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恋物語の片隅で  作者: 那智
5月
13/64

物語がズレました

お気に入り件数が150件突破しました。

応援してくださってありがとうございます。これからも頑張ります。

それから一夜明けて。

頬に湿布を貼りつけ学校に登校した俺はまたもや気まずい思いをしていた。


―――ほら、あいつだろ?生徒会長に逆らった一年って


―――え?あいつがそうなの?


―――ほんとだって。ほら、頬に湿布張ってあるだろ?殴られても一歩も引かなかったらしい


―――マジかよ。度胸あるな


なんだかさっきから上級生にやたらじろじろ見られている。こちらとら見世物じゃないんですよ?

できれば目立ちたくないのだがある意味目印とも言える頬湿布をつけているため目立ちまくりである。ちくしょうめ。

というかじろじろ見てくる視線が痛い。そろそろ引き込もっていいレベル。

違うんです。その場の勢いで行動した挙句そのあと何するかぜんぜん考えてなかったからまごまごしていただけなんです。


そんな感じでじろじろ見ろれるわ、周りでひそひそ話をされるわで教室に着いたときには精神的に疲労しきっていた。


「大丈夫?」


「ああ、及川か」


今日はいつもより早めに教室に来たというのにそこにはすでに及川の姿があった。

本音を言えば誰もいない教室で一人ぐったりしたかったのだが・・・まあいい、紫苑よりはマシだ。

え?それなら自分の部屋でぐったりすればよかっただろって?おいおい、そんなことしたら二度寝しちゃうじゃないか。


「殴られたところは大丈夫?」


「ああ、腫れも引いてきた。 明日はもう湿布はいらないだろ」


「よかった・・・」


及川は心の底からほっとしたような笑みを浮かべた。その笑顔がまぶしい。あなたこそ人類最後の良心です。


「昨日はいろいろあったからお見舞いに行けなかったけど心配したんだよ?」


「心配かけてすまんな」


「もう、黒田君が殴られた時は心臓止まっちゃうかと思ったんだからね」


そ、そんなに!?一応俺も男なんだからそんなに心配しなくてもいいのに。

及川は少し話した後に「まだ疲れてそうだからね」と言って自分の席に戻っていった。

気遣いもできるなんて天使か。


それからしばらくして教室にクラスメートが登校してくると話かけられはしないもののはっきりと視線を感じられるようになった。

くそ、そんなに見るんじゃない!穴が開いちゃうだろが!

そんな中ついに一人の女子生徒(名前は忘れた)が話しかけてきた。


「ねえ、黒田君と高倉さんって付き合ってるの?」


「え? じゃあもしかして生徒会長って横恋慕!?」


「なになに? 修羅場ってやつ?」


え?聞くのそっち?喧嘩(?)の翌日にまさか恋愛模様を尋ねられるとは思わなかった。

クラスメートたち(主に女子)は興味津々のようでどんどん俺の席の周りに集まってくる。

ええい、うっとおしい!小指の爪と肉の間に針刺すぞ!


