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恋物語の片隅で  作者: 那智
5月
16/64

本を読みましょう

お気に入り件数250件突破しました。

これも皆様の応援のおかげです。これからも頑張ります。

ついにこの日が来た。

思えばこの日を迎えるまでに俺は幾つもの試練・・・というか障害を乗り越えてきたものだ。

具体的に言うとストーカーとか俺様系KYとか生徒会のお仕事とかストーカーとか。

思えばどれもこれも俺の胃にダメージを与えるような出来事だった。

そしてそのどれもこれもが別に乗り越える必要性がなかったことについては目をつぶっておこう。泣きたくなってしまう。


それはともかく今日の俺はテンションが高い。

何故今日に限ってこんなアホみたいなテンションになっているのかというとちゃんと理由がある。

というか理由もなくこのテンションだったらいろいろヤバイ。


今日は休日であり、ついでに言えば黄野や紫苑とも別行動である。つまり俺の行動を邪魔する者はいないということ。

そして俺の目の前には書物の宝庫というべき本好きにとっての聖地、図書館。

さて、ここまで言えばなんとなく察していただけただろう。

そう、ここ最近本を読む時間が取れなかったので今日は気が狂うほどに本を読みふける予定なのだ。


ここ数日の経験から言ってこの場所に来るまでに何かしらの厄介事に巻き込まれやしないかとドキドキしていた。主に小鳥遊先輩によって。

なにせ彼女との過去二回の邂逅はいずれも俺が本を読もうとした時にエンカウントしているのだ。

おのれ小鳥遊先輩許すまじ!

とはいえ先日は俺が最後まで付き合うと決めたからある意味自業自得である。

だってしかたないやろ。あそこまで話を聞いてしまったらもう引き返せない。

もしあの時撤退を強行していれば話の続きが気になって夜しか眠れなくなってしまっていただろう。

それ故の苦渋の決断だったのだ。嘘です。


それはともかくとして今日は誰かに遭遇することもなく特に問題なく来ることが出来た。

もうこれは世界が俺に本を読めと言っているに違いない。万が一世界が本を読むなと言っていても無視する。


ええい、もう我慢できん。ひゃっほーい、とばかりに図書館に突撃せずに普通に歩いて入る。

図書館では静かに。これ常識。

図書館で騒ぐ奴は突如として腕の骨が粉末状になってしまえばいい。


図書館に入るとまず左右を確認し知り合いがいないかどうか確認した。

クラスメート以外の知り合いに会う度に面倒事に巻き込まれている気がするので警戒しているのだ。

ぐるりと付近一帯を見渡したがどうやら攻略対象たちはいないようだ。というか人自体あんまりいない。

休みの日なので人がいるかと思っていたのだが図書館の中はあまり人気が無く閑散としていた。

なんだか俺が予想してたより遥かに人が少ない。昨今の学生はインドア派よりアウトドア派のほうが多いということなのだろうか?

別にそれが悪いわけではない。むしろ外に出て太陽の光を浴びることは良いことだと言える。


―――だけど・・・読書の大切さを・・・忘れないでください・・・。


などと脳内で寸劇を行いながら目的地へと歩いていく。

俺の今日の目的はライトノベルである。

ライトノベルとは一言で言えば「中高生向けの挿絵の多い安価な小説」である。

中高生向けと言うだけあって内容は軽いノリの作品が多く小説を読むにあたっての入門編とも言えるだろう。

それ故にライトノベルというだけで「え~? ライトノベル~?」みたいな反応をする人も多いが俺的に言えばそんな連中はデストロイである。

ジャンルに好き嫌いがあるのはしょうがないがライトノベルだから~なんて理由で読まないのは許されざるよ!

なにが言いたいかっていうとつまり「面白ければいいんだよ」ということだ。


まあ、活字中毒者予備軍のうんちくおよび主張はこの辺にしておこう。

最近ではそのライトノベルが公共の図書館だけでなく学校の図書館に置かれていることも多い。

そしてこの学園の図書館も例外ではなくライトノベルのコーナーがあるほど品揃えが充実している。

その品揃えたるや最近発売したものから数年前に発売されていた物まで揃えられている。正直図書館頑張りすぎだろと思う。いや利用者側としてはもっとやれって感じだけども。でもそれだけやっても利用者があまりいないというのは物悲しいものがある。

