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恋物語の片隅で  作者: 那智
5月
19/64

気まずいです

テストやレポートをこなしていたこともあって難産でした。

そのせいでいつもより話が短めです。

その日、珍しく生徒会の仕事がなかったので早めに部屋に戻った俺は及川におすすめされた小説を読んでいた。

女性向けの恋愛小説ということもあり最初はおそるおそる読んでいたのだが読み進めていくうちに案外楽しめるようになってきた。俺も大概雑食である。


ちなみに現在の俺が読んでいるシーンではイケメンが主人公のことを気になり出して遠回しにアプローチするけどアプローチが遠回し過ぎて主人公はそれに気づかない、という感じの展開が繰り広げられている。

もっと直接的にアプローチしろよ、と思わないでもないがそれをしたら物語が終わってしまうことはわかりきっているので黙って読み続ける。

なにせこの小説の恋愛テーマはいわゆるすれ違いである。

すれ違わなかったら本末転倒、前提条件が崩壊してしまう。


にしてもこのすれ違い描写はなかなか面白い。

すれ違いの理由が安易な主人公の聞き間違いや聞き逃して片付けられることはなく不幸な行き違いやライバルの妨害だったりと読者を飽きさせない。

しかしよくもまあイケメンに告られて主人公が「えっ、うそ・・・まさか両想いだったなんて・・・」みたいな感じで告白を受け入れるだけの話を本一冊分まで引き延ばしたものだ。ちなみに褒め言葉である。

長い話をに最後まで書ききるというだけで十分凄いのだ。それでなお読者を飽きさせないというのはさすが及川のおすすめというだけはある。


そんな感じで作品をレビュっていると部屋のドアがノックされた。

なんだよもう、今いいところだってのに。

物語も佳境に入ってきたところでストップをかけられた形となったので若干の怨みを込めてドアに視線を向ける。


「おーい、黒田。 いるかー?」


黄野か、夕飯にはまだ早いし何用だろうか。心の中で盛大に舌打ちをしながらベッドから這い出て部屋のドアを開ける。

読書の邪魔をするなんて・・・来た理由が些細な用事だったら許されざるよ。

そんなおどろおどろしい内心は欠片も表情に出さずに黄野の前に出た。


「どうしたんだ? まだ夕飯の時間じゃないだろ?」


「それとは別の用件。 白波先輩からの連絡事項で、明日の昼休みに黒田は生徒会室に来なさい、だってよ」


「俺一人でか?」


「ああ。 お前、なんかやらかしちまったのか?」


「いや覚えがないんだが・・・」


紫苑の指が絆創膏まみれになったのは俺のせいじゃない。


「ま、なんにせよ確かに伝えたぜ」


「ああ、ありがとう」


さて、俺は本の続きでも・・・。


「あ、せっかく来たんだしお前の部屋に寄ってっていいか?」


・・・ギリッ。

あくまで読書を邪魔するつもりか・・・悪気はないとはいえ容赦せんぞ。

そして俺はその後、黄野が持ってきたゲームにて宣言どおり容赦せず完封勝利を収めたのだった。




翌日の昼休み、白波先輩の伝言に従って一人で生徒会室に向かっていた。

しかしなんで俺一人なのかね?マジでなんか粗相したっけ?

そんな疑問が尽きないが呼び出されたもんは仕方ない。事の詳細は白波先輩本人から聞くとしよう。

というか理由なく呼び出されるとしたら紫苑が呼ばれるべきじゃない?こういうイベントもどきは紫苑に回せよ。


そんなわけで生徒会室前まで来たのだが珍しいことに白波先輩が部屋の前で立っていた。

基本生徒会室で仕事している人が珍しい。俺が呼び出されたことと関係してるのだろうか?


「白波先輩」


「おや、来ましたね黒田」


「はい。 それで用事というのは?」


もしかして面倒な事ですか?もしそうだったら帰りたいんですけど。駄目?


「先日、赤海太陽が帰ってくるという話をしましたね」


「あの、それってまさか・・・」


「ええ、そのまさかです」


ああ、もう帰ってきたんだ。早いな。

で、結局なぜに俺は呼び出されたんですか?めんどくさそうな予感をひしひしと感じるのですが。

場合によっては落涙も辞さないですよ?


