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恋物語の片隅で  作者: 那智
5月
17/64

怒るときゃ怒ります

日間ランキング(総合)で43位でした。

これも皆様の応援のおかげです。これからもがんばります。

五月も半ばに入った頃。

この時期は新しい環境に慣れてきて気が抜ける時期だ。

五月病なんて名前が付くほど鬱になりやすい時期なので気を抜かないように注意しなくてはいけない。

もっとも俺は最近仕事が増えたこともあり気を抜く暇がないのだが。ちくしょう。

おかげで及川おすすめの小説を読む時間がなかなか取れず若干イライラしていた。

それ故に今回の悲劇は起きたと言えよう。


その日はいつもと変わらない日になるはずであった。

いつものように授業を受け、いつもと同じように放課後を迎えた。

いつもと違ったのは授業を終え意気揚々と部活に向かおうとする黄野を俺が呼び止めたことだけだった。

そしてそろそろ生徒会に来いと黄野に言う俺に対し部活があるからとそそくさと離脱しようとする黄野。

俺がそんな黄野についイラッとしてしまっても仕方がないだろう。


そしてその結果、教室の後ろでは仁王立ちする俺とその目の前で正座する黄野という謎の構図が広がることとなった。

なぜ黄野が正座までさせられているかというとこれには深い訳がある。

今日で俺たち三人が生徒会に所属してから十日ほどが経過しているのだがその間、黄野はほとんど生徒会の仕事をしていないのだ。うん、特に深い訳なんてなかった。


確かに黄野はサッカー部に入っているので練習が大変なのはわかる。俺がサポートに回っているのもそんな黄野をフォローするためである。

だけど完全に仕事丸投げとはどういうことなのか。これは許されざることである。

紫苑だってほかの生徒会メンバーと着実にフラグを構築しながら仕事を頑張っているのに黄野がこの有様ではフラグが立たない。

そもそも黄野、紫苑と付き合いたいんじゃなかったのか。なら積極的に接点持てや。

脳内で黄野を罵倒しつつも表面上は落ち着いて審問会を続ける。教室に残っているクラスメートたちが野次馬と化しているが無視だ無視。


「黄野、なにか弁明はあるか?」


「あ、ありません」


おやおや、どうしたのかな?そんなガチガチになって。

たしかに俺は般若の如く怒ってはいるけどそんなに怯えることないじゃないか。まったくもう。


「とにかく今日は生徒会に出てもらうぞ」


「いやでも、ほら、部活あるからさ・・・」


「なら部活が終わるまで待っていよう。 なに、時間のことは気にするな。 お前と俺で手分けしてやればすぐ終わる量の仕事だ」


「ぐ・・・逃げ道が断たれていく」


逃がさんぞ、黄野。貴様は今日、生徒会のお仕事をする運命にあるのだ。

なんて敵キャラっぽく言ってみたが別にこれは黄野が憎くてやっているわけではない。むしろこれは黄野のためなのだ。

これから先、生徒会の仕事が増えてくれば赤海先輩がいない今の状況では俺や紫苑だけでは仕事を消化しきれなくなるだろう。

そうなれば黄野も生徒会のお仕事をせざる得ないときが来る。いくらそういう仕事が苦手でも逃げ続けることはできないのだ。

その時、仕事にある程度慣れておかなければ苦労するのは黄野である。

生徒会全体が非常に忙しくなっているであろうその時に主戦力である白波先輩や青葉先輩がフォローに回れるはずもない。

そしてその場合、黄野のフォローに回されるのは俺か紫苑であることは目に見えている。


つまりどういうことかっていうとこのままでは巡り巡って最終的に俺がめんどくさいをするはめに陥るのでそうなる前にさっさと経験をつませておこうというわけだ。

結局自分のためじゃないかって?そうですがなにか?

