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恋物語の片隅で  作者: 那智
5月
12/64

暴力はいけません

執筆速度が下がってる気がしたので頑張った。


先日の穏やか(?)な日々から一転、現在俺は修羅場っていた。

俺の目の前には生徒会長こと赤海太陽先輩の姿が、そして俺の隣には親友たる黄野の姿がある。

ついでに廻りには俺達を遠巻きに見つめる紫苑含むクラスメートという名の野次馬が屯している。

黄野と赤海先輩は睨み合う形で対峙しており端から見ると一触即発の雰囲気を醸し出していた。


ここまで言えば現在の状況が理解できただろう。


そう、俺めっちゃあぶれてる。

赤海先輩は黄野と睨みあってるから視線をどこに向ければいいのかわからず居たたまれない感じになっているのだ。

とりあえず空気読んで俺もそれっぽい雰囲気を出してはいるが視線が泳ぎまくりである。気まずい。

それはともかくなぜこういう状況になったかというと10分前まで遡る。



―――10分ほど前。


授業終了のチャイムが鳴ると教室が一気に騒がしくなった。

この喧騒を聞くと授業がようやく終わったのだと実感が湧く。なので俺はこの喧騒を聞くのがわりかし好きだった。

息を大きく吐きながら伸びをしてリラックスして5月に入ってからの日常を思い出した。

ここ数日のうち、昨日のまさかのストーカーモドキこと小鳥遊先輩との遭遇、そして対話をしたせいで借りてきた本が読めなかったこと以外は特に何事もない日常を送っていた。

いや昨日の(ある意味)怪奇イベントはその他の平穏を吹き飛ばすほどのインパクトがあったけど。

マジであれはビビった。言葉では表せないストーカー(予備軍)の恐ろしさを実感した。

あれ?でも俺なんやかんやでそのストーカーの手助けを・・・。

と、とにかくここ数日は平穏だった。今日も平穏無事だったし大丈夫だろ。

ああ、こんなのんびりとした日常がずっと続けばいいのに。

ってこの考えはフラグだな。気を引き締めんと。


「黒田、帰りのホームルーム終わったら寮に帰るまえに購買寄ってかないか?」


「いいぞ」


今日はサッカー部の活動がないらしいので天文部の活動に備え昨日読めなかった図書館で借りてきた天体の本を黄野といっしょに読みふける予定なのだ。


身体を思いっきり伸ばすために椅子から立ち上がった時、にわかに廊下が騒がしいことに気づいた。

授業が終わった途端廊下が騒がしくなるのはいつものことだがどこかおかしい。

普段はわいわい、という感じなのに今日はざわざわ、って感じのざわめきだ。誰か珍しい人でも来たんだろうか?

この瞬間、なんだか嫌な予感がしたのだがどうすることもできない。

逃げるにも廊下を通らなくてはいけないので結局ソレに遭遇してしまうのだ。予想可能回避不可能とはこの事か。

見事なフラグ回収に脱帽しているうちに教室のドアが開かれた。

開かれたドアから現れしは生徒会長こと赤海先輩。

先輩三年生だってのになにしてんすか。つか三年もホームルームまだ終わってませんよね?

赤海先輩はぐるっと教室を見渡していたが俺と目が合うとこちらに歩いてきた。

あらやだロックオン?俺近頃捕捉されすぎじゃね?


「黒田純っていうのはお前か?」


「そうですけど」


いったい何の用なのかと黄野と顔を見合わせる俺に向かって赤海先輩は言った。


「お前、もう紫苑に近づくな」


「は?」


何を言ってるんだろうかこの俺様系KYは?

俺はもちろんのこと黄野や少し離れた所にいたある意味当事者の紫苑、その隣の及川、そしてクラスメートたちまで「なに言ってんだこいつ」的な目で赤海先輩を見ている。この人一応生徒会長なんだけどね。


「テメエがあの女と喋ってんのを見るとイラつくんだよ。 だから二度と喋るんじゃねえ」


何気に若干紫苑にデレてますがなこのKY。しかし無理なこと言ってやがるな。

直接紫苑に言えばいいのにこうやって遠まわしにくるとは・・・めんどくさいデレだなおい。


「なに意味のわからないこと言ってるんだよあんた!」


赤海先輩の要求に対してどうやって拒否するべきか考えていると黄野が先に反論してしまった。

それと黄野、言われたの俺やで。


「ああ? 俺様に逆らうのか?」


逆らうも何も赤海先輩にそこまでの権限ないですよね?火に油注ぎそうだからあえて言わないけど。


つか俺こんな『イベント』知らないんだけど。

生徒会長が一年の教室に乗り込んでくるとかいうインパクトありすぎるイベント忘れるとは思えないし。


首を傾げる俺を置き去りにして二人はそのままにらみ合いへ。完全に二人の世界である。ロマンチックな意味ではない。

てか俺いらなくね?帰っちゃダメかな?


そして現在に至るというわけだ。

簡単に纏めると突然教室にやってきた赤海先輩が俺と黄野に喧嘩売ってきてそれに黄野が反応、喧嘩腰に。

そしてフェードアウトに失敗した俺をその場に残したまま一触即発の雰囲気へ、ということだ。うむ、わかりやすい。

現状の再確認は済んだが状況は何一つとして変わっていない。

過去に想いを馳せている間になんらかの変化があればよかったのだがそんなに甘くないようだ。

さて、これからどうしようか?

