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恋物語の片隅で  作者: 那智
4月
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誰得ですかこの状況

作者は乙女ゲームをやったことがないのでいろいろおかしなところがあると思いますが特に気にしないでください。

もし自分が今生きているこの世界がゲームの世界だったとしたらどうする?

単純に喜ぶだろうか?作り物の世界だと絶望するだろうか?それとも運命に抗う(キリッ、とでも言って逃げ出すだろうか?

ぶっちゃけどんな選択をしてもいいと俺は思っている。たとえゲームの世界だろうとなんだろうと己の人生だ。好きに生きればいい。

だけど―――


「主人公の幼馴染っていうポジションからは逃れられないんだよな・・・」


燦々と輝く太陽の下、学校へと続く道を歩きながら俺―――黒田純は呟いた。

今日は高校の入学式。新品の制服を着て、新品の鞄と多少の荷物を引っさげ現在登校中である。


「ん? どうしたの?」


「いいやなんでもない。 ただの独り言」


声をかけてきたのは俺の幼馴染である少女、高倉紫苑だ。このゲームの主人公である。

察しの良い人ならばこの時点で気がついただろう。

気づいていない人にはもう一度言うのでよくかみ締めて欲しい。

この目の前の少女が主人公だ。ヒロインではない。主人公だ。主人公なのだ。大事なことなので何回も言った。

そして俺はそんな彼女の攻略対象の一人。さすがにここまで言えばわかっただろう。


そう、ここは乙女ゲームの世界なのだ。


何故そのことを知っているのかといえば俺には前世の記憶があるからだ。

おっと、ドン引きしないでくれ。断じて俺は電波ではないし、前世で乙女ゲームをやりこんでいたわけでもない。

ただ妹の趣味に巻き込まれただけで俺自身は一切乙女ゲームなどやったことはない。妹の語りを聞いているうちにやけにそのゲームの内容に詳しくなってしまっただけだ。

そして神様のお茶目が過ぎた悪戯のせいかどうかは知らないが偶然その乙女ゲームの世界に転生してしまっただけなのだ。


―――コホン。話を戻そう。

この世界が前世に存在していたゲームの世界だと気づいたのは5歳のとき。

きっかけは隣にと引っ越してきたある一家がうちに挨拶に来た時のことだった。


そこで俺は自分の運命を変えることになる少女、高倉紫苑と出会った。

幼いながらも輝きに満ちたその可愛らしい姿に俺は胸を高鳴らせ―――次の瞬間、すべてを思い出した。


その後は突然思い出した記憶にパニックになりそうな頭を必死で押さえつけながら自己紹介をやり遂げた。ナイスガッツ、俺!

幸いにも挨拶回りがまだ残っているということで早々にお暇する高倉さん御一家を見送るとパンクしそうな頭を抱えながらふらふらと昼寝用の布団にダイブした。

そんな俺の様子を見て両親は「あらあら、紫苑ちゃんに一目惚れしちゃったのかしら」とか「人は恋することで成長するのだぞ、息子よ!」やらほざいていたがそれを気にする余裕は俺にはなかった。

それから一晩ぐっすり寝て落ち着きを取り戻した頭で現状を把握し理解した。あの少女が前世の妹がやたら俺に語ってきた乙女ゲームの主人公であり、そして自分がそのゲームの登場人物であり攻略対象であることを。

それに気づいた幼き頃の俺はただ一言こう呟いた。


「どうせならギャルゲーのほうがよかった・・・」




実際、男が乙女ゲームの世界に来て何の得があるのだろうか?

ギャルゲーならヒロイン達と恋仲になれなくても可愛い子は見るだけで目の保養になるし、主人公達が起こすバカ騒ぎに参加できたかもしれない。

それに対して乙女ゲーは主要キャラは男ばかり。それだけならまだしも孤高を気取っていたり、周りの人間を見下すような天才だったり、自分勝手な俺様だったり・・・正直言ってお近づきになりたくないような面子ばかり。

まとも・・というか落ち着いた性格の奴もいるにはいるだろうが今の俺は奴らと同じ攻略対象。我が幼馴染に恋心を抱いた後はなんやかんやで恋敵と認識されかねない。

それに加えゲームで登場する女性も主人公の引き立て役として結構アレな性格だったりする場合が多い。偏見が混じっているのは認めるがイケメン共と仲の良い主人公に嫉妬して密かにイジメを・・・なんてのは王道なイメージがある。

では主人公である高倉紫苑との恋愛を楽しめばいいじゃないかという人もいるかもしれないが俺は御免だ。

他の乙女ゲームがどうかは知らないがこのゲームにおいてはルート決定後、どの攻略対象を選んだとしても割とシリアスなイベントが待ち受けている。

攻略対象の婚約者が登場したりファンクラブからのイジメが激化したりだとか主人公と攻略対象の絆が試されるようなイベント。結末を知っているため見てる分には問題ないが当事者になるのは是非とも避けたい。

