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恋物語の片隅で  作者: 那智
4月
3/64

購買部に行きました

作者は乙女ゲームをやったことがないのでいろいろおかしなところがあると思いますが特に気にしないでください。

どうしても気になる人は隣にいる人にアルゼンチン・バックブリーカーをかましてから感想などで指摘してください。


『物語』の『黒田純』は不器用な人間だと言えるだろう。

彼は高倉紫苑の幼馴染みであり幼少の頃から彼女への恋慕を抱いていた。その想いは成長しても変わらずに彼の心にあり続けた。

だが中学生になったあたりで思春期特有のアレで彼女から距離をとってしまう。

それから再び距離を縮める方法を思いつくことが出来ず付かず離れずの距離を保ち続けることになるのだ。

結局学園に入って高倉紫苑の方から近づいてくるまで彼は何もできなかったのだ。


これを妹から聞いた時はバカじゃねえの?と思ったものだ。

好きなら好きだと正面から直接ぶつかっていけばいいのになぜ距離をとるのか。

ということを妹に話したら「お兄は恋愛のイロハがわかってないなぁ」と嘲笑われた。

お前も恋人いない歴=年齢だろうがと指摘したら牙むいて襲いかかってきたのは今では良き思い出である。


だが『物語』から予想するにその距離があったからこそ高倉紫苑は黒田純のことを男として意識したのだと思う。

所謂『しばらく見ないうちに男らしくなっててドッキドキ☆』というやつだ。

だからこそ俺は友人して彼女の側に居続けることにしたのだ。

間違っても彼女が俺に恋心を抱かぬように。




二日間の休日が過ぎ、今日から本格的に授業が始まる。

余裕をもって授業が始まる三十分前に教室に行き、忘れ物がないかを確認。

教科書は入学前に買ってあるし、ノートも完備。ついでに筆記用具も新しい物を揃え準備は万端である。

だというのに・・・。


「悪い、よく聞こえなかった。 もう一度言ってくれるか、紫苑?」


「ええと、だから・・・友達と遊んでばっかりいたらノートの用意忘れちゃって・・・余分に持ってたらくれないかなー、って・・・駄目?」


あはは、と気まずそうに笑いながら答える紫苑。

たった今教室に来て俺に助けを求めている目の前の幼馴染(アホ)はあろうことか記念すべき最初の授業で忘れ物をしたらしい。

一見すると勉強なんて全然出来なさそうな黄野でさえ昨日の内にばっちり準備を整えているというのにこいつはいったい休日に何をしていたのだというのだろうか。


「その友達も忘れ物をしたのか?」


「ううん、用意してから遊んだらしくって・・・」


「つまりいつものうっかりか」


「うう、面目ないです・・・」


これ見よがしに呆れて見たが紫苑にとってこの程度のうっかりは日常茶飯事だといえた。

中学の頃、プールの授業が一時間目だからといって中学生のくせに水着を服の下に着て登校。そして予定調和のごとく替えの下着を忘れるというミスをしていたことを俺は覚えている。

