表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋物語の片隅で  作者: 那智
5月
15/64

相談されました

難産でした。ファントムキングダム面白いです。

白波先輩が淹れてくれたお茶を飲み終わったあと生徒会室から退室した俺は図書館にでも行こうかな、と考えながら廊下をのんびりと歩いていた。

白波先輩と青葉先輩は二人だけで放置かって?そうですが何か。

いやだってたしかに友人たちの仲が拗れるのは嫌だけど関係改善のために年がら年中いっしょにいるとかもっと嫌だからね?

こう言っちゃなんだが他人のために自分の人生を犠牲にする気はないのだ。


そういうわけなのでできれば今日はもう何事もなく過ごせればいいなと思っていたのだがそうは問屋が卸さなかったようだ。

どういう事かって言うと前方に見覚えのある顔を発見してしまったのである。

しかも御座すのは俺の中でストーカーのイメージが抜けきらない小鳥遊先輩ではありませんか。

周りを見ても緑川先輩の姿はないので今日はストーキングしてないらしい。


しかしだからといって関わりたいかと言えば答えはノーである。

今日はもう自分のために時間を使うと決めたのだ。そろそろゆっくりと本が読みたい。

その気持ちは相手がたとえ『物語』において『出番が少ない』『謂れのない誤解を受ける』『どう足掻いても意中の相手と結ばれない』の三重苦を背負っている小鳥遊先輩であろうとも揺るがないのである。

・・・ごめん、なんか自分で言ってて気持ちが揺らいできた。不憫すぎる。

さすがこの乙女ゲーム屈指の不憫枠。こうも易々と俺の気持ちを揺らがせるとはやりおるわ。


いや待て。落ち着くんだ俺。

見かけてしまったからといって声をかけなければいけないという決まりはない。

ここは気づかないふりをして・・・


「あら、黒田さんではありませんか」


おうふ・・・。しっかり名前を覚えられてしまってたよ・・・。まあ自己紹介したんだからね。当然だよね。

そもそも会ってから2日しか経ってないんだから忘れるはずもないか。


「どうも、小鳥遊先輩」


「まあ、わたくしの名前覚えてくださったのね」


そりゃあなたのインパクト凄かったですから。あれに勝る衝撃はなかなか無い。

漫画やアニメでは甘酸っぱい感じの素敵なシーンもあくまで漫画やアニメだから許され甘酸っぱく描写されているのを痛感した。


「先日のアドバイスありがとうございますわ」


「いえ、気にしないでください」


まあ役に立てたのなら何よりである。

たださくらんぼ好きっていう他愛の無い情報でほんとに役にたったか甚だ疑問なのだが。俺を見てニッコリ笑っていた小鳥遊先輩だったが不意に姿勢を正してこちらを真剣な顔で見つめてきた。

ハッ、これは厄介事を頼まれるフラグ。


「あの図々しいことを自覚した上でお願いがあるのですけど・・・」


いやいやいやいや。本日でようやく二回目の邂逅を果たしたばかりの俺に何言ってるんですか。

そんな相手にお願いしてる暇があるのなら直接緑川先輩に突撃しましょうよ。

そんなんだから紫苑が緑川先輩のルートに行かなかった場合でも緑川先輩と恋仲になれなかったんじゃないですか?


「実は・・・」


うおい、まだ承諾してないのに何故に話し始めるのか。

もっと意志疎通しましょうよ、小鳥遊先輩。コミュニケーションは大事。


「先日あなたに優様の好みを教えていただいてから早速作ってみたのですけれど少々問題が出てきたのですわ」


行動早いっすね。せめて休みの日にやりましょうよ。

つか学生が料理できる場所っていったら家庭科室だよな?あそこ事前に申請をすれば放課後使えるらしいし。

それはいいけど材料は?どこから調達したんですか?


「その、実は・・・わたくし料理をしたことがなくって・・・」


何故先日の時点で言わなかったし。

というか言動から察するに一度作ってから気づいたっぽい?

ある意味すげえな。作る前に気づけよ。


「それによく考えれば作れても優様には渡せませんの」


「え? なんでですか?」


本末転倒じゃないですかちくしょう。

というかマジなんで?


「あの渡せない理由ってなんですか?」


「ファンクラブの中で抜け駆けは禁止されてるんですわ」


ファンクラブか・・・。

その単語を聞いた瞬間、一瞬顔をしかめてしまった。

一応言っておくが別に俺がファンクラブという存在そのものを嫌っているわけではない。

アイドルとかのファンクラブの人たちがキャアキャア言ってても思うことなど「元気だなあ・・・」ぐらいだ。

だが緑川先輩のファンクラブは『物語』では紫苑への嫌がらせをするなどあまり良いイメージがない。

その上、小鳥遊先輩はファンクラブが紫苑に嫌がらせをしたせいで誤解を受けたようなものだし。

あれ?小鳥遊先輩ってファンクラブ入ってる意味ってあるの?


よし、少し整理しよう。

小鳥遊先輩はファンクラブに入ってるせいで緑川先輩に積極的にアプローチができず、さらには紫苑への嫌がらせに関与したという誤解まで受けてしまう。

整理完了。うん、マジでなんで入ってるの?ってレベル。

何が意味わかんないって入った理由もそうだけどそれ以上にそんな決まりを作っているファンクラブが意味わからん。

なんなの?観賞用?観賞用なの?緑川先輩に関しては見て楽しむだけにしてお手を触れないでくださいってことなの?

