだしな。ようやく俺の肩の荷が下りるというわけだ。

この世に生まれてから十六年。俺は良くも悪くも『物語』を指針にして生きてきた。それがなくなるのはちょっと不安はあるが『物語』が終われば俺はもう『黒田純』を意識しないで済む。もう『物語』がどうとか気にしないで生きられるようになるのだ。いやまあ今でも十分フリーダムしてるけど。


黒田君は足りない知識を本で補うタイプ。


それはともかくここ数日のアクセス数おかしくないですか?

びっくりして胃がひぎぃ、ってなった。そんな私は小心者。

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