第一、黄野は紫苑と接点が持てて俺は面倒事が減る。二人とも幸せになる良い方法ではないか。

そういうわけで部活のあと生徒会室に黄野を強制連行するために



「じゃあここで待っている。 終わったらすぐ来いよ」


「わかってるよ」


黄野を待つ間、体育座りをしながらサッカー部の練習風景を眺める。

俺はサッカーをやったのは小学校が最後だがその俺が見てもこの学園のサッカー部のレベルが高いことがわかった。

俺がやったことのあるサッカーは皆が一斉にボールに向かう、そう、例えるならば屍肉に群がるハイエナのようなサッカーだったが彼らのサッカーは違う。

彼らのプレイはさながら統制されたオオカミの狩りのようなサッカーである。

うん、例えが悪いね。ごめんなさい。

とにかくそのレベルの高さに感心しながら食い入るように練習風景を見ているとサッカー部顧問である仙石先生に声をかけられた。


「黒田じゃない。 どうしたの? もしかしてサッカー部に入部希望かしら」


「いえ、違います。 黄野を待ってるんです」


「あら、どうして?」


そういえば黄野を生徒会に推薦したの仙石先生だったよね。

あー、なら黄野があんまり生徒会に来ていないことを伝えておくべきか。


「あいつ生徒会にほとんど来ませんから仕事に慣れさせるためにもこの際無理矢理連れて行こうかと思いまして」


「・・・もしかして黄野ってあんまり生徒会に行ってなかったりする?」


「あんまりというか・・・全然?」


「はあ・・・何のために推薦したと思ってるのよ・・・あとでお仕置きね」


心中お察しします。

そして黄野すまん。お前の死亡フラグが立ったようだ。


「ねえ、ところで黒田は今暇なの?」


「そういうことになりますね。 黄野を連れて行くには部活が終わるまでは待たないといけないんですから今のところ暇です」


それを聞くと仙石先生は何事かを考え始めた。

その様子に俺の危険察知能力がうなりを上げる。

だがうなりを上げたからといって黄野を待たなきゃいかんのでこの場から全速力で逃げるわけにもいかない。たとえ逃げても戻ってきたところを捕獲されるのがオチだ。

つまり危険察知しても逃げることなんてできないのだ。それならいっそのこと危険察知できないほうが幸せじゃないかな。


「ねえ、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど」


「・・・なんでしょうか」


予想通りの展開に心の中で涙を流しつつ俺は立ち上がるのだった。




「そこまで! みんな休憩に入ってー」


その言葉と同時にサッカー部部員たちは「疲れたー」だとか「喉渇いたー」だとか言いながら部室の前に集まってくる。


「お疲れ様です」


「え? あ、サンキュ」


そしてそんな部員達にスポーツドリンクを渡していく俺。そう、これが仙石先生に頼まれたことだ。よかった、予想よりずっと楽だ。

ちなみに俺の服装はジャージスタイル。どっからどう見ても雑用とかそんな感じである。

サッカー部部員たちは見知らぬ生徒がスポーツドリンクを配っていることに一瞬戸惑ったようだが特に言及することもなくお礼を言ってスポーツドリンクを受け取っていく。

中には「ああ、今日マネージャー休みなのか」と言いながらさもこれがいつもと変わらない光景であるかのように一切動じてない部員もいる。

ふむ、かなり訓練されているな。

もしくは仙石先生によって部と無関係の人がマネージャー業をやらされることは珍しくないということだろうか。

それはそれで問題がある気がするが。

そんなことを考えながら部員たちにスポーツドリンクを渡していくと部員たちの中に黄野の姿を見つけた。


「・・・黒田、なにやってんだ?」


「マネージャー」


やめろ、俺をそんな目で見るな。好きでやってるわけじゃない。

文句なら仙石先生に言え。半ば無理矢理やらされてんだから。


「マネージャーの子が風邪引いちゃって今日来てないのよ。 一人じゃスポーツドリンクの用意も大変だったから助かるわー」


朗らかに笑う仙石先生。その笑顔は俺という犠牲の上に成り立っています。

しかし本当に困ってるというなら断るに断れない。

それにマネージャーって言ってもやることは雑用なのだ。そこまで苦ではない。

思ったより力仕事が多いのには驚いたが。

あれ?よく考えたらこれって紫苑がやるべき『イベント』じゃね?