「席に着けー。 ホームルームを始めるぞ」


林先生の号令でクラスメートたちは慌てて自分の席に戻っていった。また助けられましたね、林先生。


「その前に黒田、黄野、高倉は・・・ああ、いるな。 三人は今すぐに生徒会室に行け」


「今すぐにですか? 一時間目の授業は?」


「呼び出し優先だ。 あくまで学校側の用事だから欠席にはならない。 安心しろ」


そう言われてしまえば抗う理由はない。俺は黄野と紫苑と一緒に教室から出た。

しかし呼び出しねぇ。やっぱ昨日のことだよな。

昨日喧嘩(?)した相手に呼び出させるとは。いったい何されるんだか。


「わざわざ呼び出すなんて何の用なのかな?」


「ふん、あのクソ生徒会長のことだから呼び出して痛めつけてやろうとでも思ってんだろ」


「黄野、気持ちはわかるけどそれは言いすぎだ。 さすがにそんなことは・・・な、ないんじゃないか?」


「純、かばうなら一応言い切ってあげようよ・・・」


黄野の心象は最悪か・・・。まあ当然だな。もともと面識ないんだから初対面であんな態度を取られていい感情を持てないだろう。

紫苑も言い争いばかりしてたせいかあまり好感度が高くなさそう。しかも目の前での暴力沙汰だしなぁ・・・。

『物語』でも一応そういうイベントあるけどルート入ってから起こるはずだったし、これはフラグ折れてるかも・・・。


しかし昨日の赤海先輩の行動をある意味俺のせいとも言えるので微妙な気分だ。

昨日の事件は俺が紫苑の友人だからこそ起こったことだろう。

俺と紫苑との距離が近かったために嫉妬深い思春期の少年を刺激してしまったのだ。


俺は自分のために紫苑と友人になることを選択したが『物語』とは違う関係になることでその他に影響を与えることを考慮していなかった。

そしてその影響は思っていたよりも大きかったということだ。まったく、初歩的なミスをしたものだ。

というか大丈夫だと思っていた俺はなんなの?アホの子ですか?やべぇ、これじゃ紫苑のことを馬鹿にできん。

そんな感じで心の中で涙目になっているとふと、あることに気づいた。


「そういえば誰か生徒会室がどこか知ってるのか? 俺は知らないんだが」


「「あ・・・」」


なるほど・・・。つまりみんなアホの子だったということか。

人類皆アホの子!




結局一旦教室に戻り生徒会室の場所を聞くはめとなった。

すごく恥ずかしかった。もうね、教室のみんなの生暖かい視線がね・・・。

恥ずかしい記憶は心の奥に封印して改めて生徒会室を目指す。

生徒会室は三年生のクラスがある階と同じで四階にあるらしい。

一階にあったほうが便利じゃね?と思わないでもないがまあ得てしてこういう部屋は最上級生のクラスのそばにあるものなのだ。

それに一階には食堂やらがあって余ってるスペースも無さそうだしな。

ちなみに一年生の教室は二階である。新入生が割と広い校舎内で迷わないようにとの配慮らしい。


そしてとうとう生徒会室の前にやってきたのだ。

やはりというか紫苑も黄野も緊張した面持ちである。まあそれは俺もなんだが・・・。

やっぱり俺が割り込んだからだとはいえ自分をぶん殴った相手に会うのはいまいち気が進まないし。

だが気が進まないからといっていつまでも部屋の前にいるわけにもいかない。


「じゃあ開けるよ」


紫苑が意を決して生徒会室の扉を開けた。


生徒会室は普通の教室とは違い中央に大きいテーブルが置かれていて例えるならば簡易的な会議室といったところであろうか。

そのテーブルの上にはいくつもの書類が置かれており、生徒会としての仕事も少なからずあることを窺わせている。


だが中にいると思っていた赤海先輩の姿はなかった。なんだか拍子抜けである。

その代わりに・・・と言ってはなんだかおかしいが生徒会室の中には一人の男子生徒がいた。


「おや、ようやく来ましたか」


常に余裕を持っているような柔らかい声だった。

声の主は一見すれば白に見える銀髪でメガネをかけている。


「白波先輩・・・」


やはり紫苑はあったことがあるらしい。さすが主人公である。

まあそれはいいとして赤海先輩がいないならば呼び出された理由は何なのだろうか?


「あの、赤海先輩は?」


黄野が尋ねた。まあ、昨日の件について呼び出されたと思ってたからね。


「ああ、彼なら理事長に呼び出されてしばらく戻ってきませんよ。 私は彼が抜けた穴を埋めるためにあなた達を呼ばせてもらいました」


ええええええ!?赤海先輩まさかのリストラ!?

フラグ折れたとは思ってたけど出番的な意味でなく登場しなくなるとは思わなかった。


「しばらく理事長がキツイ指導をするらしいですよ」


ああ、そのうち綺麗になって戻ってくるのね。

にしてもキツイ指導か・・・もしかしてマグロ漁船にでも乗せられるのかな?


