勉強会しましょう
よーし年明け前に書き終わった。
これで大晦日はゆっくりできる。
そろそろ六月も終わりに近づいてきた。具体的に言うとあと三日ぐらいで七月になる。
テストは七月に入ってすぐに始まるのでそろそろ勉強を始めないとマジで余裕がなくなってしまう。そういうわけで及川にそろそろ勉強会をしようと提案した。
及川もそろそろしなければならないと思っていたらしく二つ返事で了承したので手分けして勉強会参加メンバーに伝えて回ることにした。まあ分担は及川が黄野に、俺が小鳥遊先輩、緑川先輩、白波先輩に伝えにいくのだが。
人数のバランスが悪いことこの上ないが及川は先輩方と親しいわけではないので仕方がない。接点あるの小鳥遊先輩だけだし。それも一回会っただけ。
そんなら親しい自分がいった方がよかろうということで三人の先輩への伝令を立候補したのだ。その結果休み時間に学校を駆け回るはめになったのだが。なんでみんな違うクラスなんですかね。せめて緑川先輩と小鳥遊先輩が同じクラスだったらよかったのに。
……愚痴ってても何にもならないな。さっさと行くか。
さて、特に問題なく先輩方への報告を済ませ、都合良くテスト前は休日だったこともあり、何故か場所が生徒会室であることに疑問を抱きつつも何事もなく勉強会を始められたのだが開始早々問題が発生していた。
これはおかしい。当初の予定とは違う。予定とはズレるものであるというのはある程度理解しているがここまで見事にズレると笑いが込み上げてくる。笑うしかないとも言う。
そんなことを考えている俺が現在どうなっているかというと―――
「つまりここはこの公式を使うんだ。 わかったか?」
「なるほど」
どうして俺が緑川先輩に勉強教わっているんですかねぇ?いや教え方うまいしおおよそ問題はないんだが一つだけ問題がある。
先程からチラチラとこちらを伺う小鳥遊先輩、あとついでに及川の視線である。
うん、ごめんなさい。いや俺は悪くないんだがとりあえずごめんなさい。とりあえず今は勉強しててください。
どうしてこうなった。小鳥遊先輩と緑川先輩の距離を縮めようと誘ったのに……いや無論勉強も大事ですけどね。というか勉強が目的ですけどね。
ああもう、こっちチラチラ見すぎて手が止まってるじゃないか。もういっそのことガン見しろよ!特に小鳥遊先輩は少し前までストーカー的なことしてたんだから気づかれずにガン見とか余裕だろ!
あ、白波先輩と黄野のペアは別にいいです。当初の予定通りというか白波先輩じゃなきゃ教えるペースが間に合わない。つか断片的に聞こえてくる分だけで白波先輩が教えるのうまいのわかる。天才って教えるの苦手という偏見があるのだが白波先輩はどこまで超人なんですかね?チートか。天然チートか。
いやチートのことは今は関係ない。確かにあのスペックは妬ましいが今考えるべきは如何様にしてこの状況から小鳥遊先輩と緑川先輩のペアを作り出すかである。
今の組み合わせに異議を唱えるか?
駄目。特に不満もないのに異議なんて唱えられない。理由のでっち上げも厳しい。
緑川先輩に小鳥遊先輩と組むように提案するか?
駄目。これも理由がない。
一回組み合わせのシャッフルを提案するか?
駄目。高確率で組み合わせが“俺と緑川先輩、及川と小鳥遊先輩”から“俺と小鳥遊先輩、及川と緑川先輩”に変わるだけだ。
そもそも普通に考えて先輩が後輩に勉強を教えるという構図が驚くほど自然すぎてそれを変える方法が思い浮かばない。ちくしょう。
悩むがどうすることもできない。勉強しながらということもあって特によい考えも浮かばい。というかぶっちゃけ緑川先輩教えるのほんと上手だからもうちょい教わりたい。
そんなこんなで時間は過ぎていくのだった。
「数学はこんなもんでいいか。 ほかにわからないものある?」
「英語なんですけど」
「英語か……できないわけじゃないけど教えるとなると厳しいなー」
むう、残念。って、はっ!ここだ。今こそ行動するべき時!
「なあ及川、お前たしか英語得意だったよな」
「え、うん」
「緑川先輩、俺は及川に教えてもらいますね」
「小鳥遊に教えてもらった方がいいんじゃないの?」
ぐぬっ、そう来たか。小癪な!