ちなみにその時はおばさん―――紫苑の母親が当日の朝、着替えを俺に渡していたので最悪の事態は避けられた。つかおばさん、着替え用意してあるなら娘に直接渡してやれよ。

とにかく今まで紫苑の友人をやってきた俺にとっては十分予想できることだった。故にこちらの対策も万全である。


「ほら、これ使え」


俺が差し出したのは新品のノート。念のため数冊余分にノートを持ってきていたのだ。


「ありがと。 いつも純にはフォローしてもらってるね」


「俺にとってお前のうっかりはいつものことだからな。 念のため用意しておいてよかった」


「な、なんかすごく失礼なこと言われてるけど反論できない・・・」


本当のことなんだから当たり前だろう。

しかし紫苑に渡した分ノートが足りなくなったな。


「そういえば今日はお昼までで終わりなんだよね?」


「ああ、そのはずだが」


「なら一緒に購買行こうよ。 ちょっと買いたいものがあるんだよね」





そんなわけで紫苑と共に購買部までやってきた。

黄野も誘おうと思ったのだが黄野は部活の見学に行くらしく今回は断られてしまった。

紫苑もルームメイトを誘おうとしたらしいがこちらも予定があるらしく来れなかったようだ。


さて、学内にある購買部は全寮制ということもあり非常に品物が充実している。

文房具や軽食を中心とした食料品のほかにもその他ちょっとした雑貨なら学内で取り揃えることができたりもする。

これは忙しくて近くの商店街に買い物に行けない学生に配慮したものらしい。


現在の時刻はお昼ちょうど。

そのため購買部には人に溢れている―――ということはなく割かし空いている。

なぜかというとここで売っている食べ物はあくまでお菓子やデザート系が多い。

なのでよほど不健康な食生活でない限りは昼は食堂で食べる人がほとんど。ここが賑わうのは3時から5時くらいなのだ。

今の時間、購買部に来るのはデザート目的か文房具買いに来た人くらいなのでさほど人は多くないというわけだ。

そんなわけでさっさとノートを買いたいのだがさっきから紫苑が食料品コーナーをガン見したまま動かない。

視線を辿るとそこには『新入生歓迎セール!デザート全品半額!』という文字が。

女性は皆甘いものが好きだとよく聞くが紫苑も例に漏れず甘いもの好きだったな。


「我慢なんてしてないで買ってくればいいじゃないか」


「でも今、お財布にあんまりお金入ってないし・・・」


「ノートは俺がまとめて買っておいてやる。 用が済んだら購買部の外で集合すればいいだろう」


「じゃあちょっと買ってくるね! 代金は後で払うから!」


言うが早いか紫苑は食料品コーナーに突撃して行った。

それを見送り改めて文房具コーナーに行こうとしたとき食料品コーナーに緑色の髪の生徒がいることに気づいた。

ああ、ここで『イベント』か。

緑色の髪・・・おそらくは攻略対象である『緑川優』だろう。

たしか自分の容姿に自信を持っている軽いナルシスト系のキャラでいろんな女の子と遊びまくってる軟派な性格だったな。

でもモテるが故に今まで本気で好きになった人がいなくて、自分に靡かなかった主人公に興味を持ち徐々に本気になっていく。ちなみに二年生だ。

しかし同じ攻略対象だというのに何故奴はモテて俺はモテないのだろうか。ぐぎぎ。


個人的に思うところはあるがだからといって『イベント』を邪魔するような無粋な真似をしたりはしない。

むしろ存分に青春したまえ若人よ。いや俺のほうが年下だけど。




そういえば紫苑って初対面で馴れ馴れしい人にはやたらセメント対応なんだよな、とか考えながら文房具コーナーに入る。

ええと、ノートは・・・お、あったあった。ふむ、五冊セットが安いな。俺の分も買っておくか。五冊もノート必要ないけど。

ノート五冊セットは残り二つ。ギリギリだったようだ。

二つとも手にとると隣から「あ・・・」とか細い声が聞こえた。

何事かと声のした方を見ればそれには青い髪の男子生徒が立っていた。

反射的に襟に付けている校章を見る。


この学園では入学時に校章を渡されるのだが年によって校章の飾りの色が違う。

今年入学した俺達一年は青で二年生が緑。そして三年が赤である。

目の前の生徒の校章の飾りの色は緑。つまり二年生だ。


長い前髪で目を覆っているため表情はわからないがその手はたった今までノート五冊セットがあった場所に伸ばされている。

どうやら俺は目の前で油揚げをかっさらった鳶になってしまったらしい。

って、あれ?よく見たらこいつ攻略対象だ。


たしか名前は『青葉奏』。

『緑川優』と同じ二年生だが性格は正反対と言える。

彼は女顔であることと(かなで)という名前にコンプレックスを持っており常に前髪で顔を隠している。

そのため自分に自信が持てず常におどおどしている卑屈とも言える性格になってしまったのだ。

『物語』では紫苑に一喝されたことをきっかけに前向きになる努力を始め性格も徐々に明るくなっていき、それと同時に紫苑に恋心を抱く。

―――のだが今俺の目の前にいる青葉奏は俺の視線にやたらおどおどしており今にも逃げ出しそうで明るさの欠片もない。こいつほんとに明るくなるの?ってレベルだ。


後にして思えばここで俺は彼のことなど気にせずノートを買ってしまえばよかったのだろう。

だがつい親切心で彼に声をかけてしまった。


「どうぞ」


「え・・・?」


五冊セットの一つを差し出したら不思議そうな声を出された。

相手は先輩なので敬語を使いつつ言葉を続ける。


「これ買おうとしてたんでしょう?」


「そ、そうだけど・・・」


「なら一つ譲りますよ」


「・・・いや・・・その・・・別に・・・」


イラッとした。ハキハキ喋れよ。

自然と視線がきつくなるのを自覚するが沸き出す怒りをなんとか押し留める。

ここで彼に何か言えば『物語』に何らかの支障がでるかもしれない。

あくまで彼を変えるきっかけを作るのは紫苑の役目なのだ。俺がここで何か言うわけにはいかない。

早急に話を終わらせるために半ば無理矢理ノートを押しつける。


「俺はあと2冊あれば十分ですから」


「あ、ありがとう。 あ・・・迷惑だよね・・・僕なんかからお礼言われても・・・」


・・・なにこれ?俺にキレろって前振りなの?

