ヤンデレがいっぱい!!
誰か……
バキッ、メキッ
「チェストォォオオオオォォォォォォッ!」
シュッ、シュッ
「ウフフ」
誰でもいいから……
ブゥオンッ、ブゥオンッ
「キハァッ!」
ブシュッ、グチャッ
「クフフ」
僕を……
ブツブツ
「呪・殺……」
ジュワッ、シュボンッ
「フヒヒヒ」
この地獄から……
カァ~ン、カァ~ン
「ヒヘヘヘ」
ザクリ、ザクリ
「翔ちゃん……翔ちゃん……」
助けてください……
僕は皆の中心で震えていた。
それしか僕にできることはない。
僕は無力だ。
僕の名前は木崎翔。そんなことは些細な情報だ。今重要なのは、この状況。
ここで僕の危機を分かって貰うために、先程の彼女らの紹介をしよう。
バキッ、メキッ
「わたし最強ぉぉおおおおおおッ! ケハハハハハハハハハハハハッ!」
まず最初に、"最強"と叫びながら拳で木を薙ぎ倒している、道場着姿の美女。やたらと声が大きいのは体質故か。
彼女は世界屈指の拳法家にして空手部のエース、『破壊姫』の異名を持つ霧香先輩だ。
鍛えられたスタイル抜群の豊満ボディは、男子だけでなく女子をも惹きつける。
僕は暴力反対デス!
シュッ、シュッ
「ふぅっ、これくらい磨げば良く刺さるかな?」
次に、念入りに刀を研いでいた、袴姿の大和撫子。屈託のない笑顔が逆に怖い。
彼女は実家が剣術の名門で、剣道ではなく、殺傷を目的とした実戦型剣術の使い手――『斬り裂き姫』こと紗也香さん。
同級生ナンバーワンの人気を誇る、冷静沈着な和風美女。その凛とした雰囲気がそそるそうだ。
それならば何故にここにいる?
ブゥオンッ、ブゥオンッ
「死すべし! 死すべし!」
その隣で鎌を振り回している黒マントは、鎌をこよなく愛する謎のストーカー女。
正体不明の侵入者、僕命名で『人間界の死神様』。
生徒らしいが、誰もその正体を知らず、名前も分からず。それでも可愛いから許すそうだ。
誰なんだ、コイツは?
ブシュッ、グチャッ
「何よこれ、脆いわね。あの子達みたいに……クフフ」
一番奥に陣取っている、スーツ姿の煌びやかな派手目美人。一定ノルマでナニカを潰している。怖いのでナニカは聞かない。
彼女は生徒会長にして大財閥のご令嬢。最先端の抹殺機械をこれでもかと持ち出してきた、最大権力を誇る『女帝』、金城先輩。
学生の身分で既にとある会社を任される有能さで、美しさだけでなく知的でもある社交界の華。これまた嫉妬を煽る僕の天敵。
取り敢えず、その無駄使いはヤメロ!
ブツブツブツブツ
「呪・殺・悪・毒・邪……血・滅・死・溶・爆……」
隅っこで呪いの言葉を吐いている、黒マント第二弾。普段は暗幕で隠された儀式を、この場で惜しげもなく披露している。
超常現象にどっぷり嵌る彼女は、黒魔術研究会の会長にして怪しい世界の崇拝者、『死滅魔女』の貞子ちゃん。下級生だ。
誰とも話さない内向的な性格と、神秘的な美貌が売りだそうだ。一部ではコアなファンが存在し、僕の抹殺を企んでいるらしい、とも聞く。
僕は無関係だ。
ジュワッ、シュボンッ
「ヒィシィシャァァアアアァァァッ! 毒薬かんせぇーーーーーーいぃぃ!」
毒々とした色の液体を狂喜乱舞で眺める眼鏡美人。こちらは対照的な白衣を着ている。
彼女は我が校に誕生した稀代の天才で、科学部の麒麟児とも呼ばれている、『スーパーマッドサイエンティスト』の三葉先輩。
IQ200という噂もあり、趣味が実験と解剖というえげつなさ、副作用を気にしないその薬の豊富さは、もはや世界一。トチ狂った自殺志望者達のマドンナだ。
僕で実験はしないデネ。
カァ~ン、カァ~ン
「チッ、釘が足りないわね。まだたったの百本しか打ってないじゃない」
巫女服を着て、原型を留めない釘だらけの呪いの藁人形を睨みつけているのは、さる神社の跡取り娘。
下級生のアイドル、おっとりにして隠れ系虐殺嗜好の『狂い巫女』結子ちゃん。
この子が一番怖い。良妻度数ランキングナンバーワンという話だが、結婚したら後ろからブスリとかないよね? だって既に目がイっちゃっているんだもん。
そんな怖いギャップはいらないぞ!