「すいません、わたくし英語はちょっと苦手で……」
よし、小鳥遊先輩ナイス!ククク、英語できない人に教えさせるわけにはいかんよなあ。(悪い顔)
ていうか及川以外みんな英語得意じゃないっぽいね。日本人なんだから日本語だけ覚えとけばいいじゃない、と言いたいがそうも言ってられんのよね。おのれグローバル化。
しかし俺を含め最近の日本人の日本語はなんかおかしいからな。やっぱ英語だなんだ言う前にまともな母国語をだね……っと、思考が脱線した。
「というわけなんで緑川先輩は小鳥遊先輩と勉強しててくれません?」
「んー、不安がある奴より自信がある奴に教えてもらったほうがいいよな。 よし、じゃあそっちはそっちで頑張ってくれ」
緑川先輩は小鳥遊先輩を呼ぶとさっさと勉強を始めた。切り替え早いなー。もしやそれゆえに女の子とっかえひっかえできるとか?嫌な活用法だな。
しかしまあ、これで勉強会における目的の一つを達成したわけだ。これ以上俺にできることはない。あとは小鳥遊先輩の頑張り次第だ。
「これでなんとか小鳥遊先輩と緑川先輩の距離が縮まるか?」
しかし小鳥遊先輩緊張のせいかガチガチなんだが大丈夫かな?あれじゃ勉強教えてもらっても頭に入んないんじゃ。
「黒田君、気になるのはわかるけど勉強しよ。 じゃないとテスト大変だよ。 私も気になるけどさ……」
ああ、うん。そうだよね。なにがこれ以上できることはない、だよ。勉強が一番重要だろが。
「ああ、そうだな。 とりあえず小鳥遊先輩がうまいことやれるのを祈ろう」
一端先輩二人のことは頭の隅にやって勉強に専念することにしたのだった。一度集中してしまえば時間が経つのは早く小鳥遊先輩と緑川先輩のことも気にならなくなった。
「あの、この問題がわからないのですけど」
「あーそれはな、先にこっちの答えを出すんだよ」
「あ、ありがとうございますわ」
「お礼とかはいいよ。 あ、ここわかる? 教えてよ」
「は、はいっ!」
ごめんちょっと気になった。しかしなんとも微笑ましいことである。ん?年上に微笑ましいってなんかおかしいか?ま、いいか。
それはともかくこっちも勉強しないと。赤点とって補習とか嫌過ぎる。
「国語は基本的に話の中に答えがあるから問題がどんな答えを求めてるのか勘違いしなければ大丈夫だ。 及川はたくさん本読んでて読解力あるはずだからミスを減らす方向で」
「確かに話を読むのに集中しちゃって問題ちゃんと読んでなかったかも」
「気持ちはわからんでもないが問題を良く読むことが大事だということだな」
「気を付けなきゃ……そういえば黒田君ってなんで英語苦手なの? ただできないっていうより苦手意識が強いって感じがするんだけど」
「中学の頃に『「これはなんですか?」「それはペンです」』という英会話が出た時にそもそも何故ペンがわからないのか意味不明で挫折したのが原因かもしれないな」
「ざ、斬新な挫折だね」
だってそうだろう。その人絵では少なくとも学生っぽいのにそれまでペン見たことないのかって感じだし。
それがなくとも前世で学んだものと地味に違いがあるようで地味なミスが多かったりする。前世の英語の先生がバリバリのネイティブだったのが問題か。
やはり日本の学校で教わる英語は試験用で本場では役に立たないというのは本当なのだろうか。
ちなみに前世は前世でネイティブ過ぎて授業についていけなかったのでぶっちゃけ普通に成績悪かった。くそ、なにが普段から英語使えるようにしましょうだよ。そういうのは英会話教室でやりやがれちくしょう。
もっとも一番の原因は俺が英語理解できないからなんですがね。
それから二時間ほどで黄野の頭がオーバーヒートしたので勉強会はお開きになった。ちょうどみんな少々疲れ始めていたのでいいタイミングと言えるだろう。
タイマー扱いされた黄野を介抱してたら白波先輩がどこからともなく取り出したティーセットでお茶の準備をしてくれた。いつもながら用意がいいですね。小鳥遊先輩と及川は驚いているけど俺はそろそろ慣れてきたよ。喜んでいいのかなこれ。
その後は黄野を叩き起こしてお茶会と洒落込んだ。いつも思うんだけどこのお菓子かなりいいものじゃない?ほんとすげえなこの人。
そんな楽しい時間も終わり今日は解散することになったので部屋に帰るべく額に冷却シートを貼り付けた黄野と話しながら歩く。
「しっかし副会長はすげーな。すげえわかりやすかったぜ」
「ああ、お前にあそこまで早く理解させるとはな。 流石としか言いようがない」
「それ俺の理解力がお粗末だって言ってるように聞こえんだが」
「そうは言ってない。 だがお前が勉強苦手なのは事実だろう」
黄野をぐぬぬさせていると視界の隅に何かを捉えた。
「む?」
今チラッとだが俺達をじっ、と見つめる女子生徒の姿が見えた。なんかデジャヴ。言わずもかな小鳥遊先輩のことなのだが。
今の人はもちろん小鳥遊先輩ではないしクラスメートの誰かや知り合いでもない。しかも俺に見つかるや否やそそくさと退散していったが……。
「どうした黒田?」
「……いや、なんでもない」
いつの間にか前にいた黄野に追い付くために足を早めながら今の女子生徒について考える。
ただの通りすがりとも考えられるがただの通りすがりがあんな風にじっ、と見つめてきたりそそくさと去っていったりするだろうか?
……もしかしてファンクラブの人だったりしないよね?もしそうだったら……うん、めんどくさい。
まあかろうじて女子生徒とわかる程度にしか見てないし判断などできるはずもないのだが。
まあ注意するに越したことはないよな。今回のことで小鳥遊先輩は緑川先輩との明確な接点もったからファンクラブに嗅ぎ付けられるかもしれんし。
……なんか気分は謎の悪の組織のしっぽを掴もうとする探偵である。まさか学校生活でこんな気分を味わえるとはまったく、乙女ゲームの世界侮れんな!
これにて六月は終了。次は七月となります。
なお、七月は夏休み編と分けるつもりなのでいつもより短くなります。
それを補うという名目で番外編でも書こうと思っているので「こういうのが読みたい」という意見があれば言ってください。可能な限り書きます。まあ半分以上自己満足ですが。
今のところ書こうと思っているもの。
今までの話の別視点バージョンをいくつか。
黒田君がまだ幼かったころの話。
黒田君IF 「もし黒田君の中の人が○○な世界に転生していたとしたら」って感じの短編。