「正直言って彼が好かれていないのは知っていますよね?」


ほんと正直ですね。まあ俺も殴られた直後とかは「なんなんだよ赤海先輩め!赤い海ってなんだよ赤潮じゃねーか!」とか考えたけど。

まったく、日本人特有の遠まわしな言い回しはどこにいったのやら。人のこと言えんけど。


「生徒会に悪影響が出る恐れがありますからこれからも太陽が嫌われたまま、というわけにはいきません。

 そういうわけで何とか現状を改善させたいのですがそれにはきっかけが必要です。 そのきっかけとして手始めに黒田と仲直りしてもらえればと考えましてね」


「なるほど。 そういうことなら構いませんが」


何度も言うようだが別に俺はもう怒ってはいないのだ。ちゃんと謝ってもらえるというなら問題は無い。

・・・正直言うと赤海先輩が謝ってくるビジョンが浮かばないけど。


そんなわけで俺は生徒会室ににて再び赤海先輩と会うことになった。実に半月ぶりである。

あの時とは違い俺と赤海先輩は一対一で向かい合っている。

白波先輩は少し離れたところに立っており、傍観者的な立ち位置でいるつもりのようだ。

だが当事者たる俺たちはというと・・・。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


向かい合ってから動きが一切ないのでとても気まずい。いや謝罪ってのは切り出し辛いのはわかるけども。

つか赤海先輩ったらめっちゃ目付き悪い。睨まれているわけじゃないんだけど状況もあいあまってなんだか若干怖くなってきた。


「ほら、どうしました? 黒田に言うことがあるのでしょう?」


白波先輩がまるで母親のように促すも赤海先輩は固い表情でこちらを見つめたまま動かない。なんでこんな動きが無いのこの人。

あまりにも張りつめた空気にこれから謝られるのだというのを忘れそうになる。

ていうか気分は最早決闘とかそんな感じである。その時、赤海先輩が一歩前に出た。

な、なに?やるつもりですか?暴力は嫌だけど口論なら受けて立ちますよ。

えーと・・・赤海先輩のバーカ!この赤潮!

すっかり当初の目的を忘れ赤海先輩のことを心の中で罵倒していると赤海先輩がぼそりと何事かを呟いた。


「・・・悪かったな」


はい?ごめん聞こえなかった。ワンモア。


「・・・殴って悪かったって言ってるんだよ」


あ、謝った・・・?

あの唯我独尊を地でいく赤海先輩が謝っただと?天変地異の前触れか?

予想外のことに戦慄しているとそんな俺の様子に気がついたのか赤海先輩は顔を赤くして捲し立ててきたた。


「お、俺様が謝るのがそんなに変か!?」


はい。だって明らかにキャラが違うじゃないですか。


「単に思い返してみれば今まで調子に乗りすぎてたのに気づいたし、それじゃいけねえって思っただけだ!

 だ、だけどな、勘違いするんじゃねえぞ! 謝ったからといってこれから仲良しこよしなんてことはねえんだからな!」


あらやだ、属性が俺様系KYから俺様系ツンデレになってる。劇的ビフォーアフターにも程があるだろう。

と、とりあえず返答せねば。黙りっぱなしは失礼だ。


「あの、赤潮先輩・・・」


間違えた。


「おい待て、赤潮ってなんだテメェ!」


「プランクトンの異常発生で海が赤くなる現象のことです」


やばいやばい、驚きすぎて心の声が漏れてしまった。

しかし咄嗟にズレた回答をすることで誤魔化せ・・・


「そういうこと言ってんじゃねえんだよ!」


誤魔化せなかったみたい。まあ当然ですよね。

ちょっと白波先輩、笑ってないで助けてください。可愛い後輩が命の危機ですよ。


「泰斗! お前も笑ってんじゃねえ!」


「す、すみませんね。 まさか太陽にそんなこと言う人がいると思っていなかったものですから」


でしょうね。つか俺も言おうと思って言ったんじゃないんですけど。あくまで言葉の暴発です。


「クソ、いい加減笑うのをやめろ!」


「ふふふ、わかりました、わかりましたから・・・。 いやしかし驚きました。 今のことは太陽への戒めとして生徒会で語り継ぎましょうか」


おやおや、爽やかな笑みを浮かべてえげつないことをおっしゃる。やめてあげてください。


「やめろ!」


「おや、罰にはちょうどいいじゃありませんか」


白波先輩、それ俺にとっても羞恥プレイです。

こんな感じで状況がカオスのまま無常にも昼休み終了のチャイムが鳴った。え?このまま解散でいいの?

その辺が激しく疑問だったが、白波先輩から放課後に今度は全員で集まるとの言伝をもらって教室へと帰還するのだった。


いろんな意味で疲れた状態で教室に帰ってきた俺を出迎えてくれたのは紫苑、黄野、及川の三人だった。

ああ、なんだかすごい安らぐ。


「お、帰ってきた。 なあ、結局なんで呼ばれたんだ?」


「それが・・・赤海先輩が帰ってきてた」


「マジか!?」


「ええっ!? 大丈夫だったの!? 噛まれたりしてない!?」


黄野、全力で嫌そうな顔すんなよ。少しは受け入れてあげろよ。

紫苑は赤海先輩を猛犬かなんかと同一視するのはやめてあげて。

及川は・・・ああ、うん、話についていけてないっぽい。

まあ、一般生徒にはあの事件のあと赤海先輩がどうなったかちゃんと説明されてないからね。いろいろな噂が流れてたみたいだけど。


「えっと、私は詳しい事情知らないんだけどいなくなってた生徒会長が戻ってきたんだよね? ・・・黒田君、また殴られたりしないよね? ちょっと心配かも」


「その辺は大丈夫だな。 前にあったときよりかなり落ち着いていたし謝ってもらったから」


「ええ!? ほんとに!?」


本当です。

なんやかんやで反省してたからこれからは少なくとも暴力沙汰にはならないんじゃないかな?

理事長にかなり絞られたっぽいしね。たぶん。


その後、放課後の生徒会にて少し奇麗になった赤海先輩に謝られた生徒会メンバー(俺と白波先輩を除く)があまりの驚きに揃って硬直することになるのだがそれはまあ、別の話である。

次の話はどうしようかな。学校行事の準備か天文部の話にしようか。

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