それはともかく彼はついに俺の目の前に姿を現した最後の『攻略対象』だ。

まあ、かっこよく言ってるけどただ単に会う機会がなかっただけなんだけどね。


『白波泰斗』。

銀色に近い色の髪を持ち顔面偏差値も高く、品行方正頭脳明晰という基本的に非の打ち所がないいわゆる天才キャラというやつである。

それゆえに無意識のうちに他人を見下してしまったりもする妹曰く「ドヤ顔メガネ」。

『物語』では生徒会長でありながらほとんど働かない赤海先輩の代わりに生徒会を取り仕切る実質的なリーダーだった。


「では、早速本題に入りましょうか」


自己紹介を終わらせると白波先輩はメガネキャラらしくメガネをくいっ、と上げ言った。


「あなたたち生徒会に入りませんか?」


ああ、ここで生徒会勧誘イベントか。

ここでこれから先の紫苑の学園生活が決まる。

生徒会の一員として生徒会のメンバーと共に過ごすのか?それとも生徒会と関わらず

できれば生徒会に所属してほしいのだが・・・いや考えるべきなのはそのことではない。

うん、ていうかさ・・・なんで俺も生徒会に誘われてんの?


「え? 私たちが?」


「生徒会にっすか!?」


紫苑と黄野は純粋に生徒会に推薦されたことに驚いている。

だが俺はそれどころではない。なにせ本来ならば俺こと黒田純は生徒会ルートとは関係ないはずなのだ。

最近なんだか『物語』と違うところが多いなと思っていたら一番重要な局面ででかいズレが出やがったよ。

泣いてもいいかな、ちくしょうめ。


「でも生徒会に所属できるのは各学年二人ずつじゃなかったんですか?」


「ええ、ですから正式に所属するのは二人、あとの一人はサポートメンバーになってもらいます」


なるほどね。赤海先輩が抜けた穴をこうやって埋めるつもりなのか。

赤海先輩が戻ってきたあともあくまで三人目はサポートメンバーだからそのまま問題なく所属し続けることができるってわけか。


しかしどうしたものか。紫苑はおそらく自分から所属すると言うだろう。

元々頼まれたら断らない性格だ。少し苦手意識を感じているであろう赤海先輩がいないのならば断る理由はないだろうしな。問題は俺と黄野なのだ。


「なあ、どうする?」


「私は入ってもいいけど・・・二人は?」


本音を言えば俺は生徒会に所属したくない。できれば生徒会とつながりが薄くなるサポートになりたい。

すでにだいぶ『物語』とズレが生まれているからといってこれ以上ズレを生むようなことはしたくないのだ。

だけど黄野に押し付けるのもちょっと・・・。俺のせいであいつはすでにもう二つの部活に入ってるし。

赤海先輩が仕事しているならともかく、いないとなると一年にも仕事は回されるはずだ。

そうなるとすでに二足のわらじを履いている黄野では少々キツイだろう。三本目の足が必要になる。

ここは俺が・・・。


「なあ黒田、生徒会には俺が入るよ」


「え? だけどお前大丈夫なのか?」


「いや生徒会って言わばほかの生徒達の代弁者ってことだろ? それならこの場で唯一の運動部の俺が入ったほうがいろんな意見が取り入れるんじゃないか?」


なるほど。よく考えてるな。


「なら、俺はお前のサポートすればいいんだな」


「ああ、書類仕事とかは頼んだぜ」


「少しは自分でやれよ」


「話は纏まりましたか?」


白波先輩に俺たちは頷いた。


「では生徒会に所属するのは高倉紫苑と黄野大介。 サポートとして黒田純ですね」


パンパン、と手を叩くと白波先輩は改めて俺たちの顔を一人ひとり見てから言った。


「では生徒会にようこそ。 常に全力を尽くせとは言いませんが生徒会に選ばれたという誇りと責任を持って励んでください」


こうして俺たちは生徒会に所属することになった。

黄野の負担を考え、俺に仕事が多く割り振られたのは別にいい。

一番の問題は本格的に『物語』がズレたことだな。

これからもっとズレが生まれるかもしれない。より一層気を引き締めないと・・・。

ごふっ・・・一日で3000文字書くのはキツイ。



簡易キャラ紹介


■白波泰斗 しらなみ たいと

とある乙女ゲームの主要キャラ。

基本的に完璧超人。メガネ属性も相まってかなりの人気を誇っていた。

髪型はパーマをかけている。


■黒田純

物語がズレ始めてきて焦ってる。


■高倉紫苑

頼まれたら余程のことが無いと断らない。


■黄野大介

実は生徒会に入ると言ったのは紫苑との接点が増えると思ったから。

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