つか誰だよこいつを生徒会に入れた奴は。緑川優といい、明らかな人選ミスだろ。

俺が必死に激情を抑えている間にも青葉奏はブツブツと自虐をこぼしている。

あー、くそ、もう無理。


「ええ、不愉快です」


「う・・・」


言ってしまった。だがここで止めるわけにはいかない。

ここでやめれば多分こいつ引きこもりかねない。それだけは絶対に避けなければ!


「何故俺が迷惑だと決めつけるんですか? 先輩は俺の心が読めるとでも言うんですか?」


「いや・・・そういうわけじゃ・・・」


「先輩がなんでそんなに自分を卑下してるのかは知りません。 ですが人と目を合わせずそういう態度でお礼を言うことが一番失礼です」


「ご、ごめ・・・」


「謝罪は結構です。 謝る前に自分の何が悪かったのか考えてください」


言い切ると追加でノートを二冊取りさっさと会計に持って行く。フォローっていうかさらに傷口に塩を塗っただけに思えるがもうこの際気にしない。

会計が終わるとそのまま購買の出口に向かう。


「ま、待って!」


呼び止められた。振り向くと青葉奏の姿があった。


「・・・何か用ですか?」


「な、名前を・・・名前を教えて。 僕は君に・・・とても失礼なことをしたから・・・いつか謝りたい。

 だから・・・だから名前を教えて・・・くれないかな?」


「・・・黒田純です」


「ぼ、僕の名前は・・・青葉・・・青葉奏。

 その・・・黒田くん、僕がさっきのことを謝ることが出来たら・・・改めてお礼を言いたいんだ・・・。 いい・・・かな?」


先ほどは違い俺をしっかり見ての言葉だった。


「・・・わかりました。 次に会うときはもう少しハキハキと喋れるようになっていてください」


俺は青葉先輩に背を向けて今度こそ購買部の外に向かって歩き出した。



な、なにやってんだ俺・・・。

これ思いっきり『イベント』じゃないか。本来なら紫苑がやるはずの。

なんで俺が『イベント』消化してんだよ。なんですか?青葉先輩ルートですか?

俺はノーマルだよ?恋愛したいとは言ったけどアブノーマルなのじゃなくて普通の恋愛がしたいんだよ?

おい、やめろ前世の我が妹よ!その薄い本をこっちに向けるなぁぁぁぁぁ!


「ちょっと純! 聞いてよさっき変な人が・・・って、どうしたの?」


俺が前世の忌まわしい記憶を思い出してしまっていると先に購買部の外に出ていたらしい紫苑が少し怒ったように声をかけてきた。

その手には大量のデザート。いや買いすぎだろ。


「・・・ちょっと柄にもないことをしてな」


「え、いったい何が・・・?」


「聞くな。 それよりなに言いかけてたんだ?」


「あ、そうそう! さっき変な人がいたのよ!」


「変な人?」


「そう! なんかキザったらしい人でね、私のことを子猫ちゃんとか言ってきたの!」


「それはまた・・・その、変わった人だな」


「うう、気持ち悪かった~。 鳥肌立っちゃったし」


「・・・お前そういう奴には対応がとことんセメントだな」


紫苑とのいつもと変わらぬ会話に癒されつつ寮へと帰るのだった。

傍観者でいたいのについ口を出してしまいへこむ黒田君。




簡易キャラ紹介


■黒田純 くろだ じゅん

割とすぐ口が出してしまうのが悩み。


■高倉紫苑 たかくら しおん

変な人にはセメント対応がデフォルト。


■緑川優 みどりかわ すぐる

とある乙女ゲームの主要キャラの一人。

自他共に認めるイケメンでナンパが趣味。

髪型はホストっぽいの。


■青葉奏 あおば かなで

とある乙女ゲームの主要キャラの一人。

女顔と女っぽい名前がコンプレックスで自分に自信が無さ過ぎる人。

髪型は伸ばした前髪で顔の半分を隠している。


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