まあ人少ない方が静かでいいんですけどね。


お目当てのライトノベルのコーナーに到着すると早速物色を開始する。

へっへっへ、いいものが揃ってるじゃないか。

俺はライトノベルの魅力は様々なジャンルを手軽に読める事だと思っている。

それ故に様々なジャンルの本たちが俺を魅了してきて発狂しそうになる。ごめん言い過ぎたわ。


だけど悩んだのは確かなので結局たっぷり二十分ほど悩んでしまった。

悩んだ末に選び抜いた数冊の本を手に読書コーナーに戻ると俺と同じく本を読みに来たのであろう及川の姿を見つけた。

その瞬間思わず周りを確認。

・・・どうやら紫苑はいないようだ。

まああいつが大人しく本を読んでる姿なんて想像できないんですけどね。

なにせ中学生の頃に読書強化月間とやらで読書をする時間が設けられた時も本を枕にしてうたた寝していたからな。たった15分だったというのにあの有り様だよ。


しかし及川なら問題ないだろう。

彼女は俺と同じく本好きの同志。さらに言えば俺の知り合いの中で数少ない常識人だ。

というわけで声をかけることにする。


「及川も読書か?」


「あ、黒田君。 そう言う黒田君も?」


「ああ。 最近忙しくてなかなか本が読めなかったからな」


「ああ、そうだよね。 紫苑に黒田君、黄野君まで生徒会に入っちゃったんだからね」


いやそっちは問題ないんだ。今んとこ楽な仕事ばかりだし。

問題はあくまで俺に厄介事を持ってくる人たちなんだ。

そんなことを考えながら及川の前の席に腰を下ろす。


静かな図書館にぱらりぱらりと本のページを捲る音だけが聞こえる。

なんていうかこれ・・・うん、めっちゃ落ち着く。

五月に入ってから荒みっぱなしの俺の心がみるみるうちに癒されていく。

この癒されぐあい・・・もうアニマルセラピーとか目じゃないね。ブックセラピーとでも名付けようか。

紫苑といっしょにいるときも気を使わなくていいから楽だけど最近は廻りに攻略対象共がいることが多いからな。

どうも最近くつろぎポイントが減っている気がする。これはいけない。新たなくつろぎポイントを探さなければ。

さもなくば胃に穴が開きかねん。


そんなことを考えていたからではないがふと、及川がどんな本を読んでいるのか気になった。

同じ本好きとして同志の好みは把握しておきたい。話の幅を広げることができるだろうし。

というわけでレッツ質問タイムである。


「なあ、及川はどんな本読んでるんだ?」


「女の人向けの恋愛小説よ。 最近出たばかりの本なんだけどとっても人気なんだって」


あらすじを見た感じ及川が読んでいる小説は典型的な女性向けの小説だった。

地味な女性が誰もが振り返るようなイケメン御曹司に出会い恋に落ち、いろいろな障害を乗り越え最後には結ばれてハッピーエンド、という話らしい。

ちなみにこういう小説でも主人公が地味というのはあくまで設定で実際には一級品の容姿を持っているのは最早デフォルトである。


「女性ってこういう話が好きなのか?」


「うーん、全員が好きって訳じゃないだろうけどやっぱり需要はあるんじゃないかな?」


まあ需要なくちゃ供給されないよね。


「私もこういう話は好きなんだけど、たまにちょっと夢見すぎじゃないかなって思っちゃうの」


「女の人でもそう思うのか」


「さすがに思うわよ」


そんなもんか。まあ、こういう話って主人公の容姿がもはやファンタジーみたいなもんだしね。

そういう本が好きな世の女性たちにエルボーかまされそうなことを考えていると今度は及川が質問してきた。


「黒田君はどんな本読んでるの?」


「これだ」


俺が読んでいたのは勇者が魔王を倒すというまさに王道展開なファンタジー小説である。

最近は凝った設定の小説が多いがたまにはこういうシンプルな話も読みたくなるのだ。


「ふふ、そういうの読んでるとやっぱり男の子って感じだね」


確かにこういう冒険譚はいかなる時代も男の子の愛読書であるというイメージがある。

実を言うと本当は血飛沫ズッタズタのスプラッタなホラーでも読もうかと思っていたのだが手にとる直前でなんとなく王道ファンタジーにしたのだ。

うん、変えてよかった。及川スプラッタ苦手らしいからね。なんとなくに乾杯。


そのあとお互いの本のいいところについて語り合った。

やれこの描写が素敵だとかここの表現が秀逸だとかこういう話題はその本が好きであるならば好きであるだけ沸いてくる。

本とゲームの違いはあるが前世で妹がやたらゲームについて語ってきたのは同じ理由だろう。

つまり自分の好きなものを相手にも好きになってほしいのだ。

そんな感じでしばらく話していたのだが次の天体観測の日程を決めていなかったことを思い出したので天文部の活動についての話をした。


「ねえ、また今度天体観測しようと思ってるんだけど紫苑たちこれるかな?」


「どうだろうな。 白波先輩の話だと今月末に学校行事があって一年もその手伝いに駆り出されるらしい」


「そうなの・・・。 じゃあ無理かな?」


及川は目に見えて落ち込んでしまった。

ごふぅ、なんか凄まじい罪悪感が。別に俺は悪くないはずなのに。

と、とりあえずフォローせねば。


「別にいつも準備に追われるわけじゃないんだ。 天体観測は俺たちの仕事が無い日を見計らってやればいいだろう」


「あ、そうよね。 ねえ、その日になったら黒田君も参加してくれる?」


「あたりまえだ。 俺も天文部員なんだからな」


「ふふ、ありがとう」


そう言って及川は笑ってくれた。

ふう、なんとかフォローできたな。まあ、フォロー関係なくもともと参加するつもりではあるけれどね。

天体観測は今や数少なくなってしまった俺のくつろぎポイントの一つなんだから参加しないとかありえない。


「あ、そうだ」


「ん? どうした?」


「ねえ、お互いのお勧めの本を紹介しあわない? それであとで感想を言い合うの」


「面白そうだな。 よし、やるか」


最後にお互いのお勧めの本を借り、また今日と同じように本を読みに行くことを約束した。

次の機会が楽しみである。それまでに及川のお勧めの本を読んでおかないと。

しかし一つだけ問題があった。

・・・及川のお勧めの本、どこからどうみても女性向けの恋愛ものだったんだ。

ちょっと人前で読むのは恥ずかしいな。部屋でこっそり読もう。

黒田くんの胃が回復しました。

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