なんかデジャブ。というか明確にミスったの青葉先輩の一件だけだったから油断してたわ。


「お前も大変なんだな・・・」


「小鳥遊先輩とのあれこれに比べればこれぐらい平気だ」


「誰だそれ?」


恋する乙女ストーカーです。


「じゃああと三十分間練習試合して終わりにしましょうか。 というわけで休憩終わり!」


お、そろそろか。最後が軽いとはいえ練習試合とはなかなかハードだな。でも黄野の顔には苦痛なんて一切浮かんでいない。

やっぱり好きなスポーツならどれだけ大変な練習でも楽しめるのかね?


「頑張ってこいよ」


「おう、応援しててくれ!」


意気揚々と試合に向かう黄野の顔はとても輝いていた。

まあ、このあと生徒会のお仕事があるから嫌でも曇ることになるんだけどな。




部活が終わって生徒会室への道中、やはり黄野の顔は曇っていた。


「はあ・・・」


「そんなに嫌か」


「嫌って言うか書類仕事がどうもな・・・ほかの、もっと身体を動かすような仕事があればいいんだけどよ」


普段の生徒会にそんな仕事はありません。学校行事まで我慢しなさい。


「そう言うな。 お前がやるって言ったんだぞ? それに紫苑ともっと仲良くなりたいんだろ。 接点持つにはいい機会じゃないか」


「それは・・・そうだけどさ・・・」


まったく黄野はスポーツバカなのにいまいち押しが弱いな。

なんやかんやで白波先輩だって紫苑のこと気に入ってるんだしかっさらわれちゃうんじゃないの?


「というかお前、紫苑が好きって言う割には押しが弱くないか?」


「しかたねえだろ! 高倉さんといっしょにいるとすごく心臓がバクバクいってわけわかんなくなっちまうんだ・・・」


あらやだ、ガチ惚れてるじゃないですか。

青春してるなぁ・・・。うらやましい。だがそれならもっと押していくべきだろう。

よし、ここは俺が一肌脱いでやるか。

そんな感じで黄野の青臭い悩みを聞いているうちに生徒会室に着いた。

生徒会室には白波先輩と紫苑がいて仕事をしていた。あ、お邪魔でした?


「すいません、遅れました」


「ああ、黒田ですか。 構いませんよ。 今すぐにしなくてはいけないような仕事はありませんからね」


「し、失礼しまーす・・・」


「黄野、もっとちゃんと生徒会の仕事をしてください。 何のためにあなたを生徒会に入れたと思っているのですか?」


「ぐ・・・す、すいません」


黄野は白波先輩から軽くお小言を頂いているがまあ自業自得である。

白波先輩のお小言をよく聞いてみると比較対象に度々紫苑の名前が出てきている。

やはり白波先輩もそれなりに紫苑のことを気に入っているらしい。


それはともかく紫苑がいるなら好都合。黄野の恋路のフォローをさせてもらおうか。


「なあ紫苑、ちょっと黄野の仕事を見てやってくれないか」


「いいよー。 ちょうど私の分の仕事終わったところだしね。 黄野くん、わからないことがあったら遠慮なく聞いてね」


「お、おう」


よしよし。黄野よ、存分に甘酸っぱい思いをしたまえ。

顔を赤くしながら紫苑に教えを請う黄野を眺めながら心の中でにやにやする。

ふふふ、これぞ青春ってやつだね。


「黒田、ちょっといいですか」


おや、なんですか?そんな小声で・・・内緒話?


「もしかして黄野は高倉のことが気になっているのですか?」


「はい、そうみたいですけど」


あえて明言は避けておく。でも黄野隠し事とかできないっぽいからバレバレだよね。


「そうですか・・・」


あれぇ?なにこの空気?

やめてください、胃が爛れてしまいます。

というか思ってたより白波先輩のフラグ進行してるな。まだ無自覚っぽいけど。

結局、その日の生徒会は微妙な空気を出す白波先輩と甘酸っぱい思いをしている黄野と至って通常営業の紫苑に囲まれて過ごすこととなった。

というか空気の変化に気づけよ紫苑。鈍すぎるだろ。

そういえば青葉先輩の話書いてないなあ。それとそろそろ赤海先輩復帰させるか。

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