特に妙案も浮かばぬまま視線を泳がせているとふいに野次馬のひとりとなっていた紫苑と目があった。

そして目があった瞬間ごめんなさいされた。なにしやがったお前。


まあ予想するに紫苑が赤海先輩とまた言い争いでもしてその際に俺を比較対称にでもしたんだろう。おのれ。

とりあえずその辺のうらみつらみは後回しだ。

紫苑には後で『爪の生え際をグリグリする刑』に処するとして今はこの状況をどうにかするのを優先せねば。


と言ってもどうしたものか。

前述の通り俺は当事者なのに蚊帳の外。どう切り込んだものか・・・。

しかし下手に刺激したら爆発しかねん。いや刺激しなくても爆発しそうだけど。


「テメエ、いい度胸じゃねえか」


「俺、先輩だからって調子乗る人嫌いなんすよね」


「はぁ!? 嘗めてんのか!」


もうこれ不良の喧嘩じゃないかなこれ。さっきからガンつけながら挑発しあってるし。漫画だったら絶対これ火花散ってる。

しかしこの二人が喧嘩とかしたら被害が大な予感。それだけは避けなくては。だってここ俺の席に近いし。


「テメエ・・・ふざけやがって!」


って赤海先輩の手が握りこぶしに!黄野危なーいっ!

咄嗟に二人の間に体と滑り込ませた。


―――ガッ


殴られた瞬間、一瞬視界が白く染まった。


「純っ!?」


「黒田!?」


ぐはあ。顔面にもろクリティカル・・・。予定ならボディで受けるはずだったんだが・・・目測見誤った。

黄野が驚いたような声を上げ、周りのクラスメートたちもざわめいている。ついでに言えば殴った赤海先輩も驚いている。

まあ突然二人の間に割り込んだんだから驚くわな。

さすがに殴られた衝撃でよろめいたが黄野が受け止めてくれた。すまないねぇ。


「よくも黒田を!」


おぅい、待てや黄野!なんのためにお前を庇ったと思ってんだ!

殴りかかりそうな黄野の腕を掴み制止する。


「黒田・・・」


「いいから俺に任せろ」


そう言うと赤海先輩に向き直った。

さっき殴られたほっぺたがかなり痛いけど我慢する。正直涙が出そう。

ようやく赤海先輩に向き合うことができた。さっきまでは本気で気まずかったぞこのやろう。


さて、この後どうするかな?

うん、実は何も考えてないんだ。やばいね。とりあえず睨み付けておく。


「ムカつくんだよ」


はい?


「お前があの女といるのを見てるとなんだか知らねえがイライラすんだよ」


それさっきも聞いた。てか意中の人がほかの人と一緒にいるだけで嫉妬って思春期真っ盛りじゃないですか。

赤海先輩ったらまた拳を握って―――ってまた殴るの!?

あんた仮にも生徒会長なんだから自重しろよ!暴力はんたーい!

表面上は冷静に、心の中では大絶叫しながらいつ殴られてもいいように身構える。

だがその拳が俺に襲い掛かることはなかった。


「お前ら何やってんだ!」


声の方を見ると担任の林先生が教室に入ってくるところだった。

ナイス先生、助かりました!


「チッ」


舌打ちをすると赤海先輩はさっさと教室から出ていってしまった。

とりあえず助かった。黄野が心配そうに聞いてくるので大丈夫であると答えながら先生がこっちにくるのを待った。


「またあいつか・・・。 まったく、理事長の孫だからってなんであんな問題児が生徒会長なんだか・・・」 


ぶつぶつと不満を呟きながら林先生が近づいてくる。

どうやら赤海先輩の評判は先生の中でも良くはないらしい。


「おい黒田、殴られたのか? 頬が腫れているぞ、保健室行って来い」


「あ、はい」


「一応誰か付き添ってやれ」


「私が行きます」


真っ先に名乗りをあげたのは紫苑だった。

そんなわけで紫苑に付き添われて保健室に行ったのだが何故か保険医がいなかった。何故必要なときにいない・・・。

しかたないので治療を申し出た紫苑に任せ、椅子に座る。

殴られた頬に湿布を貼ってもらっているのだがさっきから紫苑が落ち込んでいてなんだか落ち着かない。

普段はわりと常日頃から少し大人しくなってほしいとは思っているがいざ実際に大人しくなられると違和感がやばい。


「ごめんね・・・私のせいで・・・」


「これくらい平気だ。 気にするな」


「でも・・・」


あーくそ、やりにくい。普段が無駄に明るい分凹んだときのギャップがなぁ・・・。


「なら手出せ」


「え? うん」


差し出された紫苑の手を取ると親指の爪の生え際に思いっきり爪を立てた。


「いったぁ!? いたたたた、痛い痛いって!?」


たっぷり三十秒ほどグリグリしてから開放した。

紫苑は涙目になりながらグリグリされたところを押さえる。ククク、痛かろう・・・これ地味に痛いんだよね。


「な、なにするのよ!?」


「それで許す」


「え?」


俺の言ったことが理解できなかったのか紫苑はポカンとした表情を浮かべている。なにアホ面晒してんだこいつ。


「だから今ので今回のことは許すって言ってるんだ」


「で、でも」


「被害者がそれでいいって言ってるんだからいいんだ」


「・・・うん!」


まだ本調子とはいかないがようやく紫苑の顔に笑顔が戻った。やっぱり紫苑は笑顔のほうがいい。

しかし今回は不覚にも慌ててしまったな。こういう予想外のことにも対応できるようにしとかないと。

これからは『物語』が大きく動き始めるんだから今回みたいな予想外な出来事も増えるかもしれないし。

なにより後悔だけはしたくないしな。


「でも本気で痛かったんだけど・・・」


「まあ少しは怒ってたからな」


「うう・・・」

林先生はモブキャラです。


追記

赤海先輩は理事長の孫なのに甥って書いてたので修正。うっかりうっかり。

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