ザクリ、ザクリ
「翔ちゃんは私のもの……翔ちゃんは私だけのもの……邪魔者は撲殺、排除、抹殺、拷問、解体……」
最後は、肉屋の娘っ子にして我が幼馴染、あかり。
一番の安心感だが、最近悪寒を感じるのは何故だろうか。っていうか、この子だけが唯一制服を着用している。ここって学校だよね?
巷では彼女は『最速の包丁乙女』として名を馳せている。商店街限定の異名だ。
解体の腕はプロ顔負け。人間を捌くのはヤメようね。
せめて君だけはまともでいて欲しかった。
と、まあ皆が怖い形相で円を作り、僕を囲んでいる。完全包囲網だ。
逃亡は不可能と考えるしかないだろう。
僕は昔から間違いを犯してきた。
人助けなどするべきではなかったんだ。
困っている人を見ると、つい手を差し伸べてしまう。
人に言わせると、それはフラグという奴らしい。
そんな気はなかったんだけど。
気付けば、最凶メンバー八人衆が勢揃い。この異常事態だ。
ともかく、既に手遅れ。
もう始まってしまうのだ。
『校内対抗・木崎翔独占権利争奪・サバイバルバトル』
ご丁寧に誰かが作成したパンフレットにはルールも書いてある。
ルールその一。
殺傷は当人の自由・本人の自制の問題であり、口出しは一切しない。
しろよ!
殺人事件勃発だよ? そこは頑固として拒否しようよ!
犯罪なんだよ。皆、騙されてるよ!
ルールその二。
武器は何でも使用可。暗器、爆薬なんでもござり。もちろん自作も可能。
どんだけ物騒な展開に持ち込む気!?
明らかに時代錯誤の考え方だよね。
侍? 忍者? 闇の末裔でもいるのかよ!
ルールその三。
見物は自由。ただし被害を負った場合、責任は本人にある。賠償は一切行わない。
関係ない皆にはごめん、としか言いようがない。
けど、煽っている奴らがいるのも事実なんだよね。
文句はソイツらに言って欲しい。
ルールその四。
優勝者は木崎翔のあらゆる権利を有することができる。アンナコトやコンナコトもやりたい放題!
…………
もはや何も言うまい。
一瞬、舌舐めずりが聞こえてきた気がした。
僕の意思はどこに行ったの? 普通は本人の両諾が必要だよね?
何で強制的なの? 基本的人権はどこに行ったの? 国家崩壊の危機だよ!
あまりの理不尽さに涙が止まらない。
取り敢えず、この場から逃げたい。んだが、雁字搦めのこの縄が僕を逃がさない。包囲されてるし……。
っていうか、観客(生徒、教師全員)までもがその気になっている。
青褪めているんなら、止めようよ! 職務怠慢だ! 抗議する!
「それでは皆さま、大変長らくお待たせしました。
――彼女らの奏でる血みどろの愛の結末、迎えるのは果たして破滅か絶望か、それとも混沌か。
木崎翔君、意気込みをどうぞ!」
放送部のエースがマイクに向かって叫んでいる。さすが滑舌は抜群だね。
それはともかく――
全部ダメじゃないか! 一個くらい幸せな未来を用意しておいてくれよ!
それに猿轡されてどう喋れってんだ! お前らやることが支離滅裂なんだよ!
僕の伝えたい叫びは届かない。
「…………」
「おーっとーっ、これは無言のアピールかぁ! 照れている?
いや違う、男は黙って見守るという意思表示だぁ!
何というナイスなクールガイ! 何というイケメン男! とっとと死んじまえ!
これが校内中の美女を虜にする腐れ男の実態だぁ!」
さりげなく悪意の言葉が混じっているが、この際、どうでもいい。
何故、男だけでなく女連中までもが、僕を睨むのさ。
羨ましいなら、是非とも代わってくれ!
どうやら賭けまでしている輩までいる。
この流れは止められない。
ああ、始まってしまう……
「それでは、サバイバル・ザ・ブラッドパーティー、開始だぁぁああああああッ!」
カァァァアアアアアアァァァン……
もう一度、言おう。
誰か助けて!