それ以前に個性的過ぎるライバルたちを押しのけて彼女の恋人になるなどなにそれ無理ゲー状態だ。

心の底から惚れているならまだしも可愛いからだとかせっかくだからなんて理由で恋人に立候補するなど割に合わないし、何より彼女に失礼だ。


だから俺は彼女の恋人にならないと誓った。


だというのになぜこうして共に登校しているのかといえばそれは俺が彼女の友人だからである。

恋人にならないと誓ったからといって彼女を疎んじたり、そっけない態度を取るのは下策だ。

世の中は高倉紫苑だけで構成されているわけではない。この世界には俺が前世で見た乙女ゲームの舞台の学園があり登場人物もいる。だがそれだけだ。

逆に言えばそれらの要素がなければ俺が前世で生きていた世界となんら変わりはしないのだ。


彼女は成長しても変わらぬ――いやむしろ増したとさえ思われるその可愛らしさと若干強気で活発な性格でいつだって人気者だった。

そんな彼女を疎んじる?どう考えても孤立フラグです。本当にありがとうございました。

偶然とはいえこうして得た二度目の生をボッチで過ごすなどそれこそ御免である。だからこそ俺は高倉紫苑の友人を目指した。

とにかく幼馴染という立場を最大限活用し彼女に自分を男だと意識させない、そんな位置を保ち続けた。

そうすることで女子達には仲はいいけどそういう雰囲気じゃないと認識され、からかわれることはなく、男子たちからはクラスの人気者と仲がいいが男として見てもらえていないとして嫉妬されることもなかった。むしろ慰められた。

また、他のクラスメートたちとも仲良くしようと頑張った。男子とは一緒に遊びまわり、女子には優しくを心がけた。そのおかげで誰にも恨まれることなく小学校、中学校と楽しい学校生活を送ることが出来た。

俺の人生の中で一番の頑張りポイントだったと自負している。だがそんな楽しい学校生活の中で一つだけ不満があった。


モテなかったのである。


今の俺は乙女ゲームの攻略対象である。そのため、イケメンと分類してもいいはずの顔立ちをしている。

なのに今まで浮いた話など何一つとしてなかった。女の子には優しくを心掛けたし、別にそういう話を避けていたわけではない。友人達と「彼女欲しいな」なんて話だってした。

だが告白されることはおろかラブレターすら貰ったことがない。何故だ。それに気づいた日の夜「神なんていない」と枕を濡らした。ちなみに三日前のことだ。



「また考え事? 今日の純、ぼーっとしてばっかりでなんか変だよ?」


「あー、お前とも随分と腐れ縁だなと思ってな」


そう言うと一瞬きょとんとした後、彼女はカラカラと笑った。


「そういえばそうだね。 あ、もしかして私と一緒にいたいがために同じ学校を受験したとか?」


「いや違う。 俺の学力でいける高校の中でもっとも魅力的だったのが星原学園だったからな。 あそこは全寮制だけど、その分施設も豊富だし確かな実績がある」


これは半分嘘で半分本当である。実際にはどういうわけか星原学園以外への学校への願書が尽く配達ミスで期限までに届かなかったのだ。

これにはさすがに何か見えざる手の仕業ではないかと背筋が寒くなったが別に星原学園に不満があるわけではないし無事に合格できたので気にしないことにしている。


「もう、ノリ悪いなぁ~」


そう言って頬を膨らませる彼女は可愛らしく道ですれ違った人が思わず振り返るのではないかと思えるほどの魅力を兼ね備えている。ていうか実際振り返ってる人がいる。

だが俺にとっては極大の地雷。何度も自分にそう言い聞かせてきた俺にとっては大した意味をなさない。いやもともと意味なんて無いんだろうけど。


「ほら、とっとと行くぞ。 ほとんどの荷物は向こう送ってあるからいいけど今持ってる荷物も寮に預けてからじゃないと入学式に出れないんだから」


「それもそっか! じゃあどっちが早く着くか競争しようよ」


「それはお前の荷物の一部を俺が持っていると知っての狼藉か?」


「よーい、どん!」


「話聞けよ」


話を聞かない友人についため息が出る。だがそんなところもなぜか不快にはならない。

さすが乙女ゲームの主人公は伊達じゃないということか。今更ながら幼馴染のスペックに戦慄を禁じえない。

などと遊んでいる場合ではなかった。急いで重い荷物を担ぎなおし、走り出した紫苑の後を追った。


――――これからいよいよ物語が始まる。

俺がこの先どういう生活を送ることになるのか、紫苑が誰と恋をするのか、そしてそもそも筋書き通りに『物語』は進むのか。何一つわからない。

だけどそれでいいのだと思う。何が起こるかわからないなら全力でそれにぶつかって全力で楽しめばいい。

確かにこの世界は乙女ゲームの世界なのかもしれない。だけど俺の人生だ。精々悔いのないように楽しませてもらうとしよう。

目指すは紫苑の友人ポジション。付かず離れず彼女の恋愛模様を観察できる位置がいい。

アドバイスをするような立ち位置ならなお良しだ。例えば紫苑が決断を迫られたときにそっと後押しするという考えうる限り最高の友人ポジション。それを目指す。


(あ、でも欲を言えば俺も恋愛したいな・・・前世じゃする前に死んじまったし)


目標をもう一つ増やしておこう。欲張り?いやきっと大丈夫、これは健全な少年として当然の欲求である。なにも問題はない。

そんなことを考えながら彼女を追って走る。これからの生活に胸を膨らませながら。



誤字、脱字、感想、批判なんでも受け付けて糧にしますので気が向いたらどうぞ。

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