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ホームルームではまず、冊子が渡された。
『派閥体験にあたっての諸注意』
………何だ、これ。わたしは再び呟く。『派閥体験』というのは何なのだろう。他の生徒も状況が飲み込めていないようだ。教室の中が騒然とする。
「はいはいはい。席についてー。いろいろ説明するからねー」
上級生が入ってくる。にこにこ笑顔が印象的な眼鏡の男子。肩からかけたたすきには、松本良平とある。先程のポスターで、『風紀守』の肩書きと共にあった名前だ。
「はーいっ、僕の名前読める人〜」
完全に子供扱いだ。わたしは一瞬だけ眉をひそめた。もう中学生なのに、こんな扱いを受けて嬉しいはずがない。―――まるで気にならない子もいるみたいだけれど。
「まつもとりょうへいー」
数人の男子が元気に答える。まだ小学生気分が抜けきっていないような、幼い声だ。それでも松本良平(先輩と言うべきだがあえて省略)は笑顔のまま。むしろ、嬉しそうに見える。
「はいっ、よくできましたぁー。僕は我が校の風紀守を務めています。『良平先輩Vv』って呼んでね!!」
軽くウィンクをして言う松本良平。わたしの眉根の縦じわが、三本増しになる。
「はぁーい!!」
けれど素直に返事をする子がいた。それも、クラスの半分程の人数だ。返事をしなかった中にも、松本良平を嫌悪する様子はない。あの態度がどうしても癇に触るのは、わたしだけなのだろうか?
限りなく友好的な雰囲気が流れる中、わたしは自問した。
「君達の中でも、まだ我が校の方針について知らない人は多いと思う。実際、生活してみないとこの異質さは分からないしね。―――この学校は、全校を挙げてあるゲームをしているんだ。ゲームと言っても、生易しいものじゃない。でも中学校生活が充実すること、それは保証するよ」
松本良平はにっこりと笑う。
「ひと呼んで、『征辰戦国サバイバルゲーム』!!」
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