その先に何があるの?てかそれ絶対無理だろ。だって緑川先輩向こうから近づいてくるよね絶対。


いや待て落ち着け俺。脳内で疑問をぶちまけまくってもなに一つとしてわかりはしない。

ここは直接本人に聞くのだ。これが一番確実なのです。


「小鳥遊先輩ってなんでファンクラブに入ってるんですか? 小鳥遊先輩は緑川先輩とお付き合いしたいわけですよね? なら抜け駆け禁止とかデメリットが多くないですか?」


「それは・・・わかっていますわ」


ならなんでや。というか何故入ったし。


「ファンクラブの方から優様と仲良くなりたいならファンクラブに入れと言われましたの」


・・・なんか色々俺の常識では図れないことが多すぎる。

まさか自分達の許可が無ければ緑川先輩と仲良くなることは許さないとでも言うつもりなのか。ガチで思考回路を疑うわ。


「わたくしどうしたらいいのかしら・・・」


あれ?というかなんで俺流されるがまま相談にのってるの?

小鳥遊先輩、案外押しが強いな。もうその勢いで緑川先輩に突撃してきてくださいよ。

仕方ない。乗り掛かった船というやつだ。こうなったら最後まで付き合ってやろう。

それにうまくやれば緑川先輩ルートのシリアスイベントを軽くできるかもしれないしな。

あくまで『物語』においてファンクラブが関わってくるのは緑川先輩のルートに入ってからだし、なによりファンクラブと小鳥遊先輩がいっしょに~なんてイベントはないのでたぶん大筋に影響は無いだろう。


とか言って自分に言い訳してるけど実は地味に憂鬱な気分。

今日はのんびりするって決めた途端にこれか。泣きたくなってきた。休暇が欲しい。


「あー、とりあえずファンクラブから抜けることを考えたらどうでしょうか」


「そうは言いましても抜けたりしたら優様と関われなくなるのでは・・・」


アニメや漫画のお嬢様は世間知らずか高飛車だと相場が決まっているがこれは・・・。

ぶっちゃけると実際に関わってみるとめんどくさいことこの上ない。

箱入りにもほどがある。もう箱入りっていうレベルじゃない、もはや箱詰めである。


「冷静に考えてみてください。 それはファンクラブの人たちが勝手に言ってる事でしょう? あの人たちにそんな権限はありませんよ」


本人公認のファンクラブならともかく非公認のファンクラブじゃねえ。いや公認でも無理だな。それだったらアイドルのファンの敷居が高すぎる。

つかよくよく考えると学生の身分で本人公認のファンクラブがあるとか世の女性がどう思うかどうかは知らないけど至って普通の男の感性から言わせて貰うと普通にキモイ。

なんていうかナルシストっぽい。そんな学生普通に嫌。


「そうなんですの?」


「そうなんです」


というか恋愛ゲームには高確率でこういう謎ルールを作るキチガイがいるから困る。

製作者に言わせれば「物語にスパイスを」というつもりなのかもしれないが投入されたほうはたまったもんじゃない。

こっちとしては赤海先輩だけでもおなかいっぱいだというのにファンクラブとかいう不特定多数のキチガイとかまじ勘弁してください。

てか原作の紫苑はよく耐え切れたよね。メンタルタフ過ぎだろ。


「ええと、それではつまりファンクラブを抜けても優様とは親しくできるということですよね?」


「ええ、そういうことです」


「あら、そうだったんですの?」と首を傾げる小鳥遊先輩を見てるとなんだかとてつもなく不安になってくる。

具体的に言うと将来なにか詐欺にあったりしないか的な意味で。やはり純粋培養は社会に出たとき苦労するよねこれ。


「だけど問題もあります」


「まあ、それは?」


「簡単に言えばいじめが起こる可能性がありますね。 ファンクラブをやめて緑川先輩を親しくなろうとする小鳥遊先輩を裏切り者扱いするかもしれません」


てかたぶんするよね。『物語』からして。手段を選ばぬ方々のようだし。


「ならどうすればいいのかしら?」


「そこまでは俺も・・・」


ここまで言っといてなんだけど具体的な対策はないんだよね。

うーん、あえていうならば緑川先輩にチクるとか?

卑怯だとかいう戯言は受け付けない。ウザイのが手を出してきたらあらゆる手段を使ってでも叩き潰す。これ鉄則。


「まあ、俺が言えるのは何をするにしてもちゃんと自分で決めてくださいってことです」


「そう・・・ですわね。 わたくしは今まで流れ流されていたわけですし、優様のハートを射止める為にはわたくし自身の考えで行動しませんと」


でもその意見もぶっちゃけ俺の意見ですよね、っていうのは空気読んで言わなかった。


そのあと何故かこれからも相談に乗ってほしいというお願いを承諾させられてから(異様なまでに押しが強く断りきれなかった)小鳥遊先輩と別れると廊下の壁に寄りかかって深いため息を吐く。

はあ、ファンクラブとか割と・・・いやかなりめんどくさい。これだから女性は陰湿だとか言われるんだ。

いやよく考えればゲームに出てくるようなファンクラブなんて男だろうが女だろうがこんな感じか。みんないろいろおかしい。

ああもう、癒しが欲しいよ。割と切実に。



次は及川さんの話かな?黒田君にとっての息抜き回になるはず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